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Main Story | Prologue · Chapter 1 · Chapter 2 · Chapter 3 · Chapter 4 · Chapter 5 |
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Chapter 2: Sleeping Beauty (眠り姫 Nemurihime)
第1節 遭遇①/ 1. Encounter - 1
Summary | |
---|---|
カガミが新たなファントムフィールドを見つ
け、ダイブするシエルたち。その先で、未確 認生物の襲撃を受ける。 |
シエル
レイさん。 まだお休み中かと思っていました。 |
Ciel |
シエル
こちらにいらっしゃるということは、 食堂へ向かわれるところでしょうか。 |
Ciel |
シエル
必要であれば、お部屋まで食事を届けますが。 |
Ciel |
1: いや、ちょっと散歩を |
1: |
シエル
そうでしたか。……そういえば、 |
Ciel |
シエル
フガク内部の案内は必要ですか? |
Ciel |
シエル
例えば、この廊下沿いにはスタッフも日頃から利用する、 日常的な行動に関する施設が多くあります。 |
Ciel |
シエル
レイさんも 利用する機会が多いのではないでしょうか。 |
Ciel |
1: いいの? |
1: |
シエル
了解しました。では、ついてきてください。 |
Ciel |
シエル
こちらがキッチンと、食堂になります。 |
Ciel |
シエル
基本的には担当のスタッフが調理を行いますが、 お望みでしたらキッチンの使用も可能です。 |
Ciel |
シエル
こちらはランドリーと……あちらがメディカルルームです。 |
Ciel |
シエル
こちらは多目的ルームになります。 |
Ciel |
シエル
ブリーフィングなどの他、戦闘訓練を行っても耐えうる 頑強な造りになっていますので、様々な用途に対応できます。 |
Ciel |
シエル
そしてこちらが、指令室です。 |
Ciel |
カガミ
お。どうした、ふたり揃って? |
Kagami |
シエル
レイさんに、フガク内部の共用スペースを 案内していました。 |
Ciel |
カガミ
ああ、そういえばしていなかったな。 |
Kagami |
カガミ
基本的な生活に必要な設備は、あらかた揃ってる。 ある程度は自由に使ってくれて構わないよ。 |
Kagami |
カガミ
それより、ちょうどいいところに来たな、お前たち。 |
Kagami |
シエル
それは、どういう意味でしょうか? |
Ciel |
TA
タカマガハラシステムの観測の元、 新たなファントムフィールドを感知、認識した。 |
TA |
シエル
新たなファントムフィールド…… つまり、次の任務ということですか? |
Ciel |
カガミ
その通りだ。次を見つけるまで、 もう少し時間がかかると思っていたんだけど……。 |
Kagami |
カガミ
イシャナや階層都市のファントムフィールドで 観測者を解放したことで、 |
Kagami |
カガミ
タカマガハラシステムにも影響があったみたいだな。 |
Kagami |
カガミ
これからも観測者を解放するたびに、システムの 観測力を安定させることができるだろう。 |
Kagami |
TB
そうすれば、僕たちももっと楽に ファントムフィールドを発見できるだろうね。 |
TA |
TC
イエス。我々の観測能力の安定性は、 新規ファントムフィールド発見確率と比例します。 |
TC |
TB
そうだね、もっと『深い』所のファントムフィールドがね。 |
TA |
カガミ
…………。 |
Kagami |
シエル
それで、今回発見されたのはどういう世界なのですか? |
Ciel |
カガミ
あぁ、先日の階層都市に比べると、規模は小さい。 でも生命の反応密度はかなり高いみたいだな。 |
Kagami |
TA
人類の生息する地域であることは間違いない。 だが詳細は不明だ。 |
TA |
TB
その辺りを調査するのも、君たちの役目だね。 |
TA |
カガミ
そういうわけだ。もちろん、今回も頼れる我が分身、 ラーベちゃんを同行させるから、安心していいぞ。 |
Kagami |
カガミ
サポート体制は万全だ。 まあ、前回のように危険はついて回るだろうが……。 |
Kagami |
シエル
レイさんの身の安全は、確保します。 それが私の任務ですので。 |
Ciel |
カガミ
だ、そうだ。 |
Kagami |
カガミ
最悪でもお前だけは回収する。 とはいえ、無茶は禁物だぞ。 |
Kagami |
カガミ
何度も言うようだが、お前が死んだらなにもかも台無しだ。 そこは覚えておくように。 |
Kagami |
カガミ
さて……どうだ? |
Kagami |
オペレーター
準備完了。いつでもいけます。 |
Operator |
カガミ
よし。 お前たちの準備がいいなら、すぐにでも向かおう。 |
Kagami |
カガミ
|
Kagami |
1: いつでも行けます |
1: |
カガミ
では、始めよう! |
Kagami |
オペレーター
了解。……ファントムフィールド、接続完了。 |
Operator |
カガミ
|
Kagami |
―――― |
|
――を……なさい……。 |
|
そして……私を……。 |
|
シエル
……レイさん、どうかしましたか? ぼうっとしていたようですが。 |
Ciel |
1: 今、誰かの声が…… |
1: |
シエル
いえ、不審な物音は特に聞こえませんでした。 |
Ciel |
シエル
向こうのほうから、車両らしき音は聞こえますが、 それとは違うものですか? |
Ciel |
ラーベ
……うん、よしよし。機能に異常はなさそうだな。 |
Raabe |
ラーベ
で? どうした、レイ。 来て早々に幻聴か? |
Raabe |
シエル
ラーベさん。もしかしたら、観測者に関わる なにかの情報を察知したのかもしれません。 |
Ciel |
ラーベ
だったらいいんだが。どうなんだ? |
Raabe |
1: うーん…… |
1: |
シエル
そうですか。残念です。 |
Ciel |
ラーベ
とはいえ、レイが感知した情報だ。 ファントムフィールドに全く無関係ということもないだろう。 |
Raabe |
ラーベ
もしまた気になったときは、教えてくれよ。 |
Raabe |
1: はい、わかりました |
1: |
ラーベ
さて。まずは現状確認からいこう。 シエル、状態に問題はなさそうか? |
Raabe |
シエル
はい。意識もはっきりしています。 |
Ciel |
ラーベ
よしよし。レイも…… うん、特に問題はなさそうだな。 |
Raabe |
ラーベ
タカマガハラシステムの観測も正常に行われている。 |
Raabe |
シエル
周囲の状況ですが、ここは両脇をコンクリート製の壁に 挟まれた屋外の通路のようです。路地です。 |
Ciel |
ラーベ
おう、そうだな……。見ればわかるわ! |
Raabe |
ラーベ
とはいえ、前回のように森の中とかそういうわけでは ないんだな。街中スタートか。 |
Raabe |
ラーベ
それも、私がよく知っている年代に近い雰囲気だ。 |
Raabe |
ラーベ
となると、どこかに看板かなにかないかな。 地名がわかるものだと、おあつらえ向きなんだが……。 |
Raabe |
シエル
この柱の様なものに『新川浜』と書いてあります。 これがファントムフィールドの地名でしょうか。 |
Ciel |
ラーベ
『新川浜』は確か日本の地名だ。 なるほど、ここは日本か。こいつは色々やりやすい。 |
Raabe |
ラーベ
前回と違って、世の中の組織形態や常識は 私たちの認識とそう変わらないんじゃないか。 |
Raabe |
シエル
人も多く生活している区域のようです。路地を抜けた先には 明かりも多いようですし、車両の音もたくさん聞こえます。 |
Ciel |
ラーベ
うんうん、繁華街近くの裏路地って感じだな。 |
Raabe |
ラーベ
多少、時間軸が圧縮されているみたいだが…… 近しい時代という認識は、間違ってなさそうだ。 |
Raabe |
ラーベ
だとしたら、治安状況は悪くないだろう。少なくとも、 武装した兵士や魔物にいきなり取り囲まれる危険性は少な……。 |
Raabe |
シエル
!? |
Ciel |
ラーベ
なんだ、こいつらは!? |
Raabe |
1: なんか出た!? |
1: |
シエル
体長、1メートル強。 視覚器官複数確認、聴覚器官複数確認。節足構造を確認。 |
Ciel |
シエル
推定体重、推定機動からして、この路地に生息するには 不適合な身体構造です。 |
Ciel |
シエル
奥の建物の隙間から集まってきています。 敵対反応を感知。 |
Ciel |
1: とりあえず迎撃! |
1: |
シエル
了解。戦闘行動に移行します。 |
Ciel |
シエル
問題ありません。戦闘行動に移行します。 |
Ciel |
第1節 遭遇②/ 1. Encounter - 2
Summary | |
---|---|
戦闘の音を聞きつけ、シエル達の前に現れる
少年。素性を確認しようとするが、突如少女 サヤが現れ、シエル達に斬りかかる。 |
|
少年が戦闘の仲裁に入る。シエルは戦闘解除
し、サヤも刀を収める。 |
シエル
対象の停止を確認しました。 これは……データ上の新川浜には、生息しない生物です。 |
Ciel |
ラーベ
というか、どう見てもまっとうな生物じゃないだろ。 |
Raabe |
ラーベ
ふーむ。これがこの街にとっての正常な状況なのか、 ファントムフィールド化したことにより発生した現象なのか。 |
Raabe |
ラーベ
そのあたりも調査で明らかにしたいところだな。 |
Raabe |
シエル
観測者の特定の手がかりになりますか? |
Ciel |
ラーベ
ファントムフィールド内で起こっていることは、 観測者の願望に起因する。 |
Raabe |
ラーベ
この奇妙な生物も、ファントムフィールド内特有の現象 であるのなら、もちろん手がかりになる。 |
Raabe |
シエル
……私達の知らない生態系が確立していると いうことですか? |
Ciel |
ラーベ
あまり考えたくはないが……可能性がないわけではないしな。 まぁそれがファントムフィールドというものだ。 |
Raabe |
シエル
ではこれからの行動としては、 前回同様、状況についての情報を集めることですね。 |
Ciel |
ラーベ
その通りだ。そして観測者の可能性があるドライブ能力者を 見つけ、その中から観測者を特定する。 |
Raabe |
ラーベ
観測者が特定できたら、窯を出現させ、破壊する。 やることはヤマツミと一緒だ。できるな? |
Raabe |
1: はい! |
1: |
ラーベ
うむ。返事だけはいいな。 さてでは、どこから手をつけるとするか……ん? |
Raabe |
少年?
おい、あんたら! そこでなにしてるんだ? |
Young Man? |
ラーベ
ん、民間人か? ……とりあえず、 人間は存在しているようだが、それにしては……。 |
Raabe |
シエル
周囲の状況の確認をしていました。 |
Ciel |
少年?
確認? ……何の? |
Young Man? |
シエル
はい。現地調査を始めるにあたって、 まずは自分たちの状況を確認することが重要だと……。 |
Ciel |
ラーベ
待て待て待て待て、 お前は勝手に話を進めるんじゃない、シエル。 |
Raabe |
少年?
な、なんだこの丸っこいの! しゃべるのか!? |
Young Man? |
ラーベ
ふふん、しゃべるとも。 しゃべるついでに、少年、同じ質問をお前にも返そう。 |
Raabe |
ラーベ
お前こそ、ここになにをしに来た? |
Raabe |
少年?
……は? |
Young Man? |
ラーベ
私たちに声をかけたとき、お前はずいぶんとこちらを 警戒していたみたいじゃないか。 |
Raabe |
ラーベ
その理由はなんだ? 私たちがここにいるのはなにか不自然か? ならばその不自然な場所に……『なぜ』お前がいる? |
Raabe |
少年?
なん、だよ。最初に聞いたのは俺だぞ。 まずはそっちから答えろよ。 |
Young Man? |
ラーベ
順番なんて関係ないだろう。 それとも、私の質問に答えられない事情でもあるのか? |
Raabe |
少年?
んだよ、探るみたいな言い方しやがって。 ねぇよ、んなもん。 |
Young Man? |
少年?
俺はただ……それ。あんたらの足元で崩れてる、 その異様な生き物。そいつを追ってきたんだ。 |
Young Man? |
少年?
そしたら路地の奥の方から物騒な物音が聞こえるから、 なんかあったのかと思ってすっ飛んできたんだよ。 |
Young Man? |
少年?
最初は襲われてるんだと思って助けようとしたんだけど…… あんたらは、あっさり倒しちまいやがった。 |
Young Man? |
少年?
妙な技を使ってたし、いやに冷静だし。 この路地が危険だってわかっただろうに、立ち去りもしない。 |
Young Man? |
少年?
それどころかなにか相談してるっぽかった。蟲についてな。 怪しむなっていうほうが、無理があるだろ。 |
Young Man? |
シエル
『蟲』? この、データにはない生物のことですか? |
Ciel |
少年?
そうだよ。つか、蟲のこと知らないのか? だったらなんの調査してたんだよ。蟲のことじゃねぇのか? |
Young Man? |
少年?
なんか明らかにするとか、特定するとか、 そんなこと話してたじゃねぇか。 |
Young Man? |
少年?
……なあ、少しはそっちのことも教えてくれよ。 俺がここに来た理由は話しただろ。 |
Young Man? |
ラーベ
いや、まだ聞いていないぞ。お前はこの蟲とやらを 追ってきたと言っていたが、理由は? |
Raabe |
少年?
話したら、あんたらが誰なのか教えてくれるんだろうな? |
Young Man? |
ラーベ
そのときはお前が誰なのかも聞かせてもらいたいものだがな。 |
Raabe |
少年?
はぁ。わかったよ。とにかくこっちのことを 教えればいいんだろ。俺は……。 |
Young Man? |
少年?
っ! |
Young Man? |
ラーベ
ぐへぇっ! |
Raabe |
シエル
ラーベさんっ! |
Ciel |
少年?
くっ……! |
Young Man? |
少女?
……仕留めそこないましたか。 |
Young Woman? |
ラーベ
ふぅ……死ぬかと思った |
Raabe |
シエル
ラーベさん、死ぬんですか? |
Ciel |
ラーベ
それは内緒だ。 |
Raabe |
ラーベ
ところでなんだ、次の登場人物は日本刀を携えた少女か。 |
Raabe |
シエル
対象の敵対反応を感知しました。 下がってください、レイさん、ラーベさん。 |
Ciel |
少年?
っぶねぇな! おい、サヤ! お前、いきなり斬りかかってくるやつがあるか! |
Young Man? |
サヤ
奇襲をしかけるのに、いきなりでない者がおりますか。 |
Saya |
少年?
なんで奇襲してんだって聞いてんだよ! |
Young Man? |
サヤ
それはもちろん、兄様がなにやら不審な者どもと 対峙しているようでしたので、助太刀にと。 |
Saya |
サヤ
さあ、覚悟なさいませ、不埒者。 我が兄様に仇なす者とあらば容赦はいたしませぬ。 |
Saya |
シエル
対象の戦闘レベルの上昇を確認。 |
Ciel |
少年?
は? ちょっ、おい、やめろ、サヤ! |
Young Man? |
サヤ
成敗! |
Saya |
サヤ
はぁぁぁっ! |
Saya |
シエル
迎撃態勢。 |
Ciel |
少年?
この……やめろって言ってんだろ! |
Young Man? |
サヤ
兄様。なぜ邪魔するのです。 |
Saya |
少年?
するわボケ! いいから刀を納めろ! そっちも。妹の無礼は詫びるが、一旦武器を引っ込めてくれ。 |
Young Man? |
シエル
……どうしますか? |
Ciel |
1: シエル、戦闘解除 |
1: |
シエル
了解しました。 |
Ciel |
少年?
悪いな。ありがとう。 |
Young Man? |
サヤ
兄様。無警戒が過ぎます。彼奴等が蟲の関係者であったなら、 どうするおつもりですか。 |
Saya |
少年?
その場合でも、問答無用で斬り殺されたら困るんだよ。 つーか、いつまで俺の首に刀突き付けてんだ、殺す気か。 |
Young Man? |
サヤ
お許しいただけるのでしたら、今すぐにでも。 |
Saya |
少年?
誰が許すか! |
Young Man? |
サヤ
大きな声を出さなくても、聞こえております。 粗暴な振る舞いはいけませんよ、兄様。 |
Saya |
サヤ
頭に血が上っているのなら、少し掻き出しましょうか? |
Saya |
少年?
この状況でお前に粗暴さ咎められたくねぇんだけど? いいからその刀を近づけるな! しまえ! |
Young Man? |
サヤ
……わかりました。手のかかる兄様ですね。 しまえばよろしいのでしょう。 |
Saya |
第1節 遭遇③/ 1. Encounter - 3
Summary | |
---|---|
素性を明かすナオトとサヤ。ナオトたちは、
蟲を退治しながら、事態解決の方法を探って いた。 |
少年?
これでやっと話ができる……。ったく、事情もわかんない うちから刃物振り回すのやめろよ。というか殺すな。 |
Young Man? |
サヤ
なにを申します。全ては兄様をお助けしたいと思えばこそ。 |
Saya |
シエル
あのふたりは、兄妹のようですね。 |
Ciel |
ラーベ
そのようだな。それに先程の戦闘……ふたりとも、 ドライブ能力者だ。 |
Raabe |
少年?
ドライブのことも知ってるとなると、いよいよ一般人って 感じじゃねぇな。本当に何者なんだ、あんたら。 |
Young Man? |
少年?
……まあいいや。とりあえず先に仕掛けたのはこっちだ。 お詫びに、まずはあんたらの質問に答えるよ。 |
Young Man? |
少年?
俺から聞きたいことがあるんなら、言ってくれ。 嘘は言わねぇ。まぁ勿論知ってる範囲で、だけどな。 |
Young Man? |
ラーベ
そうか。ならまず素性を教えてもらおうか。 お前たちは、何者だ? |
Raabe |
ナオト
俺は黒鉄ナオト。で、こっちは妹の……。 |
Naoto |
サヤ
輝弥サヤと申します。 共に新川浜市内の高校へ通う、普通の高校生でございます。 |
Saya |
シエル
二人はご兄妹なのですね? |
Ciel |
サヤ
はい、この黒鉄ナオトは私の実の兄でございます。 |
Saya |
ナオト
お……素直に話すじゃねぇか。 『実の』って言葉が気になるけどよ……。 |
Naoto |
サヤ
無論です。素性を偽る必要などありますまい。 |
Saya |
サヤ
それに、彼らが敵であったとき、 名も知らぬ者に殺されるのは不憫ですから。 |
Saya |
1: 色々と物騒な発言があったような…… |
1: |
シエル
同感です。 |
Ciel |
ラーベ
……輝弥……と、黒鉄? |
Raabe |
サヤ
はい。姓が違うのは、兄の自主的な行為によるものです。 兄は輝弥の名を嫌い、母方の姓を名乗っておりますので。 |
Saya |
ナオト
……輝弥の名前なんて、名乗りたくねぇからな。 |
Naoto |
サヤ
またそのようなことを。 古くから伝わる私達の大切な『銘』ですよ。 |
Saya |
ナオト
お前にとってはそうだろうけど、俺には……。 いや、いいや、家の話は関係ねぇだろ。 |
Naoto |
ナオト
他の話にしてくれ。 |
Naoto |
シエル
では、先ほどの蟲と呼ばれる生物と、どのような関りが あるのか教えてください。 |
Ciel |
シエル
ナオトさんは、蟲を追いかけていたと言っていました。 追う目的はなんですか? |
Ciel |
ナオト
倒すため。駆除って言ったほうが早いか。 そのために夜の街をあちこち歩き回ってるんだよ。 |
Naoto |
サヤ
この生物は人を襲います。 |
Saya |
サヤ
襲われた者は意識を失い、そのうちの幾人かは体を蟲に 乗っ取られて傀儡のようにうろつく有様。 |
Saya |
サヤ
幸い、私と兄様には荒事の心得がありましたので。 |
Saya |
サヤ
危険な生物が跋扈していると知りながら、 なにもせずにいるのは、いささか道理に反しましょう。 |
Saya |
シエル
道理によって、蟲を退治しているのですか? |
Ciel |
サヤ
はい。 |
Saya |
ナオト
まあ……それだけってわけじゃねぇんだけどさ。 |
Naoto |
シエル
他にはどんな理由があるのですか? |
Ciel |
サヤ
調べています。この蟲が発生した原因や、根絶するための方法を。 このまま野放しにしていれば、被害は増えるばかりですから。 |
Saya |
サヤ
被害を受けた人の治療法や、解決法も…… あるのならば知りたいと思っております。 |
Saya |
ナオト
ただ、正直何匹倒しても、それらしい情報なんて なんも見つけられてないんだ。 |
Naoto |
ナオト
だからお前たちが蟲について何か情報を持ってるんなら、 それを教えてもらいたいと思ってる。 |
Naoto |
ナオト
……こんな感じだ。こっちのことはほとんど話した。 そっちの名前くらいは教えてくれよ。 |
Naoto |
ラーベ
……そうだな。まず、こいつはシエル=サルファー。 こっちがレイだ。 |
Raabe |
シエル
よろしくお願いします。 |
Ciel |
ラーベ
そしてこの愛らしい丸いフォルムが魅力的な私は、 ラーベ、もしくはラーベちゃんと呼べ。 |
Raabe |
サヤ
ラーベさん、ですか。口をきくだけでも奇妙と 思っておりましたが、名前もあるのですね。 |
Saya |
ナオト
その前にどうやって浮いてるのかすげー気になるぞ。 |
Naoto |
ラーベ
ふむ。お前たちの興味について答えてやりたいところだが、 ちょっと待ってろ。 |
Raabe |
ラーベ
……おい、レイ、シエル。 カガミとしての名前は、ここでは絶対に口にするなよ。 |
Raabe |
1: なんでですか? |
1: |
ラーベ
なんでもだ。ややこしくしたくなければ黙ってろ。 |
Raabe |
ラーベ
それを言うなと言ってるんだ……! |
Raabe |
シエル
口外しない件、了解しました。 |
Ciel |
ラーベ
よし、シエルはいい子だ。 |
Raabe |
ナオト
おい、なにこそこそしてんだ? |
Naoto |
ラーベ
いや、なんでもない、こっちの話だ。気にするな。 |
Raabe |
ラーベ
それより、蟲の手がかりを求めているという話だが…… 生憎だが、力になれるような情報を私たちは持っていない。 |
Raabe |
シエル
はい。私達がこの街に到着したのはつい先ほどです。 蟲の存在も、先ほど初めて知りました。 |
Ciel |
ナオト
じゃあなにか? なんにも知らないで、こんなところに 迷い込んで、偶然蟲に襲われたってことか? |
Naoto |
シエル
その通りです。 |
Ciel |
ナオト
マジかよ。迂闊っつーか、間抜けっつーか……。 |
Naoto |
シエル
そんなにここは特徴的な場所なのですか? |
Ciel |
サヤ
この通りは繁華街からも離れており、 住宅街へも通じておりません。 |
Saya |
サヤ
治安の悪さも届かない、暗く陰気な ドブ臭い闇の吹き溜まり。ですので……。 |
Saya |
サヤ
連中が集まりやすいのです。 ……このように。 |
Saya |
シエル
! また現れました。 先程と同じく、蟲と呼ばれる敵性生物のようです。 |
Ciel |
サヤ
下がってください。私が……。 |
Saya |
ナオト
いや、俺がやるよ。サヤはもう休んでろ。 |
Naoto |
サヤ
なにをおっしゃいます。兄様こそ、ご無理をなさらず。 右手の調子がおかしいままなのでしょう。 |
Saya |
ナオト
だからって、お前に任せてのうのうとしてられるかよ。 |
Naoto |
ラーベ
よし、ならお前たち兄妹に任せた。 |
Raabe |
ナオト
お前らも手伝えよ! |
Naoto |
シエル
レイさん、どうしますか? |
Ciel |
1: もちろん |
1: |
シエル
了解しました。加勢します。 |
Ciel |
サヤ
獲物の取り合いですね。 勝負ですよ兄様。 |
Saya |
ナオト
勝負とかじゃねぇだろ……。 |
Naoto |
シエル
戦闘行動を開始します。 レイさん、物陰などに注意してください。 |
Ciel |
第1節 遭遇④/ 1. Encounter - 4
Summary | |
---|---|
ナオトは御剣機関と良好な関係ではないよう
だが、ある事情を解決するため、シエルたち を信用する選択をする。 |
サヤ
お見事です。 |
Saya |
シエル
サヤさんとナオトさんこそ、お疲れ様です。 |
Ciel |
ナオト
……なんか今回は、調子よかったな。 いつもより体が軽かった気がしたぞ。 |
Naoto |
サヤ
まあ。ふしだらな。 |
Saya |
サヤ
{{ruby|若い女人|おのこがいるからといって、そのように浮かれるなど。 兄様も、男の子ですのね。 |
Saya |
ナオト
妙な言い方やめてもらっていいですかね、サヤさん。 |
Naoto |
サヤ
誤魔化す必要などありませんよ。仕方のないこと。 でも……そういうものは、胸の内に秘めてこそですよ。 |
Saya |
ナオト
だからそういうんじゃねぇって言ってんだよ! |
Naoto |
サヤ
さて、いつまでもここにいては、 また奴等がどこからか這い出してくるやもしれませぬ。 |
Saya |
ラーベ
そうだな。雑魚をいくら倒してもこれ以上の情報を望めないなら、 話の続きは場所を変えようか。 |
Raabe |
ナオト
無視しないで!? |
Naoto |
ナオト
人気もないし、ここでいいか。ベンチもあるし。 |
Naoto |
サヤ
まぁ兄様…… |
Saya |
ナオト
それはもういいから。 |
Naoto |
ナオト
とにかく、もうちょっとだけあんたらのこと聞かせてくれ。 さっき、新川浜にはきたばっかりって言ってたけど…… |
Naoto |
ナオト
新川浜に来た目的ってのが、 あんたらが言ってた『調査』ってやつなのか? |
Naoto |
シエル
はい、そうです。 |
Ciel |
ラーベ
……この土地に、奇妙な現象が起きていると聞いてな。 その調査に訪れたところだ。 |
Raabe |
サヤ
奇妙な現象……、ですか。 |
Saya |
ラーベ
例えば、あの蟲だ。あれは以前からこの辺りに 生息していたものではないんだろう? |
Raabe |
ナオト
あんなのがウロウロしててたまるかよ。 1週間くらい前からだよ……突然現れ出したのは。 |
Naoto |
ナオト
……え? あれ、そういうことも知らずに調査に来たのか? |
Naoto |
ラーベ
そういう情報を収集するための、調査だ。 なにごとにも最初の段階というものはあるだろう。 |
Raabe |
ナオト
ああ、それもそうか。でもなんでそんな調査してんだ? 誰かから頼まれたとかか? |
Naoto |
ラーベ
それが、我々の仕事だからだ。 |
Raabe |
ナオト
蟲の調査が? |
Naoto |
ラーベ
異常な現象の調査が、だ。そういう機関の所属でね。 ……『御剣機関』というんだが、聞いたことはないか? |
Raabe |
ナオト
『御剣機関』だと!? |
Naoto |
ラーベ
おや。どうやら知ってるみたいだな。 |
Raabe |
サヤ
…………。 |
Saya |
ラーベ
そしてどうやら、良好な関係ではないらしい。 |
Raabe |
サヤ
御剣機関。化け物退治を謳う連中ですよね。珍妙な傭兵などを 雇って、この辺りをうろつかせている不穏な輩……。 |
Saya |
サヤ
ええ、良好でない関係がございます。主に、兄様との間で。 |
Saya |
サヤ
ですので事と次第によっては、私は再び刀を抜く 必要があります……。 |
Saya |
ラーベ
待て待て。落ち着け。 |
Raabe |
ラーベ
確かに化け物退治も業務のひとつだ。必要なら駆除もする。 今回の蟲に関してもそういう部門に属する内容だろう。 |
Raabe |
ラーベ
だが御剣機関と一言に言っても、その内容は多岐にわたるし、 部署も山ほどある。 |
Raabe |
ラーベ
お前たちと関わりのある御剣機関と我々とは、 別物だと考えてもらいたい。 |
Raabe |
サヤ
それを鵜呑みにするのは、いささか難しゅうございます。 |
Saya |
ラーベ
なにしろ訳ありの組織だからな。機密事項が多く、 余程の事じゃない限り、部署間での情報共有は無きに等しい。 |
Raabe |
ラーベ
現に私たちは、お前たちのことを知らなかった。 |
Raabe |
サヤ
……『あれ』を余程では無いと? |
Saya |
ラーベ
『あれ』? |
Raabe |
ナオト
サヤ、もういいよ。 確かにこいつらは俺の知ってる『御剣機関』とはだいぶ違う。 |
Naoto |
ナオト
とりあえずは信用しとこうぜ。 |
Naoto |
ナオト
だからよ、あんた等が本当に御剣機関の人間だっていうんなら、 知恵を貸してもらいたいことがある。 |
Naoto |
サヤ
兄様、まさかあのことを……? |
Saya |
ナオト
……ああ。このまま俺たちが闇雲に蟲退治してたって、 事態が進展するとは思えないだろ。 |
Naoto |
ナオト
こいつらは、少なくとも俺たちよりは知識があるはずだ。 なにか……取っ掛かりくらいは、わかるかもしれねぇ。 |
Naoto |
1: なにか力になれる? |
1: |
ナオト
……どうせ話すなら、直接見てもらったほうが早いかもな。 案内するから、ついてこいよ。そこで詳しいことも話す。 |
Naoto |
第2節 異変①/ 2. Abnormality - 1
Summary | |
---|---|
ナオトに導かれた先には、ラケルという昏睡
状態の少女がいた。彼女を目覚めさせるため、 ナオトはシエルたちに協力を申し出る。 |
ナオト
こいつの名前はラケル。 |
Naoto |
ナオト
突然目を覚まさなくなってから、1週間たった。 呼んでも揺すっても反応なし。身動きひとつしない。 |
Naoto |
シエル
1週間、飲まず食わずということですか? とてもそうは見えませんが……。 |
Ciel |
ナオト
ああ、まあ、そこんところはちょっとこいつ自身に 原因があると思うんだけど……。 |
Naoto |
ナオト
とにかく、なんの前触れもなく突然、 こいつは眠ったままになった。 |
Naoto |
サヤ
そして、それと時を同じくして、 新川浜にはあの蟲が発生するようになりました。 |
Saya |
シエル
彼女が昏睡状態になったことと、 蟲の発生はなにか関連があるのですか? |
Ciel |
ナオト
わかんねぇ。 |
Naoto |
ナオト
でも、あんまりにもタイミングが近かったからな。 俺たちは、なにか関係があるんじゃないかって考えてる。 |
Naoto |
ナオト
だからとりあえず蟲のことを調べようと思って、 夜な夜なああいう場所を回ったりしてるんだけど……。 |
Naoto |
ラーベ
直接関係があるかどうかもわからないで、 蟲の調査なんかしてるのか? |
Raabe |
ナオト
そうだよ。他になんにも取っ掛かりがなかったんだ。 そんくらい意味不明な昏睡なんだよ。 |
Naoto |
シエル
医療機関での診察は受けたのですか? |
Ciel |
ナオト
あ、いや……ちょっと事情があってな。病院には行ってない。 |
Naoto |
シエル
なぜですか? |
Ciel |
ナオト
それは……。 |
Naoto |
ラーベ
人間用の病院に連れて行っても、意味はないだろうからな。 |
Raabe |
ナオト
なっ……。 |
Naoto |
ラーベ
だろう? でもお前は、彼女がどういう状態なのか、 知りたいとも思っている。 |
Raabe |
ラーベ
私ならわかるかもしれないぞ? なんなら詳しく調べてやろうか。 |
Raabe |
ナオト
……調べるって、なにするんだよ? |
Naoto |
ラーベ
なに、軽くスキャンするだけだ。レントゲンみたいなもんだな。 痛みもないし、ほんの数十秒で結果もわかる。 |
Raabe |
ナオト
…………。 |
Naoto |
サヤ
兄様、ここまでお話したのです。お願いしてみてはいかがですか。 なにか……手がかりがあるかもしれません。 |
Saya |
ナオト
……ラケルに危害を加えるようなことだけは、絶対にするなよ。 |
Naoto |
ラーベ
加えてどうする。 安心しろ、いやらしいこともしないと誓うぞ? |
Raabe |
ナオト
あ……あ、当たり前だろ! なに言ってんだあんた! |
Naoto |
ナオト
……ったく。はぁ。わかったよ、頼む。 ラケルの状況が知りたいのは、間違いねぇんだし。 |
Naoto |
ラーベ
すぐにすむ。そう身構えるな。 |
Raabe |
ラーベ
その間……そうだな、この子達に茶でも用意してくれ。 もっとも私は飲めないが。 |
Raabe |
ナオト
はいはい。紅茶でいいな? |
Naoto |
シエル
お気遣いいただき、ありがとうございます。 |
Ciel |
サヤ
兄様。私は緑茶をお願いします。紅茶は好みませんので。 |
Saya |
ナオト
わかってるよ。……ったく、美味しいのに。 |
Naoto |
ナオト
お待たせ。紅茶、ここ置くぞ。 |
Naoto |
シエル
ありがとうございます。いただきます。 |
Ciel |
サヤ
熱いですから、舌など焼けただれませんよう 気を付けてくださいね。 |
Saya |
ナオト
普通に火傷って言えよ……。 |
Naoto |
シエル
っ! こ、これは……。 |
Ciel |
ナオト
な、なんだ? 熱かったか? 大丈夫か? |
Naoto |
1: 美味しい! |
1: |
ナオト
なんだよ、驚かせやがって。 ……美味いか、そりゃよかった。 |
Naoto |
ナオト
おっ。わかるか? |
Naoto |
ナオト
セイロンのディンブラっていう紅茶だ。ブレンドティーによく 使われてるんだけど、それだけでも悪くないだろ。 |
Naoto |
ナオト
ストレートでもミルクでも、どんな飲み方でも合うんだ。 淹れ方は……。 |
Naoto |
サヤ
兄様。 |
Saya |
ナオト
あ? ……ああ、はは、悪ぃ、悪ぃ。 |
Naoto |
ナオト
紅茶のことになるとつい、な。 気にすんな、好きに飲んで。 |
Naoto |
シエル
はい。 |
Ciel |
シエル
……これが、紅茶……。 フガクで飲んだものとは、まるで違います。 |
Ciel |
シエル
とても豊かな香りと味がします。これが本物の紅茶であるならば、 私が飲んでいたあの紅茶はまるで茶色い水です。 |
Ciel |
ナオト
茶色い水って……そんなにまずい紅茶なのか? |
Naoto |
シエル
まずいという言葉の基準がわかりかねますが、 これが正解の紅茶であるのならば、フガクのものは不正解です。 |
Ciel |
ラーベ
おいこらシエル。ばっさり言うんじゃない。 アレでもそれなりの茶ではあるんだぞ。 |
Raabe |
ラーベ
しかし、シエルがそうまで言うほど美味いのか……。 くそっ、私も飲みたい。飲食機能の搭載を要望するべきか……。 |
Raabe |
サヤ
かようなことよりも、いかがでしたか? 計測……とやらは終わったのでしょうか? |
Saya |
ラーベ
おっと、そうだった。 ああ、終わったとも。ある意味ばっちりだ。 |
Raabe |
ナオト
ある意味? ……なんかわかったのか? |
Naoto |
ラーベ
ふふん、まあな。まず現状についてだが、 結論から言うと、彼女は現在『生きて』いない。 |
Raabe |
ナオト
…………は? |
Naoto |
シエル
生きていない、ということは…… 死んでいるということですか? |
Ciel |
ナオト
んな馬鹿な! そんなはずはねぇ! こいつが『死んで』んなら、俺も『死んでる』はずだ! |
Naoto |
ラーベ
なるほど。ライフリンクについては知っているみたいだな。 |
Raabe |
サヤ
ライフ……リンク? |
Saya |
ラーベ
簡単に言うと、命が繋がっている状態のことだ。 命の共有、とも言えるな。 |
Raabe |
ラーベ
ふたり合わせて、ひとつの命だ。 |
Raabe |
ラーベ
片方が生きてさえいれば、もう片方は決して死なない。 ふたり同時に死なない限り、な。 |
Raabe |
ラーベ
黒鉄ナオトとこのラケルという少女は、 そういう特殊な繋がりを持っている。 |
Raabe |
ナオト
ちょっと調べただけで、そんなことまでわかっちまうのか。 すごいな……。 |
Naoto |
ラーベ
少しはこちらの能力を信用したか? |
Raabe |
ラーベ
当人が把握しているのなら、話は早い。 ならば改めて断言しよう。彼女は『生きて』いない。 |
Raabe |
ラーベ
だが『死んで』もいない。 |
Raabe |
サヤ
……どういうことでしょうか? |
Saya |
ラーベ
簡単な言い方をすると『魂』と『肉体』の接続が 切れている状態だ。 |
Raabe |
ラーベ
『魂』と繋がっていない肉体、つまり『器』は 物も同然だ。だから『生きて』いるとは言えない。 |
Raabe |
ラーベ
だが『魂』そのものが消滅したわけではない。 どこかに必ず存在はしている。なぜなら……。 |
Raabe |
ナオト
ライフリンクで繋がってる俺が生きているから……か。 |
Naoto |
ラーベ
そうだ。 |
Raabe |
サヤ
それで、生きてはいないけれど、死んでもいない…… なるほど。 |
Saya |
ラーベ
ただ、魂と器が切り離された状態で居続けるというのは、 かなり特殊な状態だ。通常の人間では、まずありえない。 |
Raabe |
ラーベ
そこでひとつ確認したいんだが。 彼女は……何者だ? |
Raabe |
ナオト
……それも今のスキャンってやつで、わかったのか? |
Naoto |
ラーベ
一目見たときから概ねな。だがスキャンしても…… 確信は得ていない。だからこそ教えろ、彼女は何者だ? |
Raabe |
ナオト
……ラケルは……吸血鬼だ。 |
Naoto |
ラーベ
吸血鬼か!! やっぱり! |
Raabe |
ラーベ
いやぁ〜そうかそうかぁ……吸血鬼かぁ……。 |
Raabe |
シエル
吸血鬼……? 空想上の存在だと思っていましたが…… 実在するのですね。やはり、血液を吸引するのですか? |
Ciel |
ラーベ
うむ……人の生き血をすすらねば生きていけなかったり、 日光にあたると灰になって消滅したり…… |
Raabe |
ラーベ
……ということはあまりないな。 |
Raabe |
シエル
ないのですか? |
Ciel |
ラーベ
その手の伝承は虚実入り混じっているからなぁ。 血も吸わないわけではないし……。 |
Raabe |
ラーベ
だが、本などに書かれている吸血鬼とはちょっと違うぞ。 『実際』の吸血鬼は人が生み出した、最強にして最恐の生物だ。 |
Raabe |
ラーベ
しかし……なるほどなるほど、吸血鬼か。 それならこの特殊な状況を保ち続けているのにも、納得できる。 |
Raabe |
ラーベ
だけど、そうか……吸血鬼か……。 |
Raabe |
ナオト
なんだよなんだよ。なにか問題あるのか? |
Naoto |
ラーベ
いや。ない。全く。むしろ逆。 本物の吸血鬼のデータを取れる機会などそうそうないから!! |
Raabe |
ナオト
お前、なにちょっとテンション上がってんだよ……。 |
Naoto |
ラーベ
そうそう、念のため確認しておきたい。 彼女の名前は……ラケルといったな。 |
Raabe |
ラーベ
ラケル、その続きは? ファミリーネームのようなものを聞いていないか? |
Raabe |
ナオト
『アルカード』? ラケル=アルカードって、 最初に名乗ってたけど……。 |
Naoto |
ラーベ
アルカード! まさか! いや、やはりか! |
Raabe |
1: やはりって? |
1: |
ラーベ
アルカードといえば、吸血鬼の中でも 最強の一族の名だ。その存在はもはや伝説。 |
Raabe |
ラーベ
むしろその他の全ての吸血鬼が、 アルカードから始まったと言っても過言ではない! |
Raabe |
ラーベ
その伝説が今、私の目の前に…… これは……研究材料としては垂涎ものだな……。 |
Raabe |
ナオト
あのな。ラケルのことを調べてくれるなら助かるけど、 それ以上、あんま勝手なことはしてくれるなよ。 |
Naoto |
ナオト
相手は意識もないんだからな。 |
Naoto |
ラーベ
わ……わかっているとも。失礼だな、君。 本人の許可もなく、勝手に器を弄り回すなどするものか。 |
Raabe |
ラーベ
だが…… そうか、これがアルカードの吸血鬼の『器』か……。 |
Raabe |
ナオト
お、おい。本当に信用していいんだろうな。 |
Naoto |
ラーベ
当然だ。 |
Raabe |
ラーベ
だが万が一、お前にもしものことがあればだ…… そのときは、この器をもらってもいいか? いいだろう? |
Raabe |
ナオト
いいわけあるか! 俺のもんじゃねぇよ! やっぱりお前、信用できねぇ……。 |
Naoto |
シエル
ラーベさん、本来の目的を忘れています。 |
Ciel |
ラーベ
おっと、そうだった。 |
Raabe |
ナオト
はぁ。調べたいことがあるなら、ラケルの目が覚めたときに 本人に聞けよ。 |
Naoto |
ナオト
ラケルがOK出すなら、俺は文句ねぇし。 血圧でもなんでも計ればいいだろ。 |
Naoto |
ラーベ
そうか! うんうん、そうだな。本人に聞けばいい。 よし、俄然やる気が出てきた。 |
Raabe |
シエル
そういうのを職権乱用と言うのではないでしょうか? |
Ciel |
ラーベ
馬鹿者。公私混同だ。 |
Raabe |
サヤ
どちらもあまり、 褒められたものではありませんね……。 |
Saya |
ラーベ
さて。差し当たっての問題は、 器と魂の遮断がなぜ起こったのか、だ。 |
Raabe |
ナオト
スルーかよ。 |
Naoto |
ラーベ
彼女が昏睡に至った原因は不明。 ただし同時期に蟲の発生が始まった。これは確かか? |
Raabe |
ナオト
全く同じ瞬間に起きたとまでは、断言できねぇよ。 でも……偶然とは思えないほど、同じタイミングだったと思う。 |
Naoto |
サヤ
少なくとも私たちがふたつの現象を把握したのは、 とても近しい時でした。 |
Saya |
ラーベ
ふーむ。ラケル嬢が昏睡したから蟲が発生したのか、 蟲が発生したからラケル嬢が昏睡したのか……。 |
Raabe |
ラーベ
あるいはどちらも観測者の望みから発生した事象なのか…… それぞれの因果関係が気になるところだな。 |
Raabe |
ナオト
……ちょっと待て、 今なんかすげえ重要なこと言わなかったか? |
Naoto |
ラーベ
うん? |
Raabe |
ナオト
誰かの望みから発生……とか言ったよな? |
Naoto |
ナオト
ラケルが眠ったままなのは、誰かが仕組んだからなのか? |
Naoto |
ラーベ
意図して行ったかどうかはさておき、 まあ、そういう因果関係がある可能性は大きい。 |
Raabe |
ナオト
なんだよそれ! どうやって……。 いや、そもそも誰がそんなこと! |
Naoto |
ラーベ
誰なのかはわかっていない。 その『誰か』を私たちは探しているんだ。 |
Raabe |
サヤ
先ほど、新川浜に異常な現象が発生している……と おっしゃっていましたね。それを調べるのがお仕事だと。 |
Saya |
サヤ
その人探しも、お仕事の一環なのですか? |
Saya |
ラーベ
ああ。その人物に行き当たれば、 新川浜に起きている異常現象は解決するだろう。 |
Raabe |
ナオト
じゃあ、ラケルのことも!? |
Naoto |
シエル
目を覚ますのではないでしょうか。 |
Ciel |
ナオト
そっか……。 |
Naoto |
ナオト
あんたらが話してること、たぶん俺、 半分もわかってないと思うんだけどさ。 |
Naoto |
ナオト
それでも、あんたらがやろうとしてることで、ラケルが 目を覚ますかもしれないんなら……。 |
Naoto |
ナオト
その仕事ってやつ、俺にも手伝わせてくれないか。 |
Naoto |
サヤ
兄様……。 |
Saya |
ナオト
正直言って、ラケルのためになにをしたらいいのか、 全然わかんねぇんだ。 |
Naoto |
ナオト
蟲について調べようとしてたのだって、 それしかやりようがなかったからだ。 |
Naoto |
ナオト
でも、いつか起きるかもって待ってるわけにもいかねぇ。 できることがあるんなら、そうしたいんだ。頼む。 |
Naoto |
サヤ
……私からも、お願いいたします。 |
Saya |
サヤ
あなた方のお話は、突飛で荒唐無稽、 そのうえあやふやで信じるに値しません。 |
Saya |
サヤ
ですがそれでも、私や兄様が困惑しているこの状況に対し、 あなた方は私たちよりずっと詳しいご様子。 |
Saya |
サヤ
どうかその人探し、お手伝いさせてくださいませ。 |
Saya |
シエル
……どうしますか? |
Ciel |
ラーベ
現地での協力者が得られるのは、こちらとしても好都合だ。 だが安全の保障はないぞ。わかってるのか? |
Raabe |
ナオト
わかってるよ。はなから保障してもらおうなんて思ってねぇ。 それに、安全の保障がないのは今も同じだしな。 |
Naoto |
サヤ
己の身くらいは己で守りますゆえ、ご心配なく。 |
Saya |
ラーベ
……しかし、それほど熱心に協力を申し出てくるとは、 ずいぶんこの吸血鬼少女に思い入れがあるんだな。 |
Raabe |
ナオト
ああ。 |
Naoto |
サヤ
それは、もちろん。 |
Saya |
シエル
おふたりとラケルさんは、どのような関係なのですか? |
Ciel |
ナオト
関係か……。まあ、簡単に言うと命の恩人だな。 |
Naoto |
ナオト
こいつと出会ったのは、わりと最近のことなんだよ。 |
Naoto |
ナオト
こいつが変な男に絡まれててさ。それを助けようと思って 割って入ったら……返り討ちにあっちまって。 |
Naoto |
サヤ
兄様が危うく命を落としかけたところを、 ラケルさんに助けていただいたのだそうです。 |
Saya |
サヤ
……私がお側にいれば、そのような不届き者、 一太刀のもとに首を落としてみせたものを……。 |
Saya |
ナオト
首落としたら殺人だろうが……。 |
Naoto |
サヤ
兄様のためとあらば。 |
Saya |
ナオト
頼んでねぇから! そういうことすんなよ! マジで! |
Naoto |
ナオト
……とにかく、こっちのことは気にしなくていいから。 手伝わせてくれるってことで、いいんだよな? |
Naoto |
1: もちろん、よろしく |
1: |
ナオト
よし、決まりだな。 それじゃ……とりあえず、今夜、泊まってくか? |
Naoto |
シエル
よろしいのですか? |
Ciel |
サヤ
そうですね。それがいいでしょう。 今から駅に戻って宿を探すのも。お手間でしょうし。 |
Saya |
ナオト
レイはリビング使ってもらって…… シエルは悪いけど、ラケルの隣でもいいか? |
Naoto |
サヤ
まあ。破廉恥な。 |
Saya |
ナオト
ばっ……馬鹿か、違ぇよ! そういう変な意味じゃなくてだな! 今から駅戻って宿探すのも大変だろうが! |
Naoto |
ナオト
もちろん、部屋は分けるから。あー、つっても…… この部屋しかないんだ。ラケルと一緒でもいいか? |
Naoto |
ラーベ
もちろんだとも!!! |
Raabe |
ナオト
お前は駄目だ!!! |
Naoto |
ラーベ
何故だ!!!??? |
Raabe |
シエル
……私は問題ありません。 拠点となる場所もまだ探していなかったので。 |
Ciel |
ナオト
あてもなしだったのかよ。無計画だな、あんたらの仕事って。 |
Naoto |
ラーベ
柔軟な対応が求められるんでな。 |
Raabe |
シエル
ありがとうございます。 ナオトさんはとてもいい人なのですね。 |
Ciel |
サヤ
おわかりいただけますか。 |
Saya |
ナオト
やめてくれよ、恥ずかしいから。 えーと、寝具はふたりぶんでいいか? |
Naoto |
シエル
はい、問題ありません。 |
Ciel |
サヤ
では私は一度、失礼いたします。 |
Saya |
ナオト
ああ。帰り、気を付けろよ。 |
Naoto |
シエル
え? サヤさんはどちらへ? |
Ciel |
サヤ
家です。私は別の家で寝起きしておりますので。 ここは元は、兄様が単身でお住まいの部屋です。 |
Saya |
ナオト
今は、ラケルが居候中だけどな。 |
Naoto |
シエル
兄妹なのに、一緒に住んでいるわけではないのですね。 |
Ciel |
サヤ
はい。だって同じ屋根の下で寝起きなどしていたら、 うっかり殺してしまうかもしれないではないですか。 |
Saya |
ナオト
さらっと言うことじゃねーよ、一緒に住んでなくても殺すなよ。 |
Naoto |
サヤ
難しいことをおっしゃらないでください。 |
Saya |
ナオト
どのへんが難しいかなぁ!? |
Naoto |
1: もう遅いのにひとりで平気? |
1: |
サヤ
ご心配なく。表の通りに車を待たせておりますので。 |
Saya |
サヤ
では……ごゆるりと、お過ごしください。 おやすみなさいませ。 |
Saya |
シエル
……丁寧な方です。 |
Ciel |
ナオト
そうか? ……まあ、お育ちがいいからな。物腰は丁寧だよな。 |
Naoto |
ナオト
それより、布団運ぶの手伝ってもらっていいか? |
Naoto |
シエル
はい。了解しました。 |
Ciel |
ナオト
おう。 にしても、マジで今日はなんだか体が軽いな。 |
Naoto |
シエル
そうなんですか? |
Ciel |
ナオト
ああ。なんでかわかんねぇけど、なんとなく。 |
Naoto |
ナオト
あながち、お前らがいるからってのも 間違ってないかもな。はは。 |
Naoto |
第2節 異変②/ 2. Abnormality - 2
Summary | |
---|---|
メイドのEsと共に現われた冥は、シエルた
ちのことは言葉だけでは信用できず、実力を 見せろと迫り、手合わせをすることに。 |
1: うわ!? |
1: |
ラーベ
なんだなんだ、一体? |
Raabe |
シエル
一秒間に十八回……すごい勢いです。 ナオトさんを呼んできたほうがいいでしょうか。 |
Ciel |
ナオト
あ〜〜〜〜〜! うるせぇうるせぇ! 起きてます! 起きました! 起きたから!! |
Naoto |
???
あ、本当に起きてる〜。偉い偉い。 |
??? |
ナオト
ひなた……お前、いい加減にしろよ、今日くらい……。 学校も休みなんだしよ……。 |
Naoto |
ひなた
そういうわけにはいかないよ。ナオトちゃんが寝坊して、 お客さんがお腹すかせてたら、かわいそうでしょ。 |
Hinata |
ひなた
あ、ほら。お客さん、もう起きてたみたいだよ。 |
Hinata |
ナオト
お前が起こしたんだろ……。 ふぁっ……あ〜ぁ。 |
Naoto |
ひなた
ナオトちゃんったら、大きなあくび。 |
Hinata |
ひなた
おはようございます。 はじめまして、私、姫鶴ひなたといいます。 |
Hinata |
ひなた
ナオトちゃんとは同じマンションに住んでて、 幼馴染なんです。 |
Hinata |
シエル
シエルです。 こちらはレイさん。 |
Ciel |
1: よろしくお願いします |
1: |
ひなた
こちらこそ、よろしくお願いします。 |
Hinata |
ひなた
いえいえ、こちらこそ、 ナオトちゃんがお世話になってます。 |
Hinata |
ラーベ
姫鶴ひなた、か。 で? さっきのチャイム連打はなんなんだ? |
Raabe |
ひなた
え? わあ、しゃべるロボット? すごーい! それに、かわいい。 |
Hinata |
ラーベ
ふふ……そうだろう、そうだろう。 中々見る目があるな、君。 |
Raabe |
ラーベ
って、そうではなくてだ。 あの騒音はなんの儀式だと聞いてるんだよ。私は。 |
Raabe |
ひなた
あ。うるさくしてごめんなさい。 ナオトちゃん朝が弱いから、毎日ああやって起こしてるの。 |
Hinata |
ひなた
普通の目覚ましだと、 いくつセットしても止めて二度寝しちゃうから。 |
Hinata |
ナオト
……時々、自力で起きれてるだろ。 |
Naoto |
ひなた
時々ね〜。 |
Hinata |
シエル
おふたりは仲がいいんですね。 |
Ciel |
ひなた
ふふ、長い付き合いだから。 |
Hinata |
ひなた
あ、まだだったら、顔洗ってきちゃって。 すぐ朝ごはんの用意するから。 |
Hinata |
シエル
食事まで、お世話になっていいんですか? |
Ciel |
ひなた
もちろん。ナオトちゃんから聞いたよ。 ラケルちゃんのこと、一緒に調べてくれるんでしょ。 |
Hinata |
ひなた
ナオトちゃん、そのことでずっと不安だったみたいだから。 手伝ってくれる人が増えて嬉しいんだ。 |
Hinata |
ひなた
私にできるのはごはんの支度くらいだけど。 朝ごはんしっかり食べて、パワーつけてね。 |
Hinata |
シエル
ありがとうございます。 お言葉に甘えて、お世話になります。 |
Ciel |
1: おなかいっぱい…… |
1: |
シエル
ごちそうさまでした。栄養バランスの整った、 素晴らしい朝食でした。食後に紅茶まで……。 |
Ciel |
ひなた
はぁ〜、やっぱりナオトちゃんの淹れてくれた 紅茶は最高だね。 |
Hinata |
ナオト
いつも作ってくれるお前の食事に比べたら、 大したもんじゃねぇけどな。 |
Naoto |
ひなた
えへへ、ありがとう。ナオトちゃん。 |
Hinata |
ナオト
…………。 |
Naoto |
ひなた
どうかした? ナオトちゃん。 |
Hinata |
ナオト
……いや、なんでもない。 |
Naoto |
ひなた
お客さんかな? はーい。 |
Hinata |
和装の少女
黒鉄! 貴様、また勝手に蟲の駆除に行ったな!? |
Girl in a Kimono |
ナオト
おお、びっくりした。どうしたんだよ急に。 |
Naoto |
和装の少女
意外そうな顔をするな! 私が来ることは目に見えていただろうが! |
Girl in a Kimono |
和装の少女
何度も何度も何度も言ったが、 蟲の件にしゃしゃり出てくるんじゃない! |
Girl in a Kimono |
和装の少女
あれは私が受けた依頼だ! お前が蟲を駆除してしまったら、 私の報酬はどうしてくれるんだ! |
Girl in a Kimono |
サヤ
ちょうど下で会いまして。 せっかくですから、お連れしました。 |
Saya |
???
お邪魔します。 |
??? |
ナオト
エスも一緒か。いらっしゃい。紅茶淹れるよ。 |
Naoto |
Es
はい。いただきます。 |
Es |
和装の少女
紅茶なんぞ飲んでる場合か! 話を聞け! |
Girl in a Kimono |
ナオト
なんだよ、いらないのか? うまいやつだぞ。 |
Naoto |
和装の少女
……もらおう。 |
Girl in a Kimono |
サヤ
私は緑茶でお願いします。 |
Saya |
ナオト
はいはい、わかってるって。座ってろ。 |
Naoto |
ひなた
あ、私、お手伝いするよ。 |
Hinata |
ナオト
ほい。 |
Naoto |
ひなた
リンゴも剝いてきたから、よかったらどうぞ。 |
Hinata |
和装の少女
ああ。いただこう。 |
Girl in a Kimono |
シエル
ナオトさん。こちらの方々はどなたですか? |
Ciel |
ナオト
そうだった、紹介するな。こっちが天ノ矛坂冥。 で、こっちがエス。どっちも……俺の知り合いだ。 |
Naoto |
Es
初めまして。Esと申します。 冥の家でメイドとして置いていただいています。 |
Es |
ラーベ
エス? それに天ノ矛坂ぁ? ……あ。いや。 うん、変わった名前だな。 |
Raabe |
冥
なっ……い、今喋ったの、そのちっこいのか? なんだそれ? |
Mei |
ラーベ
ちっこいのではない。ラーベと呼べ。 |
Raabe |
冥
名前があるのか。そうか……。 ふう〜ん。……どうなってるんだ、これ? |
Mei |
ラーベ
おい、こら、やめるんだ! 勝手にあちこちいじくるな! |
Raabe |
Es
……シエルさんと、レイさん、 ですね。来る途中で、サヤさんからうかがいました。 |
Es |
Es
蟲の調査を手伝ってくださるとか。それから……ラケルさんの 昏睡の解明にも、力を貸してくださると。 |
Es |
シエル
はい。……正確には、我々の蟲の調査に ナオトさんたちがご協力いただくという話でしたが。 |
Ciel |
ナオト
蟲の発生も、ラケルの昏睡も、 それを引き起こす原因になってる奴がいるらしいんだ。 |
Naoto |
ナオト
そいつを見つければ、蟲のこともラケルのことも、 解決するかもしれないんだって。 |
Naoto |
冥
ほう? ずいぶんと突拍子もない話だな。 蟲を放った犯人がいると? |
Mei |
ラーベ
あー……犯人というか、原因となった存在ってところだが。 まあ、呼び名はなんでもいいか。 |
Raabe |
冥
そんな話を信じろと言うのか? 黒鉄や輝弥のような 短絡思考はまるめこめても、私はそうはいかないぞ。 |
Mei |
シエル
ですが、事実です。 |
Ciel |
シエル
私たちはその人物を探しています。そしてその人物の特定が、 新川浜における異常現象の解決に繋がると判断しています。 |
Ciel |
シエル
ナオトさんとサヤさんもまた、この街で発生している異常現象の 解決を目的としています。 |
Ciel |
シエル
目的が一致したため、私達は協力関係を結びました。 ……状況をご理解いただけるでしょうか。 |
Ciel |
冥
利害の一致、ね……。 |
Mei |
冥
…………。 |
Mei |
冥
……蟲の件の解決につながるというのなら、 やぶさかではない。 その犯人探し、こちらで行おう。 |
Mei |
冥
だからお前たちはもう蟲には関わるな。 手を出そうとするんじゃない。 |
Mei |
ラーベ
何故だ? 私たちに関与されて、困ることでもあるのか? |
Raabe |
Es
冥は、あなた方を心配しています。 蟲は危険ですから。 |
Es |
冥
馬鹿者。誰が心配なんぞするものか。 ただ素人にウロチョロされるのが迷惑なだけだ。 |
Mei |
冥
蟲の駆除は、天ノ矛坂が行う。余計な手出しは邪魔だ。 報酬の山分けにも応じんぞ。 |
Mei |
シエル
確かに、蟲の駆除に関しての経験値は低いかもしれませんが、 戦闘に関しては冥さんより高いと保証できます。 |
Ciel |
冥
はっ、言うじゃないか。とてもそうは見えんが…… そうだというのなら、証拠を見せてもらおうか。 |
Mei |
ラーベ
なるほど。『天ノ矛坂』らしい言い分だ。 |
Raabe |
冥
お前、天ノ矛坂を知っているのか? |
Mei |
冥
……まあいい。外に出ろ。 |
Mei |
シエル
なぜですか? |
Ciel |
冥
わからんか? 私より上と言うのなら、お前たちの力を 直接見せて、私を納得させてみろということだ。 |
Mei |
冥
……よし。簡易的なものだが、結界を張った。 短時間なら暴れても周囲に被害は出ない。 |
Mei |
冥
心置きなくやるといい。 こちらもそのつもりで相手になる。 |
Mei |
ナオト
お、おい、冥! |
Naoto |
サヤ
兄様。レイさんたちなら、大丈夫でしょう。 |
Saya |
ひなた
ほ、本当に大丈夫なの? 怪我しないようにね……? |
Hinata |
Es
安心してください。準備運動のようなものです。 |
Es |
冥
さあ、行くぞ素人ども。 |
Mei |
シエル
応戦します、レイさん。 |
Ciel |
第2節 異変③/ 2. Abnormality - 3
Summary | |
---|---|
御剣機関から蟲の調査と駆除を依頼されてい
る陰陽師の冥。自身の監督のもと、シエルや ナオトたちの関与を認めると言う。 |
ひなた
すごい……みんな強いんだねぇ。 見ててドキドキしちゃった。 |
Hinata |
Es
冥。もういいでしょう。 |
Es |
冥
ああ。もう十分だ。 それにしても、驚きだな。 |
Mei |
冥
冴えない地味な男と、天然キャラオーラだだ漏れの 萌えっ子にしか見えんが、予想以上の戦闘能力だ。 |
Mei |
冥
冴えない地味な女と、天然キャラオーラだだ漏れの 萌えっ子にしか見えんが、予想以上の戦闘能力だ。 |
Mei |
ラーベ
やはり陰陽術の使い手か……。 |
Raabe |
冥
ん? 何か言ったか丸いの? |
Mei |
ラーベ
丸いの言うな! |
Raabe |
シエル
冥さんの戦闘力、正直驚きました。 申し訳ありません、訂正させてください。 |
Ciel |
シエル
あれは確か『陰陽術』と言う東洋の魔術ですよね? |
Ciel |
冥
ふん。たまたま家が、そういう家系でな。 |
Mei |
ラーベ
あとそっちのエス、えっと確かメイドだっけ? それと合わせて、ふたりともドライブ使いということか……。 |
Raabe |
ラーベ
まぁいい。それで、 我々が素人でないということは証明できたのか? |
Raabe |
冥
その点に関しては、納得してやろう。 |
Mei |
冥
単純な戦闘技能に関しては、 確かに私より上かもしれん……のだからな。 |
Mei |
冥
おい黒鉄、この者たちはいったい何者だ? |
Mei |
サヤ
そのあたりのことは、どうぞ部屋に戻ってから。 そのほうがよろしいですよね、兄様。 |
Saya |
ナオト
ああ。是非そうしてくれ。 |
Naoto |
ナオト
いくら結界があるからって、近所で知り合いが派手に やりあってるなんて、ひやひやする。 |
Naoto |
ひなた
ご近所さんから苦情が来たら、困っちゃうしね。 |
Hinata |
冥
わかった。戻ろう。 黒鉄、新しい紅茶を淹れてくれ。 |
Mei |
ナオト
へーへー。人使いが荒いぜ、まったく。 |
Naoto |
冥
御剣機関!? お前たち、御剣機関の人間か! |
Mei |
ひなた
なあに? そのミツルギ……キカン? って? |
Hinata |
冥
人の存続がどうとかこうとか言っている、怪しい組織だ。 何度か仕事を手伝ったことがある。 |
Mei |
冥
間違っても付き合いなんか持つんじゃないぞ、姫鶴。 |
Mei |
ナオト
仕事? 天ノ矛坂のか? |
Naoto |
冥
天ノ矛坂家というより、私、個人の陰陽師としての仕事だ。 |
Mei |
冥
低級の妖を捜索したり、怪奇現象の情報を集めたり、 そういうものの退治も手伝ってやったりな。 |
Mei |
冥
これがなかなか、いい金になるんだ。 |
Mei |
ナオト
金かよ……。 |
Naoto |
冥
当然だ。 知らないのか? 人の世を守るには金がかかるんだぞ。 |
Mei |
冥
ヒーローが無償で守ってくれるのは、特撮の世界だけだ。 |
Mei |
ナオト
へいへい。そうですか。 |
Naoto |
冥
……しかし御剣機関め、私に蟲の調査と駆除を依頼して おきながら、新手を送り込んでくるとはどういうことだ……。 |
Mei |
冥
そもそも、一言うちに断りがあってもいいだろう。 まったく、軽く見られたものだな……。 |
Mei |
シエル
冥さんは、御剣機関から蟲の駆除を依頼されて いるのですか? |
Ciel |
冥
ああ。……知らないのか? 同じ組織のことだろう? |
Mei |
ラーベ
ハァ……またこの話か。 黒鉄と輝弥にはもう説明したんだが……。 |
Raabe |
冥
つまり……私の依頼相手とは別口で調査に来ている……と? |
Mei |
ラーベ
そういうことだ。 |
Raabe |
Es
……冥。 この方達の言っていることに『嘘』は無いと思われます。 |
Es |
冥
……ふん。お前たちが本当に御剣機関の者だとしたら、 蟲の件についてとやかく言うのは無駄だろうな。 |
Mei |
冥
余計な口を出さず、お前たちの調査を許容する―― |
Mei |
冥
――とは、言えんぞ。 |
Mei |
シエル
なぜでしょうか? |
Ciel |
冥
黒鉄と輝弥だ。 |
Mei |
ナオト
俺たち? |
Naoto |
冥
お前たちがどんな任務にあたっていようと、私には関係ない。 好きにすればいい。 |
Mei |
冥
だがお前たちはそのご大層な任務に、黒鉄や輝弥を 巻き込もうとしている。 |
Mei |
冥
多少戦いの心得があるといっても、こいつらはただの高校生だ。 それを危険に巻き込むのを、黙って見ないふりなどできん。 |
Mei |
ナオト
ちょっと待てよ! 冥、言っておくが、こいつらが 手を引いたって俺はやめねぇぞ! |
Naoto |
サヤ
……兄様がやめぬのなら、 私もやめるわけにはいきませんね。 |
Saya |
冥
ええい、落ち着け。お前ら兄妹が言っても聞かないことは、 ここ数日でよーーーーーくわかっている。 |
Mei |
冥
だから、勝手に動くな。 |
Mei |
冥
蟲と戦うにせよ、その犯人を探すにせよ、 私が監督役として同行する。いいな。 |
Mei |
ナオト
は? カントクヤク? |
Naoto |
シエル
それは……我々やナオトさんたちに、協力してくださるという 意味と解釈できるのですが。 |
Ciel |
冥
協力じゃない、あくまで監督だ。 黒鉄たちが無茶苦茶しないようにな。 |
Mei |
1: 助かります |
1: |
冥
だから勘違いするな。むしろお前たちが私に協力すると思え。 |
Mei |
冥
さっきも言ったが私は御剣機関から蟲の調査と駆除を 依頼されている。そのための情報は、常に共有してもらうぞ。 |
Mei |
ラーベ
結果が同じなら、私は構わないよ。 |
Raabe |
シエル
了解しました。 |
Ciel |
冥
……はぁ。そもそも黒鉄と輝弥に、蟲に関わるなと忠告しに 来たはずだったのに。結果があべこべになってしまった。 |
Mei |
ナオト
いいじゃねぇか、もう。どうせ俺たちはなに言われたって やめたりしないんだしさ。 |
Naoto |
ナオト
とにかくここにいる全員、蟲の発生の原因を突き止めたい、 ってことで。な、目的一致。 |
Naoto |
冥
なにが目的一致だ。調子のいいこと言いおって。 |
Mei |
ひなた
でも、一緒にやってくれるんでしょう? えへへ、冥ちゃん、面倒見いいんだ。 |
Hinata |
冥
渋々だ! 別に面倒見たくて見てるわけじゃないからな! |
Mei |
Es
ところで、冥。蟲の発生の原因についてですが……。 |
Es |
Es
この方達も人為的であると推測しているようですから、 |
Es |
Es
『影』のことは、お話しておいたほうが いいのではないでしょうか。 |
Es |
シエル
影……? 何者ですか? |
Ciel |
Es
先日、蟲を使役しているらしき人影が目撃されたのです。 |
Es |
Es
といっても、具体的な容姿は判然としていません。 『大きな影のようだった』という証言があるのみです。 |
Es |
ラーベ
なるほどな。だから通称『影』か。 |
Raabe |
ナオト
そいつが蟲の親玉なら、そいつを見つければラケルが目を 覚ますかもしれないってことだよな? どこにいるんだよ!? |
Naoto |
冥
そう簡単に見つかれば、我々がとうに始末している。 素性も居場所も、なにもかも今のところ不明だ。 |
Mei |
ひなた
そっかぁ……困ったね。なにか探す方法はないのかな。 |
Hinata |
冥
……新川浜のあちこちに、 探知の陣を張り巡らせてはある。 |
Mei |
冥
消極的手段とわかってはいるが……蟲どもを蹴散らしながら、 親玉が網にかかるのを待つしかない。 |
Mei |
冥
影がどういう場所に出没し、どういう条件下で行動するのか、 現状では情報らしい情報などないんだからな。 |
Mei |
サヤ
となれば……我等がとるべき策はひとつ、ですね。 |
Saya |
ナオト
ああ。蟲を見つけて、片っ端からぶっ潰す。 |
Naoto |
ナオト
噂の『影』が蟲の親玉だったら、 手下を倒されていい気はしねぇだろ。 |
Naoto |
ラーベ
誰かが使役しているのなら、蟲を放っている理由もあるはずだ。 蟲の行動から、その辺りを探ることもできるかもしれないな。 |
Raabe |
シエル
では、私とレイさんは 蟲討伐のお手伝いですね。 |
Ciel |
サヤ
出現場所は、冥さんの陣で感知できます。 とても正確ですよ。 |
Saya |
冥
やっぱり貴様たちか! 私の陣を使っていたのは。 |
Mei |
サヤ
あれも日没後、人目につかない暗い夜に出没します。 |
Saya |
サヤ
場所もまた、人目を避けるような薄暗い場所ばかり。 身を潜め、狙いを定めて、襲いかかるのです。 |
Saya |
ラーベ
なるほど……となると、夜を待つ必要があるか。 |
Raabe |
ナオト
なら、駅の周りを軽く案内するよ。 蟲とやり合うなら、多少土地勘があったほうがいいだろ。 |
Naoto |
シエル
助かります。 地理が把握できたほうが、こちらも動きやすいですから。 |
Ciel |
サヤ
では、決まりですね。 |
Saya |
冥
我々は一度家に戻る。 |
Mei |
冥
お前たちに文句を言うためだけに出てきたからな。 ほとんど着の身着のままなんだ。 |
Mei |
ナオト
文句? |
Naoto |
冥
勝手に自分たちだけで動こうとするなと言っただろがっ! もう忘れたか!? |
Mei |
ナオト
ああ、あー……そうだった、悪い悪い。 |
Naoto |
Es
財布すら持ち合わせておりませんので。一旦、失礼します。 |
Es |
冥
ったく。姫鶴。このバカが自分から火中に飛び込むような真似を しないよう、きつく言っておけ。 |
Mei |
ひなた
ふふふ。はーい。 冥ちゃんもエスちゃんも、帰り、気を付けてね。 |
Hinata |
Es
はい。では……また夜に。 |
Es |
第3節 蠢々①/ 3. Bugs, Bugs - 1
Summary | |
---|---|
ドライブ能力者たちの様子を見るため、蟲退
治に協力するシエルたち。その日はナオトと サヤと組み、蟲憑きの対応に当たる。 |
|
蟲憑きを倒し、蟲に寄生された人の安否を確
かめるナオト。彼はドライブ能力に加え、命 の数値がわかる『狩人の眼』を有していた。 |
ラーベ
レイ、シエル。 そろそろ出かける時間だが……あいつはどうした? |
Raabe |
シエル
ナオトさんなら、先ほどひなたさんに呼ばれて彼女の家へ。 すぐに戻ると言っていました。 |
Ciel |
ラーベ
そうか。……なら、今の内に念を押しておくぞ。 |
Raabe |
ラーベ
今夜の蟲退治だが。十分、気を付けておけ。 |
Raabe |
1: 蟲にですか? |
1: |
ラーベ
もちろんそれもだが。 なにより同行するドライブ能力者に、だ。 |
Raabe |
ラーベ
そうだ。わかってきたじゃないか。 |
Raabe |
ラーベ
黒鉄ナオト、輝弥サヤ。それに天ノ矛坂冥と、エス。 今日、蟲退治に同行する者はみんな、ドライブ能力者だ。 |
Raabe |
ラーベ
わかっていると思うが、ドライブ能力者である以上、 彼らは同時にこの世界の観測者候補でもある。 |
Raabe |
ラーベ
いいな、忘れるな。私たちは蟲退治をしに来たんじゃない。 ラケルという少女を助けるために来たのでもない。 |
Raabe |
ラーベ
観測者を特定し、ファントムフィールドを 解放するために来たんだ。 |
Raabe |
シエル
了解です、ラーベさん。 |
Ciel |
ラーベ
よろしい。 |
Raabe |
ラーベ
……しかし、ラケル……か。 あの少女も気になるところだな。 |
Raabe |
シエル
学術的興味のお話ですか? |
Ciel |
ラーベ
それももちろんあるが。アルカード家の吸血鬼となれば、 彼女もおそらくドライブ能力を有しているはず……。 |
Raabe |
シエル
……ラケル=アルカードさんも、観測者である可能性が あるということですか。 |
Ciel |
ラーベ
一応……な。だが……。 |
Raabe |
ナオト
悪い、待たせた! ひなたがあれも持ってけこれも持ってけ ってうるさくてよ……。 |
Naoto |
ナオト
すぐ出るわ。ごめんな。 あー、また冥になんか言われるぞー……。 |
Naoto |
シエル
こちらの準備はできています。行きましょう。 |
Ciel |
冥
遅い! なにやってたんだ、黒鉄! |
Mei |
ナオト
悪い、ちょっと手間取って……。 さすがに全員いるな。 |
Naoto |
サヤ
はい。ちょうど陽も沈みました。 蟲たちも動き出すころでしょう。 |
Saya |
Es
まだ冥の陣に蟲の反応はありません。ですが、今の内に 蟲の好みそうな場所へ移動しておこうと思っています。 |
Es |
ナオト
そうだな。陣と人力の二段構えでいこう。 んで、見つけたら片っ端からぶっ潰して回る。 |
Naoto |
ラーベ
スマートなやり口とは言えないが、今は情報集めの段階だからな。 蟲について分析するためにも、地道な作業から始めよう。 |
Raabe |
シエル
了解。地道に蟲を倒します。 |
Ciel |
Es
蟲の出現率の高い場所をいくつかピックアップしました。 蟲が現れるまでは、その辺りを順に見回ります。 |
Es |
冥
我々がいつもやってる手だ。もう少し法則性なり、目的なりが わかれば、もっと効率よく動けるかもしれないが……。 |
Mei |
冥
黒鉄、輝弥。レイたちも連れていけ。 悪いが、ご丁寧に道案内している暇はないのでな。 |
Mei |
シエル
近辺のマッピングは完了していますので、 私達だけで近隣を探索するには、問題ないと思います。 |
Ciel |
冥
……黒鉄たちだけにしておくのも、気がかりでな。 |
Mei |
冥
短絡思考と無鉄砲の兄妹だ。 どんな無茶をやらかすかわからん。 |
Mei |
ナオト
んだよ、心配しなくても適当にやるって。 |
Naoto |
冥
その適当さが信用ならんと言っているのだ!! |
Mei |
Es
サヤさんは剣の達人ですが、体力面に少々不安があります。 |
Es |
サヤ
…………。 |
Saya |
Es
一方ナオトさんは格闘を得意とされていますが、 このところ右腕に違和感を覚えているそうです。 |
Es |
Es
不測の事態が予想されますので、 互いに戦力を補い合える状況が望ましいでしょう。 |
Es |
ナオト
う……エスにそう言われると…… さすがに突っぱねにくいな……。 |
Naoto |
冥
最初から素直に言うことを聞け、お前は。 エスが相手だと素直だから、また腹が立つ。 |
Mei |
冥
……それに、私はまだお前たちを信用している訳ではない。 |
Mei |
ラーベ
まぁ当然だね。とりあえず同行しようじゃないか。 人数がいれば、状況に応じて戦力を分散させることもできる。 |
Raabe |
冥
じゃあ、私とエスは駅の反対側に行ってくる。 一旦ここでお別れだ。 |
Mei |
1: 気を付けてね |
1: |
Es
はい。 レイさんも。 |
Es |
ナオト
さて、俺たちはこっちだ。 |
Naoto |
シエル
了解です。 |
Ciel |
シエル
質問があります。どうしてナオトさんとサヤさんは、 兄妹であるのに別の家に住んでいるのですか? |
Ciel |
ナオト
あ? あー……まあ、家庭の事情ってやつ。 色々あって、俺が実家に居づらくなっちまってさ。 |
Naoto |
ナオト
そんとき……ひなたが住むところ用意してくれて。 正確には、ひなたの姉ちゃんが、なんだけど。 |
Naoto |
ナオト
それがあのマンションの部屋ってわけ。 |
Naoto |
1: マンションの部屋を!? |
1: |
ナオト
いやいや、もらったんじゃねぇぞ、借りてるだけだよ! つっても……家賃はひなたの姉ちゃん……。 |
Naoto |
ナオト
ユキさんって言うんだけど、出世払いでいいからって 受け取ってくれなくてさ。 |
Naoto |
ナオト
飯もひなたが用意してくれるから…… もう、世話になりっぱなしなんだよな。 |
Naoto |
サヤ
本当に、ひなたさんやお姉様には、頭があがりません。 |
Saya |
ラーベ
ふうむ、マンションのオーナー姉妹ね……。 お前とあのひなたという少女は、幼馴染みと言っていたが。 |
Raabe |
ラーベ
どれくらい昔からの付き合いなんだ? 話の様子では、ずいぶんと親密な仲のようだが? |
Raabe |
ナオト
親密、ってわけじゃねぇよ。 ただまあ、かなり小さいころからの付き合いではあるな。 |
Naoto |
ナオト
ひなたの姉ちゃんと、俺の母親が……知り合いでさ。 だから記憶がないくらい子供のときから、お互いに知ってんだよ。 |
Naoto |
シエル
では、サヤさんも小さなころから? |
Ciel |
サヤ
……そうですね。ですが私は少し前まで、体を悪くしていて 家にこもりきりでしたから、兄ほど深いお付き合いはありません。 |
Saya |
サヤ
でも、そんな私にも良くしてくださる、優しい方です。 |
Saya |
シエル
私も、ひなたさんは優しい人だと思います。 私達にもとてもよくしてくださいます。 |
Ciel |
サヤ
そうでしょう。不思議なくらい。 兄様など、すっかり骨抜きです。 |
Saya |
ナオト
骨抜きとか言うなよ。つか、ひなたも姉ちゃんも、 なんか有無を言わせないって感じのオーラがあるんだよなぁ……。 |
Naoto |
ナオト
だから、遠慮とかさせてくれねぇんだよ。 |
Naoto |
サヤ
ふふ。それは否定はいたしません。 |
Saya |
サヤ
さあ、目的のエリアはこの先です。 暗い道に入りますから、気を付けて……。 |
Saya |
サヤ
……いえ、その前に対処せねばならないものが あるようですね。 |
Saya |
ラーベ
なんだ? 人か? |
Raabe |
ナオト
人は人なんだけど、蟲に憑かれているな……。 |
Naoto |
シエル
蟲に襲われた人の中には、蟲に乗っ取られる者がいると 言っていました。あれがそうですか? |
Ciel |
ナオト
あぁ。どういう原理でそうなってんのかは、知らねぇけど。 |
Naoto |
サヤ
さながらゾンビ映画の一幕のようです。 ……見たことはありませぬが。 |
Saya |
サヤ
私の刀と、絵面としては相性がいいのではないでしょうか? |
Saya |
ナオト
絵面って……なんの話だよ、ったく。 |
Naoto |
蟲憑き
……う……あ……。あああああああああ!! |
Bugs |
ナオト
おっと、こっちに気付きやがった! 来るぞ、気をつけろ! |
Naoto |
サヤ
これは……少々、盛り上がりますね。 |
Saya |
ナオト
いくら蟲に憑りつかれてるからって、元々は人間なんだ。 手加減はしろよ! |
Naoto |
サヤ
…………ハイ。 |
Saya |
ラーベ
いささか信用に欠ける返答だったな。 |
Raabe |
蟲憑き
……ぐ……が……。 |
Bugs |
シエル
対象の戦闘レベル、消失。 全部倒しました。 |
Ciel |
ナオト
よし。いい調子だぜ。 やっぱお前たちと一緒だと、妙に体が軽くていい。 |
Naoto |
1: みんな怪我はない? |
1: |
シエル
はい、私は大丈夫です。 ナオトさんとサヤさんにも、大きな外傷はないようです。 |
Ciel |
シエル
調べてみます。触っても、問題ないでしょうか? |
Ciel |
サヤ
兄様、いかがですか? 蟲憑きたちは? |
Saya |
ナオト
どれどれ……。ああ、まだ生きてる。 少なくとも、すぐに死んじまうような状態じゃなさそうだ。 |
Naoto |
シエル
ナオトさん、見ただけでわかるのですか? |
Ciel |
ナオト
わかるっていうか……見えるんだよ。 そいつがどんくらい『生きてる』か、がな。 |
Naoto |
シエル
生きてるかが……わかる? |
Ciel |
ナオト
『狩人の眼』っていってな。人の……命の数、って言えば いいのかな。そういうのが俺には見えるんだよ。 |
Naoto |
サヤ
兄様。すぐそのようなことを。 |
Saya |
サヤ
その眼は輝弥の家の秘密にして、当主の証。 みだりに人様に話すことではありませんよ。 |
Saya |
ナオト
そうなの? 知らなかったわ。 |
Naoto |
サヤ
白々しい……まったく、困った人です。 |
Saya |
ナオト
だいたい、話したからってどうにかなるもんでもねぇだろ。 それに、俺は輝弥に義理立てするつもりはねぇし。 |
Naoto |
シエル
命の数……。どのように見えるのですか? |
Ciel |
ナオト
頭の上らへんにな、数値みたいなのが見えるんだ。 |
Naoto |
ナオト
数字がでかけりゃ、それだけ元気。 逆にゼロなら、死んでるってこと。 |
Naoto |
シエル
そのような不思議な力があるのですか。 それは、ナオトさんのドライブの能力なのでしょうか。 |
Ciel |
ナオト
いや、これは俺のドライブとは違う。俺のドライブはそもそも、 ラケルを助けたときにくっついて来たようなもんだしな。 |
Naoto |
ナオト
ただ『狩人の眼』は確かに俺が持ってるけど、輝弥家の当主は 俺じゃない。サヤだ。俺はもう、輝弥の家とは関係ない。 |
Naoto |
サヤ
……そのお話は、またいずれ。 今は止めておきましょう、兄様。 |
Saya |
ナオト
……そうだな。 とりあえずこいつら……どうするか。 |
Naoto |
サヤ
天ノ矛坂の家に連絡をしましょう。 冥さんがうまくとりなしてくださるはずです。 |
Saya |
ナオト
まぁ、いつもどおりか。 |
Naoto |
ラーベ
私の見立てでは、蟲は排除されている。 ナオトが言っていた通り、命に別状はないだろう。 |
Raabe |
サヤ
それはなにより。では、手配いたします。 |
Saya |
ナオト
それが終わったら、さっさと移動しよう。 感謝はしてるが、正直、天ノ矛坂と関わりたくねぇ。 |
Naoto |
サヤ
……はぁ。相変わらずですね、兄様は。 |
Saya |
第3節 蠢々②/ 3. Bugs, Bugs - 2
Summary | |
---|---|
無人団地の近くにやって来ると、何匹もの蟲
が一度に現れる。その動きは、まるでシエル たちを狙って現れたかのようだった。 |
|
ナオトは蟲に噛まれ、負傷する。しかしその
傷は、ラケルとのライフリンクで得た『再生 能力』により、一瞬で治癒する。 |
シエル
かなり荒廃した建物があります。街中からそう離れて いないのに、こういった場所があるのですね。 |
Ciel |
ナオト
ああ、無人団地の近くだからな。 嫌な雰囲気だろ。 |
Naoto |
ラーベ
無人団地? |
Raabe |
ナオト
数年前に事故があってさ。 そのまま閉鎖地区になった団地があるんだよ。 |
Naoto |
ナオト
気味が悪いからって、 近所の人もほとんど引っ越しちまったらしい。 |
Naoto |
シエル
それで、このような廃墟が 撤去されずに残ったのですね。 |
Ciel |
サヤ
はい。 余程のことがなければ、人は近づかぬ負の領域。 |
Saya |
サヤ
でも時々……この薄闇に呼ばれたかのように、 ふらりと人がやってくるのです。 |
Saya |
サヤ
そういう人間を、蟲は襲っているのでしょう。 |
Saya |
1: そういえば、どうして蟲なの? |
1: |
シエル
確かに、一般的な虫類の形状とは違います。 |
Ciel |
サヤ
……そう言われてみれば……そうですね。 |
Saya |
ラーベ
そもそも誰が『蟲』と呼称し始めたんだ? |
Raabe |
ナオト
さあ? いつの間にか定着してたような……。 |
Naoto |
サヤ
私も、最初に使用された場所は知りません。 いつの間にか……そう呼んでおりました。 |
Saya |
サヤ
こそこそと、暗がりを這い回る様などは、 似ていると言えなくもないですが……。 |
Saya |
サヤ
……! 噂をすれば、です。兄様、冥さんの陣に反応が。 |
Saya |
ナオト
お、どこだ!? |
Naoto |
サヤ
すぐ……ええ、すぐ近くです。 向こうの暗がりから……こちらへ向かって。 |
Saya |
シエル
っ! ラーベさん。敵性反応を感知しました。 |
Ciel |
ラーベ
シエルの索敵範囲にも入ったか。ということは……。 |
Raabe |
ラーベ
ほう、陣に引っかかってから姿を見せるまでが、すぐだな。 まるでこっちを目指してきたかのようじゃないか。 |
Raabe |
ナオト
へっ、なんだよ、俺達が獲物だってか? 上等だ! |
Naoto |
サヤ
気を付けてください。 いつものように、1匹や2匹ではありません。 |
Saya |
シエル
路地の反対側からも来ています! |
Ciel |
ナオト
今夜はずいぶん賑やかじゃねぇか。 ほら、かかってこい!! |
Naoto |
蟲
キ、キチキチキチキチキチ! |
Bugs |
1: こっちに来た……! |
1: |
シエル
レイさん! |
Ciel |
ナオト
危ねぇ! |
Naoto |
ナオト
ぐぅっ……! |
Naoto |
シエル
はっ! |
Ciel |
蟲
ギ……! |
Bugs |
シエル
対象の停止を確認。 ……大丈夫ですか、レイさん、ナオトさん。 |
Ciel |
ナオト
っつ……あ、ああ。悪いな、手間かけさせて。 |
Naoto |
ラーベ
噛まれたのか? どれどれ……む、結構深手だな。 ……というかヤバくないかこの傷。 |
Raabe |
ナオト
あぁ、でも気にするな、すぐに……ほら。 |
Naoto |
シエル
あ……ナオトさんの傷が……。 |
Ciel |
1: 傷が治っていく……? |
1: |
ナオト
すごいだろ? ちょっとくらいの傷なら、すぐ治るんだ。 つっても、元々こういう特殊体質だったわけじゃねぇぞ。 |
Naoto |
ナオト
ラケルに命を助けてもらった、って言っただろ。 |
Naoto |
ナオト
あれは『殺されそうになった』ところを 助けられたんじゃなくて…… |
Naoto |
ナオト
『殺された』ところを、助けてもらったんだ。 だから今の俺は、吸血鬼の力で『死なずに』すんでる。 |
Naoto |
シエル
吸血鬼……ということは、血を吸われて、ですか? ではナオトさんも吸血鬼なのでしょうか? |
Ciel |
シエル
吸血鬼に血を吸われた人は、同じく吸血鬼となって 永遠の命を得る、と聞いたことがあります。 |
Ciel |
ナオト
いや、血は吸われたんだろうけど、俺は吸血鬼じゃないよ。 |
Naoto |
ナオト
どうも半端みたいで……ラケルみたいな、吸血鬼としての力は 使えない。 |
Naoto |
ナオト
でもこのドライブと、 滅多なことじゃ死なない体があるってわけだ。 |
Naoto |
ナオト
まあ、ラケルと命を共有してるってことで、 俺は今でもあいつに助けられ続けてるんだけどな……。 |
Naoto |
サヤ
とはいえ、痛みはあるのでしょう? 先ほどのような無茶はなさらないでください、兄様……。 |
Saya |
ナオト
いやぁ、つい咄嗟にな。そう心配すんなって、サヤ。 もう大丈夫だから。ほら。 |
Naoto |
ラーベ
おお、 |
Raabe |
ラーベ
本当にすっかり治っている。……体内でどんな 変化が生じているのか、じっくり調査したいもんだ……。 |
Raabe |
ナオト
おいおい、あんまり物騒なこと言うなよ。 |
Naoto |
ラーベ
わかってるって。機会があればの話だ。 |
Raabe |
ナオト
……機会があっても、できれば遠慮したいから。 |
Naoto |
ラーベ
まあまあ、それはそのとき改めて交渉させてもらうとしてだ。 シエル、周囲の反応はどうだ? |
Raabe |
シエル
はい。敵性反応、索敵範囲にはありません。 |
Ciel |
サヤ
今のところ、冥さんの陣に引っかかっている蟲も いないようです。 |
Saya |
サヤ
……かなりの数でした。 一度にあれだけの蟲を見るのは、初めてです。 |
Saya |
ナオト
ああ。レイたちに ついてきてもらったのは、正解だったな。 |
Naoto |
ナオト
けど話にあった『影』はいない、か。 今夜はハズレだな。 |
Naoto |
ナオト
一旦切り上げるか。 これ以上は、体力的にちょっとキツイ。 |
Naoto |
サヤ
……そうですね。そういたしましょう。 |
Saya |
第3節 蠢々③/ 3. Bugs, Bugs - 3
Summary | |
---|---|
行く先々で現れる蟲に困惑するナオトたち。
ラーベの提案で巡回メンバーを変えても、や はり蟲は狙ったように押し寄せる。 |
|
蟲には確実に狙いがあるようだった。それを
逆手に取り、シエルたちは囮を立て、蟲の親 玉である『影』をおびき出すことにする。 |
ひなた
それじゃあ、みんな気を付けてね。 |
Hinata |
ナオト
おう。お前も、遅くに出歩くなよ。 |
Naoto |
シエル
行ってきます、ひなたさん。 |
Ciel |
サヤ
失礼します。 |
Saya |
1: 行ってきます |
1: |
ひなた
うん。怪我しないようにね〜。 |
Hinata |
冥
やっと来たか。待たせるんじゃない、まったく。 |
Mei |
Es
冥。約束の時間通りです。 私たちが早く着きすぎたのです。 |
Es |
冥
わ……わかっとるわ! |
Mei |
ナオト
それよりほら、行こうぜ。今夜の蟲退治によ。 |
Naoto |
ラーベ
念のために言っておくが、目的は『影』の発見だぞ。 慈善事業で蟲退治をしてるわけじゃない。忘れてくれるなよ? |
Raabe |
ナオト
それは理解してるけど、蟲はできる限り退治する。 誰かが襲われるかもしれないのに、見過ごすのはできねぇ。 |
Naoto |
ラーベ
はぁ……まぁいいか、ウチにも似たような奴がいるし……。 |
Raabe |
1: ?? |
1: |
シエル
結局昨夜は『影』は現れませんでした。 戦闘も、あの大量の蟲との一戦のみでしたし……。 |
Ciel |
サヤ
とはいえ、奇妙な一戦でした。 |
Saya |
冥
ああ。一度に何匹もの蟲が、しかも昨夜と同じような場所に 現れたんだったな。 |
Mei |
冥
これまでには見られなかった行動パターンだ。 ……今までの分析が間違っていたのかと思うと、忌々しい。 |
Mei |
Es
ですが、貴重な新情報です。 今日もなにか、有益な手がかりが得られるといいですね。 |
Es |
サヤ
ええ。少しでも早く『影』にたどり着いて…… ラケルさんの目覚めにも、近付きたいものです。 |
Saya |
ナオト
……そうだな。 |
Naoto |
冥
一度にあれこれ多くを望むなよ。 今は蟲と『影』に集中しろ。 |
Mei |
冥
今夜の捜索場所だが、お前たちは駅の反対側をあたれ。 私とエスは郊外を回ってみる。 |
Mei |
ナオト
りょーかい。 |
Naoto |
サヤ
ふぅ……。これで全部、仕留めたでしょうか? |
Saya |
シエル
そのようです。敵性反応、消失しました。 |
Ciel |
ラーベ
ふむ……。確認するが、蟲の発見は件の陣が必要なほど、 難しいものなのか? |
Raabe |
ナオト
そうだよ。少なくとも……これまではな。 |
Naoto |
シエル
ですが今夜も、行った先ですぐに遭遇できました。 |
Ciel |
ナオト
しかもまた、うじゃうじゃいやがる。なんなんだ……? |
Naoto |
サヤ
考えても始まりません。次の場所へと、向かいましょう。 |
Saya |
翌夜。 |
|
冥
一体なにがどうなっている!? なんだってお前たちの 行く先行く先に、蟲が大量に出現したんだ!? |
Mei |
ナオト
知るかよ、むしろ俺が教えてほしいわ! |
Naoto |
Es
昨夜ナオトさんたちが接触した蟲は、 明らかにこれまでとは違う行動パターンでした。 |
Es |
シエル
新しい習性なのでしょうか? それとも何か別の……。 |
Ciel |
ラーベ
いや、ちょっと試してみたいことがあるんだが。 |
Raabe |
冥
なんだ? |
Mei |
ラーベ
今夜は巡回メンバーを変えてみないか? ちょうど、輝弥サヤも不在だしな。 |
Raabe |
冥
そういえば、輝弥は今日、どうしたんだ? |
Mei |
ナオト
体調不良でやめとくってさ。あいつが自分から言い出す くらいだから、結構しんどいんだろ。 |
Naoto |
ナオト
昨日の夜、めちゃくちゃたくさん戦ったからな。 最近はずっと調子よかったんだけど……大丈夫かな……。 |
Naoto |
冥
大事ないといいが……。 |
Mei |
ラーベ
ずいぶん不安げだな。彼女は持病でもあるのか? |
Raabe |
ナオト
持病っていうか、昔からとにかくやたらと体が弱いんだよ。 つっても、今はそうでもないんだけど。 |
Naoto |
ナオト
小さいころはよく死にかけたりもしてたし。 あいつすぐ無理するから、正直気が気じゃねぇんだわ。 |
Naoto |
シエル
そうなのですか。戦っているときの鋭い剣技からは、 とても想像がつきません。 |
Ciel |
ナオト
そうなんだよ、俺も正直信じられなくてさ。 それでも、強さは折り紙付きなんだよねぇ…… |
Naoto |
冥
それでも、無理を押すことなく、療養を選んでくれたのは いい判断だ。倒れられても、手が回らん。 |
Mei |
冥
よし……ではラーベの言うように、メンバーを変えて みるとしよう。黒鉄はエスと組め。 |
Mei |
冥
レイたちは、私とだ。いいな。 |
Mei |
1: わかった |
1: |
冥
ふん、足を引っ張るんじゃないぞ。 |
Mei |
Es
冥をよろしくお願いします。 |
Es |
冥
おい待て。私がよろしくしてやるんだ。 |
Mei |
シエル
はい。よろしくお願いします。 |
Ciel |
ナオト
ふっ……ははっ。 エスとシエルに挟まれると、決まんねぇなぁ。 |
Naoto |
冥
ええい、天然どもめ……。行くぞ! |
Mei |
冥
これは……。 本当に、行く先に即座に現れたな……。 |
Mei |
冥
偶然……なわけがない。それにどちらかというと、 たまたま出くわしたのではなく……。 |
Mei |
蟲
キキキキキ! |
Bugs |
シエル
囲まれています。戦闘態勢へ移行。対象を殲滅します。 |
Ciel |
冥
ふん、いくら数を集めても、所詮は雑魚だ。 さっさと蹴散らすぞ。 |
Mei |
ラーベ
……ふむ。やはり思っていた通りだな。 |
Raabe |
冥
なるほど。それが確認したかったのか、お前は。 |
Mei |
ラーベ
ほう、さすが天ノ矛坂。気がついたか。 |
Raabe |
冥
たわけ。家名など関係あるか。これだけあからさまに 見せつけられれば、誰だってわかる。 |
Mei |
シエル
わかる……とは、なにが判明したんですか? |
Ciel |
冥
蟲はたまたま現れたわけでも、 習性が変わったわけでもない。 |
Mei |
冥
お前を狙ってるんだ。 |
Mei |
1: え……? |
1: |
1: え……? |
1: |
冥
原因はわからんが、蟲はお前に引き寄せられている。 |
Mei |
ラーベ
つまり……これは使える状況ということだ。 |
Raabe |
冥
あぁ……多少の危険は伴うが、止むを得まい。 |
Mei |
ラーベ
うむ。これも任務のためだ。諦めてもらおう。 |
Raabe |
シエル
なにをしようとしているんですか? |
Ciel |
冥
なに、シンプルなことだ。 |
Mei |
ラーベ
レイ。 お前を『影』をおびき出す囮に使う。 |
Raabe |
シエル
…………。 |
Ciel |
……………………。 …………………………………………。 |
|
1: ええーーーーー!? |
1: |
シエル
ちょっと待ってください。 レイさんを囮にするということは、 |
Ciel |
シエル
レイさんが大量の蟲に狙われる状況を 作るということになります。 |
Ciel |
シエル
それは状況として、 あまりに危険なのではないでしょうか? |
Ciel |
シエル
レイさんの生命維持の可能性が 著しく低下します。 |
Ciel |
ラーベ
そこはほら、お前が守ればいいことだろ? |
Raabe |
シエル
……なるほど、了解しました。 |
Ciel |
1: 納得しちゃった!! |
1: |
冥
つべこべ言うな。なに、それなりに根拠があっての考えだ。 とりあえず、黒鉄たちと合流するぞ。 |
Mei |
冥
奴らにも作戦について聞いてもらわないといけないからな。 |
Mei |
ナオト
はぁ!?レイを囮に!? 本気で言ってんのか!? |
Naoto |
ラーベ
なんだ? 私はいつも本気だぞ。 |
Raabe |
ナオト
いくらなんでも無茶がすぎるだろ。 |
Naoto |
ナオト
だいたい、何度か蟲がこいつめがけて集まってきた からって、親玉までホイホイ出てくるか? |
Naoto |
ラーベ
噂の『影』とやらが自立行動を取れるのなら、 高い確率で出てくるはずだ。 |
Raabe |
Es
それはなぜですか? |
Es |
ラーベ
ちとね、あの蟲を調べてみたんだが、 |
Raabe |
ラーベ
蟲が人を襲撃するのは、捕食するためじゃない。 生体に宿るエネルギーを集める為だと思われる。 |
Raabe |
ラーベ
仮に『生命エネルギー』とでも呼んでおこうか。 それを集め、蓄える機能が全ての蟲に備わっていたんだよ。 |
Raabe |
ラーベ
そういう機能を備えているということは、 おそらく『影』は蟲を使って、生命エネルギーを集めている。 |
Raabe |
ラーベ
何故、生命エネルギーを集めているのかは…… 色々と推測は出来るけど、今は置いておこう。 |
Raabe |
ラーベ
とりあえず、ここ数日、蟲どもはレイを 狙うばかりで、ろくに生命エネルギーを集められていない。 |
Raabe |
冥
『影』の目的が生命エネルギーを集めることならば 必ず、なにかしらのアクションを起こすはずだ。 |
Mei |
ナオト
……理屈はわからなくもないけどよ。こいつひとりに 危ないことさせるみたいで、あんまいい気分じゃねぇな。 |
Naoto |
シエル
レイさんのことは、私が守ります。 |
Ciel |
ナオト
いや、そういうことじゃなくて……。 |
Naoto |
Es
……ナオト、気持ちはわかりますが、 ほかに有効な手立てが私には思いつきません。 |
Es |
ナオト
……レイ。お前はそれで良いのか? |
Naoto |
1: とりあえず、やってみようと思う |
1: |
ナオト
そうか。…なら頼む。 危なくなったら、必ず助けるからな。 |
Naoto |
シエル
…………。 |
Ciel |
冥
では、決まりだな。 |
Mei |
Es
『影』が狙い通りに現れたとして、その先はどうしますか? |
Es |
ナオト
どうって、ぶっ倒すに決まってんじゃねぇのか? |
Naoto |
シエル
いえ、ぶっ倒す前に、私達の捜索対象であるかどうか 確認する必要があります。 |
Ciel |
シエル
もし『影』が対象であるのなら、まずそのことを対象自身に 理解してもらわなければなりませんので。 |
Ciel |
ナオト
理解? なんだそれ。 |
Naoto |
ナオト
『影』ってやつに、お前が異変の元凶か、つって聞いたって はいそうですって教えてくれるわけないだろ? |
Naoto |
ラーベ
まあ、何事も荒事で解決するなと言っているんだよ。 自分が元凶なんだと知らずに……なんてこともあり得るだろ? |
Raabe |
ラーベ
もし、そいつが元凶であることを望んでいなかった場合は、 こちらのアクションに応じてくれるかもしれない。 |
Raabe |
冥
うまくいけば説得できる可能性があるということか……。 もっとも、できない場合もあるんだろうが。 |
Mei |
ラーベ
まずは『影』とやらが何者なのか判明しないと、 なんともいえないところだな。 |
Raabe |
ナオト
結局、まずは『影』をおびき出せてから、ってことか。 |
Naoto |
ラーベ
そういうことだ。何事も平和的解決が一番だぞ。 |
Raabe |
Es
対話が不可能な場合は、どうしますか? |
Es |
ラーベ
そのときは、武力解決って事になるな。 ぶっちゃけ話し合いとかメンドイし。 |
Raabe |
ナオト
平和的解決はどこ行った!? |
Naoto |
冥
質疑応答はこの辺でいいか? では、今夜はこれで解散としよう。 |
Mei |
冥
レイ囮作戦は明日の夜だ。 それまでに、準備したいことがあるのでな。 |
Mei |
冥
今夜はしっかり休んで、体力を回復しておけよ。 レイ。 |
Mei |
第4節 囮餌①/ 4. Decoy - 1
Summary | |
---|---|
生命エネルギーの痕跡を辿るため、冥の符を
街の各所に残すシエルたち。予測通り、おび き寄せられた蟲が次々と現れる。 |
シエル
全行程、完了しました。 |
Ciel |
冥
よしよし。 ちゃんと指定した場所に符を貼ってきただろうな? |
Mei |
1: もちろん、バッチリ! |
1: |
冥
さっき渡した符は、簡単に言うとお前の痕跡を たどらせるためのものだ。 |
Mei |
冥
街のあちこちを回ったはずだが、その要所要所にお前が こっちに向かった、こっちにいるぞという印を残してきたわけだ。 |
Mei |
ナオト
地面に矢印描いておくみたいなことか。 |
Naoto |
冥
そうだ。ただし残っているのは誰の目にも止まるものではなく、 生命エネルギーの痕跡だ。 |
Mei |
冥
蟲たちはレイの匂いに誘われてまず符を見つけ、 そこから痕跡をたどって……。 |
Mei |
サヤ
ここまでくる、と。 |
Saya |
Es
新川浜に存在する蟲の大多数が、その痕跡をたどって ここに集まることが予想されます。 |
Es |
Es
……どうかお気をつけてください。 |
Es |
ラーベ
うまくいけば親玉が出てくるだろう。 |
Raabe |
シエル
はい。了解しました。 |
Ciel |
冥
街のあちこちに張った符は、『影』にとってもいい目印に なるはずだ。蟲と同じように、きっとここまでやってくる。 |
Mei |
ラーベ
まあ、なんとかなる。私や冥を信じろ。 |
Raabe |
1: 行ってきます! |
1: |
ラーベ
よーし、頼もしい返事だ! |
Raabe |
ラーベ
わかってる、わかってる。 |
Raabe |
…………。 ……………………。 |
|
シエル
……静かですね。 |
Ciel |
1: みんなは近くにいる? |
1: |
シエル
大丈夫です。北側約500メートルの地点で、 身を潜めています。 |
Ciel |
シエル
しばらく、このまま公園の周りを歩き回ってみましょう。 |
Ciel |
サヤ
……どうでしょう。 なるべく暗い道を歩いていただいておりますが。 |
Saya |
冥
さすがに、すぐに状況が動くとは……。 |
Mei |
ラーベ
いや……周囲に複数の反応。蟲だ。 |
Raabe |
ナオト
マジか! レイ……! |
Naoto |
ラーベ
待て待て。まだいい。 |
Raabe |
ナオト
いや、でも! |
Naoto |
ラーベ
反応はまだ少ない。 あれくらいなら、レイたちで対処できる。 |
Raabe |
ラーベ
『影』を警戒させたくない。 |
Raabe |
ナオト
馬鹿言うな、あいつらが食われたら意味ねぇだろ! 『影』がこっちの思い通りに動くとも限らねぇんだぞ! |
Naoto |
ラーベ
そんなことは言われなくてもわかっている。 だがまだ食われたわけじゃない。 |
Raabe |
ラーベ
このまま『影』が現れないなら、そのときは蟲を蹴散らして 次の機会を狙うとも。 |
Raabe |
サヤ
っ! 蟲、動きます。 |
Saya |
ラーベ
どれどれ。まずは相手の出方を見よう。 |
Raabe |
ナオト
…………。 |
Naoto |
1: 来た! |
1: |
シエル
対象の戦闘レベルの上昇を確認。 これより排除します。 |
Ciel |
第4節 囮餌②/ 4. Decoy - 2
Summary | |
---|---|
押し寄せる蟲は、特殊なドライブ能力に惹か
れているようだった。ラーベからの指示を待 ちつつ、シエルは戦闘を継続する。 |
シエル
敵性反応、消失しました。 |
Ciel |
シエル
……あ、いいえ、反応出現。新たに現れた蟲です。 |
Ciel |
蟲
キチキチキチキチキチキチキチキチ。 |
Bugs |
シエル
やはり、狙いはレイさんのようですね。 特殊なドライブに惹かれているのでしょうか。 |
Ciel |
シエル
……ラーベさんからは、戦闘を中断するようにとの 指示はありません。どうしますか? |
Ciel |
1: とにかく戦うしかないか…… |
1: |
シエル
わかりました。戦闘態勢に移行します。 対象を確認。戦闘パターンを照合……行きます。 |
Ciel |
第4節 囮餌③/ 4. Decoy - 3
Summary | |
---|---|
とうとう現われた『影』。影は奇怪な言語を口
にしながら蟲を生成し、シエルたちに襲いかか る。 |
冥
中々やるじゃないか。 数が増えたときはヒヤリとしたが。 |
Mei |
ラーベ
当然だ、ウチのエースだからな。 |
Raabe |
ナオト
古い言い方だな……もう少しマシな褒め方しろよ。 |
Naoto |
サヤ
兄様、お静かに。 |
Saya |
ナオト
お前までなに冷静に……。 |
Naoto |
冥
待て、黙ってろ、黒鉄。集中を乱させるな。 なにか……ナニカがいるぞ。 |
Mei |
ナオト
え……? |
Naoto |
シエル
対象の消滅を確認しました。まだ潜んでいる蟲が 残っているかもしれません。周囲の索敵を開始します。 |
Ciel |
シエル
え―― |
Ciel |
1: シエル! |
1: |
シエル
っ、く……! |
Ciel |
シエル
大丈夫です、軽傷です。問題ありません。 ですが……。 |
Ciel |
影
……けタ……みつ……けた……。 我が……魂の……欲する……。 |
Shadow |
影
オ……オ……オ、オオ、オ…… 魂……魂、魂、魂、生命、命、力……! |
Shadow |
影
長く永く尽きぬ渇望……! 溢れる生命の奔流に 溺れ沈む沈む……その彼方に蒼はあるか……。 |
Shadow |
シエル
これは……。 |
Ciel |
1: 蟲じゃ、ない…… |
1: |
影
匂う……かすかに臭う、蒼か、蒼だ、蒼の残滓…… 蒼の染み。どこだ、どこだどこだ……。 |
Shadow |
影
どこに隠した!!! |
Shadow |
サヤ
……首を、落とし損ないました。 |
Saya |
シエル
サヤさん! |
Ciel |
ラーベ
無事か、レイ!? |
Raabe |
ナオト
はぁ、はぁ、悪い、遅くなった。 けど……なんだ、こいつ!? |
Naoto |
Es
人……ならざる者……に見えます。 |
Es |
冥
外見から判断するに、こいつが『影』だろう。 他にどう呼べと言うんだ。 |
Mei |
ナオト
こいつが? こいつが、蟲の親玉だってか? なんか、想像してたのと違うな……。 |
Naoto |
ラーベ
ちなみに、どんなやつを想像してたんだ? |
Raabe |
ナオト
もっとこう、薄気味悪い魔法使いみたいなやつ。 性根の曲がった変態野郎だろうと思ってたのによ。 |
Naoto |
サヤ
薄気味悪い、という点では、 こちらの影もそれなりの醜悪さですが。 |
Saya |
シエル
難解ではありますが、言語を口にしていますので 交渉を試みます。 |
Ciel |
シエル
失礼ですが、黒い方。アナタが観測者ですか? |
Ciel |
ラーベ
お前の交渉技術のなさは、ものすごいな!? |
Raabe |
影
グ、ギギギギ……カンソクシャ……。 |
Shadow |
影
カンソクシャ……カンソクシャ観測シャ観ソク者……! |
Shadow |
影
オマエ、観測者! |
Shadow |
シエル
え……? |
Ciel |
ナオト
レイ! |
Naoto |
影
キサマキサマキサマキサマキサマ 喰らう食らうくらウくらクらう! |
Shadow |
サヤ
っ! 下がりなさい!! |
Saya |
影
ギュキィ! |
Shadow |
1: ありがとう、サヤさん |
1: |
サヤ
ご無事でなにより。 |
Saya |
Es
『影』から明確な殺意を感じます。 |
Es |
冥
チッ、説得交渉は失敗か……。 |
Mei |
ラーベ
いや、どう見てもまともに会話ができるとは思えないだろ。 |
Raabe |
ナオト
んで!? どうするんだよ!? 向こうはやる気満々みたいだし、ぶっとばしていいのか!? |
Naoto |
シエル
対象の戦闘能力は未知数です。 無闇に仕掛けるのは危険と判断します。 |
Ciel |
ナオト
ならどうする!? |
Naoto |
ラーベ
とりあえずこの場はしのごう。その間に出来る限りの情報を 集めて、しかるのちに撤退だ。 |
Raabe |
影
居る……蠢く生命が溢れる芳香の坩堝…… 全部……全部喰らう……齧る啜る……ギギギギギ! |
Shadow |
シエル
対象の戦闘レベルの上昇を確認。気を付けてください。 蟲とは比べものにならない戦闘能力です。 |
Ciel |
冥
お手柔らかに願いたいところだが、 そうはいかんだろうな。 |
Mei |
サヤ
構いません。動かなくなるまで、刻むだけです。 |
Saya |
影
オオオオオオオオオオオオ!! |
Shadow |
ラーベ
なるほど、蟲の発生源はこいつ自身か。 |
Raabe |
ラーベ
しかしまぁ、すごい数だな……。 一体どうやって生成をしているのやら……。 |
Raabe |
ラーベ
まぁいい、その調子でどんどん手の内をさらしてくれ。 |
Raabe |
Es
蟲、多数。および『影』、来ます! |
Es |
シエル
レイさん、私のそばにいてください。 特に『影』には注意を。 |
Ciel |
第5節 機関①/ 5. The Agency - 1
Summary | |
---|---|
アラクネとの戦闘の最中、突如現われた黒服
たち。戦いに介入し、アラクネを守る立ち回 りをする。 |
影
ギャギャギャギャ……! |
Shadow |
冥
なんだ!? いけそうだぞ! ならば観念してもらうか、蟲の親玉! |
Mei |
Es
このまま押し切ります! |
Es |
シエル
待ってください、『影』が我々の捜索対象であった場合、 仕留められては私達の任務に支障が出ます! |
Ciel |
ナオト
って言われても! 手加減できる相手じゃ無いぜ!! |
Naoto |
サヤ
ならば、死なない程度に削ぎ落とします……! |
Saya |
サヤ
!? |
Saya |
冥
何者だ……貴様ら? |
Mei |
黒服
標的を確認。……情報の通りです。 |
Black Suit |
Es
銃を持っています。気を付けてください。 |
Es |
ラーベ
『影』を退治しに来た。と、いうわけではなさそうだな。 |
Raabe |
黒服
……了解しました。介入を開始します。 |
Black Suit |
ナオト
チッ、誰だか知らねぇが、こっちは取り込み中なんだ。 邪魔すんじゃねぇ! |
Naoto |
ナオト
クソ! なにしやがる! |
Naoto |
冥
『影』を守っているんだ。 奴に手出しをするなという意味だろう。 |
Mei |
ナオト
なんであいつを守るんだよ!? |
Naoto |
冥
そんなこと私が知るか! |
Mei |
サヤ
来ます。……ことを構えるつもりならば、相手になりましょう。 |
Saya |
1: シエル、援護! |
1: |
シエル
はい。戦闘態勢に移行します。 |
Ciel |
第5節 機関②/ 5. The Agency - 2
Summary | |
---|---|
黒服との戦闘の間に、影は逃亡する。直後現
われた『不死者殺し』と呼ばれる二人は、ナ オトとシエルたちの捕獲を目的としていた。 |
黒服
ぐあっ……。 |
Black Suit |
ナオト
はぁ、はぁ……手間取らせやがって。 あっ、『影』は!? |
Naoto |
ラーベ
……周囲に反応はないな。今の戦闘の間に、逃亡したんだろう。 |
Raabe |
ナオト
んだよ、くそっ! 冥、追えるか? |
Naoto |
冥
無理だ……札も使い切ってしまったし、奴は既に陣の外だ……。 |
Mei |
ナオト
クソがっ! なんなんだよこいつら。 |
Naoto |
ラーベ
何者かは不明だが、 目的ははっきりしている。『影』の保護だ。 |
Raabe |
Es
そうですね。私たちの攻撃を、 明らかに阻止しようとしていました。 |
Es |
シエル
ということは、彼らは『影』の味方ということですか? |
Ciel |
冥
もしくは連中が『影』を操っているのか…… この状態では、あらゆる可能を捨てきれんぞ……。 |
Mei |
ラーベ
……ふーむ。 |
Raabe |
ナオト
なあ、ちょっと聞きたいんだけどさ。 『観測者』ってなんだ? |
Naoto |
冥
そういえば、さっきシエルと『影』が そんなことを言っていたな。 |
Mei |
シエル
観測者というのは……。 |
Ciel |
ラーベ
……そういう特殊な力を持った存在のことだ。 『影』がなぜ突然それを叫んだのかはわからんがな。 |
Raabe |
サヤ
……レイさんへ、 言っていたように見えましたが……。 |
Saya |
1: 僕に? |
1: |
1: 私に? |
1: |
冥
――っ!? なんだ、風……? |
Mei |
ナオト
えっ――? |
Naoto |
ナオト
が……ぐっ。 |
Naoto |
サヤ
兄様……!? |
Saya |
1: お、お腹に穴が…… |
1: |
ナオト
な、ん、なにが……。 |
Naoto |
ナオト
ぶっ……! |
Naoto |
ナオト
…………。 |
Naoto |
冥
黒鉄! おい、しっかりしろ! |
Mei |
シエル
っ!? 生命反応微弱……。 |
Ciel |
サヤ
兄様……。おのれ……おのれ不届者! |
Saya |
ヴァルケンハイン
ほう、俺を捉えるか……。 小娘と侮ったが、それなりにできるようだな。 |
'Valkenhayn |
サヤ
うるさい、死ね。 |
Saya |
サヤ
くぅっ…… |
Saya |
冥
サヤ! |
Mei |
Es
はぁぁっ! |
Es |
Es
あう! ……くっ……重い……。 |
Es |
サヤ
キサマ…………。 |
Saya |
サヤ
兄様を……私の兄様を、『私以外』が殺すなど…… 許さぬ、決して許さぬぞ下郎! |
Saya |
サヤ
はぁぁっ! |
Saya |
ヴァルケンハイン
面白い……どこまでやれるのか見てやろう、小娘。 |
'Valkenhayn |
サヤ
うるさい、死ね死ね死ね死ね………。 |
Saya |
シエル
レイさん、サヤさんの状況はかなり劣勢です。 加勢しますか? |
Ciel |
ナオト
やめろ、サヤ! |
Naoto |
シエル
え……? |
Ciel |
ナオト
そこまでにしとけ……無茶すんな! |
Naoto |
サヤ
……兄様。 |
Saya |
1: ナオト、大丈夫なの? |
1: |
シエル
すごいです……。 あれほどの傷まで修復してしまうなんて……。 |
Ciel |
ラーベ
さすがの |
Raabe |
ラーベ
……ここまで来ると、 どれくらいまで再生できるのか興味が湧いてくる。 |
Raabe |
ナオト
くそが……人の腹、気軽にぶち抜きやがって……。 |
Naoto |
ナオト
またてめぇか、ヴァルケンハイン! |
Naoto |
ヴァルケンハイン
黒鉄ナオト。……やはり死なんか。 |
'Valkenhayn |
ナオト
やはり、ってなんだよ! んなこと確認するために いちいち人のこと殺すな! |
Naoto |
ヴァルケンハイン
確認だと? ふざけるな! 貴様の息の根を止めるために決まっているだろうが! |
'Valkenhayn |
ナオト
決まってねぇよ! なお性質悪いわ! |
Naoto |
シエル
お知り合いですか? |
Ciel |
ナオト
こいつの名前はヴァルケンハイン。ついこの前も、 今みたいに突然ぶっ殺されかけたんだよ! |
Naoto |
サヤ
では……彼奴が兄様に狼藉を働いた、御剣機関の? おのれ、ならばなおのこと生かしてはおけませぬ……。 |
Saya |
ナオト
えっと、気持ちは嬉しいが……ここは抑えろサヤ。 それより気を付けろ、こいつの他にもうひとり……。 |
Naoto |
レリウス
その少年は、数日ぶりに見るな。 |
Relius |
冥
なっ……いつの間に!? |
Mei |
Es
気配はまるで感じませんでした……。 |
Es |
ナオト
レリウス……クローバー…… |
Naoto |
レリウス
うん? 貴様は……ふむ……。 |
Relius |
Es
……何故でしょうか。 あの人に見られると、とても嫌な気持ちになります。 |
Es |
シエル
はい。私も、なぜかそんな気が……。 |
Ciel |
レリウス
……ほう。 それは『エンブリオストレージ』か。 |
Relius |
Es
!? |
Es |
レリウス
だがなぜ、そちら側にいる? |
Relius |
Es
…………。 |
Es |
冥
おい、貴様。うちのメイドに余計なちょっかいを かけるのは、やめてもらおうか。 |
Mei |
レリウス
……メイド? あぁ、なるほど……。 |
Relius |
1: 一体何者なんですか |
1: |
レリウス
ほう……それもまた、面白い形をしているな。 |
Relius |
ナオト
ラケルから聞いた。こいつら、不死者専門の処分屋で、
|
Naoto |
シエル
不死者専門……ですか。 |
Ciel |
サヤ
傭兵まがいの、ならず者ですよ。 |
Saya |
ラーベ
まぁ、人類の脅威にも色々あるが、中でも厄介なのが不死者だ。 なんせその言葉の通り、死なないんだからな。 |
Raabe |
ラーベ
だがそれを殺してみせるのが |
Raabe |
ラーベ
『噂には』聞いたことがあったけど、こいつらがそうか。 |
Raabe |
レリウス
今は不死者を殺すために姿を現したわけではない。 |
Relius |
レリウス
そこの大男はどうやらとうに忘れたようだが ……別の依頼だ。 |
Relius |
ラーベ
依頼? |
Raabe |
レリウス
黒鉄ナオトの捕獲だ。 |
Relius |
冥
黒鉄を? ……理由を聞かせてもらおうか。 |
Mei |
レリウス
何故だ? |
Relius |
冥
何故って、当然……友人だからだ。 |
Mei |
レリウス
……ふむ。『友人』か。 |
Relius |
冥
…………。 |
Mei |
サヤ
冥さん。奴の言葉に惑わされてはいけません。 嫌な……底の知れぬ嫌な臭いがします。 |
Saya |
Es
同感です。冥、気を付けて。 |
Es |
冥
あ、ああ。そうだな……。 |
Mei |
ヴァルケンハイン
おい、レリウス、なにを無駄話している。 奴等になにも話す必要はあるまい、邪魔なら処分すればいいだろ。 |
'Valkenhayn |
レリウス
待て……興味が湧いた。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
なに? |
'Valkenhayn |
ヴァルケンハイン
……またお前の悪い病気か……。 この程度の不死者なぞ、いくらでもいただろう? |
'Valkenhayn |
レリウス
不死者ではない。……アレの方だ。 |
Relius |
1: ……もしかして、僕ですか? |
1: |
1: ……もしかして、私ですか? |
1: |
シエル
レイさん……後ろへ……。 |
Ciel |
レリウス
ふむ。素体……か? ほう……これは中々に面白い。 |
Relius |
レリウス
コレは『壊すな』よヴァルケンハイン。 持ち帰って観察したい。 |
Relius |
ラーベ
待て待て、シエルもレイも数少ない私の大事な 部下なんだ。持ち帰られては困る。 |
Raabe |
レリウス
困る? ……そうかそれは困ったな。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
勝手な真似をするなレリウス。 依頼金がパーになるぞ? |
'Valkenhayn |
レリウス
それも困るな。……まあいい。 死んだなら死んだで、得られるものもあるだろう。 |
Relius |
ナオト
あいつらがなに言ってんのかさっぱりだけど、 とりあえずムカツクってことだけは理解したぜ。 |
Naoto |
サヤ
あの男らは兄様を捕えたがっており、殺したがっている。 そのうえ我等が客人までも拉致しようとのこと……。 |
Saya |
サヤ
すなわち、倒すべき敵ということです。 |
Saya |
ナオト
それだけわかれば十分だ! お前らぶっ飛ばす!!! |
Naoto |
シエル
何があろうと、レイさんを害することは 容認できません。 |
Ciel |
ヴァルケンハイン
威勢がいいな。ならば少しは楽しませろよ? |
'Valkenhayn |
レリウス
ヴァルケンハイン……念のためもう一度言うが、 なるべく壊すな。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
ハハッ! 知るか!! があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! |
'Valkenhayn |
第5節 機関③/ 5. The Agency - 3
Summary | |
---|---|
不死者殺しの強さから絶体絶命に。そこへ御
剣機関の人間を名乗るキイロが現われ、アラ クネと呼ばれる影に手を出すなと忠告する。 |
レリウス
ほう……観測のドライブ……か? ……クククッ、面白い。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
ブツブツ言っている場合かレリウス! 真面目に戦え! |
'Valkenhayn |
レリウス
楽しんでいるのは貴様のように見えるが……。 もう……時間切れのようだ。 |
Relius |
サヤ
くぅ……っ! |
Saya |
サヤ
はぁ、はぁっ……。 |
Saya |
ヴァルケンハイン
……確かにな。初撃は脅威的だったスピードも、 今や見る影もない。 |
'Valkenhayn |
サヤ
くっ……体が重い……なぜ……。 |
Saya |
ナオト
まずい、退け、サヤ! |
Naoto |
サヤ
嫌です! 奴は兄様を殺そうとした……いえ、殺したのです。 私よりも先に! あの首を落とさねば気が済みませぬ! |
Saya |
冥
くそ、こっちはこれだけ人数がいるというのに……。 人間なのか、あやつは!? |
Mei |
ナオト
んなわけねぇだろ。あの目隠し野郎は人間っぽいが、 ヴァルケンハインのほうはどう見ても人間の数字じゃねぇ! |
Naoto |
シエル
数字、ということは『狩人の眼』ですか? |
Ciel |
ナオト
ああ。 人間の、百倍以上の数字だ……。 |
Naoto |
ナオト
不死者は殺すとか言ってるけど、 あいつも十分そのカウントだろ |
Naoto |
ラーベ
これはちょっとまずいかな。向こうの戦力が想像以上…… いや、未知数だ。いずれ押し切られるぞ。 |
Raabe |
ラーベ
シエル、一時退却。 レイを最優先に離脱させてくれ。 |
Raabe |
シエル
了解しました。 |
Ciel |
Es
ですが……退路を確保しなければ。 サヤさんも、これ以上は難しそうです。 |
Es |
ラーベ
あ〜それは任せろ、もしものときは……。 |
Raabe |
ヴァルケンハイン
侮るな! みすみす逃がすか! |
'Valkenhayn |
ナオト
くっ……ん? |
Naoto |
???
はいは〜〜〜い、そこまで〜〜〜! |
??? |
シエル
あれは……? |
Ciel |
ヴァルケンハイン
ぬう……。 |
'Valkenhayn |
レリウス
…………時間切れか。 |
Relius |
キイロ
んもう、話が違うじゃない。私はナオトくんを連れてきて、 ってお願いしたのに。 |
Kiiro |
ナオト
あれ? あいつ……どこかで……。 |
Naoto |
ヴァルケンハイン
キイロ……なにをしに来た。 まだ時間ではないはずだぞ。 |
'Valkenhayn |
キイロ
だって、一刻も早くナオトくんに会いたかったんだもの。 |
Kiiro |
キイロ
なのに部下も雇った人たちも、なんか手間取ってるし……。 ほんと、使えない人たちね。 |
Kiiro |
キイロ
しかも殺そうとしてるなんて! 勝手なことされると困るのよね。お金払わないわよ。 |
Kiiro |
ヴァルケンハイン
御剣機関にとって、不死者は排除するべき対象だろう。 それを始末してなにがおかしい! |
'Valkenhayn |
レリウス
……ヴァルケンハイン。 この件に関して、貴様の味方は諦めてくれ。 |
Relius |
1: な、なんなんだ? |
1: |
ナオト
ど、どうなんだろうな……。 なんか事態についていけねぇんだが。 |
Naoto |
キイロ
……ナオトくん。あなたが黒鉄ナオト……くんよね。 そうでしょ? |
Kiiro |
ナオト
お、おお……そうだけど。 |
Naoto |
キイロ
あ〜ん、やっぱり!! 私たちは運命的の糸で結ばれてるのね! |
Kiiro |
キイロ
ごめんねぇ、ナオトくん。 怪我なんかさせて、痛かったでしょぉ? |
Kiiro |
キイロ
傷はどこ? よく見せて。早く手当てしなくちゃ。 ……私が舐めて、消毒してあげるから。 |
Kiiro |
ナオト
……ごめん、状況に追いつけてない。 |
Naoto |
サヤ
馴れ馴れしい……。 女、今すぐ兄様から手を放しなさい。 |
Saya |
キイロ
あらやだ、輝弥の死に損ないじゃない。 まだ生きてたの? 案外しぶといのね。 |
Kiiro |
ナオト
いい加減放せよ! |
Naoto |
キイロ
あん。乱暴。 |
Kiiro |
冥
なにが乱暴、だ。 そちらの対応の方がよほど乱暴ではないか。 |
Mei |
シエル
こちらは命にかかわるほどの攻撃を受けています。 |
Ciel |
1: 理由を教えて欲しい |
1: |
キイロ
え……? |
Kiiro |
キイロ
あなた……誰? なにこの……ざらつく感覚……。 |
Kiiro |
シエル
……ラーベさん、この方は……。 |
Ciel |
キイロ
だ、駄目よ! 私はもう、ナオトくんのものなんだから。 |
Kiiro |
ナオト
いやいやいや、受け取った覚えはねぇし、 特に欲しくもねぇから。つかお前、誰だよ!? |
Naoto |
キイロ
照れちゃって。 そういうクールなところも、素敵よ。 |
Kiiro |
キイロ
でも嬉しいわ、やっと私に興味を持ってくれたのね。 |
Kiiro |
キイロ
私は、緋鏡キイロ。御剣機関の人間よ。 |
Kiiro |
ナオト
緋鏡? それに、今…… |
Naoto |
1: 御剣機関って言った? |
1: |
キイロ
あとはなにが知りたい? えっと、スリーサイズなら……直接触って、測ってみる? |
Kiiro |
ナオト
ば、馬鹿かお前……! |
Naoto |
冥
なんなんだ、この女は……。 ノリが奇妙すぎて、扱いに困るんだが……。 |
Mei |
サヤ
……いますぐきりすてましょう。 |
Saya |
冥
ちょっ、お前も落ち着け! |
Mei |
Es
…………。 |
Es |
キイロ
あら、あなた達まだいたの? もう帰っていいわよ。 |
Kiiro |
ナオト
帰っちゃ駄目だから! |
Naoto |
シエル
帰りませんし、まず質問があります。 |
Ciel |
シエル
なぜ私達を攻撃したのですか? なぜ『影』への攻撃を妨害したのでしょうか? |
Ciel |
キイロ
あら。あなたは……。 |
Kiiro |
シエル
シエル=サルファーといいます。 |
Ciel |
キイロ
シエル……サルファー? |
Kiiro |
シエル
はい、私はみつる―― |
Ciel |
シエル
きゃうぅ……。 |
Ciel |
ラーベ
おっとすまん、頭が滑った。 |
Raabe |
キイロ
あら、凄い音。 |
Kiiro |
キイロ
でも驚いた、こんなところで、あなたみたいのに会うなんて。 |
Kiiro |
キイロ
自立思考型デバイス……プロジェクトは凍結されたって 聞いていたけど。……『誰』の所属かしら? |
Kiiro |
ラーベ
ほう、『私』を知っているのか? |
Raabe |
ラーベ
ならばなおのこと、教えるわけにはいかないよ。
私とお前では立っている |
Raabe |
キイロ
なるほどね……まぁ好きにすれば。あなた達には興味無いし。 ただ、私の邪魔をするなら潰すわよ……。 |
Kiiro |
ラーベ
怖いな、まぁその時は手加減してくれ。 |
Raabe |
ナオト
おいおい、邪魔ってなんだよ? あの『影』の事か? |
Naoto |
キイロ
『それも』あるわよ。だって、今ナオトくんにアラクネを 倒されたら、困るのもの〜。 |
Kiiro |
シエル
アラクネ? |
Ciel |
キイロ
あれの名前よ。 |
Kiiro |
キイロ
由来は知らないけど、私たちの間では、そう識別されているわ。 あなたたちは『影』とかって呼んでいるのよね。 |
Kiiro |
冥
ちょっと待て、どういうことだ!? |
Mei |
冥
名前が定着しているのなら、 当然、そのアラクネとか言うモノが、 |
Mei |
冥
新川浜に蟲を放っていたことも、 把握していたのではないのか!? |
Mei |
キイロ
当たり前でしょ。 |
Kiiro |
ラーベ
……御剣機関の理念は『人の在るべき世界の悠久の安寧』だ。 |
Raabe |
ラーベ
アラクネとやらの存在は、その理念に反していると思うが? |
Raabe |
キイロ
ふ〜ん……。 あなた……本当に御剣の人みたいね……。 |
Kiiro |
キイロ
そうよ、確かに私たち御剣機関にとって、 アラクネは明らかな殲滅対象よ。 |
Kiiro |
キイロ
でもね……今はまだ、ダメなの。 |
Kiiro |
サヤ
その理由を問うています。 |
Saya |
キイロ
だってまだ、使い道があるんですもの。 |
Kiiro |
Es
使い道……? |
Es |
冥
馬鹿な!! つまり、あの化け物を野放しにしておけというのか!? |
Mei |
キイロ
そうよ。だから手を出さないでちょうだい。 |
Kiiro |
キイロ
アラクネは、 御剣機関が利用し、管理し……『解体』するから。 |
Kiiro |
冥
なっ……。 |
Mei |
キイロ
覚えておいて。どんな化け物でも管理できるのなら、 『脅威』ではないのよ。 |
Kiiro |
キイロ
アラクネだけじゃない。他にも……そう。 例えば、『吸血鬼』とかも……ね。 |
Kiiro |
ナオト
なんだと!? |
Naoto |
キイロ
あ〜らぁ。どうしたの、ナ・オ・ト・くん。 ……なにか心当たりでもあるのかしら? |
Kiiro |
ナオト
っ! |
Naoto |
キイロ
んふっ、そんな激しい目で見られたら、 ゾクゾクしちゃう。 |
Kiiro |
サヤ
兄様への無礼の数々、腹に据えかねました……。 |
Saya |
キイロ
ちょっと煩いわね、あなた……。解体するわよ? |
Kiiro |
サヤ
……やってみるがいい、下女め。 |
Saya |
ヴァルケンハイン
……おい、キイロ。 始末も捕獲も必要ないのなら、俺は帰るぞ。 |
'Valkenhayn |
キイロ
もう、我慢の利かないワンちゃんね。待ても出来ないの? |
Kiiro |
ヴァルケンハイン
なんだと、貴様!! |
'Valkenhayn |
レリウス
落ち着け、ヴァルケンハイン。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
貴様もいい加減にしろ、レリウス! 俺はこんな話、今すぐ蹴ったって構わんのだぞ! |
'Valkenhayn |
レリウス
それは私が困る。 |
Relius |
キイロ
はいはい、わかったわよ。もう、せっかくの 運命の出会いだっていうのに、ムードが台無し。 |
Kiiro |
ナオト
ムードもクソもあるか! てめぇら……さっきから聞いてりゃ、 好き勝手言いやがって。 |
Naoto |
ナオト
邪魔だろうが何だろうが知ったこっちゃねぇ! 俺は引き下がらないからな!! |
Naoto |
キイロ
あん……素敵。 そのギラついた目……体の奥が熱くなってきちゃう。 |
Kiiro |
キイロ
でもね、ナオトくん。これはお願いじゃないの。 |
Kiiro |
キイロ
忠告よ。 |
Kiiro |
ナオト
……脅してんのか? |
Naoto |
キイロ
ナオトくんのことを、心配してるのよ。 だって、御剣機関を敵に回す意味をわかってないみたいだから。 |
Kiiro |
ナオト
んだよ、舐めやがって。 |
Naoto |
キイロ
舐めてなんかないわ。私は真剣よ。 |
Kiiro |
キイロ
……ナオトくんとの舐め合いなら、 もっと真剣になれるんだけど。 |
Kiiro |
サヤ
今すぐその舌を斬り落とす!! |
Saya |
サヤ
なっ!? |
Saya |
キイロ
あらぁ、怖〜い。相手してあげてもいいけど…… 残念、一応お仕事中なの。 |
Kiiro |
キイロ
今夜のところは、これで引き上げるわ。 |
Kiiro |
キイロ
またね……ナオトくん……私の運命の人。 |
Kiiro |
シエル
……ラーベさん、あの緋鏡キイロさんという方……。 |
Ciel |
ラーベ
あぁ……お前と同じモノだ。 |
Raabe |
第5節 機関④/ 5. The Agency - 4
Summary | |
---|---|
キイロは、アラクネを利用してドライブ能力
者の誰かを探していた。だが突如目の前が白 黒となっていき、謎の人影が忍び寄る。 |
|
少女の姿をした謎の人影は、何も語ることは
なく、まるで夢であったかのように姿を消す。 |
ヴァルケンハイン
いい加減に説明してもらおうか! このままでは納得できん! |
'Valkenhayn |
キイロ
もう〜、またそれ? うるさいわねぇ。 |
Kiiro |
ヴァルケンハイン
黙れ! あのアラクネに続いて、 黒鉄ナオトまであえて逃がすとは……。 |
'Valkenhayn |
ヴァルケンハイン
貴様、我々の領分をも侵害しているとわかっているのか!? |
'Valkenhayn |
キイロ
貴方達の領分なんて知ったことじゃないわ。いい? ワンちゃんは忘れちゃったみたいだから、教えてあげる。 |
Kiiro |
キイロ
貴方は |
Kiiro |
キイロ
この世界での |
Kiiro |
ヴァルケンハイン
だから、その指示の意味を聞かせろと言っている! 俺たちを都合よく動かせる駒だと思うな! |
'Valkenhayn |
キイロ
あらぁ、違ったの? |
Kiiro |
ヴァルケンハイン
貴様……! |
'Valkenhayn |
レリウス
よせ、ヴァルケンハイン。 キイロもだ。彼を挑発して遊んでも、新しい発見はないぞ。 |
Relius |
キイロ
私は別に、彼で遊びたくなんかないわよ。 貴方と違ってね。 |
Kiiro |
キイロ
でもあとを引き受けてくれるなら、その野蛮人の相手は お任せするわ。私、もう戻ってシャワー浴びたいから。 |
Kiiro |
レリウス
承った。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
おい、レリウス! 勝手に話を片付けるな! 待て、キイロ! 説明を……! |
'Valkenhayn |
ヴァルケンハイン
気に入らん!! |
'Valkenhayn |
レリウス
お前が気に入ることなど、ほとんどないだろうに。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
うるさい、貴様こそなんとも思わないのか! この状況に! |
'Valkenhayn |
レリウス
……思う? なにをだ? |
Relius |
ヴァルケンハイン
……くそっ。どいつもこいつも、一体なんなのだ!! |
'Valkenhayn |
レリウス
まぁ聞け、ヴァルケンハイン。 |
Relius |
レリウス
……アラクネの蟲は餌となる人間を無差別に襲撃し、 寄生することによって、その生命力を吸い上げ…… |
Relius |
レリウス
本体であるアラクネにその生命力を運搬している……。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
なんだ、今更。それくらいは知っている。 前にお前が、この街は蟻の巣のようだとか言っていたな。 |
'Valkenhayn |
レリウス
うむ、だから『女王蟻』は……滅多なことでは動かない。 |
Relius |
レリウス
だが……稀に、アラクネが直接、人間を襲うことがある……。
その |
Relius |
ヴァルケンハイン
共通点? なんだそれは。 |
'Valkenhayn |
レリウス
ドライブ能力者だ。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
……なんだと? 初耳だぞ。 |
'Valkenhayn |
レリウス
アラクネの動きはキイロたちが監視しているからな。 私たちには下りて来ない……。 |
Relius |
レリウス
だが……状況を見れば概ね推測は出来る。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
ふん。推測だろうと、お前が言うのなら間違いないのだろう。 |
'Valkenhayn |
ヴァルケンハイン
それで……アラクネがドライブ能力者を狙うから、 どうだというのだ? |
'Valkenhayn |
レリウス
御剣機関はドライブ能力を持つ『誰か』を探している。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
そのためにアラクネを利用していると言うのか? それと、黒鉄ナオトを捕縛することに何の関係がある? |
'Valkenhayn |
レリウス
ふむ……ドライブ能力者が何人襲われようと、 我々の知ったことではないが……。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
おいおい、まさか俺たちは、遠回しに黒鉄ナオトの護衛を やらされているわけではあるまいな? |
'Valkenhayn |
レリウス
あのキイロだ……その可能性は大いにあり得るだろう。 しかし『何故』……。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
……つくづく、不愉快な案件だ。俺は戻るぞ。 |
'Valkenhayn |
レリウス
……やれやれ。 |
Relius |
サヤ
不愉快です。 なんなのですか、あの女は……! |
Saya |
ナオト
おい、落ち着けって、サヤ。 なんでお前が一番キレてんだよ。 |
Naoto |
シエル
周囲の敵性反応、完全に消えました。 追跡者もいないようです。 |
Ciel |
シエル
……どうやら、見逃してもらえたようですね。 ひとまず身の安全は確保されました。 |
Ciel |
ナオト
見逃す? どういう意味だよ。 |
Naoto |
シエル
あのキイロさんという女性ですが、 最初のふたりよりも戦闘力は遥かに上です。 |
Ciel |
シエル
ここにいる『全員』が本気を出したとしても…… おそらく、倒すことは難しいでしょう。 |
Ciel |
ナオト
なっ……マジかよ。 |
Naoto |
冥
とても戦闘員には見えなかったが、 見かけで判断するなということか……。 |
Mei |
サヤ
しかし不可解です。気持ちが悪いです。 あのアラクネとやらを放置しようなどと……。 |
Saya |
サヤ
よからぬ目論見があるはずです。 あの者たちはなにを企んでいるのでしょう。 |
Saya |
シエル
どうでしょうか……。ラーベさん、何か考えはありますか? |
Ciel |
ラーベ
……………。 |
Raabe |
シエル
あの……ラーベさん? |
Ciel |
ラーベ
……まずいな。 |
Raabe |
1: また壊れちゃいましたか!? |
1: |
ラーベ
馬鹿者、違うわ。そうじゃない。 |
Raabe |
ラーベ
冥からこの世界にも御剣機関があると聞いたときに 考慮しておくべきだった……。 |
Raabe |
ラーベ
緋鏡キイロとか言ったか、あの小娘……。 奴は我々の存在に気がついて……いや、 |
Raabe |
ラーベ
我々の存在を『知っている』。 |
Raabe |
冥
なんだ? 同じ御剣機関なのだろ、 知っていて当然では無いのか? |
Mei |
Es
待ってください。……今、この世界『にも』と言いましたか? |
Es |
ラーベ
私も迂闊だな……シエルのことは言えんか。 |
Raabe |
ラーベ
まぁいい、頃合いだ。御剣機関が出てきたからには
コイツ等にも話しておいた方がいいだろう。
|
Raabe |
ナオト
おい、なんの話だよ……? |
Naoto |
ラーベ
お前達、悪いが少し私の話を聞いてほしい。 |
Raabe |
サヤ
申し訳ありませんが、おっしゃっている意味がわかりません。 |
Saya |
ラーベ
話した通りだ。シエルやレイ、そして私は、 この世界の存在ではない。 |
Raabe |
ナオト
は……? |
Naoto |
ナオト
あー……えっと……悪いけどマジで疲れてるんだ。 なるべく簡単に、わかりやすく説明してもらえるか? |
Naoto |
ラーベ
我々は別の事象世界の御剣機関で、 この世界を救いに来たと言ったんだ。 |
Raabe |
シエル
(救うのですね?) |
Ciel |
ラーベ
(大きな意味では間違ってはいないぞ。) |
Raabe |
ナオト
ごめん、やっぱ全然わかんねぇ……。 つまり、御剣機関なんだけど御剣機関じゃねぇんだよな? |
Naoto |
冥
あぁもう、黒鉄は黙っていろ。 それより『救う』とは一体何からだ? |
Mei |
冥
まさかあのアラクネとかいうやつが世界でも滅ぼすのか? |
Mei |
ラーベ
わからん、だがその『可能性』がないとも言えないな。 |
Raabe |
サヤ
曖昧ですね……。 |
Saya |
ラーベ
曖昧か……それでいい。まだ可能性があるのだから。 |
Raabe |
Es
どういう意味ですか? |
Es |
ラーベ
……もう一度言うぞ。 とにかくこの世界とは別の場所に存在する我々…… |
Raabe |
ラーベ
『御剣機関』が、あらゆる事象世界に、 とある異常現象が発生しているのを確認した。 |
Raabe |
ラーベ
この異常はひどくなると、最終的にその世界が内包している 全ての可能性が消滅し……、 |
Raabe |
ラーベ
やがて世界そのものも……。 |
Raabe |
サヤ
……消滅する、とでも? |
Saya |
ラーベ
そうだ。 |
Raabe |
サヤ
何故そう言い切れるのです? |
Saya |
ラーベ
私たちの世界はそれが原因で消滅したからだ。 |
Raabe |
冥
なっ! |
Mei |
ラーベ
前に途中まで話した観測者という存在も、 その異常に大きく関わっている。 |
Raabe |
ラーベ
だがな、この世界。いや、他にも世界はあるんだが、 その世界の異常を正せば、我々の世界も救うことができる。 |
Raabe |
ラーベ
そのために、私たちはこの世界に浸入したわけだ。 |
Raabe |
ラーベ
…………。 |
Raabe |
冥
…………。 |
Mei |
サヤ
……正直に申しまして、信じがたいお話です。 |
Saya |
サヤ
あなたがたが、あのキイロとかいう不愉快な女と 手を組んでいて、私たちを陥れようとしている……。 |
Saya |
サヤ
という話のほうが、よほど真実味を感じますね。 |
Saya |
シエル
違います。私達に、サヤさんたちを陥れるつもりは ありません。 |
Ciel |
サヤ
違いなどありません、どちらにせよ不審であることは明白。 ……斬ります。 |
Saya |
ナオト
ちょっ、待てサヤ、落ち着け。 俺は……こいつらが嘘を言っているとは思えねぇんだ。 |
Naoto |
サヤ
……兄様? |
Saya |
ナオト
なんだっけ? じしょうせかい、だっけか? |
Naoto |
ナオト
その世界がどうとか、そういうややこしそうな話は 置いとくとして。 |
Naoto |
ナオト
もしキイロと組んでるんなら、昨日の夜のうちにでも 俺を閉じ込めるなり攫うなりできたはずだ。 |
Naoto |
ナオト
アラクネのことだって、マジで知らなかったみたいだし。 |
Naoto |
ナオト
それに、レイたちもキイロたちも、 めちゃくちゃ強いんだったら、 |
Naoto |
ナオト
いちいち小細工使って俺たちをだます必要なんかないだろ。 |
Naoto |
サヤ
ですが! |
Saya |
Es
私も……この方達が嘘を言っているようには感じませんでした。 |
Es |
ナオト
ほら。エスもそう言ってる。 |
Naoto |
冥
お前ら……なんとなくだとか、そう感じるだとか、 あやふやな感覚でことを片付けていないか? |
Mei |
冥
いうに事欠いて、別次元、異世界だぞ? それを信じるつもりなのか? |
Mei |
ナオト
ぶっちゃけ、ドライブだ、吸血鬼だ、なんてモノを 目の当たりにしたあとだ。 |
Naoto |
ナオト
今更、異世界人が出てきたって、マジかよとは思うけど、 そういうのもアリなんだって感じだよ。 |
Naoto |
1: ナオトさん…… |
1: |
シエル
ありがとうございます、ナオトさん。 |
Ciel |
ラーベ
ふむ、単純な人間は助かる。 |
Raabe |
ナオト
お前なぁ! せっかく信用してやるっつってんのに! |
Naoto |
サヤ
……はぁ。兄様がそうおっしゃるのであれば、 私の疑念は置いといて、今は……刃は収めるといたしましょう。 |
Saya |
サヤ
ですが、もし兄様の信用を裏切るような事があれば……。 |
Saya |
ナオト
おいサヤ、そう恐い顔すんなって。 |
Naoto |
サヤ
兄様はいつも楽観的なのです! ですから、私が心配ばかりせねばならないのです! |
Saya |
ナオト
う、ぐ。そ、それはお互い様だろ! お前だって、 いつも無茶ばっかして心配かけるじゃねぇか。 |
Naoto |
サヤ
私は無茶などしておりません。 |
Saya |
冥
あーはいはい。お前たちの仲が良いのはわかったから、 話を引っ掻き回すな。 |
Mei |
Es
冥は……どう思うのですか? |
Es |
冥
……結論から言えば、今は信用できん。 なので暫くの間は、様子を見させてもらう。 |
Mei |
シエル
了解です。現状の関係が続くのであれば、 信用を置いていただけなくても、問題はありません。 |
Ciel |
冥
…………。 |
Mei |
冥
まぁいい、他にも聞きたいこともあったが、 今夜はここまでだ。帰るぞ、エス。 |
Mei |
Es
はい。 |
Es |
サヤ
あの不愉快な連中に水を差されたままというのは、 いささか不満ですが……承知しました。 |
Saya |
ナオト
そうだな、正直俺も限界だ。 膝ががくがくしてきた。帰ろうぜ。 |
Naoto |
シエル
了解です。行きましょう、レイさん。 |
Ciel |
1: うん、そうだね |
1: |
ナオト
お前もお疲れさん。帰ったらゆっくり―― |
Naoto |
1: え? |
1: |
冥
私とエスはこっちだ。今夜はここで―― |
Mei |
サヤ
お休みなさい。また―――― |
Saya |
Es
はい―― ―――― |
Es |
―――――――― ―――――――――――――――― |
|
1: あれ? 誰もいない? |
1: |
1: え? ……誰? |
1: |
…………。 ……………………。 |
|
…………。 ……………………。 |
|
1: !? |
1: |
シエル
レイさん! |
Ciel |
1: うわっ! びっくりした! |
1: |
シエル
どうかしたんですか? 何度か呼びかけたんですが、 ぼんやりとしたままでしたよ? |
Ciel |
ラーベ
……なにかあったのか? |
Raabe |
1: 夢……? |
1: |
シエル
夢を見ていたのですか……? |
Ciel |
ラーベ
女の子って、冥とエスならもう帰ったぞ。 |
Raabe |
シエル
女の子の夢……ですか? |
Ciel |
ラーベ
おい、こんなところで寝るなよ? せめてナオトの家までは耐えろ。 |
Raabe |
ラーベ
(…………夢だと?) |
Raabe |
ナオト
…………。 |
Naoto |
サヤ
兄様? 兄様! |
Saya |
ナオト
あっ……え? |
Naoto |
サヤ
やっと気付いてくださいましたね。 お疲れでしょうが、もう少しの辛抱……。 |
Saya |
ナオト
い、今、女の子がいなかったか? 背の、低い……。 |
Naoto |
ナオト
よくわかんねぇ……。 はっきり顔が見えたわけじゃねぇけど……。 |
Naoto |
ナオト
ただ急に、周りに誰もいなくなって。 で、振り返ったら……その辺りに立ってたんだ。 |
Naoto |
シエル
ナオトさんも女の子を見たのですか? |
Ciel |
ナオト
ああ……たぶん。つか、もって? |
Naoto |
シエル
レイさんも女の子の夢を見たと言っていました。 |
Ciel |
サヤ
お二人共……? まさか心霊現象の類ですか? 兄様達がなにを見たのか、わかりかねますが……。 |
Saya |
サヤ
少なくとも私たちは、ずっとここにおりましたし、 そのようなものは見ておりません。 |
Saya |
サヤ
まさか……『狩人の眼』が霊体までも見れるように なったのでは……? |
Saya |
ナオト
やめてよ怖い!! 幽霊とか勘弁して!! |
Naoto |
サヤ
まぁ……異世界人をも受け入れる兄様が、 幽霊を怖いなどと……お可愛いことですね。 |
Saya |
ナオト
う、うるせぇ……。 |
Naoto |
サヤ
ふふふ、冗談です。きっとお二人共お疲れなのでしょう。 まずはしっかりと、体を休めてくださいませ。 |
Saya |
シエル
そうですね、帰投しましょう。 |
Ciel |
ラーベ
……どうした? なにかもの言いたげだな。 |
Raabe |
1: さっきの話…… |
1: |
ラーベ
聞いた通りだ。私が……いや、フガクにいる破城カガミが 存在していた世界は、すでに消滅している。 |
Raabe |
ラーベ
詳しく知りたければ、本人に聞け。 今はこの世界での任務に集中しろ。 |
Raabe |
1: ………… |
1: |
ラーベ
それじゃ、部屋に戻るぞ。今は休息が必要だ。 体を壊されたりしたら、任務に支障が出る。 |
Raabe |
第6節 少女①/ 6. Girl - 1
Summary | |
---|---|
病弱なサヤが不在の中、シエルたちはレリウ
スやキイロの介入を考慮しつつも、引き続き アラクネの捜索を続ける。 |
…………。 |
|
……を……探して。 そして、私を……。 |
|
私を……けて……。 |
|
ナオト
う〜〜〜……くそ……はいはい、起きてますよ〜。 起きる気持ちはあったんですよ〜、ひなたさ〜ん……。 |
Naoto |
ひなた
朝ごはん、もう少しかかるから、待っててね。 |
Hinata |
シエル
いつもありがとうございます。ひなたさん。 |
Ciel |
ひなた
いえいえ。気にしないで、ナオトちゃんの分を作るのも、 みんなの分を作るもの一緒だから。 |
Hinata |
1: お腹が空いてきた |
1: |
ひなた
今日はナオトちゃんと学校行かないといけないから、 簡単なメニューでごめんね。 |
Hinata |
ひなた
でもその分、週末はごちそう頑張るから。 |
Hinata |
ナオト
んな張りきらなくてもいいって。 作ってもらえるだけでありがたいんだから。 |
Naoto |
ナオト
それに、お前が作ればなんだってご馳走だよ。 いつも目茶苦茶うまいじゃん。 |
Naoto |
ひなた
そ、そうかな? そんなことないよ、普通だよ。 でも……ありがと、ナオトちゃん。 |
Hinata |
ナオト
…………。 |
Naoto |
ひなた
ん? なに? どうしたの? |
Hinata |
ナオト
いや、なんでもない。まだちょっと寝ぼけてるみたいだ。 |
Naoto |
ひなた
まだ顔洗ってないんでしょう。 ご飯の用意しておくから、支度しておいでよ。 |
Hinata |
ナオト
そうだな。そうするか。 |
Naoto |
シエル
おふたりは仲がいいのですね。 まるで夫婦のやりとりのようです。 |
Ciel |
ひなた
えぇっ!? そ、そんなこと……。 私たち、ただの幼馴染みだよ。ね、ナオトちゃん? |
Hinata |
ナオト
……そうだよ、変なこと言うなって。 ガキの頃から一緒だから家族みたいなもんだ。 |
Naoto |
シエル
そうでしたか。すみません、家族というものをあまり詳しく 知らないものですから。 |
Ciel |
シエル
おふたりは夫婦のようなのではなく、家族のようなのですね。 |
Ciel |
ナオト
そんな感じだ。 |
Naoto |
ラーベ
なんだつまらん。幼馴染の女の子など良いフラグではないか? |
Raabe |
ナオト
やめろって、そういうんじゃねぇよ。……マジでさ。 つか、何だよフラグって。 |
Naoto |
シエル
……フラグ? |
Ciel |
ひなた
あはは……。 |
Hinata |
冥
遅いぞ。……と言いたいところだが、時間通りか。 チッ、几帳面どもめ。 |
Mei |
ナオト
褒めろとは言わねえが、なんだその悪態は。 |
Naoto |
冥
通常営業だ。 |
Mei |
Es
サヤさんは、一緒ではないのですか? |
Es |
シエル
体調不良だそうです。 おそらく、昨日の戦闘が原因でしょう。 |
Ciel |
ナオト
本人は大丈夫だとか言ってたけど、電話口の声がすでに 駄目そうだったからな。無理やり休ませた。 |
Naoto |
冥
それがいい。……最近、あまり調子がよくなさそうだな。 |
Mei |
ナオト
ああ。スタミナもなんとなくなくなってる気がするし。 体壊してるんじゃないといいんだけどな。 |
Naoto |
Es
サヤさんの分も、私たちが頑張りましょう。 |
Es |
シエル
了解です。 |
Ciel |
ラーベ
とりあえず、昨夜の仕切り直しだ。 蟲を叩き、アラクネを引きずり出す。 |
Raabe |
ラーベ
蟲の発生源は、間違いなく、あのアラクネだからな。 蟲の分布さえ分かれば、捜索場所も絞れる。 |
Raabe |
ナオト
アラクネの件はいいとして、またあの御剣…… いや、キイロに邪魔されたらどうすんだ? |
Naoto |
ラーベ
大丈夫だ、奴はしばらく出て来ない。なので遠慮なくやれ。 なんなら、アラクネを倒してしまってもいいぞ。 |
Raabe |
1: えっ!? |
1: |
ラーベ
構わん。もしアラクネが、私たちが探している 存在なのだとしたら、奴が倒される前に事態が動くはずだ。 |
Raabe |
ラーベ
それでアラクネの正体がはっきりするだろう。 |
Raabe |
Es
不確実かつ、極めて危険な方法です。 |
Es |
Es
万が一アラクネがターゲットであり、それを実際に 倒してしまったら、取り返しはつくのですか? |
Es |
ラーベ
つかんな。まぁ『もう一度やり直し』が出来るのなら 話は別だが。 |
Raabe |
冥
やり直すってなんだ。ループもののストーリーでもあるまいし、 そんな簡単に言うな! |
Mei |
ラーベ
万が一の話だ。 それに……私の予測が正しければ、そうはならない。 |
Raabe |
ナオト
……信用していいんだろうな? |
Naoto |
ラーベ
信用? ……あの緋鏡キイロも言っていただろう? |
Raabe |
ラーベ
御剣機関を舐めるな……と。 |
Raabe |
ラーベ
我々も『御剣機関』だ。 |
Raabe |
冥
…………。 |
Mei |
ラーベ
緋鏡キイロの動向に関しても、今は警戒しなくていい。 |
Raabe |
ラーベ
奴らが本気なら、私たちはここに集まることすら 出来なかったはずだ。 |
Raabe |
ナオト
……向こうがその気なら、 みんなが集まる前に襲撃されてるってことか。 |
Naoto |
シエル
私達の戦力を考慮すると、各個撃破が最も有効な戦術です。 |
Ciel |
ラーベ
そういうことだ。 特にナオト、お前はあのキイロから狙われているんだぞ。 |
Raabe |
ラーベ
ひとりであのヴァルケンハインとレリウスの相手をできるか? |
Raabe |
ナオト
くそっ……できねぇよ。 |
Naoto |
冥
……悔しいが、ラーベの言っていることはもっともだな。 |
Mei |
冥
そして我々は、蟲の被害をこれ以上広げないためにも、 アラクネをどうにかする必要がある。まごついている暇はない。 |
Mei |
Es
そうですね。とりあえず可能な限り蟲を排除し、 アラクネを誘い出すことを優先しましょう。 |
Es |
Es
今夜の組み分けはどうしますか? |
Es |
冥
襲撃の可能性がなくなったわけではない。 黒鉄をひとりにはできん、エス、ついていけ。 |
Mei |
Es
わかりました。 |
Es |
冥
私はレイたちと一緒に行こう。 |
Mei |
ラーベ
いいだろう。 ……ああ、そうだ。 |
Raabe |
ラーベ
もし御剣機関の連中と遭遇したら、すぐに連絡してこい。 お前たちふたりでも対処できる相手じゃないからな。 |
Raabe |
ナオト
こねぇんじゃねぇのかよ!? |
Naoto |
ラーベ
もしもだ、もしも。 |
Raabe |
ラーベ
特にヴァルケンハインは、挨拶代わりにお前を殺すような奴だぞ。 行動が読めん。 |
Raabe |
ナオト
うっ……全く否定できねぇ……。 |
Naoto |
シエル
ナオトさん、エスさん、気を付けてください。 |
Ciel |
Es
ありがとうございます。 レイさんたちも、十分気を付けてください。 |
Es |
1: 了解! |
1: |
蟲憑き
う……あ……。 |
Bugs |
冥
蟲憑きか……面倒だな。 |
Mei |
シエル
ですが放っておけば、一般市民への被害が想定されます。 対処するべきかと思いますが……どうしますか? |
Ciel |
1: これも任務の一環 |
1: |
シエル
わかりました。……対象を捕捉、認識。 戦闘行動に移行します。 |
Ciel |
第6節 少女②/ 6. Girl - 2
Summary | |
---|---|
アラクネは観測者ではないと考えているラー
ベ。今後の手がかりについてラーベと冥が話 す間、再び謎の少女がアプローチする。 |
|
正体を明かし、語りかけてくる少女。レイチ
ェル=アルカードと名乗った少女は、自身を 吸血鬼であると言う。 |
冥
この辺りの蟲は概ね片付けたかな? |
Mei |
シエル
……そうですね。反応は感知できません。 |
Ciel |
ラーベ
なら、ちょっと一息入れるか。 こちらはレイがいるし。 |
Raabe |
ラーベ
のんびりしていても、そのうち向こうからうじゃうじゃと 集まってくれるだろう。 |
Raabe |
1: うじゃうじゃ……想像したら…… |
1: |
冥
確かに、あまり嬉しくない光景だな……。 |
Mei |
冥
ずいぶん余裕じゃないか。 |
Mei |
冥
まぁいい。ところで……ラーベ。聞きたいことがある。 |
Mei |
ラーベ
なんだ、やっとか……。待ちくたびれたぞ。 |
Raabe |
冥
ふん……前に言っていた世界の異常…… 観測者だかなんだか知らんが……。 |
Mei |
冥
お前、アラクネはハズレだと思ってるんじゃないか? |
Mei |
ラーベ
どうしてそう思う? |
Raabe |
冥
先程の話だ。お前はまるで、アラクネの先にこそ対象がいる…… とでも言いたげだったぞ。 |
Mei |
冥
キイロとやらが我々を泳がしているのも、 それが理由なんだろ? |
Mei |
ラーベ
さすがは陰陽師……いや、天ノ矛坂か。 |
Raabe |
ラーベ
そうだ、アラクネは多分『駒』だ。この事態の元凶ではない。 |
Raabe |
冥
駒か……やはりキイロのか? |
Mei |
ラーベ
いや、まだそうだと断定しているわけではない。 |
Raabe |
ラーベ
なにせアラクネがどういう存在なのか、 まるで情報がないんだからな。 |
Raabe |
ラーベ
アラクネと相見えたのは一度だけだ。 私たちはまず、奴が何者なのかを詳しく知る必要がある。 |
Raabe |
冥
……確かに。 |
Mei |
ラーベ
だがまぁ、ぶっちゃけ、アラクネを追う以外に 取っ掛かりがないと言うのが本音だ。 |
Raabe |
ラーベ
あの緋鏡キイロにちょっかい出すのは危険すぎるしな。 |
Raabe |
シエル
冥さんは、以前に御剣機関とお仕事されたことがあると 言っていました。なにか情報などはありせんか? |
Ciel |
冥
あぁ……いや……その、そのことなんだが……。 |
Mei |
シエル
どうされました冥さん。 |
Ciel |
冥
う、うむ……実はな……。 |
Mei |
ラーベ
なんだ、歯切れが悪いな。はっきり言ってくれ。 |
Raabe |
冥
私は……今回の件、 御剣機関の依頼で動いているわけではないのだ。 |
Mei |
1: え? |
1: |
冥
ま、まぁ、ある意味、御剣機関とも言えるんだぞ! |
Mei |
冥
えっとだな……5年ほど前だ……。 御剣機関の『ウノマル』という者からメールが来て…… |
Mei |
冥
ただ一言『この街を護って欲しい』と書いてあった。 |
Mei |
冥
私も天ノ矛坂の人間だからな。 御剣機関の名くらいは知っている。 |
Mei |
冥
始めは悪戯かと思った。だが、それ以来、少なくない額が 天ノ矛坂に入金され続けている。 |
Mei |
冥
……我が天ノ矛坂家は財政難だったのでな。 正直言って、助かった。 |
Mei |
冥
だから私は依頼通り、この街を護ると決めたのだ……。 |
Mei |
冥
入金されている間はな! |
Mei |
1: 律儀だ! |
1: |
ラーベ
かわいい所があるじゃないか、冥ちゃん。 |
Raabe |
冥
うっさいわい! それと貴様が冥ちゃんと呼ぶな!! |
Mei |
シエル
それより何者ですか? そのウノマルさんという方は? |
Ciel |
冥
色々と調べたが全くわからん……。 |
Mei |
冥
とにかくだ、以上の理由で、 私は御剣機関との連絡手段を持ち合わせていない! |
Mei |
ラーベ
……胸を張って言うことでもないだろう。 |
Raabe |
冥
ふん。 |
Mei |
シエル
どうかしましたか? 渋いお顔ですが……。 |
Ciel |
冥
お前なぁ。……いや、なんでもない。 それともう一つ、聞きたいことがある。 |
Mei |
シエル
何でしょうか? |
Ciel |
冥
昨日、お前たちが話していた世界を救う理由だが…… っておい、レイ? |
Mei |
シエル
――――、―― |
Ciel |
冥
……、…………、―――― |
Mei |
ラーベ
――、……、―― |
Raabe |
…………。 ……………………。 |
|
1: まただ…… |
1: |
…………。 ……………………。 |
|
1: 君は誰? |
1: |
1: あなたは誰? |
1: |
少女
……。……の? |
Girl |
少女
あなた……私の姿が、見えるの? |
Girl |
少女
……いいえ。まだはっきりとは、見えていないようね。 でも、声はようやく……た、かしら……。 |
Girl |
少女
……嫌ね。こんな形で……しかないなんて……。 |
Girl |
少女
…………よ。 ……とりあえず……悪く思わないで。 |
Girl |
少女
……意識ははっきりしているかしら? |
Girl |
少女
そう。私の声はどう? 途切れることなく……聞こえていて? |
Girl |
少女
……そう。それと……一応、合格点をあげるわ。 でもね、これは必要なことなの。 |
Girl |
1: 合格? 必要? なんのこと? |
1: |
少女
心配しなくても大丈夫よ。一緒にいた子たちは、 さっきと同じ場所で、同じ姿でいるわ。 |
Girl |
少女
あなたもそう。私が呼びかけた一瞬、 あの瞬間で時間は止まったまま……。 |
Girl |
少女
……『事象干渉』の真似事よ。 |
Girl |
少女
事象そのものではなく時間軸に干渉しているだけ。 |
Girl |
少女
……ああ……また。 長くはこうしていられないわね……。 |
Girl |
少女
ここは……とても脆い世界。脆弱な場。だから少し力加減を 間違えれば、なにもかもを壊してしまうかもしれない。 |
Girl |
少女
……不思議そうな顔をしているわね。 |
Girl |
少女
ええ……知っているわ。この世界がどんな場所なのか。 だからこそ……私にはあなたが必要なの。 |
Girl |
少女
だから私の顔を、よく覚えておきなさい、未熟な観測者さん。 そして、忘れないで。 |
Girl |
レイチェル
私の名はレイチェル=アルカード。 吸血鬼よ。 |
Rachel |
第6節 少女③/ 6. Girl - 3
Summary | |
---|---|
レイチェルと話したことをラーベにも共有す
る。そして新たなる情報を求めるべく、御剣 機関の黒服を見つけ、捕獲を試みる。 |
|
尋問するはずが、捕獲の際にシエルは黒服を
気絶させてしまう。そこへレイチェルが初め てラーベ達の前に姿を現す。 |
ラーベ
『レイチェル=アルカード』…… 確かに、そう名乗ったんだな? |
Raabe |
1: はい |
1: |
シエル
アルカードは、最強の吸血鬼の一族だと、 前にラーベさんが言っていました。 |
Ciel |
ラーベ
そうだ。 レイが会ったという自称吸血鬼も……。 |
Raabe |
ラーベ
まぁ、吸血鬼という一族はプライドが高い。 まず嘘はついていないだろう。おそらく同じ一族だ。 |
Raabe |
シエル
そんなに、すごい一族の名前なのですか? |
Ciel |
ラーベ
そりゃあもう。『すごい』なんて言葉では到底足りないが、 『すごい』以外に言いようもない。 |
Raabe |
ラーベ
もし本当のアルカードなら、少なくともなんらかの 関わりがある存在なんだろう。それに……。 |
Raabe |
ラーベ
ラケルと顔がよく似ていたんだろう? |
Raabe |
1: 歳はラケルのほうが上に見えた |
1: |
ラーベ
……ふむ、それにしても『レイチェル』か…… ラケルを語源とする名前なのだが……。 |
Raabe |
ラーベ
しかしまぁ、こう短期間に アルカードの名を持つ者がふたりも現れるとはな。 |
Raabe |
ラーベ
この土地はよほど吸血鬼に縁があるらしい。 ……というより、アルカード家に縁があるのか? |
Raabe |
シエル
もしかしたら、観測者が アルカードの一族に縁深いのかもしれませんね。 |
Ciel |
ラーベ
その可能性もあるな。 |
Raabe |
ラーベ
気になるのは、レイと レイチェル=アルカードの接触を |
Raabe |
ラーベ
こちらでまったく感知できていない点だ。 |
Raabe |
シエル
はい。1秒に満たない時間と思われます。 |
Ciel |
ラーベ
話からして、おそらく事象干渉ではあるんだろうが…… |
Raabe |
ラーベ
ファントムフィールド内の事象に干渉するなんて、 並大抵のことじゃないんだぞ。 |
Raabe |
シエル
そうなのですか? |
Ciel |
ラーベ
ああ。ファントムフィールドは例外なく、 観測者という絶対的な存在によって形作られている。 |
Raabe |
ラーベ
だから、そこへ割って入って事象に干渉するなんて、 本来は不可能なことだ。 |
Raabe |
シエル
ですがレイさんは、それを可能にしました。 |
Ciel |
ラーベ
だから特別なんだよレイのドライブは……ん? |
Raabe |
ラーベ
……もしかしたらレイチェル=アルカードは、 この世界にではなく |
Raabe |
ラーベ
レイに干渉した可能性があるな……。 |
Raabe |
1: 僕に?/私に? |
1: |
シエル
しかし困りました……その様な形で接触されると レイさんを、守ることが出来ません……。 |
Ciel |
ラーベ
ふむ……レイ。 |
Raabe |
ラーベ
レイチェル=アルカードは、再びお前にコンタクトを 取ってくるだろう。 |
Raabe |
ラーベ
まぁ今のところ敵意はないみたいだが、十分に警戒するように。 そしてできることなら、彼女の目的を探ってほしい。 |
Raabe |
ひなた
お待たせ〜。 |
Hinata |
シエル
ひなたさん。お財布は見つかりましたか? |
Ciel |
ナオト
ああ。結局うちの玄関にあったよ。 |
Naoto |
ひなた
もう、なんで出るときに気付かなかったんだろう。 ずいぶん待たせちゃったよね、ごめんね。 |
Hinata |
シエル
いえ、問題ありません。 |
Ciel |
ナオト
ほら、行こうぜ。俺はいいけど、生徒会役員が忘れ物して 遅刻ってのは、カッコつかないからな。 |
Naoto |
ひなた
あはは。私だけじゃなくて、ナオトちゃんも遅刻は駄目だよ。 でも私が生徒会役員なんて、なんだか変な感じだなぁ。 |
Hinata |
ナオト
そうかもな。にしても……学校かぁ。 今、勉強とかって気分じゃねぇんだよなぁ……。 |
Naoto |
ひなた
ラケルちゃんのことが気がかりなのはわかるけど、 自分のことはちゃんとしてないと。 |
Hinata |
ひなた
目が覚めたときに、ナオトちゃんの生活が目茶苦茶に なってたら、ラケルちゃんも嬉しくないと思うよ。 |
Hinata |
ナオト
そうかなぁ。あいつ、その辺わりと適当っつーか……。 |
Naoto |
ナオト
こっちの生活なんて知ったこっちゃないって感じだろ。 |
Naoto |
ひなた
そんなことないと思うよ。ナオトちゃんのことも、その周りの ことも、ラケルちゃんなりに大事に思ってくれてるよ。 |
Hinata |
ナオト
どうだかな。 |
Naoto |
シエル
ラケルさんは、優しい人なんですね。 |
Ciel |
ナオト
どっちかっていうと、素直じゃないお人良しって感じかな。 |
Naoto |
ナオト
それじゃ、学校行ってくるわ。 |
Naoto |
シエル
いってらっしゃいませ。 ご武運を祈っています。 |
Ciel |
ナオト
ありがとよ。 |
Naoto |
ひなた
みんなは、これからどうするの? 放課後また一緒に帰るって言ってたけど? |
Hinata |
ラーベ
この辺りを適当にブラついてみるつもりだ。 |
Raabe |
ラーベ
地図はインストールしたが、実際に歩いてみるとまた違った 発見があるものだからな。 |
Raabe |
ひなた
そっか。あ、それならこの先の交差点にコンビニがあって、 右に曲がると美味しい喫茶店もあるよ。 |
Hinata |
シエル
了解しました。情報、ありがとうございます。 |
Ciel |
ひなた
それじゃあ、またあとで。 |
Hinata |
シエル
見てください、レイさん。 あれがきっと体育館です。資料で見たことがあります。 |
Ciel |
シエル
……これが本物の『学校』なんですね。 思っていたより、小さいです。 |
Ciel |
ラーベ
そうか、シエルは学校を見るのが初めてか? |
Raabe |
シエル
以前イシャナでも見ましたが、イシャナの魔法学校は どちらかというと研究施設のような印象がありました。 |
Ciel |
シエル
ここは、資料で見た『学校』というものに 非常に近い造りをしています。 |
Ciel |
ラーベ
そうかもな。 さて……そろそろ行きたいんだが、気はすんだか? |
Raabe |
シエル
はい。気がすみました。 ……本当は内部も見てみたかったですが。 |
Ciel |
ラーベ
不可能じゃないだろうが、ちょっと手間がかかるな。 今回は諦めろ。 |
Raabe |
シエル
わかりました。諦めます……。 |
Ciel |
シエル
ですが、どこへ向かいますか? 蟲は夜でないと、活動しません。 |
Ciel |
1: コンビニで情報誌でも買ってみる? 喫茶店でメニューでも調査してみる? |
1: |
ラーベ
興味がないわけじゃないが、実はちょっと確認したいことが あってな。とりあえず、指示通りに移動してみてくれ。 |
Raabe |
シエル
了解しました。 |
Ciel |
シエル
反応……検索……照合。 |
Ciel |
シエル
申し訳ありません。反応が多すぎて何を特定すればいいのか わかりません……。 |
Ciel |
ラーベ
まぁ住宅街だしな。私たちの移動パターンと類似するモノ だけに絞れ。 |
Raabe |
シエル
……いくつか該当する反応がありました。 |
Ciel |
ラーベ
まあ、それでいいか。 よし、その反応の横合いへ出るように先導しろ。 |
Raabe |
黒服
なっ……! 馬鹿な、貴様らどこから……! |
Black Suit |
シエル
彼らは……確か御剣機関の。 |
Ciel |
ラーベ
緋鏡キイロの部下だな。 我々と黒鉄ナオトらを監視し、尾行していたんだろう。 |
Raabe |
シエル
申し訳ありません、レイさん。 尾行を感知できませんでした。 |
Ciel |
ラーベ
気にするな。連中は蟲などと違って普通の人間だ。 敵意を隠し、人波に紛れられたら、見分けるのは難しい。 |
Raabe |
黒服
ちっ……。 |
Black Suit |
シエル
逃亡しようとしています、どうしますか? |
Ciel |
ラーベ
捕獲しろ。 |
Raabe |
ラーベ
せっかく近くまで来てくれたんだ。じっくり、色々と 話を聞かせてもらおうじゃないか……フフフッ。 |
Raabe |
1: 了解! |
1: |
シエル
了解。対象を捕獲します。 |
Ciel |
ラーベ
つべこべ言ってないで、さっさと捕まえろ。 |
Raabe |
黒服
ぐはぁっ……。 |
Black Suit |
シエル
対象、捕獲しました。 |
Ciel |
ラーベ
よしよし。……って、気を失ってるじゃないか! これじゃあ、この世界の御剣機関の情報が聞き出せんぞ。 |
Raabe |
シエル
も、申し訳ありません。 |
Ciel |
ラーベ
仕方ない。直接こいつらの脳から情報を引き出すか……。 なに、少し頭に穴を空けるだけだ、死にはしないだろ。 |
Raabe |
1: ち、ちょっと待って! |
1: |
レイチェル
お取込み中、失礼。 |
Rachel |
シエル
わ……! |
Ciel |
レイチェル
ごきげんよう。『異物』の皆さん。 |
Rachel |
第6節 少女④/ 6. Girl - 4
Summary | |
---|---|
レイチェルはある目的のため現れたが、途中
不穏な気配を感じ、姿を消す。彼女と入れ違 いに、レリウスが現われる。 |
|
シエルたちの観察が終わり、立ち去るレリウ
ス。その彼の前に現われた青年ハザマは、何 かの知らせを携えているようだった。 |
1: 君は……! |
1: |
1: あなたは……! |
1: |
レイチェル
ごきげんよう。『異物』の皆さん。 不思議の国の探検はいかがかしら? |
Rachel |
レイチェル
レイは言いつけどおり、名前は覚えたみたいね。 でも、不合格。レイチェル様とお呼びなさい。 |
Rachel |
ラーベ
……今のは、空間転移? しかもこの反応、まさか転移魔法か? |
Raabe |
レイチェル
あら。そう珍しいものでもないでしょう? 御剣機関のお嬢さん。 |
Rachel |
ラーベ
レイチェル……。お前がレイチェル=アルカードか。 |
Raabe |
レイチェル
破城カガミ。
それとも |
Rachel |
ラーベ
好きにしろ。しかしその口振りだと、 認識している、ということか。 |
Raabe |
ラーベ
このファントムフィールドを。 |
Raabe |
レイチェル
……正確には違うわ。認識しているのは私ではなく『あの人』。 私は教え聞かされただけ。 |
Rachel |
シエル
あの人、とは誰のことですか? |
Ciel |
レイチェル
私は、貴女とお話に来たのではないの。 |
Rachel |
レイチェル
それに、聞けばなんでも答えてもらえると 思わないほうが良いわよ。 |
Rachel |
シエル
以降注意します。 では、アナタの目的はなんなのですか? |
Ciel |
レイチェル
…………。 |
Rachel |
レイチェル
……まぁいいわ。会いに来たのよ、レイに。 |
Rachel |
1: 僕に? |
1: |
1: 私に? |
1: |
レイチェル
ひとつは、確認するため。 私の姿を問題なくあなたが認識できているかどうか。 |
Rachel |
レイチェル
……これは問題なさそうね。あなたどころか、 あなたのお友達にも私の姿が見えているみたいだし。 |
Rachel |
レイチェル
……信じがたいことだけれど、本当だったのね。 |
Rachel |
シエル
何がですか? |
Ciel |
レイチェル
こちらの話よ。気にする必要はないわ。 |
Rachel |
レイチェル
それから、もうひとつの目的は……知るためよ。 |
Rachel |
レイチェル
あなたたちが……いいえ『あなた』が、 なんの目的でこの世界にやってきたのかを、ね。 |
Rachel |
1: 僕の……目的? |
1: |
1: 私の……目的? |
1: |
ラーベ
答えるなレイ、呑まれるぞ。 |
Raabe |
レイチェル
驚いたわ、見かけによらず過保護なのね。 |
Rachel |
シエル
ラーベさん、一体何が……? |
Ciel |
ラーベ
|
Raabe |
ラーベ
吸血鬼。 私の部下にあまりふざけた真似をするなよ……。 |
Raabe |
レイチェル
あら……怖い。 せっかく、あなた達の手間を省いてあげようかと思ったのに。 |
Rachel |
シエル
手間? レイさんに何をさせるつもりですか!? |
Ciel |
レイチェル
あなた達と同じ……この世界の『解放』よ……。 それが本当にレイの目的ならのお話だけど。 |
Rachel |
ラーベ
……何だと? |
Raabe |
レイチェル
いかがかしらレイ。 |
Rachel |
レイチェル
私の下僕になれば、この子達よりも上手くこの異変を解決して、 この世界を解放してあげられるわ。 |
Rachel |
1: お断りします |
1: |
レイチェル
あら、即答。フフッ……少しさみしいわね。 |
Rachel |
シエル
レイさん……。 あの、その……懸命なご判断だと思います。 |
Ciel |
ラーベ
こちらからも質問だ、レイチェル=アルカード。 |
Raabe |
レイチェル
……まぁいいわ。袖にされたから、もう帰ろうと 思ったのだけれど……聞いてはあげる。 |
Rachel |
レイチェル
ただし、答えるかどうかは、約束しないわよ。 |
Rachel |
ラーベ
お前……この世界の観測者が誰か知っているのか? |
Raabe |
レイチェル
知らないわよ。当たり前でしょ。 |
Rachel |
ラーベ
ちっ……やはりそういうことか……。 |
Raabe |
シエル
あの、ラーベさん。どういうことなのですか? |
Ciel |
ラーベ
この吸血鬼は、レイを この世界の上位観測者にするつもりだ。 |
Raabe |
1: 上位観測者? |
1: |
レイチェル
流石は |
Rachel |
レイチェル
そうよ、レイが上位観測者になれば、 この世界の窯はすぐにでも破壊可能だわ。 |
Rachel |
レイチェル
私の下僕になれば……の、お話だけど。 |
Rachel |
シエル
そうなのですか? |
Ciel |
ラーベ
……可能だろう。本当にコイツがアルカードの吸血鬼ならな。 |
Raabe |
ラーベ
だがその場合、この世界で、レイが主体の 再構成が始まる。どんな不具合が出るかわかったもんじゃない。 |
Raabe |
レイチェル
あら、あなた達の『システム』は そのために在るのではなくて? |
Rachel |
ラーベ
くそっ、そこまで把握しているのか……なら解るだろ? |
Raabe |
ラーベ
イシャナのときとは話が違う、情報の密度も段違いだ。 |
Raabe |
ラーベ
そんな世界を、主体の不安定な状態で観測するのが どれ程危険なことか! |
Raabe |
ラーベ
最悪、『世界』が崩壊するぞ!! |
Raabe |
レイチェル
あら……まるで『見てきたような』言い方ね、破城カガミ。 |
Rachel |
ラーベ
!!?? このクソ吸血鬼がぁ……。 |
Raabe |
ラーベ
御剣機関が貴様らを殲滅対象に掲げているのを忘れるなよ……。 |
Raabe |
シエル
……ラーベさんの敵意上昇を確認。 レイチェルさん……アナタは私たちの敵ですか? |
Ciel |
ラーベ
……やめろシエル。 |
Raabe |
シエル
ラーベさん。……了解しました。 |
Ciel |
レイチェル
フフフッ……怒らせてしまったようね。 でも安心なさい、私はあなたたちの敵ではなくてよ。 |
Rachel |
1: ととと、とりあえずみんなおちつこう |
1: |
ラーベ
お前が落ち着けレイ。私はもう冷静だ。 |
Raabe |
ラーベ
それと吸血鬼、よく聞け。 |
Raabe |
ラーベ
我々はこの世界も、他の世界も、そして私たちの世界も救う。 な、レイ。 |
Raabe |
1: はい! がんばります!! |
1: |
シエル
微力ながら、私もお供させていただきます。 |
Ciel |
レイチェル
そう……。なら、もうひとつの目的は果たせたみたいね。 ご褒美に、幾つか質問に答えてあげても良くてよ。 |
Rachel |
ラーベ
お? ならラケル=アルカードとは、どういう関係にある? 同じアルカードなのは、偶然じゃないはずだ。 |
Raabe |
レイチェル
残念だけれど、答えられないわ。 |
Rachel |
ラーベ
お前性格悪すぎだろぉぉ!? |
Raabe |
レイチェル
まったく……単純な話よ。『ラケル』と自分の関係について、 ここにいる私が知らない。だから答えようがないわ。 |
Rachel |
レイチェル
だから『ラケル』のことは、あの人にお聞きなさい。 |
Rachel |
ラーベ
あの人? さっきも言っていたが、何者なんだ? |
Raabe |
レイチェル
会えばわかるわよ。多分、遠くない未来のことだから。 |
Rachel |
ラーベ
曖昧だな……。 |
Raabe |
シエル
あの、私からも……。多分レイさんも 同じ質問をされたいのだと思いますが……。 |
Ciel |
1: 貴女は……何者なの? |
1: |
レイチェル
私もこの世界から解放されたい、ただの『異物』よ……。 この世界に私の『探しもの』はないみたいだから……。 |
Rachel |
1: 探しもの? |
1: |
レイチェル
……質問の時間はここまでね。 不快な気配を感じるから、私はこれで失礼するわ。 |
Rachel |
シエル
不快な気配? |
Ciel |
レイチェル
貴女ならすぐにわかるわよ。 |
Rachel |
レイチェル
それから、お別れの挨拶にひとつ忠告をしてあげる。 |
Rachel |
レイチェル
この世界は誰かの意思で、誰かの願望で、 あるいは欲望、本能、そういったもので描き出されたもの。 |
Rachel |
レイチェル
ただ、意思を持つ者には誰しも、思い描ける世界に 限界というものがあるわ。 |
Rachel |
レイチェル
ここが誰かの想いを反映しているのなら、 この世界はその誰かの限界ということよ。 |
Rachel |
レイチェル
じゃあね、未熟な観測者さん。諦めずに頑張りなさい。 |
Rachel |
シエル
反応、消失しました。 |
Ciel |
ラーベ
……世界の……限界? |
Raabe |
ラーベ
チッ、考えるのは後だ。今は、奴の言い残した 『気配』とやらが気になる。シエル、索敵だ。 |
Raabe |
シエル
索敵モードは既に展開中です。……周囲には――あ! |
Ciel |
シエル
捕獲した人たちが解放されています! |
Ciel |
シエル
ですが、おかしいです! 接近に気付けませんでした! |
Ciel |
レリウス
……当然だ。気付かれないようにしたのだから。 |
Relius |
ラーベ
レリウス=クローバー!? 何故貴様が! |
Raabe |
レリウス
全く……お前が捕虜など取ったせいで、 待機中に駆り出されたのだ……。面倒この上ない。 |
Relius |
シエル
不快の理由……よくわかりました。 |
Ciel |
レリウス
しかし……この面倒の追加報酬としては……十分とも言えるな。 |
Relius |
ラーベ
なに? |
Raabe |
レリウス
クククッ……実に面白い。興味深い素材となったなソレは。 ……色々と、調べがいがある。 |
Relius |
ラーベ
不味い! 気を付けろ、レイ! |
Raabe |
レリウス
細部までよく、観せてもらおう。 |
Relius |
レリウス
……ふむ……なるほど。 だが、今の眼では観きれないか……。 |
Relius |
レリウス
複雑な構成……。それだけに、ふむ、興味深い。 しばらくは……ふむ、観察と検証が必要か……。 |
Relius |
シエル
倒れていない……。 手応えがあったのは、人形……? |
Ciel |
ラーベ
ふむふむうっさい奴だが、気を抜くなシエル。 どうにも底が知れん。 |
Raabe |
シエル
はいっ! |
Ciel |
レリウス
結構。現段階でのデータとしては十分だ……。 |
Relius |
レリウス
分析の時間が惜しい。……失礼するぞ。 |
Relius |
1: なっ! |
1: |
シエル
反応……消失。すみません、見失いました。 |
Ciel |
ラーベ
追う必要はない、むしろ追うな。 |
Raabe |
シエル
検証……分析、と言っていました。 彼は一体、なんなのでしょう? |
Ciel |
1: ちょっと不気味 |
1: |
ラーベ
レリウス=クローバー……。評判は耳にしたことがあるが、 奴を理解しようとするほうが無駄だ。 |
Raabe |
シエル
わかりました。ですが……もし彼が観測者であった場合、 対処は非常に困難になりそうです。 |
Ciel |
ラーベ
いや……その可能性は極めて低いと思うぞ。 むしろ無いと断言してもいいくらいだ。 |
Raabe |
ラーベ
さっき、レイチェルが言っていただろう。 この世界の有様が、そのまま観測者の限界でもあると。 |
Raabe |
ラーベ
もしこの世界がレリウス=クローバーの生み出したもの であるのなら、ここは……あまりに普通すぎる。 |
Raabe |
シエル
……確かに、そうかもしれません。 |
Ciel |
ラーベ
まあだが、可能性がまったくないわけでもない。 万が一ということもあるからな。あったらほんと怖いけど。 |
Raabe |
シエル
はい。油断は禁物ですね、ラーベさん。 |
Ciel |
ラーベ
そういうことだ。 |
Raabe |
ラーベ
……さて、御剣機関下っ端の捕獲には失敗したことだし、 もう少し辺りを見て回ったら学校へ戻るか。 |
Raabe |
シエル
はい。 |
Ciel |
男
ああ、こちらにいらしたんですか。 探しましたよ、レリウス=クローバーさん。 |
Man |
レリウス
……お前か。 |
Relius |
男
まったくもう、ひどいじゃないですか。 こっちは任せっきりで、勝手なことばっかりなさって。 |
Man |
男
あとでキイロさんに嫌味を言われる身にも なっていただきたいものです。 |
Man |
レリウス
……愚痴のために来たのか? |
Relius |
男
ああ、いえいえ、そんなわけないじゃないですか。 |
Man |
男
お知らせしたいことがあったのに、 連絡はつかないし一向に戻られる様子もない。 |
Man |
男
困り果てていたところに、先ほどウチの職員が、 貴方に助けられた〜という報告が入ったものですから、 |
Man |
男
慌てて駆け付けたというわけです。 |
Man |
男
いやぁ、走りましたよ。 勘弁してくださいよ、私、運動は専門外なんですから。 |
Man |
レリウス
……知らせ? |
Relius |
男
はいはい。アレの準備がそろそろ整うようです。 |
Man |
レリウス
そうか。 |
Relius |
男
完成次第、キイロさんはすぐにでも 始めるつもりだそうですよ。 |
Man |
男
あれだけ大きくなると、 こちらで管理するのも一苦労ですからね。 |
Man |
男
早めに処理してしまいませんと、 コストがかかるばかりです。 |
Man |
レリウス
わかった。こちらはやるべきことをやろう。 |
Relius |
男
ええ、よろしくお願いしますよ。 |
Man |
男
……それにしても、面白くなってきたじゃありませんか。 おかしな舞台に、おかしな脚本、おかしな役者。 |
Man |
男
これは……裏方仕事としても、 より楽しい舞台になるような演出をほどこさねばなりませんね。 |
Man |
第7節 告白①/ 7. Confession - 1
Summary | |
---|---|
学校を終えたナオトたちと帰宅するシエルた
ち。ひなたを手伝い、夕飯の準備に当たる。 気合十分にシエルたちは蟲を退治する。 |
|
蟲退治に奔走するも、アラクネは現われない。
ナオトは不意に、白昼夢のように出会った女 の子について話す。 |
ひなた
みんな、お待たせ〜。 |
Hinata |
シエル
ひなたさん、ナオトさん。お疲れ様です。 |
Ciel |
ナオト
悪いな、ずっと待たせてて。 |
Naoto |
シエル
いいえ。我々が待っていると言ったのですから、 気にしないでください。 |
Ciel |
サヤ
こんにちは。本当にいらしていたとは、驚きました。 |
Saya |
シエル
サヤさん。もう体は大丈夫なのですか? |
Ciel |
サヤ
はい。心配をおかけしました。一日しっかり療養したおかげか、 今日はむしろ調子がいいくらいです。 |
Saya |
ナオト
だからって無理すんなよ。落ち着いてるだけで、 治ったわけじゃねぇんだから。 |
Naoto |
サヤ
わかっております。 ……本当に、わずらわしい体です。 |
Saya |
シエル
お体が弱いと以前に聞きましたが、 それは治しようのないことなのですか? |
Ciel |
サヤ
え? ……ええ。 医者には、命を繋いでいるだけでも信じがたいと。 |
Saya |
サヤ
これも、幼いころの鍛練の賜物ですね。 |
Saya |
サヤ
それに、一時ではありますが、あのヴァルケンハインとも 互角以上に渡り合えると自負しております。 |
Saya |
シエル
確かにあの剣戟には眼を見張るモノがありました。 しかし、持久戦に持ち込まれた場合……。 |
Ciel |
サヤ
ふふふ。なので、皆様の事が羨ましく思うときもあります。 |
Saya |
サヤ
ですが、シエルさんは本当に、変わった方ですね。 |
Saya |
サヤ
そのようなことを真正面から本人に尋ねる人など、 あまりお目にかかりません。 |
Saya |
シエル
あ。失礼な質問だったでしょうか。すみません。 |
Ciel |
サヤ
いえ、お気になさらず。 気安く励まされるよりずっといいです。 |
Saya |
サヤ
それに、共に戦う仲間の戦力分析は必要ですからね。 |
Saya |
ラーベ
物騒な話は置いといてだ、 サヤも、ナオトたちと同じ学校に通っているのか。 |
Raabe |
サヤ
はい。 ですから、兄とひなたさんは、学校では先輩です。 |
Saya |
シエル
先輩……。 |
Ciel |
サヤ
はい。 |
Saya |
ナオト
なにが先輩だよ、学校でそんな風に呼んだこと、 一度もねぇだろうが。 |
Naoto |
サヤ
それはそうです、兄様を兄様以外でお呼びするのは、 なにやらこそばゆいですから。 |
Saya |
ひなた
ナオトちゃんだって、サヤちゃんに先輩って呼ばれたら、 恥ずかしがるでしょ? |
Hinata |
ナオト
うーん……まあ、確かに。 |
Naoto |
サヤ
まあ。それでしたら、あえて口にしたいものですね。 黒鉄先輩。 |
Saya |
ナオト
うっ……やめろよ。 |
Naoto |
サヤ
言い出したのは先輩ではありませんか。 |
Saya |
ナオト
だからぁやめろって、なんか、気持ち悪いぞ。 |
Naoto |
サヤ
!? サヤのこと気持ち悪いだなんて…… お兄ちゃんひどい……。 |
Saya |
ナオト
ごめんなさい、おねがいします、かんべんしてください。 |
Naoto |
サヤ
ふふ。これは良いことを覚えました。 もしものときは、活用いたしましょう。 |
Saya |
ナオト
なんだよ、もしもって。 |
Naoto |
サヤ
さて。なにに使いましょうか。 |
Saya |
ナオト
ぜってーロクなこと考えてねぇな、こいつ……。 |
Naoto |
シエル
どうして、先輩やお兄ちゃんと呼ばれるのが 恥ずかしいのですか? |
Ciel |
ナオト
だ、だってほら、普段と違う呼び方されるとさ、 なんだか落ち着かないじゃん! |
Naoto |
ナオト
それが妹相手なら、なおさらじゃん!! |
Naoto |
ラーベ
……ナオト。なんかすごく焦っているように見えるぞ。 |
Raabe |
ナオト
そそそそんな事ありませーん。 |
Naoto |
シエル
つまり、ナオトさんにとって妹というのは、 それほど特別な存在なのですね。 |
Ciel |
ナオト
特別って……まあ……そうだな。一応、家族だし。 |
Naoto |
シエル
家族……。ひなたさんも、家族のようなものだと 言っていました。 |
Ciel |
ひなた
私は……サヤちゃんとはまたちょっと違う感じだよ。 親戚だけど、兄妹ではないし。 |
Hinata |
ナオト
でも、似たようなもんだろ。 |
Naoto |
ひなた
そう? えへへ、じゃあそうかな。 |
Hinata |
シエル
家族にも色々な種類があるんですね。 |
Ciel |
ひなた
うん、そうだね。 |
Hinata |
ひなた
あ、家族で思い出した。スーパー寄って行ってもいい? 夕飯の材料買わないといけないの。 |
Hinata |
ナオト
なんで家族をキーワードに思い出した……? 別にいいけど、なに買うんだ? |
Naoto |
ひなた
ひき肉とニラと、餃子の皮。今夜は餃子にしようと思って。 |
Hinata |
シエル
ギョウザ……ですか。知らない食べ物です。 |
Ciel |
ひなた
餃子、知らない? あ、なら一緒に作ろうよ。 |
Hinata |
シエル
私でお役に立てるのでしたら。 |
Ciel |
ひなた
やった。餃子ってひとりで包むの大変だから、助かっちゃう。 そうだ、サヤちゃんも一緒に食べていったら? |
Hinata |
サヤ
お誘いはありがたいのですが、私は一度家に戻ります。 |
Saya |
サヤ
夜に冥さんたちと合流する前に、 明日提出の課題を終わらせてしまいたいので。 |
Saya |
ひなた
偉〜い! ナオトちゃん、聞いた? |
Hinata |
ナオト
聞いてませーん。 |
Naoto |
ひなた
もう。少しはサヤちゃんを見習いなさい。 |
Hinata |
ラーベ
……ところでナオト。『お兄ちゃん』と言う 呼称についてなのだが……。 |
Raabe |
ナオト
しつけーよ!!! |
Naoto |
ひなた
タネをこれくらい載せて、皮のフチに水をつけてね。 こうやって……くっつけるの。 |
Hinata |
シエル
……これが餃子、ですか。 |
Ciel |
シエル
データでは知ってましたが、本物は初めて見ました。 思っていたよりも……湿り気のある物質なのですね。 |
Ciel |
ひなた
ここにあるタネを全部こうやって包んだら、フライパンで 焼いて完成だよ。はい、シエルちゃんもやってみて。 |
Hinata |
シエル
はい。やってみます。 |
Ciel |
ひなた
はい、レイくんも。 |
Hinata |
ひなた
はい、レイちゃんも。 |
Hinata |
1: こういうのは得意! |
1: |
ひなた
本当? よかった。 たくさんあるから、よろしくね。 |
Hinata |
ひなた
少しずつ慣れたら大丈夫だよ。 たくさんあるから、よろしくね。 |
Hinata |
ひなた
ナオトちゃんも、手伝って〜。 |
Hinata |
ナオト
へーい。 |
Naoto |
シエル
こうして……こう、して……。 |
Ciel |
シエル
中々、難易度が高いです。ひなたさんが作ったものと、 同じようになりません……。 |
Ciel |
ひなた
そんなことないよ、すごく上手だよ。それに、皮がくっついて いれば大丈夫だから、気にしないでどんどん作ろう。 |
Hinata |
シエル
はい。 |
Ciel |
シエル
……あの。こういう技術も、学校で学習するのですか? |
Ciel |
ひなた
そうだなぁ。家庭科で包丁の使い方とかも教わったりするけど、 料理は家で覚える人が多いんじゃないかなぁ。 |
Hinata |
ひなた
私も、本やテレビで見たり、色々家でやってみて だんだん覚えた感じだよ。 |
Hinata |
ラーベ
そういえば、ひなたの家族とはまだ顔を合わせていないな。 姉がいるんだったか。いつも家にいるのか? |
Raabe |
ひなた
……ほとんどお仕事で家にいないんだ。 最近は特に忙しいみたいで。 |
Hinata |
ひなた
……あれ? 前に帰ってきたのいつだっけ……。 |
Hinata |
ラーベ
ふーむ、そうか。 確か、ひなたとその姉はナオトの親戚なんだったな? |
Raabe |
ナオト
ああ、そうだよ。 |
Naoto |
ラーベ
ひとつ聞きたいんだが、 ひなたの姉はドライブ能力者ではないのか? |
Raabe |
ひなた
どら……いぶ? なに、それ? |
Hinata |
シエル
ナオトさんやサヤさんが、戦うときに使っている力のことです。 冥さんやエスさんも、持っています。 |
Ciel |
ひなた
ああ、あのすごいやつね! うーん、お姉ちゃんには そういう力はないと思うよ。私も戦ったりできないし……。 |
Hinata |
ひなた
ナオトちゃんたちみたいなことができたら、私もラケルちゃんの 目を覚ますお手伝いができるんだけどなぁ……。 |
Hinata |
ナオト
これ以上の手伝いはいらねぇよ。ひなたまでサヤみたいなこと し始めたら、こっちの身がもたねぇ。 |
Naoto |
ひなた
え、どうして? お手伝いが増えたほうがいいと思うけど……。 |
Hinata |
ナオト
お前に怪我でもされたら、ユキさんに合わせる顔がねぇだろ。 なんて言えばいいんだよ。 |
Naoto |
ひなた
そんなに心配しなくても、大丈夫だよ〜。 |
Hinata |
ナオト
大丈夫だと思えねぇから、心配してんだろうが。 |
Naoto |
ラーベ
……なら、ラケル=アルカードはどうだ? ドライブ能力を持ってるのか? |
Raabe |
ナオト
ああ。俺がドライブ能力を手に入れたときに、教えてくれたよ。 風を操るドライブだって言ってた。 |
Naoto |
ナオト
それがどうかしたのか? |
Naoto |
ラーベ
いや、念の為に少し確認しておきたかっただけだ。 |
Raabe |
ナオト
ふうん? |
Naoto |
ひなた
ナオトちゃん、手が止まってるよー。 |
Hinata |
ナオト
ああ、はいはい。 |
Naoto |
ひなた
ふふ、なんだか大勢で楽しいね。ラケルちゃんが起きたら、 今度はラケルちゃんも一緒に餃子作りしたいな。 |
Hinata |
ナオト
そうだな。まあ、あいつがこういうことやるとは、 思えねぇけど。 |
Naoto |
ナオト
……にしても、量多いな! |
Naoto |
ひなた
たくさん食べて、夜に備えてもらわないとだからね。 |
Hinata |
シエル
作戦行動に、補給は重要です。頑張ります。 |
Ciel |
ひなた
うん。わぁ、シエルちゃん、それすごく上手! |
Hinata |
シエル
あ……ありがとうございます。次、作ります! |
Ciel |
シエル
次、倒します! |
Ciel |
ラーベ
よし、追いついた。 ちょこまか逃げられる前に、さっさと片付けるぞ。 |
Raabe |
シエル
はい。 行きます、レイさん! |
Ciel |
蟲
ギッ……。 |
Bugs |
シエル
これで最後ですね。 |
Ciel |
1: はー、疲れた |
1: |
シエル
はい。ですがこれで、感知した分は全てです。 お疲れ様でした。 |
Ciel |
ナオト
おーい、そっち終わったか? |
Naoto |
ラーベ
おお、片付いてるぞー。そっちも無事に終わったみたいだな。 |
Raabe |
Es
任務完了です。こちらが追っていた群体は、片付きました。 あとは冥とサヤさんが……。 |
Es |
冥
どうやら、ちょうどいいタイミングだったようだな。 |
Mei |
シエル
冥さん、サヤさん。 おふたりも戻られたのですね。 |
Ciel |
サヤ
ええ。冥さんの陣にかかった蟲は全て、始末してまいりました。 |
Saya |
冥
しかし、さすがに堪えるな。 連日、これだけの数を駆除するとなると。 |
Mei |
ナオト
ああ……。そのうち全滅させそうな勢いで潰して回ってるって のに、それでもまだ出てくるんだからな……。 |
Naoto |
ナオト
蟲憑きも結構な数見かけた。やっぱアラクネの被害が 広がってるってことだよな。 |
Naoto |
サヤ
先日、レイさんを喰らい損ねたので 焦っているのか、それとも何か別の企みがあるのか……。 |
Saya |
冥
……アレが謀の出来そうな生物には見えんが……。 どちらにしろ、早々になんとかしなければな……。 |
Mei |
冥
天ノ矛坂家の者としても、被害がこれ以上、 広がり続ける現状は看過できん。 |
Mei |
ラーベ
気持ちはわかるが、焦るな。御剣機関が関わっていると わかった以上、事は簡単にはいかないぞ。 |
Raabe |
ナオト
…………。 |
Naoto |
シエル
ナオトさん? どうかしましたか? |
Ciel |
ナオト
あ、ああ、いや。 そういえば、こんな感じのときだったなーと思って。 |
Naoto |
Es
なにが、ですか? |
Es |
ナオト
ほら。サヤには話しただろ。 前に……ここに女の子がいたって話。 |
Naoto |
サヤ
ああ……兄様が体験された、心霊現象のことですか。 |
Saya |
冥
心霊現象だと? |
Mei |
ナオト
いや、そういうんじゃねぇから……。 |
Naoto |
ナオト
この前、冥たちが帰った後、ほんの一瞬、 白昼夢みたいな感じで……女の子に会ったんだよ。 |
Naoto |
ナオト
顔もはっきり見えなかったし、話をしたわけじゃ ないんだけど。なんだったんだろうな、あの子……。 |
Naoto |
1: それって…… |
1: |
ラーベ
レイ。 |
Raabe |
ナオト
ん? なんだ、どうした? |
Naoto |
ラーベ
いや、なんでもない。 それより、そろそろ撤収の時間じゃないか? |
Raabe |
ナオト
うわ、ほんとだ、もうこんな遅いのかよ……。 くそ……今夜もアラクネは現れなかったってことか。 |
Naoto |
サヤ
……居所さえわかれば、奇襲でもなんでも仕掛けるのですが。 歯がゆいですね。 |
Saya |
冥
私とエスはもう少し辺りを調査してから戻る。 奴が出てこないのなら、少しでも多く蟲を潰しておきたい。 |
Mei |
ナオト
あんま無理すんなよ。なんかあればすぐに呼べ。 |
Naoto |
冥
ふん、見くびるな、小僧。 さあ、行くぞ、エス。 |
Mei |
Es
はい。失礼します。 |
Es |
サヤ
私も帰宅いたします。……おやすみなさいませ。 |
Saya |
ナオト
ああ。明日こそ、アラクネの尻尾を掴もう。 |
Naoto |
ナオト
よし。じゃあ俺達も戻るか。 あんまり遅くなりすぎると、ひなたが心配する。 |
Naoto |
シエル
はい。 |
Ciel |
第7節 告白②/ 7. Confession - 2
Summary | |
---|---|
特に収穫はなく、数日が過ぎる。ラーベは事
象を乱し続けることが、事態の緩やかな進行 に繋がると言う。 |
|
Esを伴わずに現われた冥。この世界になんと
も言えない違和感を覚える冥は、この世界の 住人ではないように思うと告白する。 |
冥
私とエス、ナオトとサヤ。 それからレイとシエル。 |
Mei |
冥
今夜はこの組み分けでいくぞ。 |
Mei |
シエル
はい。頑張ります。 |
Ciel |
ラーベ
む、私は? |
Raabe |
冥
……お前は戦力外だからな、好きな奴についていけばいいだろ。 |
Mei |
ラーベ
日に日に扱いが雑になってきてないか!? |
Raabe |
ナオト
あんたの扱いは置いといてだ。今夜こそなにか……って 思ってるけど、 |
Naoto |
ナオト
ここ数日、収穫は無いしな……。 |
Naoto |
冥
最初にアラクネにたどり着けたのが、むしろ幸運だったんだ。 そう簡単に収穫があるものでもない。 |
Mei |
冥
それより、蟲が活発なのに反して、 御剣機関の連中がいやにおとなしいのが気になる。 |
Mei |
冥
ヴァルケンハインやレリウスなんて規格外を連日相手にするなど、 考えたくもないが……。 |
Mei |
冥
ぱったり姿を見せないのも、それはそれで不気味だ。 |
Mei |
ラーベ
……緋鏡キイロは、ナオトに強い関心を抱いていた。 |
Raabe |
ラーベ
蟲の駆除程度であっても、我々が動いていることを 示し続けることは、御剣機関へのアプローチにもなる。 |
Raabe |
ラーベ
そういう小さな『ちょっかい』が、 物事をやがて動かすはずだ。 |
Raabe |
サヤ
できれば、あまり焦らさず早々に動いてほしいものです。 |
Saya |
Es
……行きましょう。蟲が動き出します。 |
Es |
冥
……そうだな。 |
Mei |
シエル
ラーベさん。私達もこのまま、毎晩の蟲の駆除を しているだけでいいのでしょうか? |
Ciel |
ラーベ
いいわけがあるか。 |
Raabe |
シエル
えっ! |
Ciel |
ラーベ
というか、蟲などどうだっていい。 我々が探しているのは観測者だ。 |
Raabe |
シエル
はい。ですが現在、状況は膠着しています……。 |
Ciel |
ラーベ
いや、そうでもない。 |
Raabe |
シエル
そうなの、ですか? |
Ciel |
ラーベ
観測者の願望から生まれたこの世界にとって、 私たちだけは『あり得ない』存在だ。 |
Raabe |
ラーベ
それがアラクネや御剣機関といった、 この世界の中心に深く関わっているだろうものに接触した。 |
Raabe |
ラーベ
これは『あり得ない』出来事だ。 |
Raabe |
ラーベ
あり得ない存在が、あり得ないことを引き起こす。 それによって観測者が観測するはずだった事象が乱れる。 |
Raabe |
ラーベ
重要なのは『乱し続ける』ことだ。 小さな波紋でも、それはやがて大きな波になる。 |
Raabe |
ラーベ
たとえば、こういう奴等だ。 |
Raabe |
ラーベ
私たちが……いや、レイが事態に 関わり続けていれば、それは膠着じゃない。緩やかな進行だ。 |
Raabe |
ラーベ
なので、心してかかれよ。 |
Raabe |
シエル
なるほど……わかりました。全力で対象を殲滅します。 レイさん、よろしくお願いします。 |
Ciel |
シエル
この周辺も蟲は殲滅しました。 |
Ciel |
ラーベ
アラクネらしい反応も付近にはなさそうだな。 少し休憩するとしよう。 |
Raabe |
シエル
そうですね。あそこにベンチがあります。 レイさん、どうぞ。 |
Ciel |
ラーベ
夜の公園のベンチか。青春の風情があるなぁ。 |
Raabe |
シエル
青春……思春期のことですね。 ですが、どうして公園のベンチが青春なんですか? |
Ciel |
ラーベ
ん? そうだな……なんと説明したものか……。 |
Raabe |
ラーベ
思春期の人間は、意中の人物となにかと秘密裏に会いたがるんだ。 周囲になるべく気づかれずにな。特に夜だ。 |
Raabe |
ラーベ
そういうときの恰好のあいびき場所が、 夜の公園のベンチというわけだ。 |
Raabe |
シエル
なるほど。ではこれも、あいびきですか? |
Ciel |
ラーベ
……断っておくが、この場合のあいびきというのは、 好意を寄せる者同士が行うことだからな。 |
Raabe |
シエル
好意……好ましいと思う感情、反応。 |
Ciel |
シエル
好ましいというのは、推奨されるべき状態、 障害がなく順調である様などに用いる表現です。 |
Ciel |
シエル
レイさんは、私を好ましいとお思いですか? |
Ciel |
1: えっ!? いや、そんな急に言われても…… |
1: |
シエル
すみません、困らせてしまいましたか。 物事の状況を判断するのは、難しいものです。失礼しました。 |
Ciel |
シエル
では、これはあいびきですね。貴重な体験です。 |
Ciel |
ラーベ
う、うん……まあ、いいか。詳しくつっこまなくても。 |
Raabe |
冥
ここにいたか。 |
Mei |
シエル
冥さん。どうしたんですか? エスさんはご一緒ではないのですか? |
Ciel |
冥
担当していた辺りが、あらかた片付いたのでな。 様子を見に来た。エスは、向こうで休憩中だ。 |
Mei |
冥
……いや。エスは向こうで、待たせてある。 実は……お前たちに話したいことがあって来たんだ。 |
Mei |
冥
黒鉄や輝弥にはあまり聞かせたくない話だ。 だから……今、聞いてほしい。 |
Mei |
ラーベ
なにやら込み入った話のようだな。ぜひ聞こう。 |
Raabe |
シエル
よろしければ、どうぞ。座ってください。 |
Ciel |
冥
いや、いい。そっちは座ったままでいいから、 そのまま……聞いてくれ。 |
Mei |
シエル
わかりました。 |
Ciel |
冥
前に、言っていただろう。 お前たちは、この世界の『外側』から来たと。 |
Mei |
シエル
はい。 |
Ciel |
シエル
私達のいたところは、不定形の空間で…… その中を潜行する船の中から、ここへ来ました。 |
Ciel |
冥
船? それは想像もしていなかったな。 |
Mei |
冥
てっきり、こことは違う景色の世界から 紛れ込んだのかと思った。 |
Mei |
冥
……私のようにな。 |
Mei |
1: どういうこと? |
1: |
冥
私自身、どういうことなのか、よくわかっていないんだが……。 ここは私がいるべき世界ではない。そう強く感じている。 |
Mei |
冥
……あ! 違うぞ、思春期の若者にありがちな、 そういうアレではない。断じて違う! |
Mei |
シエル
そういうアレとは、なんですか? |
Ciel |
冥
う、あ、いや……ゴホン。 なんでもない。今のは、なしだ。 |
Mei |
冥
だが、お前たちにならわかるだろう? 私の言っている意味が。 |
Mei |
ラーベ
もう少し詳しく聞かせてくれないか。 |
Raabe |
冥
……私は確かに、日本に住んでいた。 日本の、天ノ矛坂家にだ。 |
Mei |
冥
ここと似た風景の町だったと思う。 だから……最初は些細な違和感でしかなかった。 |
Mei |
冥
いつからそうだったのかは、思い出せない。 |
Mei |
冥
だが気付いたときには私は、 新川浜にある天ノ矛坂家で暮らし、エスというメイドを抱え…… |
Mei |
冥
黒鉄ナオトの学友だった。 |
Mei |
冥
だが徐々に、それは違うと……感じるようになった。 |
Mei |
冥
私には確かに、親しい男の友人がいた……と、思う。 そんな気がする。 |
Mei |
冥
彼と共になにかと戦った気がする。 もう忘れてしまった、微かな夢のような記憶だが……。 |
Mei |
冥
それは、黒鉄ナオトではなかったはずだ。 |
Mei |
シエル
…………。 それは……。 |
Ciel |
冥
悲しいわけではないぞ。 ただ……どちらかというと悔しい。 |
Mei |
冥
はっきりしない違和感がずっと引っかかっていて、 気持ちが悪かった。 |
Mei |
冥
だからな、お前たちが『世界の外側』と言ったとき、 ほっとした。私の違和感は、きっと間違っていない。 |
Mei |
冥
世界は確かに歪んでいる。 そして私は『此処』の住人ではない。 |
Mei |
冥
ならば私は、本当の場所に戻りたい。 |
Mei |
冥
このまま『此処』の人間になるつもりはない。 そのことを……伝えておきたかった。 |
Mei |
シエル
それは……。 |
Ciel |
冥
……これは定かじゃないが、おそらくエスもそうだろう。 |
Mei |
冥
私と同じように、『此処』ではないどこか別の場所を 見ているように感じる。 |
Mei |
冥
どこかというより、誰かを、だな。 そしてそいつはたぶん、この世界にはいないんだ。 |
Mei |
ラーベ
…………。 |
Raabe |
冥
勘違いしないでくれ。だからどうしてくれとか、 そういうことが言いたいわけじゃないんだ。 |
Mei |
冥
ただお前たちなら、こんな妙な話にも 真面目に耳を傾けてくれるだろうと思ってな。 |
Mei |
冥
……話はそれだけだ。誰かに聞いてほしかったんだ。 |
Mei |
冥
集合時間には、まだ少しある。 私はエスと合流して、もうひと仕事してこよう。 |
Mei |
シエル
……あの、冥さん。 |
Ciel |
冥
なんだ? |
Mei |
シエル
冥さんは……冥さんの言う『本来の世界』に 戻りたいのですか? |
Ciel |
冥
当たり前だ。 戻れるなら、戻りたいに決まっているだろうが。 |
Mei |
冥
いや、戻りたいんじゃないな。帰りたいんだ。 私の大切なものがあるはずの場所にな。 |
Mei |
シエル
…………。 |
Ciel |
シエル
……ラーベさん。冥さんのお話をどう思われますか? 冥さんは、『異物』なのでしょうか? |
Ciel |
ラーベ
ふーむ。……わからん。 |
Raabe |
ラーベ
本来の『異物』なら、自分がそうであると自覚しているものだ。 冥の今の告白は、自覚しているがゆえのものだとも受け取れる。 |
Raabe |
ラーベ
だが……。 |
Raabe |
シエル
……冥さんは『帰りたい』と言っていました。 |
Ciel |
シエル
『世界』とはどのようなものなのでしょう。 帰りたくなるような場所なのでしょうか……? |
Ciel |
1: 自分の故郷みたいな感じじゃないかな 自分の証明みたいな感じじゃないかな |
1: |
シエル
そうなんですね。私にはよくわかりませんが…… 大事なものなんでしょうね、きっと。 |
Ciel |
シエル
冥さんが本来の世界に戻れたらいいと思いました。 |
Ciel |
ラーベ
やれやれ。情操教育の時間ではないんだぞ。 体力に問題がないのなら、こちらも動くぞ。 |
Raabe |
シエル
はい。 行きましょう、レイさん。 |
Ciel |
第8節 蟲王①/ 8. Insect King - 1
Summary | |
---|---|
放課後、ナオト・サヤと合流したシエル達。
下校途中に蟲憑きが明るい時間に放浪してい る事が目に入り、駆除することを決める。 |
……を……探して。 |
|
そして私……つけて……。 |
|
見つけて……。 |
|
シエル
学校、お疲れ様です。ナオトさん。 |
Ciel |
ナオト
おう、待たせたな。 |
Naoto |
サヤ
こんにちは。 |
Saya |
シエル
はい、こんにちは、サヤさん。 |
Ciel |
ナオト
あ〜〜〜……疲れたぁ。午後に自習でプリントと読書とか、 寝るなってほうが無理だろ。 |
Naoto |
サヤ
まあ、兄様。兄様が不真面目ですと、 ひなたさんの評判にも障ります。用心してくださいませ。 |
Saya |
ナオト
んだよ、早速小言を言うなって。 一応、頑張って耐えてたんだから。 |
Naoto |
サヤ
ひなたさんに起こされながら、ですか? |
Saya |
ナオト
……なんでわかるんだよ。 |
Naoto |
サヤ
わかりますとも。兄様のことですから。 まったく、手のかかる兄です。 |
Saya |
ナオト
悪うございましたね。 |
Naoto |
シエル
あの。そのひなたさんは、一緒ではないのですか? |
Ciel |
ナオト
ああ、そうだった。ひなた、急に生徒会の会議が あるらしくてさ。先に帰ってろってよ。 |
Naoto |
シエル
そうですか。 ……生徒会、とはなんですか? |
Ciel |
ナオト
んー、学生の役員会みたいなもんかな。 |
Naoto |
ナオト
自分たちの色々なことを、代表者の生徒会役員たちが 話し合って決めたりするんだよ。よく知らねぇけど。 |
Naoto |
シエル
では、ひなたさんは学校の重役なのですか。 |
Ciel |
ナオト
重役っていうか……まあ……そんな感じか。 |
Naoto |
シエル
お料理もお掃除もできて、そのうえ役員とは。 すごい方なのですね。 |
Ciel |
サヤ
ええ。本当に。 |
Saya |
ナオト
そしたら、帰るか。どこか寄るところとかあるか? |
Naoto |
シエル
いいえ、私達は特にはありません。 |
Ciel |
ナオト
サヤは? どのみち夜また来るんだし、このままうちにくるか? |
Naoto |
サヤ
そうですね……ですが鞄を持ったまま刀を振るうのも 煩わしいですし、一度家に戻りたくもあります。 |
Saya |
ナオト
鞄くらい、うちに置いておけばいいじゃねぇか。 |
Naoto |
サヤ
よろしいのですか? |
Saya |
ナオト
当たり前だろ。兄妹で変な遠慮すんなよ。 |
Naoto |
サヤ
まあ。嬉しい。 |
Saya |
ナオト
なんだよ。俺、そんなに普段冷たいか? |
Naoto |
サヤ
いえ、とんでもない。そんなことはありません。 ですがなにやら、嬉しかったのです。 |
Saya |
ナオト
そーですか。じゃあ、帰るぞ。 |
Naoto |
シエル
はい。 |
Ciel |
シエル
ところで、ナオトさん。質問があるのですが。 学校とは、どんなことをする場所なのですか? |
Ciel |
シエル
様々な科目について学んでいるということは知っているの ですが、具体的にはどのようなことをしているのだろうと。 |
Ciel |
サヤ
……興味がおありですか? |
Saya |
シエル
はい。資料でしか知らないので、気になっています。 |
Ciel |
ナオト
まあ……大体は、今言ったみたいに 授業で勉強してるんだけど……。 |
Naoto |
ナオト
昼休みに弁当食ったりとか。おすすめのゲームの貸し借りとか。 まあ、大体友達と下らねぇ話してるかな。 |
Naoto |
サヤ
兄様はゲームがお好きなのだそうですね。 先日も、ご友人からいくつか借りられたとか。 |
Saya |
ナオト
げ。なんで知ってんだよ。 ……まさかひなたか? |
Naoto |
サヤ
はい。なんでも……『らぶらぶ学園パラダイス』、 『お姉ちゃんといっしょ☆』、そんな題名でしたね。 |
Saya |
ラーベ
ほっほーう。少年、そういう趣味なのか。 |
Raabe |
ナオト
ちげーよ! 俺の趣味じゃねぇから! 友達の趣味だから! |
Naoto |
シエル
なるほど。 お友達が、そのようなご趣味を持っているのですね。 |
Ciel |
ナオト
えっ……ああ、まあ、うん、そうだな、うん。 |
Naoto |
ラーベ
しかし、ふむ、友達か。 その友達は、なんという人物なんだ? |
Raabe |
ナオト
ああ、同じクラスで……。 |
Naoto |
蟲憑き
う……う……。 |
Bugs |
サヤ
皆様。あれを。 |
Saya |
ナオト
蟲憑きが、なんでこんな明るい場所うろついてんだ……!? |
Naoto |
サヤ
さて。このところ蟲の活動が活発であったことと、 なにか関わりがあるのでしょうか。 |
Saya |
ラーベ
あのまま進むと、大通りへ出るな。 |
Raabe |
ナオト
チッ、こんな学校の近くで誰かが巻き込まれるなんて、 とんでもねぇ。今の内に片付けとこうぜ! |
Naoto |
サヤ
あの程度、造作もありません。 すぐに屍に変えてご覧に入れます。 |
Saya |
ナオト
屍に変える必要はねぇよ! |
Naoto |
シエル
対象を補足。対象を攻撃します。 |
Ciel |
第8節 蟲王②/ 8. Insect King - 2
Summary | |
---|---|
駆除後の夜、帰りの遅いひなたを心配するナ
オト。突如冥に呼び出され、向かった先には、 多くの生命力を喰ったアラクネの姿があった。 |
ナオト
蟲憑きだけじゃなくて、蟲まで、 こんなとこに出てきやがるなんてな……。 |
Naoto |
サヤ
行動法則が変わったのでしょうか。 いえ……むしろ……。 |
Saya |
ラーベ
活動範囲が広がった、という感じだな。 |
Raabe |
サヤ
そうですね、その通り。 アラクネの力が強まった、と考えるのが自然でしょうか。 |
Saya |
ナオト
くそっ。だったらいっそ アラクネ本人が出てきてくれりゃあいいのによ。 |
Naoto |
ナオト
そしたらとっととぶっ倒してやるってのに……。 |
Naoto |
サヤ
ええ……。 |
Saya |
サヤ
……ですが、アラクネと再び相まみえたとしても、 前回と同じことになってしまっては意味がありません。 |
Saya |
サヤ
アラクネが観測者であったのなら、奴を仕留めてはならない とのこと。であれば私たちはどうするべきなのでしょう……。 |
Saya |
サヤ
どうすれば、ラケルさんの目を覚ますことが できるのでしょうか……。 |
Saya |
ラーベ
今は難しく考える必要はない。 お前たちは自分の意志に従い行動すればいい。 |
Raabe |
ラーベ
なんにせよ、アラクネがいないことには始まらない。 そのためにも蟲を倒して、奴をおびき出してもらわなければ。 |
Raabe |
ラーベ
観測者やアラクネについては、状況を見て私が答えを出す。 |
Raabe |
ナオト
頼りにしてるぜ。 難しいこと考えるのは……正直、苦手なんでな。 |
Naoto |
サヤ
私も、決して利口ではありませんから。 できることはおよそ、敵を斬り捨てることくらい。 |
Saya |
サヤ
お言葉に甘え、斬るべきと思ったものを斬りますゆえ、 どうぞお力を貸してくださいませ。 |
Saya |
ラーベ
お前、時々辻斬りみたいなことを言うな……。 |
Raabe |
シエル
もちろんです。 この町の異変の解決が、私達の任務ですから。 |
Ciel |
サヤ
そうでしたね。心強いことです。 |
Saya |
ナオト
……連絡なし、か。 |
Naoto |
シエル
遅いですね、ひなたさん。 |
Ciel |
ナオト
イベントの前ってわけでもねぇのに、 何やってんだ、生徒会。 |
Naoto |
サヤ
私には……見当もつきませんが。連絡がないようでしたら、 探しに行ってみますか? |
Saya |
ナオト
そうだな。蟲にでも襲われでもしたら、シャレになんねぇ。 |
Naoto |
…………。 ……………………。 |
|
サヤ
ラケルさんもひなたさんもいないと、 この家はとても……静かです。 |
Saya |
ナオト
……だな。 |
Naoto |
ナオト
うわっ! びっくりした! |
Naoto |
シエル
ひなたさんからの通信ですか? |
Ciel |
ナオト
通信って……いや、冥だな。 |
Naoto |
ナオト
もしもし? ちょうどよかった。 実は、今夜なんだけど……。 |
Naoto |
冥
すぐに来い、黒鉄! |
Mei |
ナオト
は? なに? |
Naoto |
冥
無人団地だ! 今すぐ来い! |
Mei |
ナオト
な、なんだよ、なんかあったのか? |
Naoto |
冥
悠長に話している暇はない。いいからさっさと……。 |
Mei |
ナオト
待てって、こっちにも都合が……。 |
Naoto |
冥
アラクネだ! いいからすぐに来い! |
Mei |
ナオト
なっ……! |
Naoto |
ナオト
くっそ、こんなときに! |
Naoto |
サヤ
ですが、行かぬわけにはまいりません。 この機を逃せば、次はいつやってくるか。 |
Saya |
ナオト
わかってるよ! 行くぞ! |
Naoto |
シエル
はい! |
Ciel |
シエル
いました、あそこです! |
Ciel |
ナオト
冥、エス! |
Naoto |
Es
こんばんは。 |
Es |
冥
来たか。遅いぞ。 |
Mei |
ナオト
無茶言うな、これでも全速力だよ。それで……。 |
Naoto |
サヤ
奴は……。 |
Saya |
アラクネ
オオオオオオオオオオオオオ!! |
Arakune |
ラーベ
あそこか。 |
Raabe |
シエル
気のせいでしょうか、 以前よりもずっと大きいような……。 |
Ciel |
ラーベ
奴は魔素という特殊な粒子によって、体を構築している。 その粒子が増大し、周囲で渦巻いているせいだろう。 |
Raabe |
ナオト
ってことは、それだけ強くなってるって感じか。 |
Naoto |
ラーベ
私の計測の結果では、そうだな。 |
Raabe |
サヤ
それだけ、多くの生命力を喰ったということ……。 |
Saya |
ナオト
これ以上、好きにはさせねぇ。ここで仕留めるぞ。 |
Naoto |
冥
ああ。そのためにも、この無人団地周辺に結界を張る。 |
Mei |
シエル
ここにアラクネさんを閉じ込めるのですね。 |
Ciel |
冥
そうだ。といってもアラクネに限定した結界だ。 |
Mei |
冥
空間を閉ざすほどのものは、 さすがにすぐには用意できんからな。 |
Mei |
冥
もちろん、その間私は結界の維持にかかりきりになる。 戦いには参加できない。 |
Mei |
ナオト
冥の戦力が欠けるのはいてぇが……。 その分はこっちでなんとかする。頼むぜ。 |
Naoto |
サヤ
さらに戦力を削ぐ提案ですが、 エスさんには冥さんの護衛をお願いします。 |
Saya |
サヤ
万が一、蟲の攻撃に遭い結界が維持できなくなっては、 困ります。逃がしさえしなければ、勝機はありましょう。 |
Saya |
Es
わかりました。冥の護衛に努めます。 |
Es |
シエル
私とレイさんは、 ナオトさんたちと一緒にアラクネさんの対処に向かいます。 |
Ciel |
ナオト
今夜は絶対に逃がさねぇからな。 あいつ、ぶっ倒していいんだよな!? |
Naoto |
ラーベ
ああ。本気でかかれ。だが異変があればすぐに止める。 頭は冷静でいろ。すべては事態を解決するためだ。 |
Raabe |
ナオト
難しい注文だな。やるだけやってみる! |
Naoto |
1: もしものときは、僕が止めるよ |
1: |
ナオト
頼むぜ、レイ。 |
Naoto |
冥
任せるぞ、レイ。 |
Mei |
1: もしものときは、私が止めるよ |
1: |
ナオト
頼むぜ、レイ。 |
Naoto |
冥
任せるぞ、レイ。 |
Mei |
冥
……………………。 |
Mei |
冥
……よし。結界は完了だ。 行け! |
Mei |
Es
ここはお任せください。ご武運を。 |
Es |
ナオト
おう!! |
Naoto |
アラクネ
オオオオオオオオオオオオオ! |
Arakune |
サヤ
一番手、取った! |
Saya |
アラクネ
ギャギャギャギャギャ! ああア黒が飛来する。 その奥底が秘める汚濁を呑み干す者……! |
Arakune |
サヤ
手応えあり。だが浅い……。 |
Saya |
アラクネ
うぐぐぐぐ、解せぬ、不可解、不愉快! 喰らえ喰らえ喰らえ! |
Arakune |
ラーベ
気を付けろ、アラクネの内部で反応多数……! |
Raabe |
サヤ
なっ……あうっ! |
Saya |
ナオト
くそ、蹴散らすぞ! じゃねぇと親玉にたどり着けねえ! |
Naoto |
シエル
了解しました! |
Ciel |
ナオト
おらぁぁっ! |
Naoto |
サヤ
ふんっ……せやぁっ! |
Saya |
ラーベ
まだだ! 次が来る! 本格的に集まってきたぞ! |
Raabe |
ナオト
ふざけんな、どんだけ出てくるんだよ! これじゃキリがねぇ! |
Naoto |
シエル
ですが、アラクネさんのところへ到達するには、 出てきただけ倒すしかありません。 |
Ciel |
サヤ
ならば、一匹残らず仕留めるまで。この輝弥サヤ、 体力こそ劣りますが、執念深さならば負けませぬ。 |
Saya |
ナオト
はっ、そいつは頼もしいな。 だったら俺も、情けねぇことは言ってらんねぇぜ! |
Naoto |
シエル
レイさんには、決して近づけさせません! |
Ciel |
1: もうひと踏ん張り! |
1: |
シエル
はい! 戦闘行動に移行します。 レイさん、私の側にいてください。 |
Ciel |
第8節 蟲王③/ 8. Insect King - 3
Summary | |
---|---|
ナオトとサヤが蟲を引きつける中、シエルた
ちは以前より強力となったアラクネ本体への 接近を試みる。 |
ナオト
おらぁっ! |
Naoto |
サヤ
行ってください、レイさん、シエルさん。 雑魚はこちらで引き受けます! |
Saya |
ナオト
このままじゃ、マジでキリがねぇ! あいつ、まだまだ蟲を出してくるぞ。 |
Naoto |
シエル
ラーベさん、ナオトさんとサヤさんが危険です! |
Ciel |
ラーベ
いや、あいつらの言う通りここは任せよう。 |
Raabe |
ラーベ
アラクネの体は高濃度の魔素……小さな窯に近い。 一時的に境界に接続しているようなものだ。 |
Raabe |
ラーベ
実際、奴の蟲にキリなどない。 いちいち相手にしていても、時間の無駄だ。 |
Raabe |
アラクネ
オオ……お……震える、震える。 昏々と湧き出る力を内なる黒が煮えたぎる……。 |
Arakune |
サヤ
迷っている暇はありませぬ。 今ならば少々手薄、近づくだけならばできましょう! |
Saya |
1: わかった、行こう! |
1: |
ナオト
あらかた片付けたら、すぐそっちに合流する! |
Naoto |
シエル
わかりました。お気を付けて。 |
Ciel |
シエル
対象を捕捉。 |
Ciel |
アラクネ
力……力、力、匂う、ニオウ、ソレが欲しい……。 もっと……もっと、アアア飲み込むゥ! |
Arakune |
アラクネ
イヒヒヒヒひヒヒヒヒヒヒヒひひヒヒヒ。 |
Arakune |
ラーベ
以前戦った時よりも、強くなっているはずだ。 気を付けろ。それと、周囲に気をつけろ。 |
Raabe |
シエル
対象の戦闘レベルの上昇を確認。行きます! |
Ciel |
第8節 蟲王4/ 8. Insect King - 4
Summary | |
---|---|
御剣機関が動かないことを気にするラーベ。
その間も、アラクネは戦闘レベルを上昇させ ながら襲いかかってくる。 |
|
徐々にアラクネの力を削るが、まだアラクネ
は倒れない。だが、飛び込んできたサヤの刀 がアラクネを捉える。 |
アラクネ
ググ……小さい小さい小さい! |
Arakune |
アラクネ
飛び回る羽音に焦燥が粟立つ! 影が! 捕え、喰らう! |
Arakune |
シエル
くっ……! 対象の戦闘レベル、なおも上昇しています。 |
Ciel |
ラーベ
……しかし、気になるな。 |
Raabe |
ラーベ
静かすぎる。戦闘が始まってそれなりの時間がたっている。 というのに、御剣機関が現れる様子もない。 |
Raabe |
シエル
確かにそうですね。 どこかで戦況を観察しているだけかもしれません。 |
Ciel |
シエル
またアラクネさんが追い詰められれば、すぐに介入してくる 可能性は十分にあると思います。 |
Ciel |
ラーベ
ああ。もしくはアラクネに我々が食われるのを 待っているのかもしれない。だが……。 |
Raabe |
ラーベ
これだけ成長しているところを見ると…… あえて介入せずにいるというほうが、連中らしい。 |
Raabe |
アラクネ
ひひひ、ヒヒ、噛み砕きすり潰しこなごなのばらばら。 全部全部吸い尽くす、残らず我のものとする……。 |
Arakune |
シエル
っ、させません! |
Ciel |
シエル
まだ、これほどの力を……! |
Ciel |
アラクネ
アハハそこか、そこにいたか蒼! 甘美なる香り、深淵への道標……! |
Arakune |
ラーベ
余計なことを考えているうちに、取って食われそうな 勢いだな。まずは仕留めるぞ! |
Raabe |
シエル
はい! |
Ciel |
シエル
対象の戦闘レベルの低下を確認。 ですが……対象の活動続行を認識。 |
Ciel |
アラクネ
ウググググググ……オノレオノレ! 英知への探求も生命への渇望も悉くを飲み込むか……! |
Arakune |
アラクネ
許さぬ、許さぬ、許さぬゆるさぬユルサヌ 喰らうくらうクラウ! 喰らうのは我! 我が喰らう! |
Arakune |
アラクネ
赤も蒼も虹も、我が胎内にて無限へと帰せよ! |
Arakune |
シエル
くうぅっ……! |
Ciel |
アラクネ
ガアァァァァァァァァァ!! |
Arakune |
ラーベ
まだこれほどの力があるとはな。 溜め込んだ生命力は、よほどのものらしい! |
Raabe |
シエル
危険です……レイさん、離れて……。 |
Ciel |
シエル
え? |
Ciel |
アラクネ
アグァ……! |
Arakune |
シエル
サヤさん! |
Ciel |
サヤ
……取った。 |
Saya |
第9節 交換①/ 9. Exchange - 1
Summary | |
---|---|
アラクネを捉え、刀を突き刺したサヤだが、
突如ソウルイーターが暴走し、ナオトは駆け 寄ろうとするが、瞬間ハザマが立ち塞がる。 |
|
ハザマを退けるも、ソウルイーターはアラク
ネの生命力を吸い尽くし、サヤは意識を失っ てしまう。 |
アラクネ
クェアアアアアアア!! |
Arakune |
サヤ
え……なっ!? |
Saya |
ナオト
はぁ、はぁ……おい、サヤ! どうした!? |
Naoto |
サヤ
わ……わかりません、刀が……抜けないのです! |
Saya |
サヤ
まるでこのアラクネに飲み込まれていくみたいに……。 |
Saya |
ラーベ
離れろ! そのままだと喰われるぞ! |
Raabe |
サヤ
そ……そうしたいのですが、う……動けません。 動けないのです! ……あぁ……あああぁ。 |
Saya |
サヤ
あ、あ、ああ……うああぁぁぁっ! |
Saya |
ナオト
あれは!? まずい! サヤ、おいサヤ!! |
Naoto |
シエル
あれは、サヤさんのドライブですか……? |
Ciel |
ナオト
くそっ『ソウルイーター』だ! |
Naoto |
ラーベ
あれが、『ソウルイーター』……。 他者の命を吸い上げる、最悪のドライブか。 |
Raabe |
ナオト
くそ、なにしてやがる! サヤ、さっさとそいつを収めろ! |
Naoto |
サヤ
あ……あ……。 …………。 |
Saya |
シエル
サヤさんの様子がおかしいです。 ナオトさんの声に反応していません。 |
Ciel |
ラーベ
どうなっているんだ……。 外部から精神干渉を受けているのか? |
Raabe |
ナオト
なんだよ、精神干渉って!? |
Naoto |
ラーベ
厳密には違うが、わかりやすく言うと操られている状態だ。 |
Raabe |
ナオト
なっ……誰がそんなふざけた真似しやがったんだ!? |
Naoto |
ナオト
いや、んなことどうでもいい、 サヤをアラクネから引き剥がさねぇと……! |
Naoto |
???
おやおや、これはおかしなことをおっしゃる。 あなた方、あの黒い怪物を倒したかったはずでは? |
??? |
シエル
っ! 誰ですか? |
Ciel |
ハザマ
あ、どうもはじめまして。私、御剣機関の……ええと、 ハザマ、でいいですかね。と、申します。 |
Hazama |
ハザマ
どうぞ、お見知りおきを。 |
Hazama |
ナオト
御剣機関……。サヤになにしやがった!? |
Naoto |
ハザマ
いいえ、別になにも。 |
Hazama |
ナオト
そんなはずあるか! あの状態、どう見ても普通じゃねぇだろ! |
Naoto |
ハザマ
そんなこと、私に言われても困りますよ〜。 |
Hazama |
ハザマ
大方、噴き出した膨大な生命力に当てられて、 力が誘発されたのではありませんかね。 |
Hazama |
ハザマ
いずれにしても、よかったではありませんか。 |
Hazama |
ハザマ
このまま彼女が力を全て吸い出してしまえば、 あのおぞましい怪物もこの街から消えることでしょう。 |
Hazama |
ナオト
だからって、妹をあのままにしておけるか! どれだけの負担がかかるかもわからねぇってのに! |
Naoto |
ハザマ
おっと、邪魔をしないでもらえませんかね。 せっかくの怪物退治の場面なんですから。 |
Hazama |
ナオト
うるせえ! そこをどけよ! どかねぇなら、力づくで通るぞ! |
Naoto |
ハザマ
おお、恐い。私、暴力行為は苦手なんですよ。 戦闘は専門外ですから。 |
Hazama |
ハザマ
でも……悲しいかな、これも仕事ですからねぇ。 |
Hazama |
ナオト
てめぇ……! |
Naoto |
サヤ
…………、……。 ……………………。 |
Saya |
ハザマ
この街の平和のためにも、アラクネは輝弥サヤさんに 仕留めていただきますよ。 |
Hazama |
ハザマ
あいたたたた……。いやはや、お強い。 これは参りました、降参降参、降参です。 |
Hazama |
ナオト
なにが降参だ、てめぇ! |
Naoto |
ハザマ
いや本当に、もう戦うつもりはありませんよ。 それに……目的は、もう果たせたようですしね。 |
Hazama |
ナオト
な……まさか、サヤ! |
Naoto |
シエル
レイさん、ナオトさん、 アラクネさんの様子がおかしいです。 |
Ciel |
アラクネ
ァ……ア……あお……。 我が内なる虚空が……遠のく……。 |
Arakune |
サヤ
……………………。 |
Saya |
ナオト
サヤ! |
Naoto |
ハザマ
おっとっと、乱暴ですねぇ、もう。 |
Hazama |
ナオト
サヤ!! しっかりしろ! |
Naoto |
ラーベ
……ハザマといったな。狙いはなんだ? |
Raabe |
ハザマ
おや。いちいち説明してさしあげる必要があるとは、 思えませんね。 |
Hazama |
ハザマ
ところで、その輝弥サヤさんですが、 こちらに渡していただくわけにはいきませんか? |
Hazama |
ハザマ
できれば、彼女を回収して帰りたいのですよ。 ええ、上司命令でして。 |
Hazama |
ナオト
ふざけんのも大概にしろよ……。渡すはずがねぇだろうが! 死にたくなきゃ、さっさと消えろ! |
Naoto |
ハザマ
あらら、いいんですか、本当に。 |
Hazama |
ハザマ
正体不明の怪物の力を吸いこんで、どういう状態かも わからない倒れた妹を抱えて、どうにかできるとでも? |
Hazama |
ハザマ
素直にこちらに引き渡したほうが、 色々とよろしいかと思うのですがねぇ。 |
Hazama |
ナオト
何度も言わせんな! 消えろ! |
Naoto |
ハザマ
やれやれ、短気な方は話が通じなくていけません。 |
Hazama |
ハザマ
ですがこれ以上のことは、私も指示されておりません のでね、これで失礼させていただくといたしましょう。 |
Hazama |
ハザマ
輝弥サヤを渡したほうがいい、と。 私、確かに言いましたからね。それでは。 |
Hazama |
ナオト
くそが……っ。 |
Naoto |
シエル
ナオトさん、サヤさんのバイタルを チェックさせてください。 |
Ciel |
ナオト
あ……ああ。 |
Naoto |
シエル
……息はあります。身体的な外傷も、目立ったものは 見当たりません。 |
Ciel |
ラーベ
ああ。命に別状はない。過剰に力を吸ったせいで、 意識を保てなくなっただけだろう。 |
Raabe |
ナオト
無事なのか? 目を覚ますんだろうな!? |
Naoto |
ラーベ
ラケル=アルカードのときのようなことにはならん。 ただの気絶だ。 |
Raabe |
ナオト
そうか……よかった……。ありがとう……。 |
Naoto |
ナオト
っ、そうだ! アラクネは!? |
Naoto |
シエル
アラクネさんの反応はありません。 サヤさんの傍らに、黒ずんだ砂のようなものが確認出来ます。 |
Ciel |
シエル
おそらく、これがアラクネさんだったものなのでは ないでしょうか? |
Ciel |
ラーベ
一応分析はしてみるが、 今重要なのはこっちじゃない。 |
Raabe |
1: 一旦、冥たちと合流しよう |
1: |
ナオト
ああ……そうだな。 悪い、レイ。運ぶの、手伝ってくれ。 |
Naoto |
サヤ
…………。 |
Saya |
第9節 交換②/ 9. Exchange - 2
Summary | |
---|---|
気を失ったサヤをナオトのマンションへ運ぶ
ナオトたち。そこへキイロから電話がかかり、 サヤと引き換えにひなたを誘拐したと告げる。 |
ナオト
じゃあ、エス。冥のこと頼んだぞ。 |
Naoto |
Es
はい。冥には十分に休息を取らせます。 |
Es |
冥
過保護にするな……。私なら大丈夫だ。 それより、輝弥のほうが……。 |
Mei |
ナオト
気を失ってるだけだって話だから、大丈夫だろ。 こっちのことは、俺に任せとけって。なにかあれば連絡するから。 |
Naoto |
冥
必ずだぞ。勝手に動くなよ。 ……ではな。 |
Mei |
Es
失礼します。 |
Es |
シエル
おかえりなさい、ナオトさん。 |
Ciel |
ナオト
ああ。留守番させて悪かったな。エスと冥は帰ったよ。 |
Naoto |
ナオト
それで……サヤはどうだ? |
Naoto |
シエル
まだ目を覚ます様子はありません。 |
Ciel |
ラーベ
改めて調べたが、やはり命に別状はない。 普通に眠っている状態だから、安心していいぞ。 |
Raabe |
ナオト
そうみたいだな。むしろ、狩人の眼で見える数字は、 普段より健康そうなくらいだ。 |
Naoto |
ナオト
…………。 |
Naoto |
ナオト
紅茶でも淹れてくるよ。 |
Naoto |
サヤ
…………。 |
Saya |
ラケル
…………。 |
Raquel |
ナオト
ったく。無茶ばっかしやがって。 |
Naoto |
ナオト
結局、ラケルは目を覚まさねぇし。 アラクネも倒したってのによ。 |
Naoto |
ナオト
……なあ。結局アラクネは、お前たちが探してたやつじゃ なかったってことなのか? |
Naoto |
ラーベ
ああ、そうなるな。 |
Raabe |
ナオト
なんだよ、あっさりしてんな。 もしかしてお前、アラクネは違うってわかってたか? |
Naoto |
シエル
そうなのですか、ラーベさん? |
Ciel |
ラーベ
そりゃそうだろ。 |
Raabe |
ラーベ
あれだけ支離滅裂な精神状態の奴が、蟲の発生はともかく、 それ以外の事象に影響を与えていたなら、 |
Raabe |
ラーベ
この街はもっと混沌としているはずだからな。 |
Raabe |
ナオト
でも、実際にアラクネを倒したら蟲はいなくなった。 やっぱりあいつが元凶だったんじゃねぇの? |
Naoto |
ラーベ
私たちが探しているのは、蟲を発生させた奴ではない。 この街をおかしくしている元凶だ。 |
Raabe |
ラーベ
アラクネもその『おかしく』なった部分の、 一部だったというだけの話だ。 |
Raabe |
ナオト
……おかしくなった、か。確かにここはおかしいよな……。 |
Naoto |
シエル
なにか気がかりなことがあるのですか? |
Ciel |
ナオト
気がかりっつーか……不安っつーか、疑問っつーか。 なんとなくなんだけどさ。 |
Naoto |
ナオト
ここって本当に、新川浜なのかな。 |
Naoto |
シエル
え? |
Ciel |
ナオト
いや実際、この街の名前は新川浜だ。 俺はそう思ってるし、周りのみんなもそう言ってる。でも……。 |
Naoto |
ナオト
変な話をするけどさ。漠然と、ずっと感じてるんだよな。 俺の生活って、本当にこんな風だったっけ、って。 |
Naoto |
シエル
それは……。 |
Ciel |
1: ナオトは違う世界から来たかも? ここはナオトの知ってる世界じゃない? |
1: |
ナオト
ああ。そんな感じがする。 大袈裟かもしれないし、気のせいかもしれないけど……。 |
Naoto |
ナオト
ここじゃない、こうじゃない、っていう 漠然とした違和感が、ずっと付きまとってる。 |
Naoto |
サヤ
……兄様も、なのですか? |
Saya |
ナオト
え? サヤ! 気がついたのか!? |
Naoto |
サヤ
ええ……今しがた。 |
Saya |
シエル
お体は大丈夫ですか? |
Ciel |
サヤ
はい。ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません……。 |
Saya |
ラーベ
そんなことより、今の発言について詳しく聞かせてくれ。 ナオト『も』、と言っていたが? |
Raabe |
サヤ
……ええ。私も……兄様と同様に、 漠然とした違和感に戸惑っておりました。 |
Saya |
サヤ
長く、外の生活から隔たれていたせいと思っておりましたが……。 まるで夢の中に迷い込んでしまったような心地がするのです。 |
Saya |
サヤ
まさか、兄様も同じ思いを抱えているとは。 安心したような、かえって不安なような。 |
Saya |
シエル
冥さんも、同様のことを言っていましたね。 この世界は自分がいるべき世界ではないように感じる、と。 |
Ciel |
シエル
ということはナオトさんとサヤさんも、 『異物』ということでしょうか? |
Ciel |
サヤ
『異物』……。 |
Saya |
ナオト
……もしかして、この世界の奴じゃない、って意味か? なら、俺たちは……。 |
Naoto |
ラーベ
まあ、そうだな。そういう感覚があるってことは、 『異物』である可能性は否定できない。 |
Raabe |
ラーベ
だが……うーむ……。 |
Raabe |
シエル
冥さん、エスさんに続いて、 ナオトさんやサヤさんまで『異物』ということですか……。 |
Ciel |
シエル
では、一体誰がこの世界の人なのでしょう……? |
Ciel |
ナオト
ん? 冥がなんだって? |
Naoto |
サヤ
兄様。 |
Saya |
ナオト
ん? どうした。なにそんな驚いた顔してんだ? |
Naoto |
サヤ
……ひなたさんは? |
Saya |
ナオト
え? あ。そういえば……今何時だ!? |
Naoto |
シエル
22時15分です。 |
Ciel |
ナオト
10時過ぎ!? マジかよ、もうそんな時間か? 待て、今携帯にかけてみる。家には戻ってるのかも……。 |
Naoto |
ナオト
出ねぇ! メールの返信もねぇし……。 |
Naoto |
シエル
なにかトラブルがあったのでしょうか。 |
Ciel |
ナオト
だったらメールくらい入れてくるだろ。 少なくとも普段のひなたならそうしてる。 |
Naoto |
ナオト
普段の……あいつなら……。 |
Naoto |
ナオト
ちょっと俺、探してくる。お前ら、ここで待っててくれ。 ひなたが帰ってくるかもしれねぇから……。 |
Naoto |
ナオト
!? |
Naoto |
ナオト
電話だ。ひなたから。驚かせやがって……。 もしもし? ひなた? 今どこにいるんだよ、お前……。 |
Naoto |
ナオト
……あ? 誰だ、てめぇ? |
Naoto |
ナオト
その話し方……まさか、この前の御剣機関の! |
Naoto |
ラーベ
なに? おい、ちょっと貸せ。音声を拡散させる。 ええと……こうして、こうだ! |
Raabe |
キイロ
そうよ。緋鏡キイロ。んもう、忘れたフリなんか しちゃって、シャイなんだからぁ。 |
Kiiro |
ナオト
ちげぇよ。てか、おい! お前! なんでひなたの携帯からかけてきてんだ!? |
Naoto |
ナオト
ひなたはそこにいるのか!? |
Naoto |
キイロ
やぁん、恐い声。でもちょっぴりワイルド。素敵よ。 |
Kiiro |
ナオト
っざっけんな!! |
Naoto |
キイロ
姫鶴ひなたさんは、無事よ。私のすぐ近くにいるわ。 |
Kiiro |
シエル
どうして、御剣機関がひなたさんと一緒にいるのですか? |
Ciel |
キイロ
もちろん、仲良くお茶してるわけじゃないわよ。 無事なのも、今のところのお話。 |
Kiiro |
キイロ
ナオトくんたちの出方によっては、かわいそうだけど、 この子には犠牲になってもらわないといけないかも。 |
Kiiro |
サヤ
どういう意味です……? |
Saya |
ナオト
おい。ひなたになんかしてみろ。絶対に許さねぇぞ。 |
Naoto |
キイロ
んふ。ゾクゾクしちゃう。 許さないなら、どんなことされちゃうのかしら。 |
Kiiro |
ナオト
てめぇ……っ! |
Naoto |
1: こちらへの要求は? |
1: |
キイロ
あら。もう聞いてるんじゃない? 私がこの大事なお友達と交換してほしいもの。 |
Kiiro |
シエル
まさか……。 |
Ciel |
キイロ
ええ、そう。 輝弥サヤを渡して。 |
Kiiro |
ナオト
なっ!? |
Naoto |
キイロ
待ち合わせ場所の地図をメールで送るわ。 だから持ってきて。そこでお友達と交換しましょ。 |
Kiiro |
ナオト
馬鹿かてめぇ! サヤは物じゃねぇ。 気軽に交換だとか、できるか! |
Naoto |
キイロ
あ〜ら、お世話になってる幼馴染みじゃないの? 姫鶴ひなたさんって。 |
Kiiro |
キイロ
意外とドライなのねぇ。 ……ね。『ナオトちゃん』。 |
Kiiro |
ナオト
……っ! |
Naoto |
キイロ
できるだけ早くナオトくんに会いたいから、 今夜中には来てね。 |
Kiiro |
キイロ
あ、でも大丈夫よ、ちょっとくらいゆっくりでも。 私、焦らされるの嫌いじゃないわ。 |
Kiiro |
キイロ
私たちの夜はまだたっぷりあるもの。 待ってるわ、ナオトくん。 |
Kiiro |
……チュ。 |
|
サヤ
……切れましたね、電話。 |
Saya |
シエル
地図をメールで送ると言っていました。 |
Ciel |
ナオト
っ! 来た! ……ええと……線路? その高架下か! |
Naoto |
サヤ
行きましょう。一刻の猶予もありません。 |
Saya |
ナオト
お、おい、ちょっと待て! お前も行くつもりかよ!? |
Naoto |
サヤ
当然です。あの女は私とひなたさんを交換だと 言っていたではありませんか。 |
Saya |
サヤ
理由はわかりませんが、私を渡さねばひなたさんの身が 危険に晒される。とあれば、選択の余地はありますまい。 |
Saya |
ナオト
そりゃそうかもしれねぇけど、だからってお前を簡単に 差し出せるか! |
Naoto |
ナオト
連中がお前になにするつもりかわかんねぇんだぞ! |
Naoto |
サヤ
ではここでまごついていれば、わかるのですか? 危ぶんで機を逃したらば、ひなたさんはどうなります。 |
Saya |
ナオト
それは……っ。 |
Naoto |
サヤ
先ほどから兄様は頭に血が上っておられるようですが、 どうか冷静に考えてくださいませ。 |
Saya |
サヤ
私と、ひなたさんと。 どちらがより危険に対処できましょうか。 |
Saya |
サヤ
ひなたさんは戦闘技術も、経験もない、ドライブもない、 ごくごく一般的な……普通の女の子なんですよ。 |
Saya |
ナオト
サヤ……だけど。 |
Naoto |
サヤ
私のことならば、どうぞご心配なさいますな。 これでも輝弥家次期当主。 |
Saya |
サヤ
御剣機関の女狐の首でも土産に、すぐに戻って参ります。 |
Saya |
ナオト
…………。 |
Naoto |
シエル
どうしますか? ナオトさん? |
Ciel |
ナオト
……わかった。行こう。 ひなたに手出しさせるわけにはいかねぇ。 |
Naoto |
サヤ
よかった。そう言ってくださらなければ…… |
Saya |
サヤ
今すぐ兄様の腕ごと携帯を斬り落として、 勝手に地図を拝見するところでした。 |
Saya |
ナオト
冗談じゃなさそうだから、恐ぇよお前。 |
Naoto |
ラーベ
では、取引場所に向かうんでいいんだな? |
Raabe |
ナオト
ああ。 サヤ……信じてるからな。 |
Naoto |
サヤ
はい。 |
Saya |
第9節 交換③/ 9. Exchange - 3
Summary | |
---|---|
気を取り戻したサヤと冥、Esも合流し、指定
された場所へ向かう。だがそこはすでに複数 のキイロの部下に包囲されていた。 |
冥
待たせたな、黒鉄。 |
Mei |
ナオト
いや。悪いな、帰ったばっかりだってのに、呼び出して。 |
Naoto |
冥
気にするな。と言うより、こんなこと私に知らせずに、 勝手にどうこうされていたほうが迷惑だ。 |
Mei |
冥
アラクネの件こそひと段落したが、こんな状況で こっちの用件は片付いたと手を引けるほど、私は薄情じゃない。 |
Mei |
Es
お声掛けいただけて、よかったです。 こういう事態に頼っていただけるほうが、嬉しく思います。 |
Es |
Es
緋鏡キイロとの約束の場所は、この先ですね? |
Es |
シエル
はい。あの丁字路の先です。 ……ひなたさんが無事だといいのですが。 |
Ciel |
1: もちろん無事だよ |
1: |
シエル
そうですよね。 まだ人質を傷付ける理由はないはずです。 |
Ciel |
シエル
そうですね……。油断せずにいきましょう。 |
Ciel |
冥
相手はあの御剣機関だ。なにがあるかわからん。 慎重に行動しろよ。 |
Mei |
ナオト
地図だと……この辺りか? もう少し奥か。 |
Naoto |
ラーベ
どれ、見せてみろ。 |
Raabe |
Es
……! 皆さん。気を付けてください。囲まれています。 |
Es |
シエル
複数の敵性反応を感知。戦闘レベルの上昇を確認。 |
Ciel |
黒服
……目標、こちらに気付きました。 |
Black Suit |
サヤ
あれは……御剣機関の手の者のようですね。 |
Saya |
ナオト
おい! てめぇらの仲間はどこだ!? |
Naoto |
黒服
……了解。拘束します。 |
Black Suit |
シエル
どういうことですか。こちらは交渉に来たんです。 戦う必要はないはずです。 |
Ciel |
ラーベ
こっちにはなくても、あっちにはあるんだろう。 拘束してしまえば、暴れられる面倒もないだろうしな。 |
Raabe |
冥
はなからまともに取り引きするつもりはない、 ということか。 |
Mei |
ナオト
ナメやがって……。 なんでもかんでも、てめぇらの好きにさせるかよ! |
Naoto |
第9節 交換④/ 9. Exchange - 4
Summary | |
---|---|
キイロにサヤが連れて行かれてしまう。さら
にラケルにも刺客を差し向けており、新たな 姿で立ち塞がる。 |
|
キイロの強さに圧倒されるナオトたちにレイ
チェルが現れる。シエルたちはレイチェルの 手助けによりラケルの元へ向かう。 |
キイロ
あ〜ん、ナオトくん。 私に会いに来てくれたのね。嬉しいわぁ〜。 |
Kiiro |
ナオト
なにが、会いに来た、だ。 てめぇが呼んだんだろうが! |
Naoto |
キイロ
んふ。そうね。 でも呼び出したらすぐに来てくれた。 |
Kiiro |
シエル
ひなたさんは無事なのですか? |
Ciel |
キイロ
ええ……無事よ。今はぐっすり眠ってるわ。 約束したじゃない。 |
Kiiro |
キイロ
それで。来てくれたということは、こちらの条件は もちろん受け入れてくれるってことよね? |
Kiiro |
ナオト
……っ。 |
Naoto |
サヤ
はい。その通りです。 私を差し出しますので、ひなたさんを返してください。 |
Saya |
キイロ
ふうん、意外。ナオトくん、それでいいんだ? |
Kiiro |
ナオト
いいわけ……ねぇだろ! |
Naoto |
冥
黒鉄、抑えろ。 |
Mei |
ナオト
わかってるよ……! |
Naoto |
キイロ
やん。激しい目……。 目茶苦茶にされたくなっちゃう。 |
Kiiro |
サヤ
戯言は結構。ひなたさんはどこにいるのです。 ……卑劣者。 |
Saya |
キイロ
んふふ、やぁだ。 言葉責めならナオトくんにお願いしたいわ〜。 |
Kiiro |
キイロ
でもごめんなさいねぇ。 姫鶴ひなたさんは、ここにはいないのよ。 |
Kiiro |
Es
どういうことですか? 話が違います。 |
Es |
キイロ
違わないわよ。ここでひなたさんとあなたの身柄を交換する、 なんて私、言ってないもの。 |
Kiiro |
キイロ
姫鶴ひなたさんは今、 私の部下の車で自宅に向かっているわ。 |
Kiiro |
キイロ
輝弥サヤが大人しく私たちの組織までついてくれば、 彼女は無事、そのまま家に帰れるはずよ。 |
Kiiro |
キイロ
でももしそうならなかったら……そのときは、 彼女になにがあるか、保障はできないわね。 |
Kiiro |
ラーベ
なるほどな。そちらが満足して人質を解放するまで、 こちらは指をくわえて待っているしかないと。 |
Raabe |
冥
そちらが姫鶴ひなたを無事に解放するという 保障はあるのか? |
Mei |
キイロ
条件を出しているのはこちら側よ。 あなたたちはそれに従うしかない。そうでしょう? |
Kiiro |
キイロ
自分たちの立場を勘違いしないで。 |
Kiiro |
ナオト
てめぇ……っ! |
Naoto |
サヤ
わかりました。それで結構です。 |
Saya |
キイロ
賢明な妹さんね。協力的で助かるわぁ。 |
Kiiro |
ナオト
おい。せめて聞かせろよ。なんでサヤを欲しがる!? |
Naoto |
ラーベ
……大方、それが輝弥サヤにアラクネを仕留めさせた 理由だろうな。 |
Raabe |
シエル
では……サヤさんがアラクネさんにとどめを刺したのは、 御剣機関が仕組んだことだということですか? |
Ciel |
ラーベ
そうなんだろう? 緋鏡キイロ。 |
Raabe |
ラーベ
そうでなければ、今このタイミングで 輝弥サヤをほしがる理由がない。 |
Raabe |
キイロ
んふ。そうよ。私たちの悲願を達成するために、 今はその子が必要なの。 |
Kiiro |
冥
悲願だと? |
Mei |
キイロ
ええ。輝弥サヤは、いいえ、正確には『今の』輝弥サヤは、 その決定的な切り札になり得る存在。 |
Kiiro |
キイロ
だから、どうしてもほしいのよ。 |
Kiiro |
キイロ
さあ、大人しくしていてね。少しだけ眠っていて もらわないと。あなたったら、危なっかしいんだもの。 |
Kiiro |
サヤ
え……あっ。 |
Saya |
ナオト
な……おいこら、キイロ! なにしやがった!? |
Naoto |
キイロ
だから、眠ってもらっただけよ。ひなたちゃんに使った のと同じ、即効性の眠り薬みたいなもの。 |
Kiiro |
キイロ
心配しないで。一晩眠ったら、元気に目が覚めるから。 後遺症はなんにもないわ。首筋に小さな針の痕が残るだけ。 |
Kiiro |
キイロ
……連れていって。 |
Kiiro |
黒服
はい。 |
Black Suit |
キイロ
さて、と。まだもう少し時間があるわね。 |
Kiiro |
冥
時間? なんの時間だ? |
Mei |
キイロ
やぁねぇ、なんのためにあなたたちをこんな、 寂れた場所に呼び出したと思ってるの? |
Kiiro |
キイロ
このやり方なら、 ナオトくんの家まで迎えに行くほうが早いでしょ。 |
Kiiro |
シエル
では、なぜ呼び出したのですか? |
Ciel |
キイロ
もちろん、あの家から離れてもらうためよ。 |
Kiiro |
キイロ
仲良しなあなたたちのことだから、サヤちゃんひとりで 来させるわけがないと思ってたけど。 |
Kiiro |
キイロ
まさかみんな揃ってぞろぞろ来てくれるとはね。 仕事がやりやすくて好都合だわ。 |
Kiiro |
ラーベ
そうか……なるほどな。そうきたか。 |
Raabe |
ナオト
なるほどって、なにがだよ!? あいつはなにを……! |
Naoto |
ラーベ
落ち着け。簡単な話だ。我々は全員ここにいる。 ではお前の家に残っているのは、なんだ? |
Raabe |
ナオト
なに、って、家には誰も……まさか!? |
Naoto |
Es
ラケルさんが……! |
Es |
ナオト
ふ……ざけんな!! |
Naoto |
ナオト
うわっ! な、なんだ、剣が飛んできた……? |
Naoto |
キイロ
ふふ。だめよ。ナオトくん。急に動いたら危ないわ。 間違って刺しちゃったら、大変。 |
Kiiro |
冥
今のは、ドライブ!? 緋鏡キイロも、ドライブ能力者か! |
Mei |
キイロ
……ねえ、ナオトくん。 お人形遊びは好き? |
Kiiro |
ナオト
はぁ!? 知るか! んな話、悠長にしてる場合じゃねぇんだよ! |
Naoto |
キイロ
そういうわけにもいかないわ。 だって……もっとあなたと一緒にいたいんだもの。 |
Kiiro |
シエル
対象の戦闘レベルの上昇を確認。明らかな戦意を感じます。 レイさん、私の側に。 |
Ciel |
キイロ
……本当はね、私のこんな姿、 見せたくなかったんだけど。仕方ないわよね。 |
Kiiro |
ラーベ
おっと。なんだ? |
Raabe |
シエル
あれは……大きな、剣? |
Ciel |
Es
ムラクモユニット……!? ではまさか、あなたは! |
Es |
キイロ
あん。あんまり見つめないで。 体が火照ってきちゃう。 |
Kiiro |
ナオト
な……なんだ、あれは……。 |
Naoto |
ラーベ
……素体か。 |
Raabe |
キイロ
――『EsNo07』。それが私の名前。番号。 |
Kiiro |
キイロ
人に造られた物。自立意思を持つ危険物。 化け物。お人形。 |
Kiiro |
Es
……私と同じ……『エンブリオストレージ』……。 |
Es |
シエル
同じ……? |
Ciel |
キイロ
ラケル=アルカードは我々御剣機関が預かるわ。 そのためにも……。 |
Kiiro |
キイロ
あなたたちには、 ここでしばらく遊んでいってもらわないと! |
Kiiro |
キイロ
きゃぁぁっ! |
Kiiro |
Es
……これ以上は。ここまでにしましょう。 |
Es |
冥
黒鉄、今のうちに! |
Mei |
ナオト
ああ! |
Naoto |
ナオト
っ! くそ、まだ動けるのか……! |
Naoto |
キイロ
うふふ……ふふふふ。痛い……でも、あなたを失う痛みを 思ったら、なんてことないわ。 |
Kiiro |
キイロ
むしろ気持ちいいくらい。……もっと。 もっとちょうだい……ナオトくん。 |
Kiiro |
冥
くそっ! ここは私が引き受ける。 黒鉄とレイはさっさと戻れ! |
Mei |
キイロ
いいえ、ダメよ。ひとりも逃さないわ! |
Kiiro |
シエル
レイさん、下がってください……! |
Ciel |
1: キイロの剣がこっちに――! |
1: |
キイロ
……弾かれた? |
Kiiro |
レイチェル
…………。 |
Rachel |
ナオト
!? |
Naoto |
シエル
アナタは……。 |
Ciel |
レイチェル
ごきげんよう。ひどい夜ね。 |
Rachel |
ナオト
な……なん、だ、あんた……? ラケル……? |
Naoto |
レイチェル
違うわ。私はレイチェル=アルカード。 ラケル=アルカードとは、別のものよ。 |
Rachel |
ナオト
レイチェル? あ……そうだ、あんた! |
Naoto |
ナオト
前に公園で会った! あの、夢だか幻だか、わかんないような場所で……! |
Naoto |
レイチェル
あれは事象干渉。といっても、厳密には 時の流れにのみ干渉したもので…… |
Rachel |
レイチェル
まあ、今はこんな話、している場合ではないわね。 |
Rachel |
キイロ
レイチェル……アルカード? アルカードの吸血鬼が、まだ他にも……。 |
Kiiro |
レイチェル
緋鏡キイロ。あなたの思い描く通りに、 世界が進むとは思わないことね。 |
Rachel |
キイロ
ふん。あなたになにができるのかしら。 |
Kiiro |
キイロ
私の剣をひとつ弾いてみせたところで、 状況はなにも変わっていないんじゃない? |
Kiiro |
ナオト
そうだ……ラケルが! |
Naoto |
レイチェル
落ち着きなさい。すぐに彼女がどうこうされることはないわ。 心強い助っ人が、向かっているはずだから。 |
Rachel |
冥
助っ人だと? |
Mei |
レイチェル
でも……あの人の力だけでは、 事態を動かすことはできないかもしれない。 |
Rachel |
レイチェル
だから……あなたが必要よ、 レイ。 |
Rachel |
レイチェル
私が今、こうしてここに立っていられるように、ね。 |
Rachel |
キイロ
逃がさないわよ。それに……あなた、アルカードの 吸血鬼にしては、ずいぶんと弱いみたい。 |
Kiiro |
キイロ
あなたくらいなら、私でも簡単に切り刻めそうよ。 |
Kiiro |
レイチェル
そうでしょうね。でも、私がここに来たのは、 あなたを倒すためじゃないわ。 |
Rachel |
レイチェル
レイ。あの人のところへ連れていくわ。 助けになって差し上げて。 |
Rachel |
1: あの人って―― |
1: |
キイロ
逃がさないって言ってるでしょ! |
Kiiro |
冥
くっ……! |
Mei |
Es
させません。 |
Es |
ナオト
冥、エス! |
Naoto |
Es
行ってください。ここは、私たちが。 |
Es |
ナオト
……っ、くそ! |
Naoto |
ナオト
おらぁぁっ! |
Naoto |
キイロ
激しいのね、でも、いかせないわよ! |
Kiiro |
ラーベ
おい、離れるな! 転移できないだろ! |
Raabe |
ナオト
こんな状況で冥とエスだけ残せるかよ! |
Naoto |
レイチェル
相変わらず……馬鹿ね。 |
Rachel |
ナオト
いいから行け、レイ! ラケルを頼む! |
Naoto |
シエル
ナオトさん! |
Ciel |
レイチェル
じっとしていなさい。次元の狭間に放り出されるわ。 ……行くわよ。 |
Rachel |
第10節 魔王①/ 10. Demon King - 1
Summary | |
---|---|
レイチェルの転移魔法で移動したのはマンショ
ン近くの公園。レイチェルに見送られ、ラケ ルの元へ急ぐ。 |
シエル
ここは……ナオトさんのマンションの近くにある、公園です。 |
Ciel |
ラーベ
無事転移できたようだな。だがさすがに、 マンションの部屋の中とはいかなかったらしい。 |
Raabe |
レイチェル
無理を言わないで、 見ず知らずの場所で自在に転移なんてできないわよ。 |
Rachel |
シエル
レイチェルさん。 ナオトさんたちは、まだあの高架下にいるのですか? |
Ciel |
レイチェル
ええ。 ……転移魔法は、非常に繊細で扱いが難しいの。 |
Rachel |
レイチェル
あの混乱した状況で、緋鏡キイロだけを省いて 彼らを一緒に転移させることはできなかったし……。 |
Rachel |
レイチェル
なにより、これ以上の人数を運ぶのは難しかったわ。 |
Rachel |
1: 助けてくれてありがとう |
1: |
レイチェル
ええ。さあ、お行きなさい。 |
Rachel |
シエル
レイチェルさんは、行かないのですか? |
Ciel |
レイチェル
今の私が行っても、足手まといよ。 しばらくは何もできないわ。 |
Rachel |
レイチェル
それに、私があの部屋に入るのは、 あまり良くないだろうから。 |
Rachel |
シエル
どういうことですか? |
Ciel |
レイチェル
……私とラケル=アルカードは、非常に近い存在なの。 |
Rachel |
レイチェル
あまりに近いから……物理的に同じ空間に長く留まると、 互いの存在に影響を及ぼすわ。 |
Rachel |
レイチェル
今はあの子、眠っているのでしょう? |
Rachel |
レイチェル
ただでさえ存在の危うい子に、不用意に近付いたら……。 どうなるかわからないわ。 |
Rachel |
ラーベ
……最悪、互いに消滅。そこまでいかなくとも、 ラケルの存在を取り込んでしまう可能性は大いにあるな。 |
Raabe |
レイチェル
だから、私はここまで。見送るだけよ。 あとはあなたたちと……あの人で、なんとかしてちょうだい。 |
Rachel |
シエル
あの、もう一度聞きますが、 あの人とは誰のことですか? |
Ciel |
レイチェル
行けばわかるわ。 ……それじゃあ、私は一足先に失礼するわね。 |
Rachel |
レイチェル
せいぜい、頑張りなさい。 |
Rachel |
ラーベ
……消えたか。こっちも動くとしよう。 |
Raabe |
シエル
はい。ですがその前に、対処するべき問題があるようです。 |
Ciel |
シエル
対象を補足、照合。……御剣機関です。 |
Ciel |
ラーベ
見張りか。どう見ても、私たちをマンションの中に 入れたくなさそうだな。 |
Raabe |
ラーベ
余計な時間を食っている暇はない。 蹴散らして進むぞ。 |
Raabe |
シエル
はい。ラケルさんのところに急ぎましょう。 |
Ciel |
第10節 魔王②/ 10. Demon King - 2
Summary | |
---|---|
ナオトの部屋へ向かうシエルたち。レリウス
を発見したシエル達は、ラケルの回収を阻止 すべく戦闘を開始する。 |
|
人形のレリウスを退け、ラケルを抱えた本物
を追おうとする前を何者かに投げ飛ばされた ヴァルケンハインが横切る。 |
シエル
もうすぐナオトさんの部屋ですが……静かですね。 |
Ciel |
ラーベ
ラケル=アルカードを連れ出すだけならば、騒ぎにも ならんだろうが……助っ人とやらは一体どうしたんだ? |
Raabe |
シエル
まさか、もうすでに全て終わった後なのでしょうか。 だとしたらラケルさんは……。 |
Ciel |
シエル
いえ、前方に反応あり。確認……。 反応、レリウス=クローバーです。 |
Ciel |
シエル
いました、あそこです! |
Ciel |
ラーベ
ひとりか? ……もう一匹のでかいのはどうした? |
Raabe |
レリウス
……これは驚いた。貴様らは、キイロと一緒に いるものだと思っていたが……。 |
Relius |
レリウス
あの場所からここまで……そう短時間で行き来できる とは思えん……。なにを使った……? |
Relius |
ラーベ
考察の時間はあとだ。 ラケル=アルカードの回収に来たんだな? |
Raabe |
シエル
そうはさせません。 ここから先へは行かせません。 |
Ciel |
レリウス
ふむ……では、どうする? 説得で心を入れ替えさせるかね? |
Relius |
シエル
手を引いてください。 さもなければ、戦わなければなりません。 |
Ciel |
レリウス
なるほど。短絡的だが、効率的とも言える。 問題は私に勝てると判断した分析力だが……。 |
Relius |
レリウス
せっかくの機会だ。 それを含めて、改めて観察させてもらうとしよう。 |
Relius |
レリウス
これらの能力を、解析しきれたわけではないからな……。 |
Relius |
レリウス
さあ……観せてもらうぞ。 |
Relius |
レリウス
……か、はっ……。 |
Relius |
シエル
仕留めた……? |
Ciel |
1: 前より弱いような…… |
1: |
シエル
……手応えが、妙です。まるで人間ではなく……。 あっ! |
Ciel |
シエル
これは……人形です。 |
Ciel |
ラーベ
こちらの解析に合わせて擬態させてきたのか。 なら、本物は……! |
Raabe |
シエル
いました、反対側です。ラケルさんを抱えています。 追いましょう! |
Ciel |
ラーベ
待て、止まれ、シエル! |
Raabe |
シエル
今のは……。解析……なにか大きなものが、 目の前を高速で横切り……壁に激突したようです。 |
Ciel |
レリウス
……ちっ。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
う……ぐ……くそ……っ。 |
'Valkenhayn |
ラーベ
あれは、ヴァルケンハインか? なんであいつがレリウスめがけて飛んでいったんだ? |
Raabe |
シエル
違います。彼は何者かに投げ飛ばされたのです。 ナオトさんのマンションの部屋の中から。 |
Ciel |
シエル
誰かいます。警戒してください、レイさん。 |
Ciel |
???
情の薄いことだ、人形師。彼の手助けはしないのかな? |
??? |
レリウス
……任せろと言ったのはお前だぞ、ヴァルケンハイン。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
ふざ、けるな……まだ、だ……! |
'Valkenhayn |
???
丈夫だな、人狼(ライカンスロープ)。……それにしても。 |
??? |
シエル
……っ。 |
Ciel |
ラーベ
! |
Raabe |
???
……なるほど、君か。……道理で。 |
??? |
シエル
さ……下がって、ください。 レイさん……。 |
Ciel |
シエル
あれは……アレは……『普通』じゃありません! |
Ciel |
???
こんばんは、異分子諸君。 レイチェルは問題なく、たどり着けたようだな。 |
??? |
クラヴィス
私の名前はクラヴィス=アルカード。 レイチェルと、ラケルの……父親だ。 |
Clavis |
第10節 魔王③/ 10. Demon King - 3
Summary | |
---|---|
「不死殺し」二人を顔色ひとつ変えずに捌く
クラヴィス。クラヴィスと協力し、ラケルを 奪還しようとする。 |
|
未だ戦おうとするヴァルケンハインをレリウ
スが抑えて立ち去る。 |
ラーベ
クラヴィス=アルカード……。 |
Raabe |
ラーベ
吸血鬼の一族、アルカード家の当主にして、 最強の『幻想生物』……。 |
Raabe |
ラーベ
そのクラヴィス=アルカードが…… ラケルとレイチェルの父親だと? |
Raabe |
クラヴィス
その通り。だが積もる話は後にしよう。 今は……彼らの応対が先だ。 |
Clavis |
ヴァルケンハイン
ぐるあぁぁぁぁぁぁぁ! |
'Valkenhayn |
ヴァルケンハイン
ぐぐ……この、化け物が……! |
'Valkenhayn |
クラヴィス
はは、君が言うかね。 |
Clavis |
レリウス
……っ! |
Relius |
クラヴィス
おっと。 |
Clavis |
レリウス
……触れただけで人形を破壊するか。 |
Relius |
クラヴィス
やっと手を貸す気になったのかな? レリウス=クローバー。 |
Clavis |
シエル
すごい力です……。 あのヴァルケンハインさんを片手で捕えています。 |
Ciel |
シエル
レリウスさんの人形も、一瞬で粉々に……。 とてもそんな腕力があるようには、見えないのに。 |
Ciel |
ヴァルケンハイン
があぁぁぁぁぁぁっ! |
'Valkenhayn |
クラヴィス
元気だな。まだ暴れるか。 |
Clavis |
シエル
凄まじいスピードと力です。なのに、そのふたりを相手にして、 クラヴィスさんはまったく押されていません。 |
Ciel |
シエル
すごい戦いです……。 吸血鬼の一族というのが、これほどとは……。 |
Ciel |
ラーベ
違うよ、吸血鬼……だからじゃない、 クラヴィス=アルカードが特別なんだ……。 |
Raabe |
ラーベ
とりあえずだ、これでは、こちらは手の出しようもないな。 となれば、レイ、今のうちだ。 |
Raabe |
1: ラケルを取り戻そう |
1: |
シエル
はい。 |
Ciel |
シエル
はぁぁぁっ! |
Ciel |
レリウス
くっ……煩わしい……。 |
Relius |
シエル
あうっ! 重い……でも! |
Ciel |
クラヴィス
娘を返してもらうぞ。 |
Clavis |
レリウス
――っ!? |
Relius |
ヴァルケンハイン
レリウス! 吸血鬼を奪われるぞ! |
'Valkenhayn |
レリウス
……わかっている。 |
Relius |
シエル
人形、多数出現。ですがレリウスさんはクラヴィスさんに かかりきりのようです。 |
Ciel |
シエル
これなら、私たちで十分相手にできます。 ……対象を補足。ラケルさんを守ります。 |
Ciel |
ヴァルケンハイン
あ……がっ……。 |
'Valkenhayn |
レリウス
……く……。 |
Relius |
クラヴィス
なにも、君たちの命が欲しいわけではない。 大人しく手ぶらで帰るならば、追いはしない。 |
Clavis |
レリウス
…………。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
く、そ、この……! |
'Valkenhayn |
レリウス
……今宵はここまでだな。 我等は撤退するとしよう……不死者の王よ。 |
Relius |
クラヴィス
賢明だ。……あぁ、忘れ物だ、ちゃんと持ち帰ってくれよ。 |
Clavis |
ヴァルケンハイン
がっ……! |
'Valkenhayn |
レリウス
……やれやれ。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
ぐ……放せ……俺はまだ……。 |
'Valkenhayn |
レリウス
まさに負け犬の遠吠えだな。 標的は取り戻され、こちらの戦力はガタガタ。 |
Relius |
レリウス
この状況で、撤退以外になにをする……? 御剣機関に命を捧げるつもりはない。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
ぐ……。 |
'Valkenhayn |
レリウス
……失礼する。 |
Relius |
第10節 魔王④/ 10. Demon King - 4
Summary | |
---|---|
クラヴィスの強烈な威圧感に気圧されるシエ
ル達。ラケルを部屋に寝かせ、ラケルの状態 やこの世界についての話を聞く。 |
シエル
お疲れ様でした、レイさん。 |
Ciel |
シエル
レリウスさんたちは……もう反応がありません。 索敵範囲外に逃亡したものと思われます。 |
Ciel |
ラーベ
あれだけ一方的にやられておきながら、 まだそれだけの余力があるとはな。 |
Raabe |
ラーベ
新川浜にはどれだけ化け物が集まってるんだ……。 |
Raabe |
シエル
あ……。 |
Ciel |
クラヴィス
怪我はないかね? |
Clavis |
シエル
は……はい。 私もレイさんも、大きな損傷はありません。 |
Ciel |
クラヴィス
そうか。それはよかった。 人間は時々、驚くほど脆いからな。 |
Clavis |
シエル
…………。 |
Ciel |
シエル
あ……あの。ありがとうございます。 ラケルさんを……助けていただいて。 |
Ciel |
シエル
我々だけでは、とても……対処できませんでした。 ですので……。 |
Ciel |
クラヴィス
……ふむ。 |
Clavis |
シエル
な、なにか……? |
Ciel |
1: (物凄い威圧感を感じる……) (よくわからないけど目茶苦茶恐い……) |
1: |
クラヴィス
……いや。礼を言うのは、こちらのほうだ。 ラケルのために奮闘してくれたこと、感謝する。 |
Clavis |
クラヴィス
なにより、この場に来てくれて助かった。 私ひとりでは、ラケルを奪われていたかもしれない。 |
Clavis |
ラーベ
あなたは、先ほど『ラケル=アルカード』の父親だと 言っていたが……あれはどういう意味だ? |
Raabe |
クラヴィス
そのままの意味だ。 この子は私が存在を与え、姿を与え、ここまで育てた。 |
Clavis |
シエル
レイチェルさんも……ですか? |
Ciel |
クラヴィス
……そう言っても、間違いではないだろうな。 ただし彼女たちが姉妹かと聞かれると、返答に困る。 |
Clavis |
クラヴィス
……よく眠っている。 |
Clavis |
クラヴィス
場所を変えてもいいだろうか。 この子をこのまま、廊下に寝かせておきたくはない。 |
Clavis |
シエル
あ……はい。 ではナオトさんの部屋に運びましょう。 |
Ciel |
シエル
……布団も、元通りにかけておきますね。 |
Ciel |
ラーベ
さっきはこの部屋でヴァルケンハインと戦っていた ようだが……思いの外、室内に被害はないな。 |
Raabe |
クラヴィス
即席の、結界のようなものを張らせてもらっていた。 ラケルが世話になった家主に、迷惑をかけたくなかったのでな。 |
Clavis |
クラヴィス
さて。腰を落ち着けたところで……。 こちらからも、尋ねていいかね? |
Clavis |
シエル
は、はい……! |
Ciel |
クラヴィス
君たちは、この世界の『外側』から来たようだね。 そしてこの世界を『解放』するつもりなのだとか。 |
Clavis |
シエル
はい……その通りです。 |
Ciel |
クラヴィス
そうか。どうかね。できそうかね? |
Clavis |
シエル
それはまだわかりませんが……。 そうなるために、行動しています。 |
Ciel |
クラヴィス
なるほど。では健闘を祈るとしよう。 |
Clavis |
クラヴィス
でなければ、ラケルはこのまま…… この世界から切り離されてしまうだろうからね。 |
Clavis |
ラーベ
切り離される、とは……。 魂と器が完全に分断されてしまうという意味か? |
Raabe |
クラヴィス
左様。 そうか、君はラケルの仕組みを理解しているのだね。 |
Clavis |
ラーベ
観測した結果の、大まかなことだけだがな。 |
Raabe |
ラーベ
どういう理屈で魂と器が切り離されているのかは、 把握できていない。 |
Raabe |
ラーベ
そうだ、それについて問いたい。 ラケル=アルカードの魂はどこにある? |
Raabe |
クラヴィス
境界に。 |
Clavis |
ラーベ
……やはり、そうか。 |
Raabe |
クラヴィス
ラケルの魂……そう呼ばれているものがなんであるかは、 今は説明を省くとして。それは元々、境界にあったものだ。 |
Clavis |
クラヴィス
その魂とこの器を繋げることで…… 彼女はラケル=アルカードとして存在している。 |
Clavis |
クラヴィス
だがこの小さな仮初の『世界』は、 ラケルの魂の居場所を正確に把握してはいない。 |
Clavis |
クラヴィス
そのせいで、一度分断された魂は再び器と繋がることが 難しくなってしまった。 |
Clavis |
クラヴィス
ラケルの魂は、空へ飛ばされた風船のように、 境界を漂うはずだった。 |
Clavis |
クラヴィス
それを辛うじてつなぎ止めているのが……。 |
Clavis |
ラーベ
ライフリンクで繋がっている黒鉄ナオトの存在か。 |
Raabe |
クラヴィス
彼がいてくれたことは、実に幸運だった。 でなければラケルは、この世界から失われていたかもしれない。 |
Clavis |
クラヴィス
いかに仮初の『世界』とはいえ、 『世界』である以上『現実』でもある。 |
Clavis |
クラヴィス
『此処』こそが『現実』となったとき、 そこにラケルが存在しないのでは……まずいのでね。 |
Clavis |
ラーベ
なぜ、まずい? |
Raabe |
クラヴィス
はは。少々無鉄砲で反抗的なところもあるが、 私とて娘への愛情はある。失いたくはないものだ。 |
Clavis |
クラヴィス
だからこそ、ラケルの存在を繋ぎ止める楔として、 レイチェルを送り込もうとしていたのだが……。 |
Clavis |
クラヴィス
それも、君なしでは叶わなかっただろう。 |
Clavis |
クラヴィス
レイ。 君のその特異な力……。 |
Clavis |
クラヴィス
それをなんと呼称するべきなのか迷うところだが、 その力のおかげで、レイチェルは形を得ることができた。 |
Clavis |
クラヴィス
本当に、感謝しているよ。 |
Clavis |
ラーベ
そうか。レイに観測させることで、 本来はあり得なかった存在を成立させたのか……。 |
Raabe |
ラーベ
だがまさか、レイの力すら把握しているとは。 いや、そもそもあなたは、どこまで知っているんだ? |
Raabe |
クラヴィス
さて。もちろん全てではない。 だがここが、切り取られた『世界』の欠片であり……。 |
Clavis |
クラヴィス
誰かの思惑によって生み出された『場』であることは、 感じ取っているよ。 |
Clavis |
シエル
……あの。質問があるのですが。それだけのことが わかっていて、あれほどの力を持っているのなら、 |
Ciel |
シエル
この『世界』を生み出している存在が誰なのか わかりませんか? |
Ciel |
クラヴィス
いや。残念ながら、私もこの世界の一部として取り込まれ、 形作られた存在だ。 |
Clavis |
クラヴィス
世界のルールそのものに干渉することはできない。 |
Clavis |
クラヴィス
もちろん、世界そのもの……ファントムフィールドと 君たちが呼ぶもの自体を、破壊する術も持たない。 |
Clavis |
クラヴィス
……先ほどの、狼男と人形師の件もそうだ。 |
Clavis |
クラヴィス
君がいなければ、私は『ラケルを奪われる』という 世界のシナリオから、逃れられなかったかもしれない。 |
Clavis |
クラヴィス
もっとも、世界がどんなシナリオを求めているのかは、 私でも窺い知ることはできないが。 |
Clavis |
ラーベ
その理屈でいくと、ラケルを奪われないという展開こそ、 世界のシナリオであった可能性もあるわけだな。 |
Raabe |
クラヴィス
無論。 だから、私をあまり味方であると妄信しないことだ。 |
Clavis |
ラーベ
肝に銘じる必要がありそうだな。 幻想生物とやり合うのは、正直リスクが高すぎる。 |
Raabe |
クラヴィス
君たちがどのような目的で行動するにせよ、 私はラケルへの危害を阻止しようとするだろう。 |
Clavis |
クラヴィス
どうか君たちがそれに反することがないよう、 祈るばかりだ。 |
Clavis |
1: ラケルは助ける |
1: |
クラヴィス
……ありがとう。 心から期待している。 |
Clavis |
シエル
クラヴィスさんに真正面からそう言われると、 なにやら精神的重圧のようなものを感じます。 |
Ciel |
クラヴィス
なに、私もできるかぎりの助力はするつもりだ。 ……だが私にできることは非常に少ない。 |
Clavis |
クラヴィス
世界を変えることができるのは、 いつだろうと人の力と可能性だ。 |
Clavis |
クラヴィス
もう一度言おう。 君たちの可能性に、期待している。 |
Clavis |
第10節 魔王⑤/ 10. Demon King - 5
Summary | |
---|---|
連れ去られたひなたを救出するため、行動を
開始するシエルたち。 |
|
無事にひなたを救出し、キイロの元からナオ
トの部屋へ集まる一行に、クラヴィスを紹介 する。 |
ラーベ
……どうだ、シエル? |
Raabe |
シエル
……索敵……感知範囲拡大……確認……確認。 照合。認識。 |
Ciel |
シエル
……発見しました。 近辺を走行する御剣機関の車両です。 |
Ciel |
ラーベ
よし、これだけ探して照合できたのがそれだけなら、 間違いないだろう。 |
Raabe |
シエル
向こうの状況はわかりませんが……。 よろしいですか、レイさん。 |
Ciel |
1: こっちはこっちで、できる手を打とう |
1: |
シエル
了解しました。移動、開始します。 |
Ciel |
シエル
対象を確認、補足。 対象の撃破、および人質の奪還を開始します。 |
Ciel |
黒服
くそっ……! なんなんだ、こいつらは!? |
Black Suit | |
黒服
は、はい、申し訳ありません。 人質を奪われました……え? |
Black Suit | |
黒服
り、了解、撤退します……。 |
Black Suit | |
シエル
人質の確保を完了。 |
Ciel | |
ラーベ
……うん。緋鏡キイロが言ってた通り、 眠らされているだけみたいだな。 |
Raabe | |
ラーベ
外傷はない。精神波長にも、問題はなさそうだ。 |
Raabe | |
シエル
ナオトさんに良い報告ができますね。 |
Ciel | |
ラーベ
早速、連絡してやれ。そうすればあっちも色々と面倒を 切り上げて、戻ってこられるだろう。 |
Raabe | |
ラーベ
客人も、紹介せねばならんしな。 |
Raabe | |
シエル
はい。わかりました。 |
Ciel | |
キイロ
あぐ、う……っ。 |
Kiiro | |
ナオト
おらぁぁっ! |
Naoto | |
キイロ
きゃぁっ! |
Kiiro | |
キイロ
っ、ふふ……すごい……すごいわ、ナオトくん。 このまま受け続けていたら、本当に壊れちゃうかも。 |
Kiiro | |
ナオト
別にてめぇを殺したいわけじゃない。 ひなたとサヤを返せ! そんで、ラケルから手を引け! |
Naoto | |
キイロ
んふ……ナオトくんに強く要求されるの、興奮する。 ぞくぞくしちゃう。 |
Kiiro | |
キイロ
もっともっと、激しく絡み合いたいわ……。 |
Kiiro | |
キイロ
んもう。なによ、盛り上がってるところなのに……。 |
Kiiro | |
キイロ
…………。 |
Kiiro | |
キイロ
はぁ。残念だわ……これ以上のお楽しみは、 また今度にしなくちゃいけないみたい。 |
Kiiro | |
ナオト
え……おい、待て! |
Naoto | |
キイロ
またね、ナオトくん。 お友達とばっかり仲良くしてちゃ、嫌よ。 |
Kiiro | |
ナオト
!? |
Naoto | |
Es
くっ! |
Es | |
ナオト
わ……悪い。助かった。 |
Naoto | |
Es
いいえ、問題ありません。 ですが……緋鏡キイロを、逃がしてしまいました。 |
Es | |
ナオト
それは、まあ、いいよ。あのまま戦ってても、 キイロに勝てたとは思えねぇし……。 |
Naoto | |
ナオト
それより、冥、大丈夫か? |
Naoto | |
冥
っ……大丈夫、と言いたいところだが、 悔しいが見ての通りだ。 |
Mei | |
Es
冥、肩を貸します。掴まってください。 |
Es | |
冥
ああ……。それで、どうする? |
Mei | |
冥
レイたちと合流するか? それともひなたを探しに行くか……? |
Mei | |
ナオト
っ! 着信? 誰だ? レイ! どうした……? |
Naoto | |
ナオト
ああ……そうか、よかった。 ひなたも? マジかよ。わかった、すぐ戻る! |
Naoto | |
Es
向こうでなにか進展がありましたか? |
Es | |
ナオト
ラケルは無事だって。 それから、ひなたも保護できたってよ。 |
Naoto | |
冥
本当か? |
Mei | |
ナオト
ああ。 どっかでタクシーでもなんでも捕まえて、すぐ戻ろうぜ。 |
Naoto | |
ナオト
ラケル!! ひなた!!! |
Naoto | |
冥
おい、黒鉄。 もう深夜だぞ、近所迷惑だろうが! |
Mei | |
ナオト
んなこと言ったって……。 ああ、レイ、無事か! シエルも。 |
Naoto | |
シエル
はい。問題ありません。 |
Ciel | |
Es
ラーベさんも、ご無事なようですね。 |
Es | |
ラーベ
ああ。 |
Raabe | |
ラーベ
ラケルとひなたなら、そこの部屋で並んで寝てる。 どちらも怪我はないから、安心しろ。 |
Raabe | |
ナオト
そうか……ありがとう。よかった……本当に。 |
Naoto | |
冥
うん? レイチェル=アルカードはどうした? 一緒じゃないのか? |
Mei | |
シエル
はい。レイチェルさんは、先に戻られました。 どこへかは……わからないのですが。 |
Ciel | |
クラヴィス
私の城へだよ。そこで休んでいることだろう。 |
Clavis | |
ナオト・冥・Es
っ!? |
Naoto, Mei, & Es | ? |
---|---|---|
クラヴィス
彼女がこちらで活動するには、なにかと余計に 消耗するのでね。休息が必要だ。 |
Clavis | |
冥
な……っ……なん、だ、この男は……? |
Mei | |
Es
……! |
Es | |
ナオト
誰だ、あんた……? いや、前に会ったか? |
Naoto | |
クラヴィス
こちらでは、はじめまして。黒鉄ナオト。 クラヴィス=アルカードだ。いつも娘が世話になっているね。 |
Clavis | |
ナオト
アルカード? 娘? 誰の? |
Naoto | |
ラーベ
落ち着け、ナオト。気持ちはわかるが、とにかく落ち着け。 |
Raabe | |
ナオト
ラケルの父親!? は? なにがどうなって……。 それに……。 |
Naoto | |
ナオト
……なんなんだよ、この人……。 いるだけなのに、身がすくむ……。 |
Naoto | |
シエル
レイチェルさんの言っていた『助っ人』が 彼のようです。 |
Ciel | |
シエル
ラケルさんを、ヴァルケンハインさんとレリウスさんから 守ってくれました。 |
Ciel | |
ナオト
そうなのか……。その、ありがとうございます。 |
Naoto | |
クラヴィス
……いや。礼を言うのはこちらのほうだ。 娘を守ってくれて、ありがとう。 |
Clavis | |
クラヴィス
さて……ラケルの状態についての話は、 もう一度私からしたほうがいいだろうか? |
Clavis | |
ラーベ
いや、こいつらには……。 |
Raabe | |
ナオト
ラケルの話? なんだよ、聞かせてくれ! |
Naoto | |
ラーベ
……聞いても、まともに理解できるとは 思えないんだがな。 |
Raabe | |
ナオト
それでも聞かせろよ。なにか知ってるんだろ。 |
Naoto | |
1: クラヴィスさん、お願いします |
1: | |
クラヴィス
わかった。いいだろう。 |
Clavis | |
クラヴィス
そうかね。では、頼むとしよう。 |
Clavis | |
1: クラヴィスさん、お願いします |
1: | |
クラヴィス
わかった。いいだろう。 |
Clavis | |
クラヴィス
そうかね。では、頼むとしよう。 |
Clavis | |
ナオト
待て。待て待て。 |
Naoto | |
ナオト
つまり……この世界は観測者ってやつが作った世界で、 ラケルの魂がある場所から切り離されてる……。 |
Naoto | |
ナオト
そのせいでラケルは、眠ったまま目を覚まさない。 |
Naoto | |
ナオト
んで、クラヴィスさんはその状態のラケルを 守ろうとしていて……。 |
Naoto | |
ナオト
レイチェルって子もそのために現れた……。 で、いいのか? |
Naoto | |
ナオト
おお、情報多すぎて頭がパンクしそうだ……。 |
Naoto | |
シエル
大丈夫です。おおむね、理解されていると思います。 |
Ciel | |
ナオト
ならいいんだがよ……。 |
Naoto | |
クラヴィス
君は、ラケルを目覚めさせようとしているそうだね。 |
Clavis | |
クラヴィス
……そのように行動してくれる者が、 彼女の側にいるとは。心強いことだ。 |
Clavis | |
ナオト
そりゃ、そうだろ。あいつは俺の……恩人だからな。 できることがあるなら、なんでもするさ。 |
Naoto | |
クラヴィス
……そうか。 |
Clavis | |
ナオト
今の話からすると、ラケルの魂は境界ってところにあるんだろ? |
Naoto | |
ナオト
そこに行って、ラケルの魂を持ってくる ってわけにはいかないのか? |
Naoto | |
ラーベ
無茶苦茶なことを言うな、お前は。 境界で個の魂ひとつ探し出すなど、正気の沙汰じゃないぞ。 |
Raabe | |
ラーベ
大体、そんな簡単に見つかるなら、 クラヴィス=アルカードがもう見つけてるはずだ。 |
Raabe | |
ナオト
う……それもそうか……。 |
Naoto | |
ラーベ
それに、そもそも境界になんか簡単に行けるものか。 |
Raabe | |
ナオト
でも……あるってことは、どっからかは行けるんだろ? |
Naoto | |
クラヴィス
そうやって、人は古来から幾度も境界へと至る門を求めてきた。 ……この街にも、そういう存在はいるのではないかな? |
Clavis | |
ラーベ
……確かに。 そういう使い方ができるのかは定かではないがな。 |
Raabe | |
ナオト
なんの話だ? |
Naoto | |
ラーベ
アラクネだよ。奴は高濃度の魔素でできた体を持っていた。 そういうものは……門となる可能性がある。 |
Raabe | |
ナオト
門? |
Naoto | |
ラーベ
ようは、境界との接点だ。アラクネは絶えず蟲を生み出して いただろう。あれも境界につながっているがゆえのことだ。 |
Raabe | |
ナオト
なっ……じゃあ、あいつの力があれば 境界に行けたかもしれないってことか!? |
Naoto | |
ラーベ
かもしれないだけだ。それにあいつの力と言うが、 あれにどうやって協力させるつもりだ。 |
Raabe | |
ナオト
それは……そうだけどよ。 |
Naoto | |
ラーベ
どのみちアラクネはもういない。取るとしても別の手段だ。 |
Raabe | |
ナオト
……そっか。無理ならしょうがねぇ。 ってことは、マジで観測者をどうにかするしか、 |
Naoto | |
ナオト
ラケルを目覚めさせる方法はないってことか。 |
Naoto | |
ナオト
サヤのこともどうにかしねぇとだし……。 |
Naoto | |
クラヴィス
……ふむ。 |
Clavis | |
クラヴィス
黒鉄ナオト。 |
Clavis | |
ナオト
っ! |
Naoto | |
クラヴィス
そう身構えることはない。とって食いやしない。 |
Clavis | |
ナオト
わ……わかってる、けどさ……。 あんた、なんかおっかないんだよ。 |
Naoto | |
クラヴィス
腕を出しなさい。右腕を。 |
Clavis | |
ナオト
へ? な……なにを……? |
Naoto | |
ナオト
は……? |
Naoto | |
冥
ひぃっ!? |
Mei | |
1: うぁぁぁぁ! |
1: | |
Es
ナオトの、腕が……取れて、います。 |
Es | |
冥
みればわかるっ!!! |
Mei | |
シエル
だ……大丈夫なのですか、ナオトさん? |
Ciel | |
ラーベ
へー面白い構造をしているな……ふむふむ。……ほうほう。 |
Raabe | |
ナオト
おめぇは感心してんじゃねぇよ! |
Naoto | |
クラヴィス
やはりそうか。 この腕は、ラケルの……血で作られたものだね。 |
Clavis | |
シエル
血? 腕がですか? |
Ciel | |
ナオト
……ああ、そうだよ。でも、なんで知ってんだ。 |
Naoto | |
クラヴィス
わかるとも……娘の血は元々、私のものだ……。 |
Clavis | |
ナオト
は? |
Naoto | |
クラヴィス
それより……君は、命の危機に瀕した際、ラケルに吸血鬼化 させられたそうだが。本来の腕はそのときに失ったのかね? |
Clavis | |
ナオト
……はっきりとは覚えてねぇけどな。 その時、ラケルが吸血鬼の力で作ったとかって……。 |
Naoto | |
ナオト
でも、普通に動くし、ドライブ使うと 右腕だけやたら強くなるし、不便はねぇよ。 |
Naoto | |
シエル
驚きです。よくわからないまま、 自分のものではない腕を使い続けているのですか? |
Ciel | |
ナオト
うるせ。今はそんなこと、いいだろ。 |
Naoto | |
ナオト
それより、腕返せよ! いつまで眺めてんだ、見せもんじゃねぇぞ。 |
Naoto | |
クラヴィス
ああ、これは失礼。 |
Clavis | |
クラヴィス
……どうかね? |
Clavis | |
ナオト
……ん。おお。 |
Naoto | |
シエル
ナオトさんの腕が元に戻りました。 ぴったりくっついています……不思議です。 |
Ciel | |
冥
信じられん……。 吸血鬼というのは、不可解な術を使うな……。 |
Mei | |
1: 痛くないの? |
1: | |
ナオト
ああ……全然平気だ。ほら。普通に動くだろ。 |
Naoto | |
ナオト
それに、なんだ? 妙に軽いっつーか……。 びっくりするくらい、違和感がねぇ。 |
Naoto | |
クラヴィス
それがその腕、本来の性能だ。 |
Clavis | |
Es
今までは、制限されていたのですか? |
Es | |
クラヴィス
ああ。ラケルはまだ半人前でね。 君の腕を補完する技術も、未熟だったようだ。 |
Clavis | |
クラヴィス
だが、その腕ならば、今後の戦いの助けになるだろう。 |
Clavis | |
ナオト
……ありがとうございます。 ラケルは必ず、俺が助けますから。 |
Naoto | |
クラヴィス
期待しておこう。 |
Clavis | |
クラヴィス
さて。そろそろ私は失礼するよ。長居をしすぎた。 あまり人の世に深く関わると、良くないのでね。 |
Clavis | |
ラーベ
確かにそうだろうな。事象に対する影響が大きすぎる。 あまりあなたの力は借りないほうがよさそうだ。 |
Raabe | |
クラヴィス
ぜひ、そうあってもらいたい。 では……娘を頼む。 |
Clavis | |
1: き、緊張したぁ…… |
1: | |
冥
情けない声を出すな……と言いたいところだが、 悔しいかな、同感だ。 |
Mei | |
冥
吸血鬼、クラヴィス=アルカード……。 正直言って、息をするのもやっとな威圧感だった。 |
Mei | |
Es
ラケルさんのことを……心配しているようでした。 |
Es | |
ナオト
父親だって言ってたからな。 ……そうだ、ラケルとひなた! |
Naoto | |
ナオト
ひなた……ったく、呑気な顔しやがって。 怪我がなくて本当によかったよ。数値もいつも通りだし。 |
Naoto | |
冥
ひとまず、簡易的な結界を張っておこう。 |
Mei | |
冥
レリウスやヴァルケンハインのような奴に 乗り込まれたら、どこまでもつかはわからんが……。 |
Mei | |
冥
無防備にしておくよりは、いくらかいいだろう。 |
Mei | |
ナオト
ああ、助かる。 ……お前ら、今日どうする? 帰るか? |
Naoto | |
冥
……いや、状況が状況だけに、 暫くは警戒しておいた方が良さそうだ。 |
Mei | |
Es
冥。でしたら、あなたの体力、体調を考慮すると、 少々休まれたほうが良いかと思います。 |
Es | |
冥
む……。 |
Mei | |
ナオト
無理すんなよ。いいから休んどけ。 |
Naoto | |
冥
……はぁ。そうだな。確かにエスの言う通りだ。 虚勢を張っても意味などない。 |
Mei | |
冥
というか黒鉄、お前も少し休め。 |
Mei | |
ナオト
そうだな……。 |
Naoto | |
シエル
では、私も警戒に当たります。 |
Ciel | |
ナオト
あぁ……疲れてるとこ悪いが、頼むわ。 |
Naoto | |
ナオト
……サヤ。無事でいろよ。 |
Naoto |
第11節 襲撃①/ 11. Assault - 1
Summary | |
---|---|
御剣機関にて、サヤに協力を迫るキイロとハ
ザマ。一方ナオトたちはラケルの保護場所を 天ノ矛坂家に移動しようとしていた。 |
キイロ
ご機嫌はいかが? 輝弥家のお嬢様。 |
Kiiro |
サヤ
…………。 |
Saya |
キイロ
恐い顔。でも今のあなたにできるのは、 睨みつけることくらいだものね。ふふ、可哀想。 |
Kiiro |
ハザマ
体調に問題はなさそうですねぇ。 薬の影響も、当然ありません。 |
Hazama |
サヤ
……緋鏡が私をこのような場所に捕らえて、 なにをしようというのです? |
Saya |
キイロ
ふふ……宗家大黒『天ノ矛坂』、
それに従うは |
Kiiro |
キイロ
封魔の家なら助け合うのは当たり前じゃない? |
Kiiro |
サヤ
助け合う? 戯言を。 |
Saya |
キイロ
どう思おうがご勝手にどうぞ。貴女の意志なんてどうでもいいわ。 なにを考えようと、私たちの悲願に協力してもらうんだから。 |
Kiiro |
キイロ
幻想生物の……殲滅に。 |
Kiiro |
サヤ
幻想……生物? |
Saya |
キイロ
私たち御剣機関はね、人類の存続を理念としているの。 |
Kiiro |
キイロ
だけど世界には、人類を脅かす厄介な怪物が存在しているわ。 そういうものを『幻想生物』と呼んでいるの。 |
Kiiro |
サヤ
……たとえば、吸血鬼など……ですか? |
Saya |
キイロ
あらぁ〜、察しがいいじゃない。お利口さんね。 |
Kiiro |
キイロ
そうよ。でも貴女の知ってる、ラケル=アルカードの ような、小物じゃないわ……。 |
Kiiro |
キイロ
|
Kiiro |
キイロ
これを、貴女が倒すの。 |
Kiiro |
サヤ
クラヴィス=アルカード……? |
Saya |
サヤ
なぜ、私が? お前たちの手先になるつもりなどありませぬ。 |
Saya |
ハザマ
いえいえ、手先などと。 あなたにとっても、悪い話じゃないと思いますよ? |
Hazama |
サヤ
……貴様は? |
Saya |
ハザマ
始めましてになりますね、ですが貴女が私の名前を覚える 必要はありませんので……お気になさらないでください。 |
Hazama |
サヤ
…………。 |
Saya |
ハザマ
吸血鬼クラヴィス=アルカードはですねぇ、 御剣機関が観測した中でも、かなり特異な存在なんですよ。 |
Hazama |
ハザマ
なにせとにかく強い。純粋な『力』においては測定不可能です。 さらに不死身とも言える肉体に、それを補う再生能力。 |
Hazama |
ハザマ
おまけに魔法まで使えるらしいんですよ。 もう反則ですよねぇ……。まさに、化け物中の化け物です。 |
Hazama |
ハザマ
正直に言って、仕事でなければできる限り関わりたくない 存在なんですよ。 |
Hazama |
サヤ
話がくどいですね。 その化け物と私に、なんの関係があるのです? |
Saya |
ハザマ
関係? 関係がある? あります、ありますよぉ。おおありじゃないですか。 |
Hazama |
ハザマ
だって……貴女の『中』にも居るでしょう? できる限り関わりたくない存在。化け物中の化け物……。 |
Hazama |
ハザマ
ソウルイーターが。 |
Hazama |
サヤ
!? |
Saya |
ハザマ
命を喰らい、魂を喰らい、存在をも喰らう。 それがソウルイーターです。 |
Hazama |
ハザマ
その食欲は留まることを知りません。 |
Hazama |
ハザマ
どんな相手でも……そう、宿主である貴女ですら、 その命を、存在を食われ続けている。 |
Hazama |
ハザマ
そしてそれを止めることは誰にもできない。 ……そうですよね、輝弥サヤさん。 |
Hazama |
サヤ
…………。 |
Saya |
ハザマ
どこかの誰かさんじゃありませんけど、興味がありますねぇ。 |
Hazama |
ハザマ
少しずつ、少しずつその『魂』を削り取られていく気分は、 どんなものなのでしょう? |
Hazama |
ハザマ
良ければ教えていただけませんかね? |
Hazama |
キイロ
話が逸れてるわよ。先に進めて。 |
Kiiro |
ハザマ
おおっと、これは失礼しました。つい脱線してしまいまして。 ですが……貴女にも、話が見えてきたんじゃありません? |
Hazama |
ハザマ
どんなに強大な肉体を持っていても、どんなに強大な力を持ち、 強大な命を持ち……強大な『魂』を持っていたとしても、 |
Hazama |
ハザマ
『存在』ある限り、ソウルイーターにあらがうことは不可能です。 |
Hazama |
ハザマ
それはもちろん、 クラヴィス=アルカードとて例外ではありません。 |
Hazama |
サヤ
……だから、私にクラヴィス=アルカードなる者を 『喰え』というのですか? |
Saya |
ハザマ
我々が知る限り、 あの吸血鬼を倒す方法はソウルイーター以外にありません。 |
Hazama |
ハザマ
……ですが我々が知る限り、 あの吸血鬼以上に強い『魂』もまた、ありません。 |
Hazama |
ハザマ
『魂』……このところの貴女がたが聞きなじみある言葉に 置き換えますと……生命力、ですかね。 |
Hazama |
ハザマ
比類なき生命力。他のどんな存在でも抱えていられないほどの 膨大な命を、あなたが『喰らう』ことができたなら……。 |
Hazama |
ハザマ
あなたは誰にも引けを取ることのない生命力を、 手に入れられるのですよ。 |
Hazama |
サヤ
それがなんだと言うのです。そんなもの、私には必要ありません。 |
Saya |
ハザマ
本当に? 本当にそうですか? 貴女……ずっと欲しかったのではありませんか? |
Hazama |
ハザマ
休むことなく戦い続けられる力。 輝弥の家を支えて余りある力。 |
Hazama |
ハザマ
どこへでも……兄と一緒に駆けていける、力。 |
Hazama |
サヤ
……っ! |
Saya |
ハザマ
あらら。図星ですか? 顔色が変わりましたよ? |
Hazama |
サヤ
……ふん。下らない。下品な憶測ですね。 そのような妄言に、惑わされるものですか。 |
Saya |
ハザマ
妄言などではありませんよ。 それに、貴女はもうすでに知っているはずです。 |
Hazama |
サヤ
なにを……。 |
Saya |
ハザマ
『喰った』でしょう? 膨大な生命力を。 アラクネから。 |
Hazama |
サヤ
あれは、貴様たちが……! |
Saya |
ハザマ
ええ、ええ。 我々が貴女の力を暴走させて、喰わせたのでしたね。 |
Hazama |
ハザマ
その節は、失礼いたしました。 それもこれも、貴女に力をつけてもらうため。 |
Hazama |
ハザマ
クラヴィス=アルカードと対峙したときに、 即座に負けてしまっては困りますからね。 |
Hazama |
ハザマ
ですが……いかがです? 体は好調ではありませんか? 力がみなぎっているのではありませんか? |
Hazama |
ハザマ
煮詰められ凝縮された膨大な生命力の味は、いかがですか? |
Hazama |
ハザマ
……もっと欲しくはありませんか? |
Hazama |
ハザマ
手に入りますよ。その力があれば。 いいえ、貴女だけが手に入れられるのです。 |
Hazama |
ハザマ
貴女にしか、手に入れられないのです。 |
Hazama |
サヤ
…………。 |
Saya |
ハザマ
それこそが、貴女のなすべきことだと、思いませんか? |
Hazama |
ハザマ
さあ、一緒に手に入れましょう!! ……貴女が望む世界を。 |
Hazama |
蒼を……探して……。 そして私を……。 |
|
私を、見つけて……。 |
|
ナオト……。 |
|
ナオト
ごちそうさま。昼飯、用意してくれてありがとうな。 |
Naoto |
ひなた
いえいえ、どういたしまして。 |
Hinata |
ひなた
……お昼過ぎまで寝過ごしちゃったんだもん。 |
Hinata |
ひなた
学校まで休んじゃったし、これくらいしてないと 落ち着かないの。 |
Hinata |
ひなた
冥ちゃんやエスちゃんも泊まりに来てたっていうのに、 全然気づかないで寝てたなんて。 |
Hinata |
Es
気にしないでください。急な用事があったので、 遅くにお邪魔することになってしまっただけですから。 |
Es |
ひなた
でも……。 ナオトちゃんも、起こしてくれればよかったのに……。 |
Hinata |
ナオト
いや、はは、よく寝てたからさ。疲れてたんだろ。 |
Naoto |
ひなた
そうかなぁ。あ、お皿、洗っちゃうね〜。 |
Hinata |
Es
手伝います、ひなた。 |
Es |
ひなた
いいよいいよ。お客さんなんだから、座ってて。 |
Hinata |
Es
いえ、手伝わせてください。 |
Es |
シエル
…………。 |
Ciel |
冥
……ひなたは昨夜のことをまったく覚えていないみたいだな。 |
Mei |
シエル
はい。クラヴィスさんが施してくださった 魔法の効果のようです。 |
Ciel |
冥
便利なものだ。今回は助かったが、敵には回したくないな。 |
Mei |
冥
……さて、今のうちに話しておくぞ、黒鉄。あまり姫鶴に 聞かせることでもないだろうからな。手短に言う。 |
Mei |
冥
ラケル=アルカードの保護拠点を、移したほうがいい。 |
Mei |
ナオト
……やっぱ、そう思うか。 |
Naoto |
冥
ああ。ヴァルケンハインとレリウスを送り込んでくる 程度には、御剣機関は彼女を手に入れたがっている。 |
Mei |
冥
となれば、再び襲撃を受けることは容易に想像がつく。 というか、これですっぱり諦める理由がない。 |
Mei |
シエル
もしまた襲撃を受けたとき、 クラヴィスさんが助けにきてくれるとは限りません。 |
Ciel |
シエル
それに……ここでは、ひなたさんを巻き込む可能性が 非常に高いです。 |
Ciel |
ナオト
そうだよな……。昨日だって、怪我こそなかったけど 間違いなくひなたを巻き込んだんだし……。 |
Naoto |
冥
なら、いいな。 |
Mei |
ナオト
ああ。でも、移すったって、どこに移動させるんだ? ……まさか。 |
Naoto |
冥
こうなった以上、他に選択肢はないだろうが。 |
Mei |
ナオト
天ノ矛坂か……。 |
Naoto |
1: 難しい顔してるけど…… |
1: |
ナオト
ああ、うん……。 |
Naoto |
ナオト
天ノ矛坂、つまり冥の家と、うち……輝弥の家は、 ちょっと特殊な繋がりがあるんだよ。 |
Naoto |
ナオト
……俺とサヤの家族は、事故で死んじまってさ。天ノ矛坂は そのあと、俺たちの面倒を見てくれた家でもあるんだけど。 |
Naoto |
ナオト
俺は勝手に家を飛び出したし、輝弥の跡取りとして大事に 育ててもらってたサヤは今、こういう状況だし。 |
Naoto |
ナオト
あんまり気安く戻れるところじゃねぇっつーか……。 |
Naoto |
冥
確かに体裁は悪いな。粋がって出ていっておいて、 女を抱えて転がり戻るわけだからな。 |
Mei |
冥
不甲斐ない事極まりない。 |
Mei |
ナオト
うぐ……。 |
Naoto |
冥
だが、そんなことを言っている場合でもあるまい。 |
Mei |
ナオト
まあな。でも、いいのか? |
Naoto |
ナオト
アラクネは倒した。ってことは、蟲の件は一応片がついてる。 天ノ矛坂としては、蟲の件が終わったんならもう……。 |
Naoto |
冥
馬鹿を言うな。……友人の妹が誘拐されているんだぞ。 こっちの用がすんだからといって、おとなしく手を引けるか。 |
Mei |
冥
それに輝弥は、一度は天ノ矛坂が預かった人間だ。 御剣機関といえど勝手は許さない。 |
Mei |
冥
家のことは気にするな。私が責任を持って手配する。 感謝しろよ、黒鉄。 |
Mei |
ナオト
一生恩に着るよ。 |
Naoto |
冥
ほう、忘れるなよ、その言葉。 |
Mei |
ナオト
はは……。 |
Naoto |
ナオト
あ、勝手に話、進めちまったけど。 レイたちは、それでいいか? |
Naoto |
ラーベ
構わないぞ。状況に合わせて、こちらはこちらで行動する。 |
Raabe |
ラーベ
ラケル=アルカードについては、 当事者であるお前の意見を優先させるといい。 |
Raabe |
ナオト
そうか。わかった。 |
Naoto |
ナオト
じゃあ、支度すっか。ひなたにも言っておかねぇとな。 |
Naoto |
シエル
冥さんが天ノ矛坂の家に連絡して、 車を呼んでくださるそうです。 |
Ciel |
ラーベ
そうか。ナオトのほうは、ひなたに事情を説明しているらしい。 |
Raabe |
ラーベ
……今のうちに言っておくぞ。 レイ、ラケルを決して御剣機関に奪われるな。 |
Raabe |
シエル
それは……そのようにするつもりではありますが、 なにか特別な理由があるのですか? |
Ciel |
ラーベ
ある。観測者の狙いはラケルだ。 |
Raabe |
ラーベ
御剣機関は強引な手を使ってでも、 ラケルの身柄を手に入れたがっている。 |
Raabe |
ラーベ
それはつまり、観測者がラケルの身柄を少なくとも ナオトの手元に置いておきたくないと思っているからだろう。 |
Raabe |
ラーベ
観測者はラケルをナオトから遠ざけたいんだ。 |
Raabe |
ラーベ
だからラケルの魂と肉体の接続を切った。 続いて、身柄を遠ざけようとしている。 |
Raabe |
ラーベ
だからこそ、ラケルを意地でも確保しろ。 観測者が欲しがっているのなら、それを阻止するんだ。 |
Raabe |
シエル
いわゆる『ちょっかい』ですね。観測者の願望通りに 事が運ばないようにする、と。 |
Ciel |
ラーベ
そうなったとき、観測者は無理にでも動く。 自分の願望を押し通そうとするはずだ。 |
Raabe |
ラーベ
それが『誰』なのか、お前が見なくてはならない。 |
Raabe |
1: 観測の力を使って? |
1: |
ラーベ
そう。それができるのは、お前だけだ。 |
Raabe |
ナオト
悪い、待たせた。ラケルは変わりないか? |
Naoto |
シエル
はい。眠ったままです。 |
Ciel |
ナオト
そっか……部屋から運び出しても反応なしかよ。 ったく。 |
Naoto |
Es
お待たせしました。手配が整いました。 |
Es |
冥
数分で車が来るはずだ。 二台来るから、分かれて乗るぞ。 |
Mei |
Es
ナオトは、ラケルさんを連れて、冥と一緒に乗ってください。 |
Es |
Es
レイさんとシエルさん、 ラーベさんは、私と一緒に。 |
Es |
シエル
わかりました。 |
Ciel |
シエル
……! 待ってください。 |
Ciel |
Es
はい。私も感知しました。 後方に数名の反応があります。 |
Es |
ラーベ
御剣機関だろうな。 こちらの同行を見張っているのも、当然か。 |
Raabe |
冥
うちまでついてこられるのは、気分が悪いな。 今のうちに片付けておこう。 |
Mei |
ナオト
ああ。あいつらのいいようにさせてやるかよ。 |
Naoto |
Es
ナオトは、そこにいてください。 ラケルさんを抱えていますから。 |
Es |
シエル
対処は私達が行います。距離……計測。 対象を確認、認識。行きます。 |
Ciel |
第11節 襲撃②/ 11. Assault - 2
Summary | |
---|---|
天ノ矛坂家。屋敷を案内したEsが「蟲の発
生」「御剣機関の存在」以外の『異変』が、 この世界に生じていると言う。 |
ナオト
……これでよし、かな。 マジでまったく反応しねぇな。 |
Naoto |
ラーベ
魂との接続が切れているんだ、それはそうだろう。 |
Raabe |
冥
部屋と屋敷の周辺に結界を張ってきた。 |
Mei |
冥
御剣機関相手にどれくらい効果があるかはわからないが、 ないよりはマシだろう。 |
Mei |
冥
寝具も用意してやる。泊まりたければ泊まっていけ。 |
Mei |
ナオト
いいのか? |
Naoto |
冥
ラケル=アルカードをひとり残して、 世話を丸投げされても迷惑だからな。 |
Mei |
ナオト
ありがとう、助かるよ。 |
Naoto |
シエル
私達もお世話になってもいいでしょうか。 |
Ciel |
冥
ふん。この大人数で何か月も居座るんじゃないぞ。 そこまで面倒見きれんからな。 |
Mei |
シエル
ありがとうございます。 なんでもお手伝いしますので。 |
Ciel |
冥
ほう。それはそれは。期待しておいてやる。 |
Mei |
冥
とりあえず、軽く家の中を案内しよう。 いちいち教えるのも煩わしいから、一回で覚えろよ。 |
Mei |
冥
エス。 |
Mei |
Es
はい。ご案内します。どうぞ。 |
Es |
Es
こちらが浴室。そしてこの先が裏口になります。 ……これで、邸内を一周しました。 |
Es |
1: 案内してくれてありがとう |
1: |
Es
はい。わからないことがありましたら、 いつでも聞いてください。 |
Es |
シエル
……あの。 |
Ciel |
ラーベ
シエル? |
Raabe |
シエル
エスさんに聞きたいことがあるのですが。 |
Ciel |
Es
はい。なんでしょう? |
Es |
シエル
エスさんは……素体なのですか? |
Ciel |
Es
…………。 |
Es |
シエル
緋鏡キイロさんに言っていました。 自分と同じ、エンブリオストレージだと。 |
Ciel |
シエル
エンブリオストレージとは、素体のことですよね。 では、エスさんは……。 |
Ciel |
Es
はい。素体です。 |
Es |
シエル
! |
Ciel |
Es
私は人の手によって作られた存在です。 キイロさんと同じく御剣機関によって作成されました。 |
Es |
Es
……シエルさんも、そうですね。 |
Es |
シエル
……はい。 |
Ciel |
Es
『驚き』の反応を感知しました。 私が素体であることが、奇妙ですか? |
Es |
シエル
いえ、そうではありません。ただ、このような形で自分以外の 素体と時間をすごしたことがなかったので……。 |
Ciel |
シエル
どのような反応が相応しいのか、わからないです。 |
Ciel |
Es
戸惑われているのですか。 私も、少し奇妙な感覚を覚えています。 |
Es |
シエル
まるでここにいるのが当たり前であるかのように、 エスさんは冥さんたちの日常に溶け込んでいました。 |
Ciel |
シエル
でも、人ではなく素体で……そのうえ、『異物』だと聞きました。 そのことに、とても……驚いて。お話を聞いてみたいと……。 |
Ciel |
Es
異物? |
Es |
シエル
はい。……本来はこの世界に存在しない、この世界が構築される 際に別の世界から紛れ込んでしまった存在のことです。 |
Ciel |
シエル
冥さんが言っていました。自分はこの世界の人間ではない 気がする、と。エスさんもおそらくそうだろうと。 |
Ciel |
シエル
ですから……。 |
Ciel |
Es
それは違います。 |
Es |
シエル
え? |
Ciel |
Es
私はシエルさんたちの言う『異物』ではありません。 それに、冥も。 |
Es |
ラーベ
待て、それはどういうことだ? |
Raabe |
ラーベ
冥が感じていた違和感は勘違いだということか? それとも、『異物』が誰なのかお前にはわかるということか? |
Raabe |
Es
どちらも少しずつ違います。ただ私は、知っているだけです。 天ノ矛坂冥はこの街の住人だということを。 |
Es |
シエル
そうなのですか? ではどうして冥さんは、 ここは自分のいるべき世界ではないと感じたのでしょうか。 |
Ciel |
シエル
蟲のような異変が起こっているからといっても、世界そのもの が違っているように感じるとは、考えにくいのですが。 |
Ciel |
ラーベ
シエルの疑問も、もっともだ。 |
Raabe |
ラーベ
普通、おかしなことが起こっているからといって、 世界に対して違和感を覚えることは稀だろう。 |
Raabe |
ラーベ
ましてや冥は、陰陽師だ。普段から異質なものと 対峙することも多いだろう。それなのに……。 |
Raabe |
ラーベ
……心当たりは? |
Raabe |
Es
あります。 |
Es |
Es
皆さんがおっしゃるように、この新川浜には 『異変』が生じています。 |
Es |
Es
ですがそれは、蟲の発生でも、御剣機関の存在でもありません。 |
Es |
Es
時間が圧縮されていることです。 |
Es |
ラーベ
時間……そうか。なるほどな。そういうことだったのか。 |
Raabe |
1: よくわからない。どういうこと? |
1: |
Es
『過去』と『未来』が『現在』という地点に 集約されているのです。 |
Es |
Es
もう少し噛み砕いて説明しますと……例えば、10年間、 20年間の新川浜が、ここに凝縮されている状態です。 |
Es |
Es
ですから、10年前に新川浜にいた人も、10年後に新川浜に いる人も、ここには存在しうるのです。 |
Es |
シエル
でも……それでは、同じ人が何人も存在することに なりませんか? 10年前のその人と、今のその人と。 |
Ciel |
ラーベ
それが、基本的にはならない。なぜなら世界にそいつは ひとりしか存在しない『はず』だからな。 |
Raabe |
ラーベ
まあ、ファントムフィールドのようなイレギュラーだらけの 世界で普通だとか本来だとか語っても不毛ではあるが…… |
Raabe |
ラーベ
通常は、圧縮された時間軸の中の 『どこか』の存在が抽出される。 |
Raabe |
ラーベ
ある個人の情報が、ある時間の一点に集まるような イメージだと……理解できるか? |
Raabe |
1: わかるような…… |
1: |
ラーベ
まあいい。重要なのは、その何十年間に渡る時間軸の中の、 どこかで新川浜に存在したのなら、 |
Raabe |
ラーベ
今この新川浜に存在していても『異物』ではないということだ。 |
Raabe |
ラーベ
天ノ矛坂冥が感じていた世界への違和感は、 世界そのものへの違和感ではなく、 |
Raabe |
ラーベ
自分が存在する時間軸への違和感だったということになる。 |
Raabe |
ラーベ
……いや、断定は危険だな。そういう可能性がある。 |
Raabe |
Es
はい。そして私は、冥が新川浜に存在した人物であることを 知っています。 |
Es |
Es
……それを信用していただくかどうかは、別の問題ですが。 |
Es |
ラーベ
そう、信用だ。我々は冥の発言を信用しすぎていた。 |
Raabe |
ラーベ
私としたことが、世界への違和感を即座に『異物』に繋げるとは 軽率だった。 |
Raabe |
シエル
待ってください、ラーベさん。 |
Ciel |
シエル
冥さんが『異物』でなかったとなると、 なにか問題があるのですか? |
Ciel |
シエル
そのような口ぶりに感じますが……。 |
Ciel |
ラーベ
あるとも。というか、私たちは一度しっかり情報を 整理する必要があるぞ。 |
Raabe |
ラーベ
エス。一旦話を戻すが、お前は先ほど、 自分は『異物』ではないと言ったな? |
Raabe |
ラーベ
それはお前も、新川浜に存在したはずの存在だからか? |
Raabe |
Es
私が新川浜という土地に踏み込む可能性はあります。 |
Es |
ラーベ
曖昧な言い方だな。断定はできないのか? |
Raabe |
Es
はい。ですが……わかります。 |
Es |
Es
私は、素体です。そして……具体的で鮮明な記憶はありませんが、 おそらく……『蒼』に触れたことがあります。 |
Es |
Es
だからわかるのです。非理論的なことだとはわかっています。 ですが……感じることができます。 |
Es |
Es
私や冥や……ナオトやサヤさんが、この場にちゃんと 繋がっている存在だということが。 |
Es |
ラーベ
確かに、説得力には大いに欠ける証言だな……。 って蒼に触れただと!? |
Raabe |
1: 蒼? |
1: |
Es
先程も言ったとおり『曖昧』な感じでしかありませんが……。 |
Es |
ラーベ
ぬぅ……とても興味はあるが、今は現状の対策が先だ……。 |
Raabe |
ラーベ
だから改めて確認するぞ、エス。 |
Raabe |
ラーベ
お前から見て、私たちがこれまで出会ってきた人物の中で、 明確に『異物』だと断定できる者は誰かいるか? |
Raabe |
Es
いません。強いてあげるなら、アラクネがそうです。 でもあれは……とても奇妙な存在ですから……判断が難しいです。 |
Es |
ラーベ
そうか、わかった。ありがとう、非常に参考になった。 |
Raabe |
Es
はい。……お役にたてたなら、幸いです。 |
Es |
ラーベ
私たちは少し、今後について相談しなければならない。 少しこの場を借りるぞ。 |
Raabe |
Es
わかりました。よろしければ、こちらのお部屋をお使いください。 客間になっておりますので。 |
Es |
シエル
ありがとうございます。お借りします。 |
Ciel |
Es
では、私は先に失礼します。皆さんが所用で少しの間 席を外すことを、冥に伝えておきます。 |
Es |
ラーベ
さて。さっきも言ったが、一旦情報を整理するぞ。 事態がちょっとばかり変わってきた。 |
Raabe |
シエル
繰り返しの質問になりますが、エスさんや冥さんが 『異物』でないと、なにが問題なのでしょうか? |
Ciel |
ラーベ
私たちの目的は観測者探しだ。観測者が見つからなければ、 私たちがここにいる意味はない。そうだな? |
Raabe |
シエル
はい。 |
Ciel |
ラーベ
で? 観測者の条件は? |
Raabe |
シエル
ドライブ能力者であることと……ファントムフィールド化した 『時間軸』の世界の住人であることです。 |
Ciel |
シエル
あ……『異物』であれば、観測者の候補から外れますが……。 |
Ciel |
1: 『異物』じゃないってことは…… |
1: |
シエル
はい。『異物』だとお聞きした時点で、私などは冥さんや エスさんを観測者の候補から外していましたが……。 |
Ciel |
シエル
エスさんのお話が事実ならば、その前提が なくなることになります。 |
Ciel |
ラーベ
そうか『異物』か、と馬鹿正直に納得していたが、 これで誰も彼もが観測者候補に逆戻りというわけだ。 |
Raabe |
ラーベ
……むしろ、これを機にもっと疑ってかかるべきだな。 |
Raabe |
ラーベ
自分は『異物』だと申告してきた証言も、意識的か無意識的かは 別にして、偽りである可能性を十分考慮しなければならない。 |
Raabe |
ラーベ
もちろん、エスの証言自体も一応疑っておく必要があるが。 |
Raabe |
シエル
となると……困りましたね。観測者を絞り込む手がかりを 失ったことになります。 |
Ciel |
ラーベ
いや、事は前向きに考えるとしよう。 |
Raabe |
ラーベ
クラヴィス=アルカードが使っていた言葉だが、 観測者のシナリオという表現があったな。 |
Raabe |
ラーベ
エスの今の証言も、観測者の描いたシナリオのうちだったと すると、候補者はむしろ絞り込まれたと言える。 |
Raabe |
シエル
そうなのですか? |
Ciel |
ラーベ
アラクネが倒れ、蟲が消え、 新川浜の街を襲っていた異変は表向き解消された。 |
Raabe |
ラーベ
だが代わりに御剣機関が台頭してきた。 輝弥サヤが捕獲され、ラケル=アルカードが狙われる。 |
Raabe |
ラーベ
ファントムフィールドを形成する観測者の意思を、 ひとつの渦に喩えるとすると…… |
Raabe |
ラーベ
その範囲は確実に狭まり、 かつ深くなってきているだろう? |
Raabe |
シエル
……物事が、新川浜の街全体から、我々が接触している 人物の周囲に限定されてきている、という意味ですか? |
Ciel |
ラーベ
その通り。よくできたな。 |
Raabe |
シエル
ありがとうございます。 |
Ciel |
ラーベ
では聞こう。これにより、どんなことが推測される? |
Raabe |
シエル
…………。 ……わかりません。 |
Ciel |
ラーベ
わからんのかい。 レイ、お前はどうだ? |
Raabe |
ラーベ
今までのファントムフィールドでのことを思い返して 考えてみろ。単純な話だ。 |
Raabe |
1: 観測者とはすでに出会っている……? この事態の関係者が観測者、とか |
1: |
ラーベ
そう、賢いぞ。 事態が……いや、言葉を変えよう。 |
Raabe |
ラーベ
事象が収束している現状において、 観測者が部外者なはずがない。 |
Raabe |
ラーベ
すでに観測者のリストアップは完了しているということだ。 そしてそのリストを、先ほどのエスの証言が補完した。 |
Raabe |
シエル
つまり……すでに出会っている人で、かつドライブ能力者、 さらに『異物』でないとされている人ですから……。 |
Ciel |
シエル
ナオトさん、サヤさん、冥さん、エスさん。 |
Ciel |
シエル
御剣機関の緋鏡キイロさん、ヴァルケンハインさん、 レリウスさん、ハザマさん。 |
Ciel |
ラーベ
クラヴィス=アルカード、レイチェル=アルカード。 そしてラケル=アルカード……。 |
Raabe |
ラーベ
だが、『魂』がこの世界と切断されているラケル=アルカードは 除外して良いだろう。 |
Raabe |
シエル
ファントムフィールドは観測者の願望、つまり『魂』を 映し出した世界だからですね。 |
Ciel |
ラーベ
そうだ、それに彼女は観測者にとって、『邪魔者』の様だしな。 |
Raabe |
ラーベ
まぁ一応あたりはつけてある。 でも今、それを私が口にするのは……やめておこう。 |
Raabe |
シエル
なぜですか? わかっているのなら、教えてください。 |
Ciel |
ラーベ
レイに不要な先入観を与えると、それをもとに この世界に余計な干渉をする可能性が出てくるだろ。 |
Raabe |
ラーベ
もし私が間違った推測をしていて、にも関わらず間違った 推測の元でレイが誤った観測者を認識したら、 |
Raabe |
ラーベ
もうとんでもなくややこしくなるじゃないか。 |
Raabe |
シエル
誤った観測者の認識……。 |
Ciel |
シエル
レイさんの意識によって、本来とは違う誰かを 観測者にしてしまうことがあり得るというのですか? |
Ciel |
ラーベ
その可能性が否定できない以上、 あえて行う必要はないということだ。 |
Raabe |
ラーベ
わざわざ自分の行く先に地雷を埋めるやつがあるか。 |
Raabe |
ラーベ
……誰がなんと言おうと、最終的には誰が観測者なのかは、 レイに見定めてもらわなければならない。 |
Raabe |
ラーベ
レイ。 |
Raabe |
ラーベ
お前はお前の眼で観て、確かめたものを信じろ。 いいな。 |
Raabe |
1: はい、わかりました |
1: |
ラーベ
ま、そう堅苦しくなるな。観測者をおびき出す手はある。 |
Raabe |
シエル
その、手についてお聞きしてもいいですか? |
Ciel |
ラーベ
さっきも話しただろう。ラケル=アルカードだよ。 |
Raabe |
ラーベ
観測者はどうやら彼女の存在がお気に召さないらしい。 昏睡させたうえで、身柄を狙うほどにな。 |
Raabe |
ラーベ
だったら観測者が一番されたくないことはなにか。 |
Raabe |
シエル
……なんでしょう? |
Ciel |
ラーベ
ラケル=アルカードの覚醒だ。 |
Raabe |
ラーベ
だからなレイ、 そのチャンスがあったら、積極的に狙え。 |
Raabe |
ラーベ
お前のドライブなら、それがラケル=アルカードの魂だと 認識することが可能だろう。 |
Raabe |
ラーベ
彼女が目覚めれば、誰かの顔色が大いに変わるはずだ。 |
Raabe |
1: 了解です! |
1: |
ラーベ
よし。いつまでもここで話していると、ナオトたちが 気にするだろうからな。そろそろ戻ろう。 |
Raabe |
シエル
はい。 |
Ciel |
第11節 襲撃③/ 11. Assault - 3
Summary | |
---|---|
深夜。冥の結界を破り、サヤが天ノ矛坂家に
現れる。 |
|
サヤの攻撃を耐えるナオトたち。そこへ倒し
たはずのアラクネが現れ、ラケルをひと飲み にする。 |
――夜は冴え冴えと、月は煌々と。 |
|
誘う声に導かれて、弧は檻を破るだろう。 笑う蛇に促されて、銀は肉を斬るだろう。 |
|
いつかの夜もまた、そうであったように。 |
|
冥
黒鉄! レイ! 起きているか! |
Mei |
ナオト
当たり前だろ。なにがあったんだ。 今……明らかに誰かの悲鳴が聞こえたぞ。 |
Naoto |
シエル
この邸内での悲鳴でした。男性のものが、2名分。 |
Ciel |
ナオト
御剣機関か? ったく、深夜に堂々と乗り込んでくるとはな。 |
Naoto |
Es
……反応を感知しました。ですが、これは……。 |
Es |
シエル
……皆さん、警戒してください。 |
Ciel |
サヤ
……ああ……こちらでしたか。皆さま……お揃いで。 |
Saya |
1: サヤさん…… |
1: |
サヤ
……兄様。 |
Saya |
ナオト
サヤ……お前、どうした……? |
Naoto |
冥
様子がおかしい。気を付けろ、ナオト。 |
Mei |
ナオト
見りゃわかるよ。 |
Naoto |
サヤ
兄様……兄様……。 |
Saya |
サヤ
……ラケル=アルカードの命、いただきに参りました。 |
Saya |
サヤ
ふっ……。 |
Saya |
ナオト
マジかよ……普通じゃねぇぞ……。 |
Naoto |
冥
……なにをされたのか知らんが、 少なくとも今までの輝弥ではなさそうだ。 |
Mei |
ナオト
御剣機関か……ふざけやがって! |
Naoto |
サヤ
……シッ! |
Saya |
Es
強い……! |
Es |
シエル
確認……確認。 対象の戦闘レベル、上昇を続けています。 |
Ciel |
シエル
これまでの計測をすでにはるかに上回っています。 |
Ciel |
ラーベ
そういえば、アラクネが貯め込んだ生命力を 根こそぎ取り込んだんだったな。 |
Raabe |
ナオト
つまり……絶好調ってことかよ……? |
Naoto |
ラーベ
そういうことだな。 |
Raabe |
ナオト
くそっ……。おいこら、サヤ! 目ぇ覚ませ! |
Naoto |
ラーベ
呼びかけても無駄だ。 輝弥サヤの精神波長に、少しの乱れも見られない。 |
Raabe |
ナオト
それって……嫌な予感しかしねぇぞ!! |
Naoto |
ラーベ
うむ、これが輝弥サヤの本性だ。 |
Raabe |
サヤ
ふふ……さあ、さあ、さあ! もっと殺し合いましょう、兄様! |
Saya |
Es
ナオト、手を抜いて戦って、勝てる状態ではありません。 |
Es |
ナオト
全力だっつーの!! |
Naoto |
レリウス
……行け。 |
Relius |
冥
なに……!? |
Mei |
アラクネ
見つけた……みつけたみつけた、 アーーーーーーーーーーーン……。 |
Arakune |
ラーベ
まさか、アラクネだと!? |
Raabe |
ナオト
しまった、ラケル!! |
Naoto |
第12節 矛先①/ 12. At Spearpoint - 1
Summary | |
---|---|
ラケルがアラクネに飲まれたことでライフリ
ンクが切れ、腕と足を失うナオト。現れたレ イチェルの助力を受け、アラクネに組み付く。 |
アラクネ
……ごくん。 |
Arakune |
ナオト
ラケル!! |
Naoto |
シエル
ラケルさんが……アラクネさんに…… 食べられてしまいました……。 |
Ciel |
アラクネ
ンンンン…… 手に入れた……手に入れた、手に入れタ! |
Arakune |
アラクネ
蒼だ! 無限の英知甘美なる深淵、 揺蕩う漆黒の浜辺へと至る門の鍵……! |
Arakune |
ナオト
ふ……ふざけんな! ラケルを返しやがれ!! |
Naoto |
Es
ナオト! いけません! |
Es |
ナオト
――っ! |
Naoto |
冥
黒鉄……! |
Mei |
ナオト
う、ぐ……あ、あぁぁぁぁ……っ! 足、が……! |
Naoto |
アラクネ
ケケケケケケ! 溢れる……煮える、沸き立つ、 我が臓腑から込み上げる無限の蒼! 無限の力! |
Arakune |
ラーベ
……サヤがアラクネから生命力を吸収したのと、 同じだな。 |
Raabe |
ラーベ
ラケル=アルカードの力を飲み込んで、奴の力が 尋常じゃない速度で増幅……いや、膨張している。 |
Raabe |
シエル
でも、どうしてアラクネさんが……。サヤさんによって、 生命力を全て奪われ、消滅したはずです。 |
Ciel |
レリウス
……一度『観』た物だ。不思議はないだろ。 |
Relius |
冥
レリウス……まさか貴様がアラクネを……? |
Mei |
レリウス
再生させただけだよ、断片を採取できたのでな。 |
Relius |
レリウス
……奴の体を構成しているものは、ほとんどが魔素だ。 構造さえわかれば、組み直すだけでいい。 |
Relius |
レリウス
といっても……ふむ……。まだ改善の余地はありそうだな……。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
……チッ。あんな化け物を使わずとも、さっさと 奴等を『殺しきって』しまえばいいだろうが……。 |
'Valkenhayn |
レリウス
それではただの殺戮だ。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
貴様のやっていることは、生命への冒涜だろ! |
'Valkenhayn |
レリウス
……個人的な道徳観を押しつけるものではないな。 |
Relius |
アラクネ
キキ、き、ききききいひひひひひひひ。 |
Arakune |
ナオト
……ぐぅっ……つ、造り直しただと……? ったく……どっちが化け物だよ……! |
Naoto |
アラクネ
オオオ喰らう、全て喰らうぞ……オマエも、 オマエもオマエもオマエもぜーんぶいただきまぁす。 |
Arakune |
ナオト
う、るせぇ……足の一本が、なんだ…… んのくらい、すぐに再生して……、っ!? |
Naoto |
ナオト
なんで、だよ! なんで治らない!? |
Naoto |
レリウス
…… |
Relius |
レリウス
貴様とラケル=アルカードの間に結ばれていた繋がりは…… 断たれたのだよ。 |
Relius |
ラーベ
ライフリンクが切れたのか! ……待てよ。なら、今の黒鉄ナオトは……!? |
Raabe |
ナオト
なっ……!? う……腕が……!? |
Naoto |
ラーベ
クソッ……ラケル=アルカードとの繋がりが無ければ、 その形を保つことが出来なくなるのは当然か…… |
Raabe |
シエル
ナオトさんの右腕は、ラケルさんの力で作られたもの……。 ライフリンクが切れたことで、その腕も機能を失ったのですね。 |
Ciel |
レリウス
……ふむ。模造品とはいえ、 機能は問題なく稼働しているようだな。 |
Relius |
ナオト
く……そ……! テメェら、他人事みてぇに 涼しい顔して解説してんじゃねぇよ!!! |
Naoto |
レリウス
……親切心から、忠告してやるが…… あまり暴れないほうが身のためだぞ。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
吸血鬼の力を失った貴様なぞ、 ただの死にぞこないだ……つまらん。 |
'Valkenhayn |
レリウス
ふむ……。つまりただの……『餌』だ。 |
Relius |
ナオト
んだと……テメェら……! |
Naoto |
冥
やめろ黒鉄、大人しくしていろ! すぐにこいつらを片付けて、手当てを……! |
Mei |
Es
駄目、逃げてください、ナオト! |
Es |
ナオト
あっ……や、やべぇ……。 |
Naoto |
アラクネ
あーーーーーーーーーーーーーん……。 |
Arakune |
アラクネ
ギャァァ!? |
Arakune |
ナオト
!? 風……? |
Naoto |
レイチェル
無様ね。こんな出来損ないに弄ばれるなんて。 |
Rachel |
ナオト
た……助かったぜ、ありがとよ。 レイ、悪いがそっちは任せる! |
Naoto |
1: どうするつもり? |
1: |
ナオト
う、ぐ、おぉぉ……ぅ、足、なら…… もう一本あんだよ! |
Naoto |
ラーベ
おい、まさかその状態で戦うつもりか? 無茶だ。 |
Raabe |
ナオト
このコールタール野郎がぁ! ラケルを返してもらうぞ!!! |
Naoto |
アラクネ
グゲゲゲ!? |
Arakune |
アラクネ
飛んできた、トンデきた、ケケ、 羽虫が安息の消化器官を求めて猛る焔へ身を投げる……。 |
Arakune |
レリウス
ほう。……自ら喰われるか……面白い。 |
Relius |
ナオト
食えるもんなら食ってみやがれ! その前に、てめぇの腹ん中からラケルを引きずり出す! |
Naoto |
ナオト
おらぁぁぁっ! |
Naoto |
アラクネ
グゲ……ッ!? あががががが放せ離せハナセ!! |
Arakune |
アラクネ
風が……風が阻む、 我の爪、牙、アアア届かないぃぃ! |
Arakune |
レイチェル
馬鹿ね、捨て身の救出だなんて。 でも……そういう馬鹿は、嫌いではなくてよ。 |
Rachel |
レイチェル
だから少しだけ、手伝ってあげるわ。 |
Rachel |
サヤ
レイチェル……アルカード……。 お前も……吸血鬼……邪魔者……。 |
Saya |
サヤ
でも力を……手に入れなければ……余りある、力を……。 |
Saya |
レイチェル
っ! |
Rachel |
シエル
させません。今、レイチェルさんを攻撃されれば、 ナオトさんがアラクネさんに……食べられてしまいます。 |
Ciel |
冥
全員、レイチェル=アルカードへの攻撃を防ぎつつ、 黒鉄を援護しろ! |
Mei |
Es
了解しました、冥。 |
Es |
第12節 矛先②/ 12. At Spearpoint - 2
Summary | |
---|---|
アラクネに組み付くナオトたち。ラーベの一
言に従いアラクネの中へ入ると、そこは…。 |
|
ラケルを観測しようとするが上手く観測でき
ない。「ラケル」ではなく「ラケルを知る人」 を観ろというクラヴィスの助言に従う。 |
サヤ
あう……! |
Saya |
レリウス
ふむ……これくらいはやるか。 |
Relius |
冥
黒鉄、無事か!? |
Mei |
ナオト
もう……ちょっと……届かねぇ……っ! |
Naoto |
1: ナオト、加勢するよ! |
1: |
ナオト
レイ……! |
Naoto |
Es
ナオト、レイさん。 それ以上は危険です。戻ってください! |
Es |
ラーベ
……いや。これはチャンスか……。 |
Raabe |
ラーベ
ナオト、レイ! そのままアラクネの中に飛び込め! |
Raabe |
冥
飛び込む!? 正気か!? |
Mei |
ラーベ
無論、正気だとも。 お前たちも解るよな、ナオト、レイ。 |
Raabe |
1: はい! |
1: |
ナオト
そうか……アラクネ……! わかった、行ってくる! |
Naoto |
アラクネ
オオオオオオォオオォ! イヤダイヤダイヤダ!! 蒼だアオだ蒼はワレのものだ! |
Arakune |
アラクネ
憤怒憤怒憤怒憤怒憎悪憎悪憎悪憎悪!! |
Arakune |
アラクネ
満ちたりぬ空虚なる胎底に満たす安寧を奪う者に 罪深き痛みをぉぉ! |
Arakune |
ラーベ
レイチェル、今だ、アラクネの口を閉じさせろ! |
Raabe |
レイチェル
無茶なことをさせるのね。……いいわ。 放すわよ! |
Rachel |
シエル
レイさん! |
Ciel |
…………。 ……………………。 |
|
――探して。 |
|
そして私を。 |
|
見つけて。 |
|
…………。 ……………………。 |
|
1: ここは……? |
1: |
ナオト
う……あ? な、なんだ、ここ? 綺麗だけど、薄ら寒いような……。 |
Naoto |
ナオト
そうだ! アラクネの中に飛び込んだんだ。 ……って、レイ大丈夫か? |
Naoto |
ナオト
お前までついて来る必要無かったのに……。 |
Naoto |
クラヴィス
いや、必要だよ。 |
Clavis |
ナオト
!? |
Naoto |
クラヴィス
黒鉄ナオト、君一人でこの『場』に存在するのは 難しいと言うことだよ。 |
Clavis |
クラヴィス
しかし、よどみなく存在を保っていられるとは、 さすがだねレイ。 |
Clavis |
1: ど……どうも…… |
1: |
ナオト
……クラヴィス=アルカード。 |
Naoto |
ナオト
なんで、あんたが……アラクネの中にいるんだ? |
Naoto |
クラヴィス
少し気になってね……それにここはアラクネの内部ではあるが、 アラクネの体内ではないよ。 |
Clavis |
クラヴィス
わかっていて、自ら飛び込んだのだろう? |
Clavis |
ナオト
じゃあ……ここが…… 『境界』ってやつか? |
Naoto |
クラヴィス
そうだよ。 ……正確には、『境界』に仮に設けられた『場』だがね。 |
Clavis |
ナオト
何でもいいよ。それよりラケルだ!! ここに居るんだろ!? |
Naoto |
クラヴィス
居るよ。……正確にはまだ『居ない』が。 |
Clavis |
ナオト
はぁ? どういうことだよ? だってアラクネに飲み込まれて……。 |
Naoto |
クラヴィス
何かが『存在』するには、それが『存在』していると 認識される必要がある。 |
Clavis |
クラヴィス
だからラケルが、その魂が『此処』に存在していると、 認識してもらわなければならない。……わかるかね? |
Clavis |
ナオト
わかんねえって! つまりラケルはどこにいるんだよ? |
Naoto |
クラヴィス
すぐ近くだ。なにせ、君が『此処』に現れたのだからね。 ……ライフリンクが、彼女の居場所を教えてくれるだろう。 |
Clavis |
ナオト
教えてくれるって……どうやって!? |
Naoto |
クラヴィス
『想い』だよ、黒鉄ナオト。 君だけがラケルと繋がっているのだから。 |
Clavis |
クラヴィス
まぁその想いが、あの世界を生み出したのかな……。 |
Clavis |
1: え? |
1: |
クラヴィス
……おっと、それより客が来たようだ。 |
Clavis |
ナオト
な、なんだこいつら!? |
Naoto |
クラヴィス
ここは境界でもあるが、アラクネの内部でもある。 |
Clavis |
クラヴィス
つまり過剰に魔素が集まっていてね。 そういうものが余計な形を得ることもある。 |
Clavis |
ナオト
つまり、ラケルを探すには こいつらをぶっ飛ばす必要があるってことだな? |
Naoto |
クラヴィス
そうだ。君の思考は明快で気持ちがいい。 |
Clavis |
ナオト
そりゃどーも。 |
Naoto |
クラヴィス
すまないが、私は手を貸せない。ここで私が力を使えば、 『場』にどんな影響を及ぼすかわからないのでね。 |
Clavis |
ナオト
自分の身は自分で守れってことか。 アルカード家はスパルタだな。 |
Naoto |
ナオト
いいぜ、かかってこいよ真っ黒野郎ども! 相手になってやる! |
Naoto |
ナオト
行くぜ、レイ! |
Naoto |
ナオト
ふぅ……やつらは倒したぞ。 で、どうやって探せば良いんだよ? |
Naoto |
クラヴィス
ふむ。ところで何をそんなに焦っているのかね? |
Clavis |
ナオト
焦るって……当たり前だろ!! |
Naoto |
ナオト
俺たちがこうしてることを、外にいる冥たちは知らない。 俺たちはアラクネに食われっぱなしになってる。 |
Naoto |
ナオト
こうしてる間にも、あいつらは、俺たちを助けようと 戦ってるかもしれないじゃねぇか。 |
Naoto |
クラヴィス
なるほど。では、その心配は必要ない。 |
Clavis |
ナオト
なんでだよ。 俺たちがここにいる間、時間は止まってるってか? |
Naoto |
クラヴィス
おや。察しがいいね。 |
Clavis |
ナオト
へ? ……マジかよ。 |
Naoto |
クラヴィス
より正確に言うならば、あちらの時間が止まっているの ではなく、こちらの時間が別方向に進んでいるのだよ。 |
Clavis |
クラヴィス
まぁ意味を理解する必要はない。今の君たちに必要なのは、 この先に……ここに。ラケルの魂があるという事実だけだ。 |
Clavis |
クラヴィス
それよりもこの『場』がいつまで保てるかの方が心配だよ。 |
Clavis |
クラヴィス
先程の敵だって無尽蔵に湧いてくるし、『場』の構築も かなり無理をしているからね。 |
Clavis |
1: やっぱり時間は無いって事ですね! |
1: |
ナオト
ったく……。どうして吸血鬼の奴らは こんなにも時間に対して適当なんだよ……。 |
Naoto |
クラヴィス
とにかく黒鉄ナオト、集中したまえ。 そして『想』いなさい、我が娘を、ラケル=アルカードを……。 |
Clavis |
クラヴィス
君だけなんだよ、彼女の魂を描けるのは。 |
Clavis |
ナオト
あ、あぁ……。 |
Naoto |
ナオト
(ラケル………………) |
Naoto |
クラヴィス
どうかなレイ? |
Clavis |
1: え? |
1: |
クラヴィス
……よかった。君には見えるようだね。 |
Clavis |
ナオト
見えるって、なにがだ? レイ。そこになにかあるのか!? |
Naoto |
1: わ、わからないよ…… |
1: |
クラヴィス
そうだねレイ。 君はラケル=アルカードを知らない。 |
Clavis |
クラヴィス
だから君の力でも彼女の観測は不可能だ……。 |
Clavis |
クラヴィス
でもね、君はラケル=アルカードを誰よりも知っている 人物は知っている筈だよ。 |
Clavis |
クラヴィス
その『彼』を、『想』いを、 |
Clavis |
1: 黒鉄ナオトの……想い |
1: |
ナオト
ラ……ラケル! |
Naoto |
ラケル
……ナオト? どうして……いえ、どうやってここに……? |
Raquel |
ナオト
どうしてって……いや、詳しい話をすると、 ややこしいし、長くなるけど…… |
Naoto |
ナオト
やっと見つけたぜ……お前を。 |
Naoto |
ラケル
そう……ね……。 |
Raquel |
ナオト
全く……探してたんだぞ、ずっと、ずっと! 『私を見つけて』って、夢ん中で何度も言いやがって! |
Naoto |
ナオト
だいたい、見つけろって、どうやって見つけろってんだよ! いつもいつも曖昧な話ばっかしやがって!! |
Naoto |
ナオト
ったく……ヒントくらい言いやがれ……。 |
Naoto |
ラケル
でも、見つけてくれたわ。 |
Raquel |
ナオト
……いや、俺じゃねぇよ。レイのおかげだ。 俺一人じゃどうすりゃ良いか、わかんなかったし……。 |
Naoto |
ラケル
それでも、見つけてくれたのは貴方よ、ナオト。 |
Raquel |
1: そうだね |
1: |
ラケル
……あなたが……レイね。 |
Raquel |
1: はい |
1: |
ラケル
そのドライブ……観測の力……なるほど…… |
Raquel |
ラケル
とりあえず礼を言うわ。ありがとう。 |
Raquel |
ナオト
へぇ……。 |
Naoto |
ラケル
……なによ。物言いたげな顔ね。 |
Raquel |
ナオト
いや……お前がそんなに素直に礼を言うなんて 珍しくてな。 |
Naoto |
ナオト
それよりさ、こんな場所だから しょうがねぇのかもしれねぇけど……。 |
Naoto |
ナオト
なんとかならなかったのかよ、その格好? |
Naoto |
ラケル
…………。 ……なにかおかしい? |
Raquel |
ナオト
あぁもう、突っ込むのもめんどくせぇが…… おかしいわ!! |
Naoto |
ナオト
……はぁ。まぁいいや、それよりも……。 |
Naoto |
ラケル
……お父様。 |
Raquel |
クラヴィス
久しいね、ラケル。元気そうで何よりだ……。 |
Clavis |
クラヴィス
それに……良き供も得たようだ……。 |
Clavis |
ラケル
はい……最高の友です。 |
Raquel |
クラヴィス
さて、レイ。 |
Clavis |
クラヴィス
君が我が娘の存在を認識したことで、 ラケルは『あの世界』でも居場所を得られるだろう。 |
Clavis |
クラヴィス
君という針がラケルと世界の間に糸を通したのだ。 あとは戻って、世界とラケルとを繋ぐ必要がある。 |
Clavis |
クラヴィス
なに、簡単だよ。ここに居るラケルを、あの世界で 同じ存在だと認識するだけでいい。 |
Clavis |
ナオト
そうすれば……ラケルは目を覚ますんだな!? |
Naoto |
クラヴィス
……おそらくは。 |
Clavis |
ナオト
おそらくって……。 |
Naoto |
クラヴィス
経験はないのでね。いやはや、 これだけ生き長らえていても、初体験はあるものだな。 |
Clavis |
ラケル
フフフ……頼んだわよ、ナオト、レイ。 |
Raquel |
ナオト
笑ってる場合かよアンタら……。 ……でも、そうとわかれば早く戻ろぜ、レイ。 |
Naoto |
ナオト
ラケルを早く目覚めさせて、そんであいつらと さっさと合流してやらねぇとな。 |
Naoto |
ナオト
それから……サヤのことも、なんとかしねぇと。 |
Naoto |
クラヴィス
そうだね。君たちでの解決を願うよ。 私は特に君の妹君には、近づきたくないのでね。 |
Clavis |
ナオト
サヤに? なんでだ? |
Naoto |
クラヴィス
彼女は『ソウルイーター』のドライブ能力者だからだよ。 |
Clavis |
ナオト
あぁ、サヤのドライブか……。 |
Naoto |
ナオト
アレには俺もひどい目に遭ったからなぁ…… ガキの頃なんか、マジで死ぬかと思ったし……。 |
Naoto |
ナオト
でもさ、あんた程の奴が警戒するくらいヤベェモノなのか? |
Naoto |
クラヴィス
……なるほど。 君は『ソウルイーター』の真の姿を知らないようだな。 |
Clavis |
クラヴィス
発動すれば、周囲の命を根こそぎ吸い尽くす、 最悪にして最凶のドライブ。というのが、私の印象だよ。 |
Clavis |
クラヴィス
それに、あのドライブと私の相性は最悪なんだ。 ……以前、私も酷い目に……。 |
Clavis |
クラヴィス
いや、酷い事が起きた……と、言うべきかな。 |
Clavis |
ナオト
以前もって……。あんた、ソウルイーターと……。 |
Naoto |
クラヴィス
あぁ、戦った事があるよ。だから言える事なんだが……。 |
Clavis |
クラヴィス
黒鉄ナオト、君なら見えるよね、私の生命力が。 |
Clavis |
ナオト
あぁ……ヤベェって事が解るくらいだけどな……。 |
Naoto |
1: やばいってどれくらい? |
1: |
ナオト
えぇ?? 俺がか!? え、えぇと………。 |
Naoto |
ラケル
お父様は、人々の意思……『願望』から産まれた 『幻想生物』と呼ばれる、その中でも最強と云われる存在よ。 |
Raquel |
ラケル
つまりね、お父様は不死身ではない。 人が、人間が存在する限り……『不滅』なの。 |
Raquel |
ラケル
だから『命』に対しての定義が 他の生命体と根本的に違うけど……。 |
Raquel |
ラケル
お父様の『命』はある意味、無尽蔵と言っていいわ。 |
Raquel |
ラケル
そんな命を、あのソウルイーターが 本気で吸い尽くそうとしたら…… |
Raquel |
ラケル
街の一つくらいなら軽く消えるわよ……あらゆる生命体がね。 |
Raquel |
ナオト
想像したくねぇ……。 |
Naoto |
クラヴィス
理解できたのならソウルイーターには気を付けなさい。 あれは……自身すらも喰らい尽くす悪食だ。 |
Clavis |
ナオト
自身も……ね。 |
Naoto |
ナオト
とにかくだ、サヤの目を覚まさせねぇと。 早く俺たちを戻してくれ。 |
Naoto |
クラヴィス
……………。 |
Clavis |
ラケル
……………。 |
Raquel |
1: …………… |
1: |
ナオト
……え? って、この場合あんただろ、クラヴィスさん! |
Naoto |
クラヴィス
私かね? でもどうやって? |
Clavis |
ナオト
……は? |
Naoto |
ナオト
え、は!? 戻せねぇの!? |
Naoto |
クラヴィス
私は、境界に飛び込んだ君を辿ってここまで来ただけだ。 ここへ招いたわけではないよ。 |
Clavis |
クラヴィス
君たちは君たちの道順で、ここにたどり着いた。 それを解消する術を私が持っていなくても、不思議はあるまい。 |
Clavis |
ラケル
あら……大変……。 |
Raquel |
ナオト
いや、ちょっと待て、そりゃ言ってることはもっともだけど…… じゃあどうすんだよ!? |
Naoto |
ナオト
つかラケル、お前他人事すぎ!! |
Naoto |
クラヴィス
ふむ、先ほどからどうすべきか思案していたのだけれど…… 良きタイミングで迎えが来たようだ。 |
Clavis |
クラヴィス
よく見てごらん、レイ。 君が『認識』すれば、それは『存在』できる。 |
Clavis |
???
……て、くださ……。 |
??? |
1: あれは…… |
1: |
Es
手を、伸ばしてください! ナオトさん、レイさん! |
Es |
第12節 矛先③/ 12. At Spearpoint - 3
Summary | |
---|---|
Esによりアラクネの中から救出されるナオ
トたち。去ろうとするレイチェルを、現れた キイロが妨害する。 |
シエル
レイさん! 反応、検索……反応、ありません。 |
Ciel |
シエル
ラーベさん……ナオトさんとレイさんが、 アラクネさんに飲み込まれてしまいました……! |
Ciel |
ラーベ
見ればわかる。 |
Raabe |
シエル
レイさんを救出します! ラーベさん、アラクネさんの体内に侵入する許可を! |
Ciel |
ラーベ
まぁ待て……と、言いたいが。少し興味はあるな。 |
Raabe |
冥
ば……馬鹿者! お前たちまで喰われたら、 まるで意味がないだろうが! |
Mei |
アラクネ
ゥケケケケケケケ、食らう食らう満たされる、 蒼の臨界に溶けて我が肉を得よ際限なく知を注げ! |
Arakune |
Es
どいてください、冥! |
Es |
冥
エス? おい待て、なにをするつもりだ! お前まで飲み込まれるぞ! |
Mei |
Es
では飲み込まれないよう、アラクネを抑えていてください。 |
Es |
レイチェル
無茶を言うわね……! |
Rachel |
アラクネ
ギィィィィィィ風ガガガ……! |
Arakune |
Es
はぁっ! |
Es |
アラクネ
グァ、ギャアァァァァァァ!? |
Arakune |
Es
このまま……奥に! 手を……伸ばしてください……。 |
Es |
ラーベ
アラクネの体は魔素の集合体……その内部は…… やはり予想通りだな。シエル、エスを手伝え。 |
Raabe |
シエル
了解です! |
Ciel |
レリウス
……ほう。これは興味深い。 |
Relius |
Es
くっ……もう少し……。手を伸ばしてください、 ナオトさん、レイさん! |
Es |
シエル
レイさん! |
Ciel |
ナオト
うわ、った、うべっ。 |
Naoto |
冥
黒鉄! しっかりしろ! |
Mei |
ナオト
う、るせ……生きてる、よ。 |
Naoto |
冥
ふ。確かに、口だけは元気そうだ。 |
Mei |
ナオト
それより、こいつを……頼む……。 |
Naoto |
冥
ラケル=アルカード……! アラクネの中から取り戻したのか!? |
Mei |
ナオト
へへ……とうぜん……だろ……。 |
Naoto |
1: 心配かけてごめん、シエル |
1: |
シエル
いえ。力及ばず、申し訳ありません。 |
Ciel |
Es
お手伝いができて、よかったです。 |
Es |
Es
見てください。アラクネが。 |
Es |
アラクネ
ア……ガ、ガ……蒼……アオ…… オォ…………。 |
Arakune |
レリウス
……この程度で、存在が保てなくなったか。 ……存外に脆いな。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
所詮は即製のまがい物ということではないのか。 |
'Valkenhayn |
レリウス
それなりの作だったのだがな……残念だ。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
思ってもいないことを言うな。 |
'Valkenhayn |
レイチェル
……あの子が戻ったようね。 なら、私の出演はここまでかしら……。 |
Rachel |
レイチェル
っ!? |
Rachel |
キイロ
どこへ行くつもりなのかしら? アルカードのお姫様。 |
Kiiro |
キイロ
この場からは逃がさないわよ……誰一人ね。 |
Kiiro |
レイチェル
……ムラクモユニット。 |
Rachel |
ナオト
キイ、ロ……てめぇ、なにしに……来やがった……。 |
Naoto |
キイロ
あら、ナオトくん、ひどい怪我じゃない! もぉ〜、一体誰にやられたの? 可哀想〜。 |
Kiiro |
ナオト
ふざけんな! もとはと言えば、てめぇのせいだろがっ!! |
Naoto |
キイロ
私のせい!? 大変! だったら、責任取らないと。 |
Kiiro |
キイロ
安心して、ナオトくん。ここが片付いたら、すぐに手当て してあげるから。もちろん、手も足も、新しいモノを用意するわ。 |
Kiiro |
キイロ
だから……もうちょっと、我慢してね。 |
Kiiro |
キイロ
ふふっ…… あなたもアルカードのお姫様なんでしょう? |
Kiiro |
キイロ
なら遠慮しないでいいのよ、 またじっくりと解体してあげるから……。 |
Kiiro |
レイチェル
くっ……。 |
Rachel |
シエル
レイチェルさんが集中的に攻撃を受けています。 援護しますか? |
Ciel |
ラーベ
…………。 |
Raabe |
シエル
ラーベさん? |
Ciel |
冥
シエル、あまり戦力を分散させてくれるな! |
Mei |
冥
こっちには意識不明の吸血鬼と、 立てもしない役立たずがいるんだぞ! |
Mei |
ナオト
ひでぇ言われようだな!! |
Naoto |
冥
それに私らだけじゃ、あの二人はキツすぎる、 奴らだって十分化け物だって事を忘れるな!! |
Mei |
ラーベ
……シエル、お前はラケルの護衛を最優先しろ。 |
Raabe |
シエル
了解しました。 |
Ciel |
レイチェル
……わからないわね。あなたが狙っているのは、
|
Rachel |
キイロ
気付いてないとでも思っているの? それに私たちが狙っている のは『ラケル』でも『レイチェル』でもないわ。 |
Kiiro |
キイロ
クラヴィス=アルカードよ。 |
Kiiro |
レイチェル
お父様? |
Rachel |
キイロ
そう、御剣機関の悲願。 幻想生物クラヴィス=アルカードの討伐。 |
Kiiro |
キイロ
それを成すために、輝弥サヤだろうが、 あなたたちアルカードの吸血鬼だろうが何でも使うわ。 |
Kiiro |
ラーベ
……なるほど、 それが御剣機関……いや『緋鏡キイロ』の目指すところか。 |
Raabe |
キイロ
あら、自立思考型ユニットじゃない。 そうよ、そしてそれは順調に進行し、もうすぐ達成される。 |
Kiiro |
レイチェル
本気でお父様を殺せるとでも思っているのなら、 おめでたい頭ね。 |
Rachel |
キイロ
『殺す』? ……フフフッ、乱暴ね。 あなたの方がおめでたいんじゃないの? |
Kiiro |
キイロ
でもそうね、確かに……クラヴィス=アルカードは強敵よ。 |
Kiiro |
キイロ
ならどうするの? ただただ強い…… そう、冗談としか思えないほどの強さを誇る化け物に…… |
Kiiro |
キイロ
……どうすれば勝てるのかしら? |
Kiiro |
キイロ
力で対抗する? 化け物には化け物とか? フフフ……そういうのも嫌いじゃないけど。 |
Kiiro |
キイロ
所詮はクラヴィス=アルカードもただの化け物よ……。 |
Kiiro |
キイロ
ただ『強いだけ』の化け物……。 |
Kiiro |
キイロ
不死身で不滅の……人の『願望』が生み出した、 ただの化け物……。 |
Kiiro |
キイロ
でも、アレは『神』じゃないわ。 |
Kiiro |
キイロ
だから人間を舐めるんじゃないわよ、この化け物共!! その存在ごと消滅させてやるわ!!! |
Kiiro |
ラーベ
退け、レイチェル=アルカード!! お前ではこの女に敵わない!! |
Raabe |
ラーベ
というか、この世界からとっとと退場してくれ! |
Raabe |
レイチェル
私もそうしたいわ! |
Rachel |
キイロ
言ったわよ、誰も逃さないって! |
Kiiro |
サヤ
!! |
Saya |
レイチェル
くぅ……っ。 |
Rachel |
キイロ
レリウス、ヴァルケンハイン。 早くラケル=アルカードを回収して。 |
Kiiro |
レリウス
……人使いの荒い事だ。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
チッ……。 |
'Valkenhayn |
冥
こっちにも来るぞ! |
Mei |
Es
……ナオトさん、ラケルさんの側にいてください。 守ります。 |
Es |
ナオト
悪い……。 |
Naoto |
ラーベ
シエル、レイを守れ! 最優先だ!! |
Raabe |
シエル
り、了解です! |
Ciel |
第12節 矛先④/ 12. At Spearpoint - 4
Summary | |
---|---|
アルカードに固執するキイロの目的は『クラ
ヴィスの観測』。サヤの刃がレイチェルを捕 らえた時、クラヴィスが現れた。 |
シエル
はぁぁっ! |
Ciel |
レリウス
…………ふむ。なるほど。『このタイミング』か。 |
Relius |
シエル
っ……く! 反応、解析。対象の戦闘レベル、不定。 こちらを試しているような動きです。 |
Ciel |
ヴァルケンハイン
何を言っているレリウス! 観察がしたいのなら、叩き潰してからにしろ! |
Valkenhayn |
レリウス
それではまるで意味がない……。 止まっている状態のものなど、いくらでも再現できる。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
ええい……いつまでもお前に付き合っていられるか! もういい加減、全員叩き潰す! |
Valkenhayn |
Es
対象の戦闘レベルの上昇を確認…… まだ本気ではなかったということですか!? |
Es |
冥
これ以上、私はもたんぞ! |
Mei |
ラーベ
駄目だ! ラケル=アルカードは何があっても護り通せ! 最悪レイチェル=アルカードは見捨てる!! |
Raabe |
ナオト
なっ!? |
Naoto |
レイチェル
……正しい選択よ。 |
Rachel |
シエル
ラ、ラーベさん!? ですが……。 |
Ciel |
ラーベ
だから最悪の場合だ。 それよりシエル、お前はレイから離れるな。 |
Raabe |
ラーベ
まったく……クソッ、クソッ……。 |
Raabe |
ラーベ
何故だ……どうしてだ……? もしかしたら意図的に『考えない』様、構築されているのか? |
Raabe |
1: あのぉ…… |
1: |
ラーベ
……レイ、シエル、二人共黙って聞け。 |
Raabe |
ラーベ
この状況だから要点だけ話す。 だから質問も反論も無しだ、いいな。 |
Raabe |
ラーベ
緋鏡キイロは異物でも |
Raabe |
ラーベ
にも関わらず、彼女はこの世界がファントムフィールドで あることを認識している。 |
Raabe |
ラーベ
でも、これでキイロのタイミングの良さに合点がいったよ。 |
Raabe |
ラーベ
恐らく、この世界にも『タカマガハラシステム』が存在している。 サヤを捕らえているのもシステムだろう。 |
Raabe |
ラーベ
そしてキイロの目的はクラヴィス=アルカードの『観測』だ。 |
Raabe |
シエル
!? |
Ciel |
ラーベ
観測さえできてしまえば、その存在をある程度とはいえ、 どうとでもできる。 |
Raabe |
ラーベ
だが、システムは未知の存在を正確には観測出来ない。 |
Raabe |
ラーベ
レイ、お前だって知らない奴は まともに観測出来ないはずだ。 |
Raabe |
1: 確かに…… |
1: |
ラーベ
しかしクラヴィスに近い存在、レイチェルやラケルから情報を 取り込めばシステムの精度も上がり、観測可能になる。 |
Raabe |
ラーベ
サヤのソウルイーターなら 『魂』という、最も繋がりの強い情報を引きずり出せるだろう。 |
Raabe |
ラーベ
キイロが『アルカード』に固執する理由はそれだ。 |
Raabe |
ラーベ
そのうえでレイまで、 この世界のタカマガハラシステムに組み込まれたりしたら、 |
Raabe |
ラーベ
全て終わりだ。 |
Raabe |
ラーベ
この世界の観測者が不明な状況でこれ以上の危険は冒せん。 |
Raabe |
ラーベ
だから、レイ。私が危険と判断したら、 お前を緊急離脱させる。 |
Raabe |
ラーベ
その時はシエルも私も諦めるようにと『私』に言っといてくれ。 |
Raabe |
1: でも……! |
1: |
ラーベ
シエル。そうならないように全力でレイを護れ。 いいな? |
Raabe |
シエル
了解しました。 |
Ciel |
キイロ
作戦会議は終わった? でもいいわよ、十分、時間稼ぎにはなってもらったから。 |
Kiiro |
シエル
時間稼ぎ……はっ! |
Ciel |
レイチェル
あ……。 |
Rachel |
サヤ
…………。 |
Saya |
冥
レイチェル! |
Mei |
レイチェル
結局……最後に、足を引っ張ったのは……私ね。 ひどい、無様……だこと……。 |
Rachel |
キイロ
さあ、まずはひとり。 |
Kiiro |
サヤ
……喰らい尽くせ……。 |
Saya |
ナオト
サヤ、やめろ! |
Naoto |
サヤ
……『ソウルイーター』……! |
Saya |
レイチェル
あ、う……あぁ……っ。 |
Rachel |
ラーベ
不味いな、いくら弱っているからといっても、 アルカードの吸血鬼だ。 |
Raabe |
ラーベ
取り込まれたら、さらに手が付けられなくなるぞ……。 |
Raabe |
ナオト
やめろ、サヤ! くそっ、この……っ。 足、早く治れよ! |
Naoto |
冥
レイチェル=アルカードを、サヤから引き離せ! |
Mei |
Es
了解! |
Es |
キイロ
させないわ! |
Kiiro |
Es
くっ! |
Es |
ナオト
どけよ! |
Naoto |
キイロ
ナオトくんのお願いでも、 こればっかりは聞いてあげられないわ。 |
Kiiro |
キイロ
私の、邪魔はさせない。 |
Kiiro |
1: レイチェルを放せ! |
1: |
レイチェル
レイ……。 |
Rachel |
シエル
はい! |
Ciel |
1: レイチェルを放して! |
1: |
レイチェル
レイ……。 |
Rachel |
シエル
はい! |
Ciel |
サヤ
ぐあっ! |
Saya |
キイロ
っ、なに!? |
Kiiro |
ヴァルケンハイン
来たか! |
Valkenhayn |
ナオト
サヤ! |
Naoto |
クラヴィス
……レイ。 やはり君の存在は危険かもしれないね。 |
Clavis |
クラヴィス
だが、今は感謝しよう。 |
Clavis |
冥
クラヴィス=アルカード! |
Mei |
レイチェル
お父様……ごめんなさい……お手を、煩わせて……。 |
Rachel |
クラヴィス
ラケルの側だ。気に病むことはないよ。 |
Clavis |
ヴァルケンハイン
うおおぉぉぉぉぉぉ! クラヴィス=アルカードぉぉぉぉぉ! |
Valkenhayn |
レリウス
まったく……血の気が多くていかんな。 |
Relius |
キイロ
ぼやいてる場合じゃないでしょ。あなたも戦いなさい、 それが契約よ。 |
Kiiro |
レリウス
……やれやれ。 |
Relius |
キイロ
……何故? どうしてこのタイミングでクラヴィス=アルカードが……。 |
Kiiro |
冥
あれが……幻想生物……クラヴィス=アルカードなのか? ……強い。常軌を逸している。 |
Mei |
Es
冥。今のうちに、ナオトさんとラケルさんを奥へ。 |
Es |
ラーベ
……シエル。正面の防護を受け持て。 レイ、顔色が悪いが大丈夫か? |
Raabe |
1: 大丈夫です…… |
1: |
シエル
レイさん、私の後ろにいてください。 |
Ciel |
ラーベ
(……やはりレイが喚んだのか……。 あのクラヴィス=アルカードを……。) |
Raabe |
ラーベ
(……面白いじゃないか。) |
Raabe |
ヴァルケンハイン
があぁぁぁぁぁぁ! |
Valkenhayn |
クラヴィス
……少し、大人しくしていてくれ。 |
Clavis |
ヴァルケンハイン
なに!? しまっ……ぐはっ! |
Valkenhayn |
レリウス
……! |
Relius |
レリウス
……! |
Relius |
レリウス
やはり……今の私では……手に余るな……。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
馬鹿……な……こんな……ことが……。 |
Valkenhayn |
サヤ
せやぁぁっ! |
Saya |
クラヴィス
……っ。 |
Clavis |
サヤ
クラヴィス=アルカード……お会いしとうございました……。 |
Saya |
クラヴィス
……君は、倒すことも倒されることも遠慮させてもらおう。 |
Clavis |
サヤ
ぐう……、う……。 |
Saya |
クラヴィス
……レイ。 舞台へと招いてくれたことは感謝する。 |
Clavis |
クラヴィス
おかげで娘をひとり、失わずに済んだよ。 だが、同じ土に立てるのはここまでだ。 |
Clavis |
レイチェル
…………。 |
Rachel |
シエル
クラヴィスさん……? |
Ciel |
クラヴィス
帰るよ。レイも限界のようだ。 |
Clavis |
クラヴィス
あの少女はレイチェルの力を取り込んだ。 レイチェルの力は、間接的に私に繋がっている。 |
Clavis |
クラヴィス
私がここに存在し続ければ、ソウルイーターから私へも 間接的な繋がりが生まれてしまうだろう。 |
Clavis |
クラヴィス
それはいけない。君たちがことごとく消え去る恐れすらある。 個人的に、それは避けたいのでね。 |
Clavis |
ラーベ
是非ともそうしてくれ。後はコチラで何とかする。 |
Raabe |
1: ありがとうございます…… |
1: |
クラヴィス
構わないよ。 |
Clavis |
ナオト
待てよ……。 |
Naoto |
Es
ナオト。無理に起きては、体に障ります。 |
Es |
ナオト
ラケル……ラケルはどうすんだ? |
Naoto |
クラヴィス
ははは、君にしては愚問だな。 ナオト、ラケルを頼むよ。 |
Clavis |
クラヴィス
……可能性の子らよ。その手に未来を。 |
Clavis |
シエル
……消えてしまいました。 |
Ciel |
キイロ
あん、もう。 この3人がかりでも、ろくな傷ひとつつけられないなんて。 |
Kiiro |
キイロ
でもまあ、別にいいわ。どのみち、ラケル=アルカードを 手に入れれば、クラヴィス=アルカードは現れる……。 |
Kiiro |
キイロ
いえ……引きずり出せるわ。 |
Kiiro |
キイロ
それに……。 |
Kiiro |
キイロ
面白い |
Kiiro |
ラーベ
……やはり気づかれたか。 レイ、ちょっと来い。 |
Raabe |
1: はい |
1: |
ラーベ
シエルは何があってもレイに キイロを近づかせるな。 |
Raabe |
シエル
了解しました。 |
Ciel |
ナオト
ちっ……こっちの状況はあんま変わってねぇな……。 |
Naoto |
ラーベ
レリウスとヴァルケンハインを考えなくていいだけましと思え。 |
Raabe |
冥
だが、私たちであのキイロとサヤを御せるのか……? いや、そうせねば。我が天ノ矛坂の敷地内で、勝手は許さん! |
Mei |
ナオト
ラケルは……渡さねぇ……。 それに、サヤもだ! |
Naoto |
Es
…………。 |
Es |
シエル
緋鏡キイロさん。サヤさんの洗脳を解き、撤退してください。 |
Ciel |
シエル
……それに個人的にも、アナタと戦うことは 避けたいと考えています。 |
Ciel |
キイロ
あら、優しいのね。でも無理よ。 |
Kiiro |
キイロ
輝弥サヤ……ラケル=アルカードの力を根こそぎ奪いなさい。 そうすれば貴女は……。 |
Kiiro |
キイロ
比類なき力を……手に入れられる。 |
Kiiro |
サヤ
…………。 ……ふふ。それは素敵……素敵な……ことですね。 |
Saya |
キイロ
ええ。そしてそれを、邪魔はさせない! |
Kiiro |
第13節 覚醒①/ 13. Awakening - 1
Summary | |
---|---|
ラケルが目覚めたことで、ライフリンクが復
活したナオト。目覚めたラケルに驚くキイロ をサヤが貫く。 |
キイロ
あうっ……。 |
Kiiro | |
キイロ
……ふふ、ふふふ。もう、肌に傷がついちゃった。 |
Kiiro | |
シエル
はぁ、はぁ……対象、戦闘レベルを維持……。 |
Ciel | |
冥
く、そ……もうかなりやり返してやったのに…… こちらに手応えは十分あるはずなのに、なぜ倒れない! |
Mei | |
シエル
ダメージは確実に与えているはずです。ですが……。 |
Ciel | |
Es
まるで……倒れないとあらかじめ 決められているかのようです。 |
Es | |
冥
馬鹿なことを言うな。 そんなこと、あってたまるか。 |
Mei | |
シエル
……観測者の力が関与していると考えられます。 |
Ciel | |
冥
なに? |
Mei | |
シエル
『こう』なることを、観測者が望んでいるのなら…… 私たちは勝つことが出来ません。 |
Ciel | |
シエル
観測者の望みに添って、世界は『観測』されています。 そこから外れることは、できません。 |
Ciel | |
冥
では、我々がいくら戦っても無駄だということか!? |
Mei | |
Es
……いえ、違います。 この場合、重要なのはそこではありません。 |
Es | |
Es
この展開が、観測者の思い描いたものならば、 私達は既に負けているはずです。 |
Es | |
シエル
はい。それはつまり……。 ……っ! |
Ciel | |
キイロ
……あーあ。目の前を飛び回られるのも、 うっとうしいわね。いいわもう。殺しちゃって。 |
Kiiro | |
サヤ
ふっ! |
Saya | |
シエル
対象を補足。対処します。 |
Ciel | |
Es
いえ、私が……。 |
Es | |
キイロ
なっ……。 |
Kiiro | |
ナオト
っ、らぁぁぁっ! |
Naoto | |
サヤ
っ、く……。 |
Saya | |
シエル
ナオトさん。……足が、あります。 |
Ciel | |
ナオト
ついさっき、治ったんでな。言っただろ。 俺はちっとやそっとのことじゃ死なねぇ。 |
Naoto | |
ナオト
さっきまでは勝手が違ったが…… ご主人様が起きれば、こんなもんだ。 |
Naoto | |
シエル
ご主人様? |
Ciel | |
冥
ということは……! |
Mei | |
ラケル
……ずいぶんと、寝心地の悪いところで 寝かされていたものね。 |
Raquel | |
ラケル
それに、とても騒々しいわ。最悪な目覚めよ。 |
Raquel | |
1: すみません…… |
1: | |
ナオト
そう言うなよ。こっちはてめぇの盛大な寝坊のせいで、 散々苦労したんだ。 |
Naoto | |
ラケル
仕方無いでしょ、久しぶりに戻るんだから……調整が必要なの。 |
Raquel | |
ナオト
久しぶりって……まだ二週くらいしかたってないんだけどな。 |
Naoto | |
キイロ
……な……なぜ、どうして……。 |
Kiiro | |
ラケル
あら。私の目が覚めることが、そんなに不自然? |
Raquel | |
ナオト
……凄みながら俺の後ろに隠れるなよ。 |
Naoto | |
キイロ
そんな、あるはずないわ! あなたが目を覚ますはずがない! |
Kiiro | |
ラーベ
ラケル=アルカードの昏睡にシステムが関わっていると わかれば、そんなに難しいことではないぞ。 |
Raabe | |
ラーベ
こっちにはレイもいるしな……。 |
Raabe | |
キイロ
玩具の分際で……。 |
Kiiro | |
ラーベ
優秀だろ? それより、どうやって魂と器を完全に 切り離したかだ。此処のシステムでは不可能だと思うが。 |
Raabe | |
ラケル
それは自主的によ。 |
Raquel | |
ナオト
はぁ!? 自分でやったってか? マジかよ! |
Naoto | |
ラケル
仕方ないでしょ、あんなモノに私が観測されるなんて 耐えがたいもの。 |
Raquel | |
ラーベ
なるほど……これで概ねの状況は把握できたぞ。 キイロがアラクネを放置した理由はそれか。 |
Raabe | |
ラーベ
アラクネはドライブ能力者しか襲わない。 観測システムを強化するには丁度いい素材だ |
Raabe | |
ラーベ
しかし、それでは説明できない事象もあるんだが……。 |
Raabe | |
キイロ
ごめんねぇ〜。玩具と語り合う言葉は持ち合わせてないの。 |
Kiiro | |
キイロ
それに小娘が起きた程度で、形勢が逆転できたとでも 思ってるの? むしろ好都合だわ。 |
Kiiro | |
キイロ
ラケル=アルカードの意識があったほうが、 力を吸収しやすいもの。 |
Kiiro | |
ナオト
もうやめろよ、キイロ! こんなことして…… なにがてめぇの望みだっていうんだよ!? |
Naoto | |
キイロ
何度も言ったでしょ。 クラヴィス=アルカードを倒すことよ。 |
Kiiro | |
キイロ
私は……私達はそのために創られたのだから。 |
Kiiro | |
シエル・Es
………………… |
Ciel & Es | |
キイロ
レイ……とか言ったわよね。 その能力も私達の悲願の為に有効活用してあげるわ……フフフ。 |
Kiiro | |
冥
そこまでの執着心……もはや呪いだな……。 |
Mei | |
冥
しかし自白にも等しいぞ、緋鏡キイロ。 お前がこの世界の観測者とやらなのだろう? |
Mei | |
1: いや…… |
1: | |
シエル・ナオト
!? |
Ciel & Naoto | ? |
---|---|---|
サヤ
そのお話はもう……聞き飽きましたので……。 |
Saya | |
キイロ
え……あ……なに……? |
Kiiro | |
サヤ
喰らえ……ソウルイーター。 |
Saya | |
Es
止めてください、サヤさん!! |
Es | |
Es
くぅっ…… |
Es | |
キイロ
あ、あああ、あ……。 …………、……………………。 |
Kiiro | |
ナオト
キイロ!! |
Naoto | |
サヤ
ああ……やはり。 あなたもまた、大きな力を持っていたのですね。 |
Saya | |
サヤ
胸の内が温められるようです。 |
Saya | |
シエル
サヤ……さん? どうして、キイロさんを……。 |
Ciel | |
サヤ
おや。異なことを。緋鏡キイロは兄様に刃を向ける敵。 であれば、仕留めてなにがおかしいのですか? |
Saya | |
シエル
いえ、そうではなくて。 |
Ciel | |
ナオト
お前……なんでキイロを殺した!? 操られてたんじゃ……なかったのか!? |
Naoto | |
Es
シエルさん。計測を。 |
Es | |
シエル
はい。……感知……計測。照合。認識。 輝弥サヤさんの精神波長、先程から何も変わってはいません……。 |
Ciel | |
冥
では、まだ洗脳されているということか!? |
Mei | |
サヤ
異なことを……私は『操られている』だなんて、申し出た覚えは ありませんよ。 |
Saya | |
サヤ
緋鏡キイロとて、私を『操っている』だなどとは 一言も申しておりませぬ。 |
Saya | |
ナオト
な……た、確かにそうだけど……でも、じゃあ、さっき 問答無用で襲いかかってきたのはなんだったんだよ! |
Naoto | |
ナオト
明らかに様子がおかしかっただろうが! いやそもそも、なんだってラケルを殺そうとしたんだ!? |
Naoto | |
サヤ
質問の多い兄様ですこと。 |
Saya | |
サヤ
なぜラケルさんを殺そうとしたか、ですか? 質問を質問でお返しして申し訳ありませんが…… |
Saya | |
サヤ
殺せるのですか? その吸血鬼は。 |
Saya | |
サヤ
その吸血鬼の生命は兄様そのものです。 |
Saya | |
サヤ
なのに『何故』私が殺さなければならないのでしょう? |
Saya | |
サヤ
何故『そんなやり方』で 兄様を殺さなければならないのでしょうか? |
Saya | |
サヤ
……私は今まで一度もラケル=アルカードさんを 『殺そう』などと思った事はありませんよ。 |
Saya | |
ナオト
……サヤ。 |
Naoto | |
サヤ
ただ……その『魂』を頂戴できればと……。 |
Saya | |
サヤ
そうすれば兄様と一つの命で繋がれる…… 私が死ねば……兄様も死ぬ……あぁ……なんて素敵な事でしょう。 |
Saya | |
サヤ
なのに酷いお話です……魂ごと消えてしまわれるなんて。 |
Saya | |
サヤ
でも……おかげで楽しい思いもできました。 兄様と、夜毎夜毎の化け物退治……。 |
Saya | |
サヤ
とても貴重な経験でございます……このままラケルさんが 目覚めなければと……本気で思うようにもなりました……。 |
Saya | |
サヤ
本当に……このまま永遠に……。 |
Saya | |
1: 輝弥サヤが…… |
1: | |
シエル
では、私たちは最初から観測者と行動を共にしていたと いうことですか? |
Ciel | |
ラーベ
そうなるな。 |
Raabe | |
ラーベ
ラケル=アルカードを『殺す』ことなく、生き続ける そのための『アラクネ』だったか……。 |
Raabe | |
ラーベ
蟲の集めた生命力を喰っていたのはお前だな……輝弥サヤ。 |
Raabe | |
シエル
……窯の出現……いえ、存在を感知しました。 サヤさんが観測者で間違いないと思われます。 |
Ciel | |
ナオト
嘘だろ……。 |
Naoto | |
ナオト
なあ、ちょっと待ってくれ、 観測者はキイロだったんじゃねぇのかよ!? |
Naoto | |
ラーベ
間違いなく……輝弥サヤが観測者だ。 |
Raabe | |
冥
そう、なのか? 輝弥……? |
Mei | |
サヤ
さて。私も今の今まで、忘れておりましたが……。 |
Saya | |
サヤ
ですが、そう指摘されてみると……ええ、ええ。 どうしてでしょう。おっしゃる通りかもしれません。 |
Saya | |
サヤ
観測者……。その言葉が実際にどのようなものを意味するのか、 これまでは曖昧でありましたが。しみるように理解できます。 |
Saya | |
サヤ
ああ……そして、そうなのだと理解すれば、 なにもかもに納得いたします。 |
Saya | |
サヤ
そうでしたか。まあ、まあ。 なんということでしょう。 |
Saya | |
サヤ
この世界は、私の |
Saya | |
ナオト
……嘘をついてるようには……見えねぇな。 いや。お前は嘘をついたりはしねぇ。 |
Naoto | |
ナオト
特に、こういうことではな。 |
Naoto | |
サヤ
でも、兄様は未だ信じがたいお気持ちでいらっしゃる。 でしたら……論より証拠と参りましょう。 |
Saya | |
シエル
どういうことですか? |
Ciel | |
サヤ
ご覧いただくのです。 |
Saya | |
サヤ
この世界の禍々しき物は、どのような姿でしたか? あなた方を脅かす者は、どのような形でしたか? |
Saya | |
サヤ
きっとこのようでありましたでしょう!? |
Saya | |
Es
これは……! |
Es | |
ラーベ
我々にとっての敵対存在を、 自在に呼び出してみせているというわけか……。 |
Raabe | |
ラーベ
おいレイ、 もう一度クラヴィスを喚び出せないか? |
Raabe | |
1: ……どうやって? |
1: | |
ラケル
お父様の手を煩わせるまでもないわ。 私がいるでしょ? |
Raquel | |
冥
お、おい、大丈夫なのか? |
Mei | |
ラケル
……守ってもらってばかりでは、癪に障るもの。 寝起きの運動には丁度いいわ。 |
Raquel | |
ナオト
そいつは心強いぜ。 よし、俺の体もすっかり元通りだ。行くぞ! |
Naoto |
第13節 覚醒②/ 13. Awakening - 2
Summary | |
---|---|
観測者、サヤの求めた願望は『共に生きる命』
だった。自分を生き長らえさせる世界を守る 為、サヤは事象干渉を使い、時を巻き戻した。 |
シエル
対象の制圧を完了しました。 |
Ciel |
Es
……あれだけの数の敵を具現化したというのに、 サヤさんの力には少しの衰えもないようですね。 |
Es |
冥
これが観測者の力というわけか……信じられんな。 |
Mei |
サヤ
あら……この程度で驚いて頂けるなんて。 |
Saya |
ラケル
まるで新しいおもちゃを手に入れた子供ね。 |
Raquel |
サヤ
己の思うままに世界を変えられるとあらば、 はしゃぎもいたします。 |
Saya |
サヤ
ですが、少々はしたのうございましたね。 この程度の力では、まだ全てを完璧には彩れませんのに。 |
Saya |
サヤ
やはり……もっと力が必要です。 |
Saya |
サヤ
この世界が私の願いのままに歪むのであれば、もっと、 もっと思うさま歪めてみとうございます。 |
Saya |
サヤ
まだ足りぬのです……ラケル=アルカード。 あなたの『魂』をもって、それを補わせてくださいませ。 |
Saya |
ナオト
冗談じゃねえ、ふざけんな! |
Naoto |
サヤ
兄様……。 |
Saya |
ナオト
アラクネだの蟲だのから、他人の命めいっぱい奪って、 レイチェルからも奪おうとして…… |
Naoto |
ナオト
キイロまで犠牲にして、次はラケルだってか!? |
Naoto |
ナオト
次から次へと人の命奪いつくして、それじゃまるで お前のドライブそのままじゃねぇか! |
Naoto |
ナオト
なんだよ……わかんねぇよ! |
Naoto |
ナオト
そうまでしてなにがしたいんだよ! 人の命かき集めてどんな世界作りたいって言うんだよ!? |
Naoto |
サヤ
未来……と言っても理解しては頂けないのでしょうね……。 |
Saya |
ナオト
未来? なに言ってんだ、お前が観測者だってんなら、 ここで起こってることは全部お前が望んだことなんだろ!? |
Naoto |
ラーベ
違うぞ。観測者は意識的に世界の在り方を望んで、 1からその形を構成するわけではない。 |
Raabe |
ラーベ
無意識のうちにある欲望や願望を元に構築する……。 |
Raabe |
ラーベ
観測者は持ちうる『情報以上の世界』を創る事は出来ない。 |
Raabe |
ナオト
それでも、サヤがこの世界を作ったことに 変わりはねぇんだろ。 |
Naoto |
ナオト
蟲もアラクネも、ラケルが眠ったことも、ラケルが狙われる ことも、全部あいつの中にあった願望からできてたんだろ! |
Naoto |
ナオト
なのに未来……って。……サヤ……お前……まさか。 |
Naoto |
サヤ
生きる……。共に生きる『命』が欲しゅうございました。 |
Saya |
冥
なに……? |
Mei |
サヤ
この脆弱な体を動かし続け、軟弱な呼吸を保ち続け、 貧弱な血液を回し続けるにこと足りる、 |
Saya |
サヤ
有り余るほどの命が欲しい。 |
Saya |
サヤ
|
Saya |
ナオト
…………。 |
Naoto |
ラーベ
……なるほど。これがレイチェル=アルカードが言っていた、 観測者の『限界』か。 |
Raabe |
1: ……限界? |
1: |
ラーベ
言っていただろう。この世界が観測者の願望でできている以上、 限界があると。 |
Raabe |
ラーベ
輝弥サヤの場合は、自分の命だ。 |
Raabe |
ラーベ
他者の命で補わなければならないほど、尽きかけている…… という事実を、彼女は観測者でありながら変えられなかった。 |
Raabe |
Es
ですが……では、 本来の世界でのサヤさんの命は……。 |
Es |
ラーベ
何時尽きても、不思議ではない状態なのだろうな。 |
Raabe |
シエル
死ぬ、ということですか? |
Ciel |
サヤ
まあ、酷い事を言いますね、私は生きておりますよ。 この新川浜で、皆様と共に……今も、今までも……。 |
Saya |
サヤ
そして……これからも。 |
Saya |
ナオト
サヤ……。 |
Naoto |
サヤ
同情してくださるのですか、兄様? でしたらどうか、その吸血鬼をサヤにくださいませ。 |
Saya |
ナオト
そんなこと、できるわけねぇだろ!! |
Naoto |
サヤ
ご安心ください、頂戴したいのはその魂だけ……。 お身体の方は永遠に眠り続けて頂いて構いません。 |
Saya |
サヤ
お世話は……このサヤが責任を持って致します。 |
Saya |
ラケル
やっぱり。貴女の狙いは、私とナオトのライフリンクなのね。 |
Raquel |
サヤ
ふっ……あっはっは、そうですとも、その通り! |
Saya |
サヤ
あなたが、この卑しい吸血鬼が、 兄様を人ならざる者に変えてしまった。 |
Saya |
サヤ
我等の身に流れる輝弥の血に、あなたの血が割り込んできた! |
Saya |
サヤ
兄様は私の兄様なのに! なにが命の繋がりですか!! |
Saya |
サヤ
私以外の『何か』が兄様の命を縛るなんて…… 許せませぬ!! |
Saya |
サヤ
断じて否です!! |
Saya |
サヤ
ラケル=アルカード……その魂、私にくださいな……。 |
Saya |
サヤ
そうすれば…… そうすれば兄様は、ずうっと私と一緒にいてくださる。 |
Saya |
サヤ
この世界で、これまでそうだったように。 共に語り、共に鍛え、共に駆け、共に戦ってくださる。 |
Saya |
サヤ
共に生きてくださる。 ただの……『普通の兄妹』のように。 |
Saya |
ナオト
てめぇ……馬鹿か。そんなことしなくたって、俺は……! |
Naoto |
サヤ
私と一緒にいてくださいますか? ……いいえ。そうはならないのです。その吸血鬼がいる限り。 |
Saya |
サヤ
だって、だからこの世界は『こう』なのですから。 |
Saya |
ナオト
サヤ……! |
Naoto |
冥
…………。 |
Mei |
サヤ
冥様まで、そのようなお顔をなさって。憐れんでくださるの ですか? 愚かなサヤを。であれば、どうか。 |
Saya |
サヤ
その吸血鬼をくださいませ。それから……そうですね。 レイさん。あなたも。 |
Saya |
1: 僕? |
1: |
1: 私? |
1: |
サヤ
ええ。あなたの力は、とてもお強い。 飲み干せばきっと、私の世界がより完璧になりましょう……。 |
Saya |
サヤ
……更なる未来へと進める可能性も……。 |
Saya |
シエル
それはできません。 |
Ciel |
シエル
レイさんの命も、ラケルさんの命も、 あなたに差し上げるわけにはいかないのです。 |
Ciel |
ラーベ
わかっているだろ。私たちがなにを目的としているのか。 |
Raabe |
サヤ
……そうでした。 あなた方は私の世界を破壊しに来たのですよね。 |
Saya |
シエル
正確には窯を破壊し、観測者をファントムフィールドから 解放することです。 |
Ciel |
シエル
この世界と観測者の接続を断ち、世界がこれ以上、 『個』の観測によって変えられてしまわないようにします。 |
Ciel |
サヤ
小難しいお話は結構。 私から、この世界を取り上げるということでございましょう? |
Saya |
サヤ
つまり……この私に『死ね』と。 |
Saya |
シエル
……これはあるべき世界ではありません。 サヤさんの個人的な願望により認識された、歪められた世界です。 |
Ciel |
ラーベ
いわば、偽りの世界だ。 |
Raabe |
ラーベ
このままだと歪みはさらに大きくなり、やがてこの世界が 持つ可能性を全て食い潰して、どこにも行けないまま終わる。 |
Raabe |
ラーベ
そして、その歪みはこの世界『だけ』の問題じゃない……。 本当に何もかも食い尽くす怪物が産まれるぞ……。 |
Raabe |
サヤ
それと私に何の関係が? |
Saya |
冥
…………。 |
Mei |
冥
……輝弥。お前の気持ちがわかるとは言えん。 |
Mei |
冥
ラーベの言うことを全てそのまま信じたわけじゃない。 正直、今でも意味がわからんとも思っている。 |
Mei |
冥
だが、私の存在自体がお前の言っていることを否定している。 悪いが、お前の望むものを、叶えてやることはできない。 |
Mei |
Es
どうか退いてください、サヤさん。 あなたに剣を向けたくありません。 |
Es |
Es
きっと誰よりも、ナオトさんがそう思っているはずです……。 |
Es |
サヤ
ならば退くのはそちらのほうです、エスさん。 |
Saya |
サヤ
私は譲りませんよ。この世界を愛おしく思っております……。 |
Saya |
サヤ
皆様と共に過ごし、共に学舎へ通い、寝食を共にする……。 |
Saya |
サヤ
そして、私を生き長らえさせ、兄様と共に過ごさせてくれる 素晴らしい世界です。 |
Saya |
ナオト
……………。 |
Naoto |
サヤ
それを壊そうなどともってのほか。認めるわけにはいきませぬ。 そのようなこと、私は嫌いです。 |
Saya |
サヤ
ええ。大嫌い。 |
Saya |
シエル
っ!? |
Ciel |
レリウス
…………ふむ。なるほど。『このタイミング』か。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
何を言っているレリウス! 観察がしたいのなら、叩き潰してからにしろ! |
'Valkenhayn |
レリウス
それではまるで意味がない……。 止まっている状態のものなど、いくらでも再現できる。 |
Relius |
ヴァルケンハイン
ええい……いつまでもお前に付き合っていられるか! もういい加減に、全員叩きのめすぞ! |
'Valkenhayn |
ナオト
ぐぅっ……! なんでこいつら……さっきまで完全に ぶっ倒れてたじゃねぇか! |
Naoto |
ラーベ
事象干渉を使ったか……。 |
Raabe |
ラーベ
まずいぞ。このまま事象干渉を自在に操れるようになれば、 サヤを倒すことはほぼ不可能になる。 |
Raabe |
ナオト
なっ……え、じゃあ、どうすんだよ!? |
Naoto |
1: 任せて! |
1: |
ラーベ
今ならまだレイの力で事象干渉を 抑えることができる。 |
Raabe |
ラーベ
早くなんとかしろ、ということだ。 |
Raabe |
ラーベ
具体的に言うと、輝弥サヤを倒せ。 |
Raabe |
冥
……やはりそうなるな。 |
Mei |
Es
戦うしかないのでしょう……。 |
Es |
冥
……私は引き下がれない。 お前はどうなんだ、黒鉄? |
Mei |
ナオト
聞くなよ。 |
Naoto |
ナオト
サヤは俺の妹なんだぞ。 ……サヤを止めるのは俺だ。 |
Naoto |
冥
よく言った。 ……だが、その前にヴァルケンハインとレリウスか。 |
Mei |
冥
こいつら相手に、我々でやれるのか? |
Mei |
1: でも、やるしかない |
1: |
シエル
援護します。 |
Ciel |
シエル
戦闘態勢に移行します。目標、補足! |
Ciel |
第13節 覚醒③/ 13. Awakening - 3
Summary | |
---|---|
まるでごく普通の日常会話をするナオトとサ
ヤ。だがサヤは決めたことを曲げることはな く、シエル達は戦闘を開始する。 |
|
サヤを倒し、窯の破壊を成功させるシエル達。
世界が再び未来へ進むまで少し時間がある。 サヤが救われる可能性もあるかもしれない。 |
シエル
……対象の消滅を確認。 |
Ciel |
サヤ
馬鹿な……消えるだなんて……。 これは……。 |
Saya |
サヤ
おのれ……おのれ、レイ。 その目、その耳、その命。憎らしや。 |
Saya |
サヤ
ならば小細工は捨てましょう。 この腕、この刃でもって、お命頂戴するまで! |
Saya |
ナオト
そういうわけにはいかねぇぞ、サヤ。 |
Naoto |
サヤ
……兄様。あなたまで邪魔をなさいますな。 |
Saya |
ナオト
なあ……もうやめろ。もうやめにしよう。 |
Naoto |
サヤ
嫌です。ここは私の世界。 たとえ兄様であっても、それを壊すのであれば切り捨てます。 |
Saya |
ナオト
めちゃくちゃじゃねぇか。 お前、俺と一緒にいたかったんじゃねぇのかよ。 |
Naoto |
サヤ
ええ、そうです。なので先ずは動けなくし、それからじっくりと 時間をかけて殺しますので、ご安心を……。 |
Saya |
ナオト
安心出来ねぇよ!! |
Naoto |
サヤ
瞬殺がお望みですか? それだとサヤが楽しめません。 |
Saya |
ナオト
どっちもゴメンだ!!! |
Naoto |
サヤ
ふふふっ。 |
Saya |
ナオト
……サヤ、悪い。 |
Naoto |
ラケル
ナオト、なにをやっているの。 あの子が自分で決めたことを、今更覆すとは思えないわ。 |
Raquel |
ナオト
……わかってるよ。 レイ、力を貸してくれ。あいつを止める。 |
Naoto |
ナオト
サヤをこのままにはできねぇ。 |
Naoto |
冥
同感だ。それが……輝弥の願望を砕くことになったとしてもだ。 |
Mei |
Es
この世界に、私が導かれた意味……『蒼』に従いましょう。 |
Es |
1: サヤを止めよう |
1: |
サヤ
ああ……なんということでしょう。レイさん。 あなたのせいで、私の世界は台無し。 |
Saya |
サヤ
大事な人も、穏やかな時間も、愛しい夢も……みんな台無し。 今日も台無し。明日も台無し。明後日も明々後日も台無し。 |
Saya |
サヤ
あなたが私から奪うおつもりならば、 私は守り抜いてみせましょうぞ。 |
Saya |
サヤ
ここは私の世界。私のもの! |
Saya |
サヤ
これ以上、汚らわしい手で 私の世界を蹂躙することは許しません! |
Saya |
シエル
対象の戦闘レベルの上昇を確認。 対象の制圧を開始します。 |
Ciel |
ナオト
サヤ……! |
Naoto |
サヤ
……ああ……なんとあっけない……なんと儚い……。 |
Saya |
サヤ
ここまでだというのですか……私の世界……私の……。 |
Saya |
ナオト
……少し休めよ、サヤ。 |
Naoto |
サヤ
……兄様……。嫌ですよ。それは……死ぬのと同じ。 |
Saya |
サヤ
ねえ、兄様。死ぬのであれば、どうか、どうか。 一緒に死んでくださいませ……。 |
Saya |
冥
輝弥!? お、おい、まさか死んだのか……!? |
Mei |
Es
……いいえ。気を失っているようです。 生命活動に問題はありません。 |
Es |
ナオト
ざけんな……死ぬ気もねーけど、お前を死なせる 気もねーよ。ったく……面倒かけやがる。 |
Naoto |
ナオト
おい、観測者は倒したぞ、これからどうするんだ? |
Naoto |
ラーベ
決まっているだろ。窯を破壊する。 |
Raabe |
シエル
窯の場所はすでに特定出来ています。 |
Ciel |
ナオト
そっか。なら、俺もつれていってくれないか。 |
Naoto |
ナオト
……サヤの |
Naoto |
ラーベ
ついてくる分には、構わないぞ。好きにしろ。 |
Raabe |
ナオト
ありがとな。んじゃ……よっ、と。 |
Naoto |
ラケル
その子もつれていくの? |
Raquel |
ナオト
当たり前だろ。 |
Naoto |
ラケル
……大丈夫なの? |
Raquel |
ナオト
え? 何がだ。 |
Naoto |
冥
……黒鉄。 輝弥はこの世界の観測者なのだぞ……。 |
Mei |
ナオト
それはそうだけど……やっぱマズイか、レイ? |
Naoto |
1: ど……どうでしょう? |
1: |
1: ど……どうでしょう? |
1: |
ラーベ
安心しろ、輝弥サヤに意識が有ろうが無かろうが、 |
Raabe |
ラーベ
敗北を認めた時点で、 現状の上位観測者はレイだ。 |
Raabe |
1: え、そうなの!? |
1: |
ラーベ
なにもレイがこの世界を 観測しているわけじゃない。 |
Raabe |
ラーベ
輝弥サヤの観測能力を抑えているだけだ。 |
Raabe |
シエル
なのでご安心ください、冥さん。ラケル……さん? |
Ciel |
ナオト
……ああ、あんま気にすんな。 それより早く行こうぜ、窯ってやつを壊しにさ。 |
Naoto |
冥
お、おい、ちょっと待て。先に聞きたい。 窯を破壊したら……私たちは、どうなるんだ? |
Mei |
ラーベ
世界は観測者の |
Raabe |
ラーベ
といっても、即座に急激な変化はない。同じ場所をぐるぐる 回っていた世界が、前へ進むために一旦立ち止まるような状態だ。 |
Raabe |
ラーベ
それがどれくらい続くかは不確かだが…… やがてお前たちは、それぞれあるべき場所に戻るだろう。 |
Raabe |
Es
圧縮されていた時間軸も、戻っていくのですね。 |
Es |
ラーベ
そのはずだ。 |
Raabe |
ナオト
時間軸? なんだそれ? |
Naoto |
Es
なんでもありません。ナオト。 |
Es |
ラケル
……観測者は、どうなるの? |
Raquel |
ラーベ
どうともならん。観測者ではなくなるだけだ。 そいつはただの『輝弥サヤ』として存在し続ける。 |
Raabe |
ラケル
……ですって。 |
Raquel |
ナオト
そうか……。ちょっとほっとしたよ。 |
Naoto |
ラーベ
さあ、質問は以上か? だったら窯へ移動するぞ。 |
Raabe |
Es
私もご一緒させてください。 |
Es |
冥
ついでだ、私も行こう。少し興味もあるしな。 |
Mei |
ラケル
…………。 |
Raquel |
ラケル
……げ、下僕が行くのだから……わ、私も同行するわ。 は、はや、く、案内し、なさい。 |
Raquel |
シエル
ラケルさん? 先程から気になっていたのですが どうしてナオトさんの後ろに隠れてしまうのですか? |
Ciel |
ナオト
あ。ようやく冷静になったか。 こいつ、シエルくらいの女の子と話すの苦手なんだよ。 |
Naoto |
ナオト
ここには冥もエスもいるしな。ビビッて縮こまってんだ。 |
Naoto |
ナオト
あ。ようやく冷静になったか。 こいつ、シエルくらいの女の子と話すの苦手なんだよ。 |
Naoto |
ナオト
ここには冥もエスもいるしな。ビビッて縮こまってんだ。 |
Naoto |
ナオト
あぁ……でもレイにはちょっと 耐性があるみたいだけどな。 |
Naoto |
ラケル
だ、誰がビビるものですか! いいから早く案内なさい、下僕! |
Raquel |
ナオト
俺が場所なんか知るかよ。 ……なあ、窯ってのはどこにあるんだ? |
Naoto |
ラーベ
おいおい……遠足じゃないんだぞ……まったく。 |
Raabe |
シエル
ではご案内します。 |
Ciel |
ナオト
ここは……新川浜の駅……か? |
Naoto |
冥
その地下に、こんなところがあったとはな……。 手がけたのは大方、御剣機関か。 |
Mei |
ラーベ
線路と駅の真下に作られた空間だな。 |
Raabe |
ラーベ
生命力をかき集めたがるファントムフィールドの窯だ、 人の多い場所…… |
Raabe |
ラーベ
学校か、あのでかいホテルか、駅のどこかだろうとは 思っていたが、これほどしっかり設備が整えてあるとはね。 |
Raabe |
ラーベ
よくできている。 |
Raabe |
ナオト
感心するところかよ。 |
Naoto |
Es
ナオト。サヤさんを背負う役目を、代わりましょうか? ずっと背負っています。 |
Es |
ナオト
いいんだよ。こいつ痩せてっから。軽いし。 |
Naoto |
ラケル
やせ我慢。 |
Raquel |
ナオト
……本当に、軽いんだよ。 |
Naoto |
Es
…………。 |
Es |
ラケル
……そう。 |
Raquel |
シエル
この先です。 |
Ciel |
ナオト
うわっ、なんだこれ……! |
Naoto |
冥
これが……窯……。 |
Mei |
ナオト
……これが、サヤにこんな世界を作らせたのか? |
Naoto |
ラケル
……窯に意思はないわ。 ここにあるのは、膨大なエネルギーだけよ。 |
Raquel |
Es
これを、破壊するのですね。 |
Es |
シエル
はい。 |
Ciel |
ナオト
壊す前にひとつ確認させろ。 ……本当にサヤは大丈夫なんだろうな? |
Naoto |
ラーベ
輝弥サヤはただの人に戻る……そこから先にどうなるか なんて、誰も保証はしてくれない『ただの人間』にな。 |
Raabe |
サヤ
…………。 |
Saya |
ナオト
保証はねぇか……。 なら少なくとも、最後まで側にいてやらねぇとな。 |
Naoto |
ナオト
俺はこいつの兄貴なんだし。 |
Naoto |
1: ナオト…… |
1: |
ナオト
んで、こんなとんでもねぇもの、どうやってぶっ壊すんだよ? |
Naoto |
シエル
窯に物理的な干渉は通用しません。 ですが、私の持つ魔道書ならそれが可能です。 |
Ciel |
ラケル
窯を破壊できるほどの魔道書って……え? まさか……。 |
Raquel |
ラーベ
気にするな、シエル、やれ。 |
Raabe |
シエル
……第666拘束機関解放。次元干渉虚数方陣展開。
|
Ciel |
シエル
……窯の破壊を完了しました。 |
Ciel |
ナオト
す、すげえな、なんだ今のは? |
Naoto |
ラケル
ブ……ブレイ……ブルー。 |
Raquel |
ナオト
ん? どうしたんだラケル? |
Naoto |
ラケル
……なんでもないわ。 少し……いえ、とても驚いただけ。 |
Raquel |
ラーベ
……さて、では私たちは戻るとしようか。 今ここでやるべきことは終わった。 |
Raabe |
ラーベ
……悪いな吸血鬼。ここでの物語は終わりだ。 お前が『干渉』することじゃない。 |
Raabe |
ラーベ
あぁでも、我が船に検体として来ていただけるのなら 大いに歓迎しよう。 |
Raabe |
ラケル
お断りだわ。 |
Raquel |
ラーベ
残念だ……。 レイ、シエル、帰還するぞ。 |
Raabe |
シエル
了解しました。 |
Ciel |
冥
なんだ、もう行くのか。 |
Mei |
シエル
私たちはこの世界に本来存在しない異物です。 |
Ciel |
シエル
それに現状、この世界の上位観測者は レイさんです。 |
Ciel |
シエル
世界に影響を及ぼす前に、速やかな退去が推奨されます。 |
Ciel |
ナオト
んじゃ、お別れか。 |
Naoto |
ナオト
難しい理屈はわかんねぇけどさ、 もしまた顔出せる機会があったら、遊びに来いよ。 |
Naoto |
ナオト
そういう簡単なものじゃないんだろうけど。なんつーか。 また会おうぜ。どこでもいいから。どっかで。 |
Naoto |
冥
そうだな。私にも挨拶くらいしに来い。茶菓子を持ってな。 |
Mei |
Es
お待ちしています。きっとまた会えます。蒼の導きがあれば。 |
Es |
ラケル
私はほとんど眠っていたから、 あまり貴方たちと接する時間もなかったけれど……。 |
Raquel |
ラケル
助けてくれて、ありがとう。 |
Raquel |
ラケル
ご褒美をあげる時間は……なさそうね。 またの機会にしておくわ。 |
Raquel |
ラケル
それまでせいぜい、役目に励みなさい。 |
Raquel |
ナオト
お前なあ、世話かけた側のくせに、偉そうに。 |
Naoto |
ラケル
偉そうなのではないわ。私は高等なの。 それに相応しい振る舞いと発言なだけよ。 |
Raquel |
ナオト
はいはい、そーですか。 |
Naoto |
ナオト
……だってよ。こいつ、こういう感じなんだよ。 でも別に悪意があるわけじゃねぇんだ。 |
Naoto |
ナオト
こいつなりに、純粋に感謝してんだよ。 それから、これからも頑張れってよ。 |
Naoto |
ラケル
わ……私は、ほとんど眠っていたから…… あまり貴女たちと接することができなかったけど……。 |
Raquel |
ラケル
その……私を助けたこと、褒めてあげ、ても、いいわ。 |
Raquel |
ラケル
……ご褒美をあげる時間はなさそうだから、 またの機会にしておくけれど……。 |
Raquel |
ラケル
そ、それまでせいぜい、役目に励むことね。 |
Raquel |
ラケル
……………………。 ……と、伝えなさい。ナオト。 |
Raquel |
ナオト
お前なぁ……こんなタイミングで、 思い出したようにコミュ障発揮すんなよ!! |
Naoto |
ラケル
べ、別にそういうのではないわ。 ちょっちょっと意識しただけよ!! |
Raquel |
ラケル
もぉ、いいから、伝えなさい……。 |
Raquel |
シエル
私やレイさんとお話するのは、 やはり苦手なようですね。 |
Ciel |
ナオト
苦手っていうか、緊張しすぎなんだよ。 |
Naoto |
ナオト
あんたらに、感謝してるってさ。 あと、これからも頑張れって。 |
Naoto |
サヤ
…………。 |
Saya |
ナオト
こいつには、俺から全部話しておくよ。 |
Naoto |
1: ……ナオト |
1: |
ナオト
何いってんだ、別にお前を恨んじゃいねぇよ。 |
Naoto |
ナオト
……たぶん、俺たちの居場所をお前が守ってくれたんだ。 |
Naoto |
ナオト
だから、サヤも……必ず、必ず救う方法を見つける。 |
Naoto |
1: ありがとう |
1: |
シエル
ナオトさんなら、できると思います。 |
Ciel |
ナオト
シエルもありがとな、お前も無理……すんなよ。 |
Naoto |
シエル
お気遣いいただきありがとうございます、ナオトさん。 |
Ciel |
ラーベ
さて、時間だ。 |
Raabe |
カガミ
よーしご苦労! 任務無事達成おめでとう! よくやってくれたね。心身に変調はないか? |
Kagami |
シエル
問題ありません。 レイさんはどうですか? |
Ciel |
カガミ
バイタルに問題なし。大丈夫そうだな。 とりあえずあとでメディカルチェックは受けてもらうとして……。 |
Kagami |
カガミ
これでファントムフィールド『新川浜』から 観測者は解放された。 |
Kagami |
カガミ
世界はこれ以上歪むことなく、本来あるべき姿に ゆっくり戻っていくことだろう。 |
Kagami |
カガミ
お前たちの功績だぞ、レイ。 |
Kagami |
シエル
カガミさん。今回のファントムフィールドについて、 質問があるのですが。 |
Ciel |
カガミ
ああ。時間軸の圧縮のことか。 |
Kagami |
シエル
はい。確か、何年分かの時間が圧縮されている……という ようなお話でしたが、結局あれはどういうことだったのですか? |
Ciel |
シエル
ナオトさんや冥さんが、ご自分を異物だと感じていたことと 関わりがあるようでしたが。 |
Ciel |
カガミ
うむ。まあ概要は、エスとの話の通りなんだが…… 改めて説明するとだ。 |
Kagami |
カガミ
あのファントムフィールドは『新川浜』という場所には 明確に『何時』という断定が出来ないんだ。 |
Kagami |
カガミ
共通事項として、数年間……いや、おそらく数十年間だな。 それくらいの幅のある時間が、収束していたんだよ。 |
Kagami |
カガミ
だから数年前に新川浜に住んでいた人間と、数十年後に新川浜に 住む人間が、同じ時期に住んでいたかのように存在していた。 |
Kagami |
カガミ
……これは私の想像だが、黒鉄ナオトと天ノ矛坂冥は、 知り合いではあるが、年代が違うんじゃないかな。 |
Kagami |
カガミ
だからどちらも、自分の暮らしていた世界とは違う。 なんて、感じていたんだろう。 |
Kagami |
シエル
なるほど……。 |
Ciel |
カガミ
恐らく、観測者の輝弥サヤ。彼女の存在していた……。 |
Kagami |
カガミ
いや、『存在出来ていた』時間軸を中心に、前後数十年 が引き寄せられ、圧縮されていたんだろう。 |
Kagami |
1: やっぱり…… |
1: |
カガミ
なんだレイ、気付いていたのか? |
Kagami |
シエル
では……あのファントムフィールドはやがて、 圧縮された時間も元に戻るのでしょうか? |
Ciel |
カガミ
最終的にはな。ただ、解放されたファントムフィールドは、 世界としては停滞している状態にあるし。 |
Kagami |
カガミ
今回は特殊だから、元に戻るには少し時間がかかるだろうね。 |
Kagami |
1: よかった…… |
1: |
カガミ
……冷たいことを言うようだが、あの輝弥サヤを救うのは 難しいぞ。限りなくゼロに近いと言っていい。 |
Kagami |
カガミ
あのファントムフィールドを構築していた要素は輝弥サヤの 渇望した『生』だ。それが崩れればどうなるか、わかるだろ? |
Kagami |
1: それでも…… |
1: |
シエル
……レイさんはサヤさんを助けたいのですか? |
Ciel |
1: もちろん! |
1: |
カガミ
そういうお前はどうなんだ、シエル? |
Kagami |
シエル
…………わかりません。 |
Ciel |
シエル
ですが、ナオトさんとサヤさんが、笑顔でお話している姿を もう一度見たいとは思います。 |
Ciel |
カガミ
……そうか。 |
Kagami |
カガミ
よし、じゃあ私はこれから、 今回の任務で得られたデータの解析を行う。 |
Kagami |
カガミ
ファントムフィールド内では、時間の圧縮が起こりうる という貴重なデータも取れたことだしな。 |
Kagami |
カガミ
お前たちはまずメディカルチェックだ。 その後、十分に休息を取るように。 |
Kagami |
カガミ
次のファントムフィールドが見つかったら、
また |
Kagami |
カガミ
それまでに、体調を万全に整えておいてくれ。 |
Kagami |
シエル
わかりました。 では、失礼します。 |
Ciel |
シエル
……レイさん。任務、お疲れ様でした。 メディカルルームへご案内します。 |
Ciel |
シエル
……新川浜では、色々なことがありましたね。 時間が圧縮されているという現象は、想定外でした。 |
Ciel |
シエル
それに……素体と呼ばれるものと今回のような形で 接触することも、想定していませんでした。 |
Ciel |
シエル
話したり、戦ったり。なんだか奇妙な感覚でした。 ……そう思うのは、おかしいでしょうか? |
Ciel |
シエル
……おかしいような気がしたので、質問しました。 ですが、この質問もまた、奇妙ですね。 |
Ciel |
シエル
失礼しました。気に留めないでください。 |
Ciel |
シエル
メディカルチェックが終わったら、食事を用意しましょうか? それとも、すぐにお休みになりますか? |
Ciel |
1: 食事がいいな |
1: |
シエル
わかりました。 終わり次第、必要なものをお持ちします。 |
Ciel |
シエル
では、失礼します。 |
Ciel |
シエル
レイさん。 |
Ciel |
シエル
……次の |